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どんぐりず

どんぐりず

@恵比寿 LIQUIDROOM

2022年1月27日(木)

三田格  
photo: takao_okb   Feb 10,2022 UP

 1月27日、群馬のどんぐりずが神戸の Neibiss と福岡の yonawo を引き連れて東京でライヴ。実に4県にまたがるスペクタクルが、えびリキ(編集部注・恵比寿リキッドルーム)で繰り広げられた。題して「どんぐりず Presents “COME ON”」。「COME ON」はもちろん「OMICRON」のアナグラム(編集部注・違います)。どんぐりずは群馬県のラップ・デュオで、群馬県から他県には移住しないというのがポリシー。そのことを知ってからはコロナの感染状況をTVで観るたびに群馬県の感染者数も気になり、昨年などは首都圏と違って「1」という日が多く、あまり他県との交流がないエリアなのかなと思っているとオミクロン株の侵入とともに感染者数は一気に増大。落差という意味では関東のどの県よりも切迫感があるのではないかという気持ちでこの日のリキッドルームにのぞむこととなった……などとテキトーな群馬観をめぐらせていると、メロウなブラコン・サウンドを演奏しきった yonawo に続いて、どんぐりずのオープニングはラッパーの森が「イカ・ゲーム」のコスチュームで演歌を熱唱し始める。

 とんでもない場末感。これが群馬なのか。群馬の本質なのか。それとも休業宣言を出した氷川きよしへのエールなのか。いずれにしろ、溜めを効かせ、これでもかと声量にパワーを注ぐ森の歌いっぷりに客席は早くも沸き立っている。とんねるず “雨の西麻布”、タイマーズ “ロックン仁義”、瀧勝(編集部注・ピエール瀧)“人生” に続くメタ演歌のフロントライン。「悪趣味×悪趣味=ハイセンス」という不思議な世界である。かっこ悪いことはなんてかっこいいんだろう。これぞ持続可能な脱力サブカルである。そして演歌からブリープ・サウンドに切り替わり、“NO WAY” になだれ込む。やはり「落差」がキモである。そして、この日、最後まで鳴り響くことになるぶっといベースがフロアに轟きわたる。おおお。恵比寿が揺れる。東京が揺れる。台湾海峡が揺れまくる。スマホで地震速報をチェックすると、実際にその時刻に日向灘ではマグニチュード3.2が記録されていた。何かというと田島ハルコの話をしたがる二木信によると「ヒップホップでここまでベースを出すやつはいない」とのこと。ベース! とんねるず……じゃなかった、どんぐりずのベースはでかい!

 客を煽って大声を出させてはいけないという配慮なのか、MCがあまりにも優しい。まるで体育の授業を受けているようだった Charisma.com のステージ運びとは対照的にホームルームのようなMCである。今日は来てくれありがとう~。何を言っていいのかわからなくなった森は途中でMCをトラックメイカーのチョモに振る。なんて完成されていないステージだろうか。つーか、「イカ・ゲーム」のコスプレがまったく生きていない。ディスタンスをとったクラウドはフロアに浮遊し、森のMCに深くうなづくか、指でピースサインを掲げるのみ。声援もないし、客席からどんぐりを投げ入れるファンもいない。ベースが途切れると、音的にはシーンとしている。以下、「シーン」と表記した場合は「深いうなづき」と「ピースサイン」が乱立している場面をご想像ください(編集部注・スウェーデンの客は感動しても誰も声を出さずにシーンとしている)。MC明けは “powerful passion”。スカした英語のラップの後に♩なにもしゃべらないで~は流れ的にもハマりすぎ。MCでノリが止まってしまい、体を再起動させようとしていると、♩つかれたら おどればいい~というラインは、なんかツボりました。アウトロのシンセサイザーがぐんぐん音量を増し、けっこうサイケデリックになっていく。

 中盤は次から次へとメロー・ファンクを決めていく。ドローン風のバック・トラックが耳を引く “E-jan” はライヴで聴くとやや毒気が薄れる。♩なんだってやっちゃえばいいじゃん~正解もどうだっていいじゃん~ 誰かの目ん中で生きてる~ 良い子は寝てればいいじゃん~(♩イイ子はイイ子にしかなれないよ~とラップしていた安室奈美恵へのオマージュなのか) ここ数年、ヒップホップはなるべく聴かないように心掛けていたんだけど、どんぐりずだけは別。どんぐりずはどんぐりずだから聴くのであって、ヒップホップだから聴いているわけではない。「今日のために新曲を2曲つくってきました」。シーン。1曲目はフィッシュマンズ “Running Man” を思わせるユーフォリックなリズム・パターン。残念ながら歌詞は聞き取れず。2曲目は一転してなんとジャングル(編集部注・“dambena” でもやってますよ!)。僕は最初から踊りっぱなしだったんだけれど、ここで会場内の踊りはピタッと止まる。まるで戦略核兵器削減条約のように。ジャングルにMCをのせるとどうしてもラガマフィンになりがちだけれど、森はそうならず、いつも通り歯切れよくラップ。冷静に会場内を観察していた編集部・小林拓音によるとジャングルだけでなく、踊っていたのは「トラップのときだけでしたね」とのこと。「あと2曲で終わりです」。シーン。

 どんぐりずは明らかにネーミングの勝利だろう。スワッグなネーミングにはコンプレックスが内包されていることを見抜き、漢字だけで表記する対抗意識にも距離を置いている。ネーミングだけで彼らのニュートラルな自意識が伝わり、ヒップホップに様式美から入ることを避けられる。ヒップホップのヒの字ぐらいしかなかった90年代にスチャダラパーを聴き始めたときと同じ入り口がここには用意され、ヒップホップにまつわる言説から音楽を解放した状態で聴かせてくれるともいえる。♩俺が踊る理由 ただ音に夢中~(“powerful passion”)というのは、本当にその通りなのだと思う。アンコールのために yonawo がドラムスやキーボードを設置している間、どんぐりず(編集部注・ここまででどんぐりずと13回表記しています)は時間稼ぎだといって祭囃子をファンクに仕上げた「わっしょい!」をやり始めた。この曲は単純に面白いというだけでなく、群馬県がブラジル移民と共存し、他の県にはない独自の祭りカルチャーを発展させてきたことが背景には張り付いている。少なくとも彼らのPVはそういう作りになっていると感じさせる。これが群馬。群馬のキャラクタリゼイション。

 セッティングが整うと yonawo によるバンド演奏+チョモランマのギターに途中からオープニング・アクトの Neibiss も加えて “like a magic” をプレイ。ラップ・ナンバーではなく、5年前にシティ・ポップを気取っていた曲で、それはまるでスチャダラパーとスライ・マングースが合体したハロー・ワークスを思わせる演奏風景だった。どんぐりずがラップというフォーマットから逸脱していく姿はとても自然な感じがすると同時にまだちょっと早いという気もした(編集部注・編集部は実はひとつも注を書いていませんでした)。

三田格