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Making Contakt

Making Contakt

音楽/ドキュメンタリー ドイツ 78分

M_NUS(輸入盤)

Amazon

渡辺健吾   Feb 18,2010 UP
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 一昨年の年末近くに幕張メッセでやった、初回の〈Womb Adventure〉に寒いなか行った人なら覚えているだろうけど、あのイヴェントはとにかくオペレーションがひどかった。予想したより客が集まってしまったからか、トイレも屋台も数が足りず、小便に行くと30分は軽く並び、ただ水やビールを買うだけで1時間近く待たされた。トイレに行かないために酒を飲むのを控えたり、床に転がったペットボトル(ある時刻を過ぎると水すら紙コップに移して販売していたのだ!)を拾ってトイレの水道水を汲んで飲んだりというサヴァイヴァルは初めて経験した。

 そんな環境で心からダンスを楽しめるというのは相当の強者だと思うが、このDVDを見ると、クライマックスの東京公演のフィナーレでは、広いメッセの会場を埋めつくしたテクノ・ファン、M_NUSファンの全員が最高にハッピーに見えるから不思議だ。


 本DVDは、デトロイトを皮切りに、バルセロナ、ロンドン、アムステルダム、ローマ、ブエノスアイレス、そして東京を世界をツアーしたCONTAKTの旅と音楽の冒険のドキュメンタリーである。タイトルが示唆するように、映像の主眼はステージそのものより、バックステージとインタヴュー証言にあり、リッチーがCONTAKTというコンセプトで何を表現したかったのかが徐々に明らかにされる。

リッチー以下、マグダ、トロイ・ピアス、マーク・ハウル、ハートスロブ、ガイザーといったM_NUSオールスターズの面々は、各自の記名性や作品性といったものはかなぐり捨ててリンクされたコンピュータ上でバンド・メンバーさながらにパーツ的な音を奏でる。また音同様に信頼のおけるアーティストが帯同したヴィジュアル、ライティング等の視覚表現も含め、ひとつの即興的電子音楽パフォーマンスが繰り広げられる。ミックスされるのはサウンドだけでなく、各人の表情や手元を写す小型カメラの映像や、インターネット経由でのチャットの文字やVJ映像も、すべてがLEDスクリーンに飾られた広大なステージを核に実際のフロアへ、そしてネットを介してその場にいないリスナーにまで届けられる、という意欲的な試みだった。冒頭では図解入りでシステムの解説がなされ、数々のハイテクが入り組んだ大所帯のステージは、想像を遙かに超えた複雑さで設置も運営も大変そうだというのがわかる。リッチーは、「テクノとは前に進む、進化する音楽だ」という大昔からの持論をここでも展開するが、初期のリハーサルでは各人の機材をリンクさせたり、とにかく大人数でひとつの音楽を一緒に演奏するといういちばん最初のステップですでに思うように進まない。

 このDVDに興味を持つようなひとなら「DJなんてただ他人のレコードかけてるだけでしょ?」というような安直な理解はしてないだろうが、それにしてもこんなギリギリまで可能性を追いこみ、会場ごとにまったく異なる設備やスタッフに四苦八苦してDJたちのツアーがおこなわれていたとはと感嘆するだろう。例えば、いろいろな事情で急遽ブッキングされた"聖地"デトロイトでは、準備不足と会場のボロさで最悪のツアー初日になってしまう。観客の視界に訴える重要な要素であるスクリーンは天井にしか設置スペースがなく、老朽化した建物は低音が響くたびにコンクリートの破片をメンバーの機材の上にボロボロと落とす。まるで誰かがドラマを盛り上がるためにシナリオを書いたような悲惨な展開なのだ。

 トラブルの連続を書きつづっただけでかなりおもしろいのだが、あまり細々と内容を書くと興を削ぐと思うからほどほどにする。しかし、ひとつ言えるのは、本来同じタスクを延々繰り返していく巡業というものを通して、比較文化論的なアプローチで各地の模様を切り取っていて、ただ出演者たちに土地土地のツーリスト的な感想を聞くよりよほどリアルな差異があぶりだされているのが、とても興味深い。ロード・ムーヴィーのようにツアーを追いかけたロックなフィルムはこれまでもたくさんあった。スターが泥酔したり暴れたり落ち込んだりといったショットがそれらの醍醐味だとしたら、ここでのアーティストたちは学者かエンジニアのように冷静に問題点を話しあったり、あくまで理知的に最高のショーを実現しようと考える。だからこそ、これだけユニークなドキュメンタリーが仕上がったのだろうし、最終目的地の東京では少し羽目を外して夜の街を楽しむ彼ら(―といっても、プリクラやカラオケだが)が微笑ましい。

 結局のところ、東京の印象は、ヘルメットをかぶって黙々とスケジュール通りに完璧な設営をこなす裏方にスポットを当てて紹介される。どうしたって、ロボット的な印象が強いのだろう。ただ、やはり日本にこれだけ来て、酒蔵に行ったり家族で温泉巡りしたりと本気で日本のカルチャーを愛してくれているリッチーのこと、『ロスト・イン・トランスレーション』的違和感の提示だけでは終わらない。ショーの幕が上がってからのフロアにいるテクノ・フリークたちはなんだかとってもかっこよく見えるし、冒頭で書いたようにすごくハッピーなのだ。

 朝方、リッチー自身の手でカーテンが引かれ、すべてのツアーが終了する。

 「信じられないくらい大変なツアーだった。最後に至ってもまだ理解してない人もたくさんいただろうけど、理解してくれた人たちは僕らの創りだしたたくさんの瞬間はものすごくスペシャルなものだって理解してくれたはず。それを創ったのは、ミュージシャンだけじゃなくてスタッフ全員、それに全世界に散らばるクラウドのみんななんだ。それが重要だった。あたりまえだと思ってるようなことを使って、世界のどこか遠くにいる人や、すぐ隣にいる人を分け隔てなく一体化させるっていうことがさ」と語るリッチーにオーヴァーラップされる、笑顔で感謝の意を体全体で表現して帰っていくひとりの日本人クラバーの映像。これが、とっても泣ける。グッと来るんだ。

 語り主体の作品にもかかわらず、字幕はフランス、イタリア、ドイツ、スペインの欧州主要言語のみ。内容を理解するのは骨かもしれないが、おまけにサントラCDもついてくるようだし、気合い入れて見る価値はあるだろう。まぁどこかで日本版を出してくれたら最高だけどね。

渡辺健吾