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ASIAN KUNG-FU GENERATION

合評

ASIAN KUNG-FU GENERATION- BEST HIT AKG

Ki/oon

Jan 20,2012 UP 加藤綾一竹内正太郎加藤綾一竹内正太郎加藤綾一竹内正太郎加藤綾一竹内正太郎 E王
12

こんなにも遠くまで......希望を探す迷子犬としてのAKG文:竹内正太郎

嗚呼......なくす何かを
ほら 喪失は今にも口を開けて僕を飲み込んで
"ムスタング"



ASIAN KUNG-FU GENERATION
『BEST HIT AKG』

Ki/oon E王

Amazon

 ロスト・ジェネレーション――辞書的には、「第一次世界大戦中に育ち、戦争体験や混乱期を経て人生の方向を見失った人たち」(『GENIUS』)とある。しかし、もはやそれは、"第一次世界大戦中"と限定されてはいない。いわゆる「大きな物語」が放つ磁場に羅針盤をやられ、手元の小さな矢印がグルグルになったまま、自己責任社会をあてもなくさまよう人たち。この国においては、1975-80年前後に生まれ、いわゆる就職氷河期に学生生活を終えた世代、とされている。アジアン・カンフー・ジェネレーション(以下、AKG)が「さよならロストジェネレイション」(2010)を発表したとき、その言葉を直接使用したことに、なにか決意めいたものを感じるとともに、もう後には引けない舞台に立ってしまったのだと思った。彼らはある時期において、虚構の世界を脱し、ダラダラと夢を語り(騙り)続けるよりはそこから徹底的に醒めていることを選んだのであり、とくに『ロッキン・オン・ジャパン』界隈では、タブーであるかのように不自然に切り離された、現実と虚構の関係性をめぐる文学(AKGの場合は、もちろん"ロック")の再考を自覚的に試みてきたバンドでもあった。

それを拒むように世界は揺れて 全てを奪い去る
夢なら覚めた
だけど僕らはまだ何もしていない
"アフターダーク"

 とはいえ、AKGが最初からそのような思想を持っていたとは思えない。自らがロスト・ジェネレーションでもある後藤らがまず志したのは、ロックによる含意なき衝動であり、バンド演奏によるフィジカルな発散であった。代表曲が時系列で並べられた『BEST HIT AKG』を順に聴いていけば、それが、頭から突っ込んでいくようなギター・ロックの無謀さから、より慎重な、内省を直視する言葉と、複雑なリズム・パターンを持つ(いわば)モラリスティック・ロックへと少しずつシフトしていく歴史が体感できるはずだ。
 もっとも、その後の変化への伏線となるモチーフが、初期の楽曲にも散見されるのもたしかだろう。本作に収録こそされていないが、羅針盤、 デリート&リライト、鳴らせサイレン......。『君繋ファイブエム』(2003)は、いま思えば、AKGにとって最後の思春期だった。そして、本格的な転機は、500,000枚以上を売った『ソルファ』(2004)を殺すかのように、訪れる。
 おそらくは彼らの、メインのリスナー層にあたる年代が抱えるなにがしかの精神的トラブルを念頭に置いたのであろう、第三者の自閉的な態度に対する真正面からの介入を試みた『ファンクラブ』(2006)は、その親密なタイトルとは裏腹に、多くのファンを突き放すことになる。例えば9.11に象徴される、同じ空の下に確実に実在する暴力、破壊と、シェルターにくるまれた過敏な自意識を、彼らは強制的に接続しようと試みたわけだが、アルバム全体に散りばめられた具体性が、リスナーの実生活とショートしてしまったのかもしれない。「逃げ切ることはできない」と、彼らはある意味で警告していたのだろう。

 そして、『ファンクラブ』による商業的な文脈でのバックラッシュなのか、AKGはその後、『ワールド ワールド ワールド』(2008)、『未だ見ぬ明日に』(2008)と、関係性の具体的な思索をなかば放棄し、スピーディなビートによる撤退戦のなかで、摩耗しながらもキャッチーな希望を虚構のなかで優しく語って(騙って)いく道を選ぶことになる。また、ロックンロールに対するメタ言及もじょじょになされるようになり、自らの批評精神に対してどこまでも誠実であろうとする姿は、その過敏さにおいて悲痛でもあった(筆者は、リスナーとしてはここでいちど離れている)。
 もちろん、彼らは『サーフ ブンガク カマクラ』(2008)という小休止を挟み、そのいっさいを放棄することもできた。しかし、AKGはうんざりするような困難の方角を選び、『マジックディスク』(2010)では、楽曲のアレンジにはブラスなどによる祝祭的なムードさえ散見されるようになるいっぽうで、後藤のリリックが抱える世界観においては、「(何かが)失われた」という感覚がいつからか支配的になっていく。それは、後藤が読者であることを明かしている村上春樹の作品に度々登場する、「(何かが)損なわれた」という感覚に近いのかもしれない。少しずつ失われていく、損なわれていく何か。心が内側から少しずつ破れていくような。

朝方のニュースでビルに飛行機が突っ込んで
目を伏せるキャスター そんな日もあった
愛と正義を武器に僕らは奪い合って
世界は続く 何もなかったように
"新世紀のラブソング"

 もっとも、最初から持っていなかったものを、どうやったら失えるのか? 同様に、どうしてそれを奪い合うことができるのか? さらには、失ってもいないものに対して、しかも失っていないことを自覚した上で、どうして悲しくなれるのか? という疑問を、私は隠すべきではないだろう。そう、いつの間にか与えられた喪失感に対して、出口のみが提示される、AKGの前向きさを私はときに危うくも思う。そして、彼らのデリート&リライトは続く。新曲"マーチングバンド"(2011)もそうだが、彼らの音楽は、結局のところ顔の見えない不特定多数に向けられ、輪郭のない希望を歌うことの不可能性を前に、確信を持てずにいるように思える。
 そして、原罪のように背負った、先天的な喪失からくる断念は、3.11による暴力的な喪失と交わりつつ、"LOST"(後藤正文、2012)にも大きく影を落としている。アレンジはやや平坦だが、そこで後藤は、ほとんどすべてのものを失うことを自覚したうえで、それでも得ることを明確に肯定する。ある種の逆説をテコに、「喪失できるものがある」ことをそのまま反転させてしまうこと。それをロックンロールのカタルシスと呼べるほど、私はもう若くはないけれど、彼がたどり着いた暫定的な答えは、その一点のみにあると、ほぼ言い切れる。希望を探す迷子犬としてのAKGにも、この曲は大きな指針を与えるかもしれない。

 最後に......もう少し実際的なことを述べておこうと思う。あらゆるベスト・アルバムがそうであるように、『BEST HIT AKG』も、決して完璧なコレクションではないし、筆者の満足する選曲にはなっていない(おそらくは、あなたもそうだろう)。全体的に、ロック・バンド然とした、大味の、ややざっくりとした曲が多いし、そんな風にケチをつければキリがないが、少なくとも"ソラニン"の代わりに収録されるべきは"ワールドアパート"だったし、ベスト盤と言えども、作品としては"迷子犬と雨のビート"で終わるべきだった。様々な事情があるにせよ、仮に自身が、『マジックディスク』に自信を持ち切れていないのだとしたら、それはとても残念なことだと思う。
 そして、これだけは付記しておかなくてはならない。ある意味でいま、ここに集められた17のどの曲よりも耳を傾けるべきなのは、"砂の上"(後藤正文、2011)である。他人の現実的な喪失に寄せて録音されたこの曲は、洗練とはかけ離れた場所で、むきだしの理想を掲げている。悪意やディスリスペクトはあるだろう。しかし、それを冷笑せずに受け取るリスナーを獲得できたことが、AKGが賭した10年そのものなのだと思う。思えば、本当に遠くまで来たものだ。拍手よりも敬礼を贈りたい。

文:竹内正太郎

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