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グッド・デス・バイブレーション考

グッド・デス・バイブレーション考

作・演出:松井周(サンプル)
出演:戸川純 野津あおい 稲継美保 板橋駿谷 椎橋綾那 松井周
 
於 KAAT 神奈川芸術劇場 中スタジオ 
 
上演中~5月15日まで(終演後に毎日日替わりでトークショーもあります)
詳しくは  
https://sample-good-death-vibration.tumblr.com
三田格 × 水越真紀三田格 × 水越真紀   May 10,2018 UP
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三田 戸川純が12年ぶりに舞台復帰した『グッド・デス・バイブレーション考』を観て来ました。「途中で音楽の道に逸れたけれど、元々は役者だから」と本人が何度も強調していたので、ある種の執念を感じる復帰だよね。東北大震災の後、演劇に人気が集まったということがあって、その時は平田オリザ・フォロワーがメインだったので、僕はあまり引き込まれなくて。その後、また違うタイプのコンセプチュアルな演劇を観に行ったぐらいで、自分ではもう演劇は観ないかなと思ってたんだけど、『グッド・デス・バイブレーション考』はしっかりとしたオーソドックスな内容で、映画でいうと『生きてるものはいないのか』や『シャニダールの花』といった近年の石井岳龍(石井聰亙)を思わせる近未来SFものだった。

水越 深沢七郎『楢山節考』の近未来版で、戸川の配役は捨てられる老婆。同世代の私もすでに姥捨される側なのか!と暗い気持ちにもなりますが……

三田 貧困家庭で65歳以上の老人は死ねと。戸川純が「性別を超越した認知症の老人」を演じるということだけは知っていたんだけど、山の上に住む貧困家庭にひとりの女=ザラメ(野津あおい)が訪ねてくるところから話は始まる。だんだんとわかってくることだけれど、自由恋愛が禁止された世界で、国が決めたパートナーと結婚するためにザラメはやってきた。貧困家庭は長男のバイパス(板橋駿谷)、母のヌルミ(稲継美保)、ジジことツルオ(戸川純)という3世代で構成されていて、どうやらその辺り一帯はゲットーなんだね。

水越 「近未来」とは現代の辺境で、その辺境が数年後の世界に広がっていく。そして”姥捨”の話はおそらく人類の抱えてきた長い長いテーマで、さらにもっと広げれば、”役立たず”の話こそが神話を始めとするすべての物語の原型じゃないかね。

三田 それは新自由主義がはっきりさせたよね。役立たずはみな社会のお荷物だと。それでもすべての人には遺伝子改良が施されていて、社会全体としては「進歩」はしていることになっている。

水越 まあ、その状況、現実が原型であって、物語となるときは役立たずの再生、役立たずの英雄化こそ語り継がれてきたものだけどね。この芝居では役立たずは「Fランク」と呼ばれてる。そういう単語の使い方が現代との回路を強く意識させるんだよね。そういう打ち棄てられたひとびとが自給自足で生き延びている集落なんだよ。「2050年には人口が一億人を切り、三分の一が後期高齢者となる日本」のどこか。

三田 戸川純演じるジジだけが、社会がそうなる以前の記憶を持っている。

水越 そう。その設定のほか、昔、一世を風靡したポップスターだったという設定や歌いながらの登場なども現代と、舞台となる近未来とのつなぎ役になっていて、この近未来は空想じゃないじゃん、と感じさせるんだよね。

三田 自由恋愛が禁止された根拠は明らかにされていない。最近だと少女マンガの『恋と嘘』は少子化対策として自由恋愛は禁止されていたり、少しひねってあったけど、映画『ロブスター』も自由恋愛を野放しにしておかないという意味では妙に世界的なトレンドとしてテーマ化されている。『グッド・デス・バイブレーション考』でもそこは危機意識を共有しているということなんだろうけれど、さらには「歌」も禁止されている。通底しているのは「感情」の自由を許さない社会を想定していることのようで、戸川純演じるジジもその世界には順応しているかに見えるわけですね。

水越 表向きの根拠は、差別の禁止だよね。たった一人を選ぶのは差別になるからいけないって、ネットのどっかで誰かが愚痴ってるような与太を大真面目な建前として「恋愛禁止」になるという荒唐無稽さが最近の政治を見てると逆にリアルだったりする。細かいところまでこのリアルさは凝ってるんだよ。たとえば「家族だけは愛していい」とか。それで、感情を刺激する歌や知識を伝える文字も同時に禁止されるところがこの作品の大きなテーマだと思うな。ここで禁止されていたのは戸川純、的なものだった。

三田 ああ、なるほど。「戸川純禁止」。最初、あの世界に順応している戸川純がとても大人っぽくて、老賢者のような役だったでしょ。あれがとても新鮮でね。普段、楽屋で話したりする彼女とは本当に別人。戸川純自身にああいう側面もあるのかなと思ったり、完全にそういう役になり切ってるのかなと思ったり、「劇」として本当に楽しめた。作と演出の松井周は昔から戸川純のファンだったのでキャスティングしたと語ってたけど、なのに、あれをやらせるというのは、その時点ですでに批評的な意味を持っていて、とても知的な発想だと思いました。

水越 「戸川純禁止」!!!(笑) で、松井周は若い頃から何度も読んできたという「楢山節考」についてこう言っている。「「姥捨」という制度にノリノリで従おうとする「おりん」というおばあさんの自己犠牲の話は近代以降の社会や人権という発想に真っ向からぶつかります。けれど、それでも惹きつける魅力があるのです。「見過ごせない美しさ」のようなものです。生き物としてのさだめとも読めそうな、はっきり言えば危ない哲学です」。この作品は、そういう退化、野暮の見かけで現れた異端だったんだと。大正モダンの装いであわられ、ときに反動的なイメージで見られることもあった戸川純を思い出すじゃない? 松井さんはそんな「危ない哲学」を美しく軽妙に、現代に移し替えている

三田 その哲学というのは「家族」を優先させるということ?  夢警察とか思想警察とか、いろんなものが取り締まられているのに「家族」だけが無条件で許されているのは異常な感じだったよね。

水越 安倍政権の念仏にあるじゃん。「自助、共助、公助」つーのが。「共助」ってあれ、「家族」のことなのよね。親族が生活保護を受給していることで攻撃された芸能人がいたけど、あれの旗振りは自民党の議員だったでしょ。家族愛という建前のうしろには、社会保障費削減もある。しかしそういう打算以上に、ほんとうに家族の絆が好きなのかもしれない。選択的夫婦別姓への抵抗などから推察すると……。
芝居の中で、ヌルミがそのことを「秘密の話」みたいに息子にいうところは割と高度なユーモアだと思った。なんつー近未来! いや、現代!って。 ちなみに、姥捨も現代の美徳として語ることは簡単なんだよね。「尊厳を持って人生が終わることを実現し、医者も安心して対応できるような仕組みを考えたい」(安倍晋三)、「(社会保障費削減案を問われ)一言だけ言わせていただくと、私は尊厳死協会に入ろうと思っているんです」(石原伸晃)、「いい加減死にたいと思っても、『生きられますから』なんて生かされたんじゃかなわない。しかも政府の金でやってもらっていると思うとなるとますます寝覚めが悪い」(麻生太郎)などなど、おりんおばあちゃんの自己犠牲精神はかくも健在ですよ。問題は、現実に多くの日本人が「病気で生きるくらいなら長生きはしなくていい」としか思えずにいることで、姥捨を過去の物語にできないでいること。

三田 この一家は微妙に国家に蝕まれていて、それは「死んだと思っていた子ども」に対す感情が根深くストーリーを左右するところに表れている。実際にゲットーで暮らしている人たちって、誰もが国家に対する抵抗勢力になるとは限らなくて、むしろ国家が理想とするようなものになる場合も多い。そうやって弱いものとして描いたことはリアリティのあるところだったかもしれない。

水越 そうだよね。問題は、政治家たちが社会保障政策削減のために尊厳死を利用しようとしていること以上に、現実に多くの日本人が「病気で生きるくらいなら長生きはしなくていい」としか思えずにいることで、姥捨を過去の物語にできないでいることだよね。ヌルミが繰り返す「お国のために」という言い方は、いまなら違う言い方になってるんじゃないかとは思うけど、分かりやすいよね。トランプの支持者に経済的弱者が多いというのと同じで、そのための「文字の禁止」=「教育機会の剥奪」でもあるんじゃないかな。
というか、考えてみればほとんどの家族ってそういうものだよ。だから、「家族」を隔離したいのかもしれないよ。日本の戦争映画ってたいがい「愛する人のため」とかいうけど、「家族」って弱点なんだよ。弱点だけで結束させて隔離すればどんなに誘導しやすいか。

三田 佐藤友哉の小説『デンデラ』は「楢山節考には続きがあった!」という触れ込みで、そうやって捨てられた老人たちが別な村を作って生き延びていたというカウンター的な発想だったんだけど、ああいう発想があったことは、多分、誰も覚えてないよね。『グッド・デス・バイブレーション考』も結末は相当に悩んだそうなんだけど、結論から言うと、そういった発想よりも実際の現実の方が重いという終わり方だったと思います。

水越 姥捨って、「楢山節考」でも今の現実の尊厳死でも、「美しい」ってことが最大の醜さなんだけど、この芝居ではジジの雰囲気がいつの間にか変わっていって、うやむやになっていく。ネタバレしたくはないけど、ここにジェンダーを見ることもできるよ。勇ましく麗しい理想はおじさん的なものじゃないのか? なんて感じにね。無理に見ることもないけど。

三田 そう、「いつの間にか」についてもっと論じたいんだけど、これ以上はネタバレなので……

三田格 × 水越真紀