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MONJU

Hip Hop

MONJU

Proof Of Magnetic Field

Pヴァイン / Dogear Records

二木信   Dec 22,2021 UP
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 MONJU のヒップホップは街の音楽であり、夜の音楽だ。11月23日に渋谷の clubasia でおこなわれた『Proof Of Magnetic Field』のリリース・パーティは、クラブやライヴハウスというひとびとが集まる場所がいかに音楽の創造において重要な現場であるかを実感する一夜だった。

 MONJU はその晩のライヴを、本作収録の “In the night” からはじめた。サンプリングされたトランペットを 16FLIP が細かく刻みリズムの緩急を生み出したビートが、特別な、勝負の夜の訪れを告げる。彼らは15年ほど前に暗闇とともにわれわれの前に現れた。ISSUGI仙人掌、Mr.PUG の3MCから成る東京のグループ、MONJU は、2006年にEP「103 Lab. EP」(CD-R)で登場し、2008年のセカンドEP「BLACK DE.EP」(2019年にリマスタリング・ヴァージョンを発表)でその評価を決定づけた。暗闇を味方にする音楽の使者として。

 その日の “Blackdeep” (「BLACK DE.EP」収録)のパフォーマンスは、そのことを思い出させた。“黒い深み” という曲名通り、東京で生きるBボーイによる、モブ・ディープとJ・ディラへの最良の回答だった。ライヴの最後、“Coffee Break – New Joint-” (ISSUGI『Thursday』収録の、仙人掌との共作曲)を歌う前、照明スタッフにすべてのライトを消すようにマイクを通して伝え、ひしめき合うオーディエンスにライターかスマホの明かりで火を灯そうと呼びかけると、会場には闇と光の美しいコントラストが生まれた。それは、「マイクに降りてきたことば反射」(“In the night”)という ISSUGI のリリックが具現化した光景にみえた。

 過去2作のEPがそうであったように、本作のすべてのビートを制作するのは 16FLIP。ISSUGIのビートメイカー名義だ。16FLIP のプロダクションは近年、かつての音数の少ないワンループの美学から重層性の美学へと移行してきている。複数のサンプリング・ソースを重ね、細かくエディットし、また異なるビートを挿入、ときに急激に展開していく。90年代にDJ プレミアが編み出したフリップという手法を現代的に独自解釈したようなキレのいい編集を思わせる瞬間もある。こうしたコラージュめいたプロダクションは、実際にこれまでみてきたさまざまな街の風景、立ち会った場面の記憶を呼び起こす。

 当初は密室的で闇を味方にしてきた MONJU のサウンドは、本作でより開放的になった。そうした変化は、この15年間で、ゆっくりとベールを脱ぐように、3人が素顔を見せはじめ、自身の考え方をぽつりぽつりと公で語るようになってきたこと、彼らが年齢を重ね、実人生においても、音楽人生においても、経験を積んできたことと無縁ではないだろう。私にはそれが、ミュージシャンの理想的な成長のあり方に思える。

 アフロ・ブラジリアン・ファンクの名盤に収められた楽曲のブレイクと女性コーラスを用いたリード曲 “Ear to street”、ヒップホップ・リスナーであれば誰もが耳にしたことのあるオーケストレーションを駆使したゴージャスなソウルのピッチを速めた “In the night”、あるいは4拍のクリック音を模したようなビート後に一気に最高潮に到達する “ANNA(step in black pt.5)”。その “ANNA” の、ワウギターと一小節のビートのループが生み出す快楽には得も言われぬものがある。そして、スケートボードが路面を擦る音、ピアノの不協和音、3人のラッパーのガヤが交錯する2分前後に至っては、3人で作り上げている音楽にもかかわらず、そこに多くのひとびとがいるように錯覚してしまう群衆性がある。

 本作には未収録だが、“In The City” という彼らの新曲は、街で遊び、商売をし、生きる活力を蓄えているひとびとの気持ちを代弁しているようだ。コロナ禍で私の身の回りの飲食店やクラブやライヴハウスも軒並み苦境に立たされた。もちろん補助金で助かったり潤ったりした店もあるだろうが、その選択をしなかった、できなかった経営者もいる。そもそもそうした個人経営やそれに近いお店は、商売であると同時に、好きでやっている活動だ。そして、ひとびとが集うそういう場所で数多くの出会いがあり、素晴らしい音楽が生まれ、広まり、新たな才能と芸術を育む。その活動を制限されるのは生きることを否定されることと同義であり、経済活動と同様にそれは本質的な問題である。

 “In The City” で彼らがやっているのは、そういう苦境に立たされた街、本人たちを含めたひとびとを鼓舞するグルーヴィーな音楽と詩だ。彼らは、「街の喧騒がこのラップをつくる」「そこにひとりじゃ感じれない温度」(仙人掌)、「変わらずにやりつづけることの意味」(Mr.PUG)と歌う。そうした詩に説得力があるのは、彼らの音楽と言葉が、いわば “ストリート・ナレッジ” に裏打ちされているからである。“磁場の証明” と題された本作に一貫しているのも、街の磁場を経験して培った想像力と知性に他ならない。すでにMVも公開された “Ear to street” を訳せば、“ストリートに耳を傾ける” とでも言えるだろうか。つまり、MONJU のヒップホップとはそういう音楽なのだ。

二木信