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ピッチフォーク・ミュージック・フェスティヴァル

ピッチフォーク・ミュージック・フェスティヴァル

November 1-3 2012

Grande halle de la Villette

文:一色こうき Nov 27,2012 UP
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 ロンドンとパリは列車で結ばれている。ユーロスターで所用2時間。時差が1時間なので往路は3時間、復路は1時間という幻惑を誘うタイムラグ。しかも海底を抜ける。その途方もなさに、果たしてパリに無事辿りつけるのかという幼児なみの不安が頭をよぎる。住んでいるロンドンの自宅で予約はウェブ上で済ませる。当日、無事に起床することができた。出国手続きを終え、無事列車にも乗れた。なんてことはない。新幹線のような快適な乗り心地。いつの間にか海を越えていた。地上を走っている時間のほうが長い。フランスののどかな田園風景を走り抜ける。と、パリのターミナル駅に着く。最初の驚きは、駅舎の壁面に途切れることなく続くグラフィティ。その後、5日間の滞在でパリはロンドンをしのぐグラフィティの街だと知る。

 ウェブ・マガジン『ピッチフォーク』のフェスティヴァルがパリで開催されるというのでチケットをとった。ジェームズ・ブレイク、ファクトリー・フロア、アニマル・コレクティヴ、ジェシー・ウェア、ラスティー......と話題のアーティストばかり。7月にシカゴで開催された同フェスティヴァルの様子をウェブで見ていたので即決だった。正直、ちょっとパリにも行きたい気持ちもあったし、フェスティヴァルでパリジェンヌがどんな風に狂気するのか見てみたかった。  同じ歴史を感じさせる都市とはいえパリは明らかにロンドンよりも落ち着いた街だ。そして悦ばしいことに食べ物が美味しい。いずれもロンドンがうるさ過ぎ、食べ物が不味い、とも言える。フランス語ができればパリは日本人にとって住みやすい街なんじゃないか。とはいえ、たった数日の滞在では計り知れない。街中にグラフィティが溢れかえっている。この意味するところは何だろう。アートの街だから許容されている? 確かにお金を出しても惜しくない立派な作品にストリートで出合ったりする。そして、スリの腕は世界一だから気をつけるよう散々言われた。しかもよく考えると、2005年にこの街では暴動が起きている。表面的に落ち着いているように見えても、他の欧州各国と同様に煮えたぎるものがある? でも、いち早く左派政権になったし、この落ち着きは余裕をしめしているのか......。などと色々と頭の中を駆け巡った。だけど街中を歩く人びとがオシャレで似合っていて、ただただ魅了され雑念もふっ飛ぶ。たった2時間の移動でロンドンとパリでここまで違うのか、と当然のことかもしれないが改めて驚く(ロンドンのコモン・ピープルは必ずしもオシャレじゃないから)。

 会場はパリの北東部に位置する〈Grande halle de la Villette〉。大きな倉庫を改造したのか、ちょうどサッカー・コートぐらいの広さで天井がやたら高いホール。フランスで『ピッチフォーク』が扱うようなオルタナティヴなロックやダンス・ミュージックがどこまで人気があるのか知らない。しかも、ほとんどが英語圏のアーティスト。ピークでも会場の6割ぐらいしか埋まらなかったので、すごく人気がある訳ではなさそう。でも、その分、会場のなかに逃げ場があって過しやすかった。耳にイギリス英語が飛び込んでくる。とくに2日目はイギリス人が多かった。結局、僕のようにユーロスターでロンドンから来たオーディエンスが多数いる印象。

 パリに着き、ホテルにチェックインしてから会場に入った。言葉が通じないので終止緊張していたせいか、疲れが出てボーとアルーナジョージなんかチェックしていたアーティストも遠巻きに見る。ティンバランドとミッシー・エリオットの出会いがいまのロンドンで実現されたら、と評されるこの異色ユニット。アルーナの愛くるしい佇まいが微笑ましかった。
 さて、いまはとにかくフジ・ロックでのライヴも終え話題になっているファクトリー・フロアに備えよう。アルコール片手にリラックスして会場を歩き回った。ロンドンのラフ・トレードが大きな物販ブースを出している。オフィシャルのバックをここで買う。片隅でジュエリーや靴なんかのハンドメイドの作品を扱ったフリー・マーケットも開かれている。オシャレ! いちいち立ち止まって見てしまう。そうこうしているうちにファクトリー・フロアだ。終止ストイックに展開するミニマリズム。退廃美はスロッピング・グリッスルのそれに近いが、さらに渇いている。この渇きは諦念に近いのか......。打ち鳴らされる音の粒の快楽に酔いしれる。どうしようもない寄る辺なさに身をゆだねる。恍惚とする......。
 その後、バンクーバーを拠点にするJapandroidsという謎のふたり組のロックバンドを見てポカンとしたり、The xx やSBTRKTのレーベル〈Young Turks〉からリリースのあるJohn Talabotで身体をほぐしたりしながら、ジェームズ・ブレイクに備えた。
 パリのジェームズ・ブレイクは都市のもつ気高さに演出され、いっそう高貴なものに映った。ヨーロッパを覆っているであろう無力感を一歩進めて絶望に至り、そこからの救済を希求しているような...、というと大袈裟? 不安定なトラックと彼の中性的な声が心の襞に分け入ってくる。見たことのない世界を見せてくれそうな予感に包まれる。
 午前1時頃、この日のヘッドライン、フランスのポスト・ロック・バンド、M83のやたらとテンションの高いライヴを横目にホテルに向かう。

文:一色こうき