MOST READ

  1. interview with Subarashika この素晴らしか世界 (interviews)
  2. 電気グルーヴ - TROPICAL LOVE (review)
  3. Loke Rahbek - City Of Women (review)
  4. Adam Rudolph's Moving Pictures - Glare Of The Tiger (review)
  5. Aphex Twin ──エイフェックス・ツインが新曲“korg funk 5”を公開 (news)
  6. 打楽器逍遙 1 はじめにドラムありき (columns)
  7. interview with Shingo Nishinari 大阪西成人情Rap (interviews)
  8. Washed Out - Mister Mellow (review)
  9. ドメニコ・ランセロッチ/Domenico Lancelotti - オルガンス山脈 (review)
  10. 〈The Trilogy Tapes〉 ──C.Eショップだけで買えるTTTのTシャツ (news)
  11. WWWβ ──これは尖っている! 渋谷WWWの最深部に新たな「場」が誕生 (news)
  12. KANDYTOWN - ──キャンディタウンがついにメジャー・デビュー (news)
  13. special talk : Shota Shimizu × YOUNG JUJU 特別対談:清水翔太 × YOUNG JUJU (interviews)
  14. Cigarettes After Sex - Cigarettes After Sex (review)
  15. 網守将平 - SONASILE (review)
  16. Mount Kimbie ──マウント・キンビーがニュー・アルバムをリリース (news)
  17. Father John Misty - Pure Comedy (review)
  18. ele-king vol.20 ──夏だ! 踊るにはいい季節。紙エレ最新号はThe XXと「クラブ・ミュージック大カタログ」 (news)
  19. interview with IO - KoolBoyの美学 (interviews)
  20. yahyel - ──この一風変わった名前のバンドをきみはもう知っているか? ヤイエルが500枚限定の初CD作品をリリース (news)

Home >  Reviews >  Old & New > Dennis Bovell- Mek It Run

Old & New

Dennis Bovell

Dennis Bovell

Mek It Run

Pressure Sounds / ビート

Amazon iTunes

野田 努   Jul 26,2012 UP
このエントリーをはてなブックマークに追加
E王

 露天商を営むバスブーサと呼ばれた青年がチュニジア政府への抗議行動として焼身自殺をしたのは、2010年12月17日のことだった。これがジャスミン革命の引き金となった。それは反政府デモをうながし、結果、「アラブの春」と呼ばれる大規模な民主化運動をもたらしている。デニス・ボーヴェルの『メイク・イット・ラン』の1曲目のサブタイトルは"ダブ・フォー・バスブーサ"、この1~2年で中東や北アフリカ諸国へと急速に拡大した歴史的な変革の発端となった青年に捧げられている。
 今年はボブ・マーリーの映画が上映されるが、ルーツ・レゲエは骨董品ではなく、いまもなお動いていることを証明するかのようだ。"ダブ・フォー・バスブーサ"に続くのが"ラン・ラスタ・ラン"。デニス・ボーヴェルの息子、ボビー・ボーヴェルは2011年に『ジ・エマージェント・エクレクティック』というゴスペル・アルバムを出している。その作品の主題はエジプトのムバラク政権の崩壊で、そのアルバムのトラックの元ネタになったという曲"アフター・ザ・ストーム"が『メイク・イット・ラン』のクローザーとなっている。ほかにも興味深い曲がたくさんある。"アフリーカン"は、ヒュー・マンデルの有名な"アフリカ・マスト・ビー・フリー・バイ・1983"へのアンサーとして1984年にI・ロイが吹き込んだ曲だが、1979年に1983年を予言した曲に対する回答を1984年にするのは良くないと考えたボーヴェルが曲を編集し直している(しかも、実に格好良いミリタント・ビートの進化型)。

 デニス・ボーヴェルといえば、UKレゲエにおけるゴッドファーザー的な存在として(マトゥンビのベーシストとして)、ポスト・パンクにおける重要なバンド、ザ・ポップ・グループやザ・スリッツのプロデューサーとして、多大な功績を残している。『メイク・イット・ラン』は、彼が1978年から1986年に録音したアナログ音源を、マッド・プロフェッサーのアリワ・スタジオで高周波数のデジタル音源へと変換させ、あらたにダブ処理した曲のコンピレーション・アルバムである。多くの曲では当時マトゥンビとツアーしたI ・ロイが参加している。ステッパーズ・スタイルを基調としたリディムも塗り替えられ、驚くほど新鮮に感じる。元ネタはヴェンテージだが、仕上がりは真新しい。先述した"アフリーカン"、もしくはフルートが美しさがたまらない"ダブ・コード"、もちろん"アフター・ザ・ストーム"や"ダブ・フォー・バスブーサ"......、これらのうちのどれかを聴くためだけでも価値がある。
 つまりこれは、レゲエにありがちな、いわゆる未発表曲集、レア・ヴァージョン集といった類のものではない。過去の伝説にしがみついているエルダー・ロックとは訳が違う。そして、自分で自分のことを「オヤジ」「おさん」と繰り返す自意識は(ここの部分に関しては僕も人のことを言えないが)、デニス・ボーヴェルに学ぶといいだろう。冒頭の"ダブ・フォー・バスブーサ"がその良い例であるように、これは現在音楽なのだ(スティーヴ・ベイカーのライナーも秀逸で、彼の解説を読むためだけでも日本盤をオススメしたい)。

 まとめ。デニス・ボーヴェルの『メイク・イット・ラン』は、二木信がそろそろ書いてくれるはずのリクル・マイの強力なソロ・アルバム『ダブ・イズ・ザ・ユニヴァース』とも精神的には同盟の、明快な意見表明と前向きな気持ちの入った素晴らしいルーツ・アルバムである。

野田 努