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Self Jupiter & Kenny Segal

Self Jupiter & Kenny Segal

The Kleenrz

Hellfyre Club / Poetic Dissent

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小澤 剛   Aug 31,2012 UP
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 新しい音楽は過去の音楽の集積のなかから生まれてくる。ロサンゼルスのビート・シーンのクリエイターはこのことを証明してくれている。マッドリブがそのいい例だ。マッドリブはレコード店の倉庫の片隅に置きっぱなしにされていた古いレコードからサンプリングしたかのような、粒の粗いビートと擦り切れそうな音でもって耳に新鮮に響くトラックを作る。それでもそこには、ただひたすらに時代の先端を追い求めているところはない。古き良き音楽を懐かしみ、楽しんでいるとも思える、おおらかな雰囲気が漂っている。それはビート・シーンのクリエイターが生み出す音楽の特徴でもある。ティーブストキモンスタシュローモの音楽を思い出してみよう。彼らの音楽は新しいのと同時に、古い――という言葉を飛び越える、太古の――と言ってもいいぐらいの、おおらかな雰囲気がある。もちろんジャンルの壁も飛び越えている。新しい音の向こう側には、膨大な数の過去の音楽のかげがある。

 ビルド・アン・アークやアモンコンタクトなどの活動で知られる、プロデューサー/クリエイター/DJのカルロス・ニーニョはロサンゼルスの魅力をたずねられてこう答えている。「すべての良いところは繋がっている。マッドリブがデイデラスをサンプルして、MF・ドゥームがラップするトラックのビートにしたり、ディンテルがヒップホップのトラックを作っていたり。ロサンゼルスでは素晴らしいことがいろいろ起こりつつある」。ヒップホップからエレクトロニカ、クラシックまでを取り込んだデイデラスのトラックにある音を使って、マッドリブがトラックを作り、それがMFドゥームへと渡る。エレクトロニカのクリエイターであるディンテルはヒップホップのトラックを作る。過去の音楽は誰かの手によって掘り起こされ、新しい音楽となって姿を変えて現れる。その中で異なるジャンルの音楽同士、クリエイター同士が交錯する。ロサンゼルスではそんな光景を目にすることができる。

 この作品が生まれたことも、ロサンゼルスで起こったすばらしいことのひとつである。ロサンゼルスのアンダーグラウンド・ヒップホップ・シーンにおけるレジェンドとも言えるクルー、フリースタイル・フェローシップのMCであるセルフ・ジュピターと、プロデューサー/クリエイターのケニー・シーガルによるユニットの作品。ゲストにはノーキャンドゥやサブタイトル、アブストラクト・ルードなどのMCに加えて、シンゴ02も招かれている。彼らはここでロサンゼルスの古のアンダーグラウンド・ヒップホップと最近のロサンゼルスのビート・シーンを繋いでいる。そしてフライング・ロータスが『ロサンゼルス』や『コスモグランマ』にヒップホップのMCをひとりもフィーチャーせずに、未来に向かっていくような新しいヒップホップを提示したというのであれば、ここでは多くのMCがすばらしいラップを聴かせながら新しいヒップホップを提示している。

 フリースタイル・フェローシップはソウルフルであったり、ジャジーであったりするトラックを展開していた。そのクルーのMCのひとりであるジュピターが、この作品ではそれとはまったくと言っていいほど異なるトラックに挑んでいる。このことはロサンゼルスの人気パーティ、<ロウ・エンド・セオリー>のオーガナイズや、<アルファ・パップ>というレーベルの運営を行っているダディ・ケヴがDJハイヴ(アメリカのドラムンベースDJ)とともにはじめた、<コンクリート・ジャングル>なるパーティにおいて、フリースタイル・フェローシップのマイカ9やピースがドラムンベースのトラックでフリースタイルをした……、という話を思い起こさせる。<コンクリート・ジャングル>はドラムンベースをメインにしたパーティだという。ジュピターはマイカ9やピースとは違うフィールドで自身のスキルを解放している。異なるジャンルに身を置く者同士が交わっている。こんなところにロサンゼルスの音楽シーンに流れているのであろう開放的な空気を感じる。

 ジュピターはアブストラクト・ヒップホップとも、ビート・ミュージックとも、ダウンテンポとも思えるトラックの上に、ドスの利いた声でもって素晴らしいラップを乗せていく。ノサッジ・シングやフリー・ザ・ロボッツ、テイクあたりのロサンゼルスのビートをユルくスローにして、古いジャズやソウルのレコードから拝借したピアノや弦楽器のフレーズなんかを織り込み、ウォンキーを思わせるエレクトロニクスを絡み付けたようなトラックが並んでいる。ダブステップやジューク/フットワークで刻まれている、複雑でせわしないシャープなビートに追い抜かれていく、のっそりとしたビートがゆっくりと進んでいく。古めかしい音と新しめのビートが交錯した、古さと新しさを行ったり来たりする、特異な印象を与えるヒップホップだ。ワルくてコミカルでユーモラスな感覚もある。ジュピターとシーガルはマッドリブと同じように、時代の前に進むことだけを考えているわけではない。たまには過去にも戻りながら、ヒップホップの新しい姿を見せつけている。ゆるやかに時代を行き来する、おおらかな雰囲気がある。この音楽とフリースタイル・フェローシップのメンバーの動きは、様々な音楽とシーン、人物が混ざり合うロサンゼルスの空気を映し出している。

小澤 剛