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松村正人、野田 努   Oct 21,2013 UP

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再発見され続ける音楽 松村正人

 1972年、昭和でいえば47年、沖縄は本土に復帰したが、いまのような夏のリゾートのイメージに結びつくのはまだ先のことである。沖縄より先に本土に復帰した奄美は、72年生まれの私が子どもだった70年代後半までは、最南端のリゾート地としてそれなりににぎわっていて、夏ともなると毎日、建ったばかりの近所の白亜のホテルから──レンタカーなんてなかったから──自転車でくりだしてくる新婚さんたちに私が目を細めたのは、太陽のまぶしさのせいばかりではなかった。子どもだった私にとって彼らは大人であるとともに都会的であった。そこには時間と距離という乗り越えがたい壁があって、私はいつか私が恋や愛や性や分別を弁えた大人になるだろうとはうすうす勘づいていたが、海を渡り、この閉域の外へ、都市生活者となった自分を想像することはできなかった。しばらくしてそんなことを考えなくなったのは、観光客を海外や沖縄に奪われたから、というのも詮ないが、山下達郎が前々作『MOONGLOW』収録の初のタイアップ曲でありJALの沖縄キャンペーン・ソングだった“愛を描いて─LET'S KISS THE SUN─”を出した79年には80年代がフライングしていて、30年前の 1983年、『MELODIES 』の2曲目、ANAの沖縄キャンペーン・ソングでもあった“高気圧ガール”が先行シングルとしてリリースされたとき、だからシマはすっかり鄙びていた。
 それなのに、この曲が頭から離れなかったのは、楽曲の解放感もさることながら「擬人法的なラヴソング」と山下達郎みずからライナーで注解する通り、高気圧という気象用語を人称につなぎ、語彙の飛躍が海を隔てた場所と場所をむすぶイメージの飛距離となるからだ。イメージの跳躍は海を渡る。それはすぐれて広告的だが、欲望を誘うのではなく情動を解放する。目の前に開ける光景はコバルトブルーと真砂の白に塗りこめられ、風景のなかで匿名ゆえの存在感できわだつ女性というよりも記号としての女性をとらえるが、同時にそれは天気予報に使用する衛星写真のようなカメラアイのようなメタフィジカルな高度もそなえている。
 時代は消費に舵をきっていた。しかしながら、山下達郎は80年のシングル“ライド・オン・タイム”でようやくブレイクしてからというもの、「夏だ、海だ、タツローだ」なるコピーに開放感を感じるとともに、風俗的発散の道具として消費される不安も抱いていた、と自筆ライナーにある。折しも彼は〈RCA〉を離れ、7枚目のアルバム『MELODIES』はその第一弾として〈MOON〉からリリースした。そのためここではビジネスマンでありプロデューサーでありシンガーでありソングライターである者の、音楽がポップとして求められるかぎりの葛藤がうずいていたはずだが、それを取らせないこともまた、ポップのポップたるゆえんである。もちろんおくびにもださないのではない。趣味志向思想信条は音となり、『MELODIES』の場合、言葉にもなった。本作で山下達郎は長年吉田美奈子が重要な役割を担ってきた歌詞をみずから書くことになる。自分の言葉で歌を作ることは、この先音楽を続けていく上で、とても重要なことに思えました、とこれもライナーに書いている。複数の職業作家のプロフェッショナリズムの集積で曲を作る体制からの脱却は賭けに近い試みだったかもしれないが、職業作家の作家性がスキルを担保し、保険として働くのにくらべ、作家性はもとより私性である。それは職能におさまりきらない個を晒すことであり、アマチュアリズムを内に抱えるものだ。いいすぎだろうか? そんなことはないですよね。それは初心であり終心(という言葉はないけれども)だと私は思う。

 30歳になった山下達郎は、前作『FOR YOU』で体制を整えたコンボを支えに、リスナーへの配慮を欠くことなく、そこを突き詰める。16ビート基調のクロス・オーヴァーよりの演奏から、宅録に近い自演も含め、曲想は多様になり、作品に奥行きがうまれた。単なる奥行きであれば一望できなくもないが、ここには翳りがある。シカゴ・ソウルのタイトなリズムとゴージャスなホーンがあり、ブライアン・ウィルソンのカヴァーがある。メランコリックなムードがあり、これまでの路線を継承したバイオニックなファンク“メリー・ゴー・ラウンド”があるが、そこにはシュガー・ベイブのころから変わらぬ愛情を注ぐブラッドベリのやわらかく乾いた詩情が降り注いでいる。メロディーはそれらの言葉を載せるヴィークルであり、旋律に乗った言葉は歌となり、私性と時制を離れ、幾度も回帰する。ときにシティ・ポップの元祖として、あるいは“BOMBER”がディスコ・ヒットしたように、クラブミュージックに対応可能なグルーヴ・ミュージックとして。そのたびに私たちは山下達郎を再認識するのだが、つねに新しさとともにあった。50年代、60、70年代の職人の手になる佳曲は山のようにあるが、山下達郎はそれらを援用はしてもそれが目的ではない(モチベーションにはなるかもしれない)。音楽は再生される音のなかにあるから、聴き直すたびに発見することも多々。シティ・ポップなる恣意的な括りで例証されるのはその一面にすぎない。もちろんそこから多面を見いだすこともあるだろう。つまり閉じていないのだ。余談になるが、いまではシュガー・ベイブのやりそうな曲をやるのがコンセプトのあっぷるぱいなるバンドもあるそうである。これは私が先日、ウルトラデーモン以後のトレンドと風俗をふまえ、脳内で結成したポストロック・バンド、シー&パンケイクに勝るとも劣らない秀逸なネーミングである。
 『MELODIES』の掉尾を飾る“クリスマス・イブ”は畢竟の名曲だが、私はこの曲を日本語でいまさら説明する必要は感じない。ひとつだけ。この曲をふたたび、今度はテレビで聴いたのは90年前後、バブルまっただ中だった。音楽で国民的なコンセンサスが成り立つ最後の時代だった、かもしれない。私はシマを出て都市生活者の仲間入りをしていた、思い出深い曲なのである。

松村正人

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