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ジョジョ・ラビット

ジョジョ・ラビット

監督・脚本:タイカ・ワイティティ(『マイティ・ソー バトルロイヤル』)
出演:ローマン・グリフィン・デイビス、タイカ・ワイティティ、スカーレット・ヨハンソン、トーマシン・マッケンジー、サム・ロックウェル、レベル・ウィルソン他 
 
全米公開:10月18日 原題:JOJO RABBIT
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(C) 2019 Twentieth Century Fox Film Corporation &TSG Entertainment Finance LLC
2020年1月17日(金) 全国公開!
公式Twitter:https://twitter.com/foxsearchlightj
公式Facebook:https://www.facebook.com/FoxSearchlightJP/
公式Instagram:https://www.instagram.com/foxsearchlight_jp/
公式HP:http://www.foxmovies-jp.com/jojorabbit/

三田格   Feb 16,2020 UP
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 2010年代で最も面白かったコメディ映画はタイカ・ワイティティ監督『シェアハウス・ウイズ・バンパイア』だと思っていた。ワイティティの新作『 ジョジョ・ラビット 』を観るまでは。

『シェアハウス・ウイズ・バンパイア』はバンパイアたちがIT社会に順応しようと四苦八苦し、人類との共存を模索してワヤクチャになっていくシチュエーション・コメディで、これがニュージーランドの片隅で生まれた小品であるにもかかわらず、これを観たマーヴェル・スタジオがワイティティに『マイティ・ソー』の舵取りを決断させたのだから、どれだけハリウッドで成功するポテンシャルを秘めた作品だったかは容易に想像できるでしょう。それどころか結果を出しすぎてワイティティは『マイティ・ソー』の続編も任せられることになり、以前から取り組むと公言していた『AKIRA』はいまだクランク・インにたどり着けなくなっている。

『ジョジョ・ラビット』はそんなワイティティが『AKIRA』よりも優先させたナチス映画。ナチスを題材にしたコメディ映画といえば5年前にデヴィッド・ヴェンド監督『帰ってきたヒトラー』があり、ドイツの現在を鋭く風刺したばかりだけれど、ヒトラーとネオナチの違いを鮮明にするという仕掛けが施されていた同作に対して『ジョジョ・ラビット』はナチス自体をコミカルに描き、親しみを感じさせる要素を入れたことは反発も引き起こしている。自身がユダヤ(とアイルランドとマオリ)の血を引くとはいえ、ワイティティはかなり危ない橋を渡ったことは確か。『シン・ゴジラ』にもオマージュとして取り上げられた岡本喜八監督『日本のいちばん長い日』をコメディ仕立でリメイクしたとして、それをアジアの人たちに見せる勇気が日本人にあるだろうかというような。

 ローマン・グリフィン・デイビス演じるジョジョはヒトラー・ユーゲントに入りたくてしょうがない10歳の軍国少年。ビートルズ「Komm Gib Mir Deine Hand(I Want To Hold Your Hand)」に煽られてジョジョたちは勢いよく訓練キャンプに参集し、サム・ロックウェル演じるキャプテン・クレンツェンドルフのハードな訓練生活に突入する。前線で負傷した隻眼の指導教官に扮したロックウェルは陽気な暴力性を期待させる上手い配置。マーティン・マクドナー監督『スリー・ビルボード』の暴力巡査や昨年の個人的なベスト5に入れたいアダム・マッケイ監督『バイス』ではウィル・フェレルを押しのけてジョージ・W・ブッシュを怪演するなど、ロックウェルはこのところ一作も見逃せない役者になりつつある。また、ジョジョの母親を演じるのがスカーレット・ジョハンサン(日本ではなぜかヨハンソン)で、美しくて優しく、そしてオシャレなロージーは政治的にも毅然とした姿勢を崩さないレジスタンスの一員という非人間的な造形。これは『アンダー・ザ・スキン』や『ゴースト・イン・ザ・シェル』、そして何よりもブラック・ウィドウ(『アヴェンジャーズ』)で見せるハードボイルドな役柄に通じるものがあり、こんな人は実在しないよ~とブーたれたいところだけれど、明日はないと覚悟を決めていた戦争末期のドイツ人たちが毎日のようにオシャレをしていたというのは史実に基づくものだという。スカージョのファッションは青のロング・コートやアーミー柄のカーディガン、赤い襟のサマー・セーターなど、どれもナチスの制服姿と際立った対比をなし、自由を手放さない生き方を視覚的にもアピっていく。

訓練中にウサギを殺せと命じられて尻込みをしてしまったジョジョは、2年間音信不通の父親を逃亡兵と決めつけているナチスの党員たちによって「ジョジョ・ラビット」と謗られるようになる。ジョジョにとって父の不在を埋めるものが、そして、想像上の「アドルフ」で、この役は監督自身が演じている(誰も引き受けてくれなかったので自分が演じたそうだけれど、結果的にユダヤ系がヒトラーを演じたことに)。ワイティティ演じる「アドルフ」はいわゆるアグレッシヴなそれではなく、スラップスティックで愛嬌のあるヒトラー。当時の軍国少年にはヒトラーがどのように見えていたかはわからないけれど、戦後と同じようにヒトラーを「怖い」と認識していたとも思えないので、誇張があるとはいえ、軍国少年が指導者を身近に感じていたという感覚を表すものとしてはゼロではないだろう。オウム真理教の信者が麻原彰晃をアニメで描いていたセンスと重なるというか。ちなみにヒトラー・ユーゲントが勢いづくシーンで流れるのはモンキーズ「I’m a Believer」をドイツ語でカヴァーした「Mit All Deiner Liebe」と、これもビートルズ同様、少しブラックな使い方。撮影が実際にナチスの宣伝映画を撮ったプラハのバランドフ・スタジオにセットを組んで行われたというのもなかなかブラックではある。

(以下、ネタバレ)
 ジョジョは、そして、ユダヤ人の娘、エルサ(トーマシン・マッケンジー)が納戸の奥に隠れて暮らしていたのを発見してしまう。母親のロージーが密かに匿っていたのである。エルサはジョジョを脅す。通報すればあなたたち親子も死刑になると。ジョジョはパニックになるも、ユダヤ人の秘密を聞き出してユダヤ人を壊滅させるための本を書こうと考え、エルサの話に耳を傾けていく。この辺りはかなり丁寧な描写が続く。『シェアハウス・ウイズ・バンパイア』の原題は「What We Do in the Shadows」、すなわち「我々は暗闇の中でどうする?」で、陽の光の差し込まないホテルの中で悶々と暮らしていたバンパイアたちが人間たちと友人になり、いわば世界を広げようとする話だったとしたら、『ジョジョ・ラビット』は納戸=暗闇の中に潜んでいるエルサの話を聞き、その過程でナチスによる洗脳がとけていくという展開を指し示す。関心を向けるヴェクトルが逆方向になったのである。バンパイアたちはラストシーンで狼男たちと大乱闘を繰り広げるけれど、狼男は要するにナチスで、暗闇に潜んでいたユダヤ人とナチスが鉢合わせすれば、それは大乱闘にもなるわなと。『シェアハウス・ウイズ・バンパイア』を観て無邪気に笑い転げていた僕は『ジョジョ・ラビット』を観る前にもう一度観ておけばよかったと、いま、痛切な後悔に襲われている。そう、2010年代で最も無責任に楽しめるコメディ映画は『シェアハウス・ウイズ・バンパイア』だと思っていた。『ジョジョ・ラビット』を観るまでは。

『ジョジョ・ラビット』はコメディ映画としては少し弱い。ヘイト・クライムに立ち向かうという社会派的な側面がはみ出し過ぎて、ビルドゥングス・ロマンとしてのファクターも色濃く盛り込んだためコメディの要素はなくてもよかったという気までしてしまう。エンディングでは笑うどころか涙さえ出てしまいそうだった。エルサと別れたくないジョジョは嘘をつき、真実を知ったエルサはジョジョを張り飛ばすも、2人は珍妙なダンスを踊り始め、デヴィッド・ボウイ「ヒーローズ」と共にエンド・ロールへと雪崩れ込む。とても短いシーンだけれど、ローマン・グリフィン・デイビスはほんとに11歳かよと思うほど演技が複雑で素晴らしく、ユーゲント仲間のヨーキーもとてもかわいかった。

三田格
『ジョジョ・ラビット』予告編

三田格