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Anton Zap

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野田 努   Nov 22,2013 UP
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 「俺は絶対にダフト・パンクもディスクロージャーもかけない」と胸を張ったのはブラウザだった。彼も関わっているレーベル〈My Love Is Underground〉の名付け親は、DJディープだそうだ。90年代末のフレンチ・タッチ(90年代末にポップの表舞台に躍り出た、ダフト・パンクやエールなどのフランス勢の総称)とは意識的に距離を置いたベテランDJで、僕はパリで彼と会ったことがあるのだが、この男、自分が知っているDJのなかでも3本の指に入る反骨精神の持ち主だ。まさに信念の人といった感じで、誇り高きアンダーグラウンドの住人とでも言えばいいのか。
 そんな彼のやってきたことが新しい世代に受け継がれていることは歴史を知る者にとってかなり感動的な話なのだが、君にとっても喜ばしいことだと思う。“キャン・ユー・フィール・イット”でも「アトモスフィアEP」でも〈Prescription〉時代のロン・トレントでも、その手の音楽がかかっているとき、あり得ないほど優しい気持ちにはなれても、無理なナンパをしたり、暴力的な気持ちにはならないだろう。重要なのは音楽であり、人だ。
 アンダーグラウンド・パリスやブラウザをはじめ、ディープ・ハウスへの世間の注目を加速させたのは、ザ・XXやジョイ・オービソンらベース・ミュージック世代のハウスへのアプローチと90年代リヴァイヴァルであることは、ブラウザ本人もわかっている。5年前、ハウスはほぼ死んでいたと彼も言った。あの頃はベルリンのミニマルばかりが騒がれ、ディープ・ハウスなんざぁ誰も見向きもしなかったけどな……と愚痴りたくもなろう。しかし、好むと好まざるとに関わらず、ディープ・ハウスは90年代リヴァイヴァルという流行のなかで蘇った。ベルリンのテクノと拮抗するかのように、パリがまた重要な役割を果たしそうなところも興味深い。
 スターDJがいて、だーっと大量の客が入って、がーっと踊って、わーっと騒いで、だーっと家に帰ると。あれ、それって財布の中身と体力を消耗しただけで、なんか違うんじゃない? それはカタルシスなのか? はっきり言って空しい……などと思った方々が「バック・トゥ・ベーシック」をスローガンに、もう一回小さいところから仕切り直そうぜとおっぱじめたのが、90年代なかばのディープ・ハウスだった。俺らが求めていたのは、水商売でもないし、ナンパでもない。音楽だろう、ロン・トレントだろう、ノーザン・ソウルだろう、last night DJ saved my lifeだろう。これがいまふたたび起きている。いや、ずっと起きているのだが、急速に見えやすくなったディープ・ハウスなるシーンである。
 アントン・ザップはロシアのDJ/プロデューサーで、NYのディープ・ハウス・シーンのキーパーソンのひとり、Jus-Edの〈Underground Quality〉から多くの作品を出してる。本作は〈R&S〉傘下の〈アポロ〉からリリースされた2枚組の12インチである。
 〈アポロ〉らしく、ひと昔前ならアンビエント・ハウスなどと呼ばれていたであろう、ゆったり目のBPMに、ハウスのビート、アンビエントなループと音響が重なっている……って、あれ? これって何年の作品? 1991年のエイフェックス・ツインの変名じゃない? 淡い残響のなか、電子音の優しいさざ波が打ち寄せる1曲目の“Water”を聴いていると、『アンビエント・ワークス』の頃にエイフェックス・ツインにあまりにも似すぎていて……。要するに、ここにはIDMやテクノのセンスが注がれているのだ。個人的には無茶苦茶好みの音だけれど、やっぱりまだ大手を振って喜びきれないなぁ。しかし、期待はしたい。僕が知っているディープ・ハウスのシーンは、(主役となる音楽はUS産だが)いわばヨーロッパ型の、コミュニティありきのシーンだった。小さいシーンがいろんな場所にたくさんあるイメージで、そこは明らかに都市の避難所だった。
 アントン・ザップを、今日のディープ・ハウス・シーンのキーパーソンのひとりだったと言ったのはブラウザ、彼のインタヴュー記事は、次号の紙エレキングに掲載します。

野田 努