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数年前までは新幹線も停まらず空港も無かったこの地はかつて「陸の孤島」と呼ばれていた。人口約10万人。夏は酷暑、冬はブリザードという過酷な環境。そんな山形県鶴岡市出身のHaruka。さぞかし血の滲むような努力や人並み以上の気合いの入った青年かと思っていたが「DJを続けることに何のためらいを感じたことはいちどもない。PARTYこそが僕にとっての作品であり、生き方そのもの。たとえお客さんがひとりでも僕はPLAYを止めようとしたことはない」と、あくまで自分の人生のなかでは自然なことだと言う。
DJ NOBU氏率いる〈フューチャー・テラー〉に若くして向い入れられ、ヒロイズムを極度に嫌う東北の男が3.11以降のいまの心境と自身の展望と未来を語る。
photo : Yasuhiro Ohara
平野なんで、吹雪がものすごいんですよ。ブリザード地帯で、そこに人が住んでるのは日本でも鶴岡だけだそうです。平野の道路にブラインドみたいなのが設置してあって、冬になるとそれを閉じて吹雪避けにする。冬はSFです。
■俺がハルカにいちばん聞きたいことっていうのはさ、山形に初めて行ったとき、東北全県をまたぐダンス・ミュージックのコミュニティがあって、かつ、俺の親父の出身地でもある鶴岡という娯楽の少ない僻地に〈ハーモニー〉というハコがあったことが驚きなわけ。俺も店を作った経験があるからわかるけど、ハコが出来るまでは並大抵ではなかったはずなんだ。そこに至るエピソードを教えて。
HARUKA:僕が面白い音楽を好きになりはじめた中学生ぐらいのときから、〈エディット〉っていう名前でハコはあったんですよ。そのときは経営者も内装もいまとは違ってテクノ箱だったんですよ。中3のときに初めて遊びに行って......。
■中3のときに(笑)!?
HARUKA:はい。3年ぐらいのスパンで運営と、名前と内装も変わりながら、同じ場所にあって、空いたところに、ガラージ好きの先輩、DJサトシさんがはじめたのが〈ハーモニー〉ですね。
■ラリー・レヴァンとロン・ハーディの写真が壁に貼ってあったよね。
HARUKA:ありましたね......。コンビニで拡大コピーしたようなザラザラのやつ。ガムテープで貼ってあった。
■俺は行った瞬間感動した。昔の鶴岡を知ってるから、こんなところにもラリー・レヴァンやロン・ハーディを崇拝する人間がいたんだっていうことに。
HARUKA:それはやっぱりアツシさんの影響が大きいと思います。
■鶴岡ってどういう街なんですか? イメージっていうか......
HARUKA:日本海の海沿いの街なんですけど、ちょうど新潟と秋田の中間ぐらいにあって、新幹線は通ってなくて、幹線道路が一本通ってて、あとは田んぼ。平野なんですけど。
■いまでこそ内陸には新幹線の山形駅もあるけど、昔は山形駅も庄内空港もなかったからね。
HARUKA:いまでも帰るのは面倒臭いですね。距離の割にけっこうお金と時間がかかるから。
■今年の1月に〈ハーモニー〉はクローズしたんだけど、クロージング・パーティでトオルさんが鶴岡に呼ばれて、感動したのが、オープン前からお客さんが来てて、話を聞くと、青森から雪道の中を3時間以上かけて来ましたとか、新潟から2時間かけて来ましたっていう人が、全体のお客さんの数は何十人っていう単位だけど、オープン前からラストまでそのほとんどみんな残ってたじゃない。そういうお客さんをみんなで育てたの?
HARUKA:いえ、誰にもそういう意識はなかったと思います。鶴岡では他に行くところもないっていうのもあったかもしれないけど、自然にハコ残る人は残ってくれてるし、少なくとも僕自身は教育みたいな気持ちを持ったことはないですね。
■やりたいことをやってたら自然に仲間が集まった。素晴らしいね。
HARUKA:そうですね。ありがたいですね。
■俺はいま東京に6年ぐらいいるんだけど、東京は娯楽やパーティの多さでは恵まれてるから、パーティの掛け持ちをするお客さんもすごく多い。そんななかで、オープニングからラストまでパーティを楽しむ姿勢に胸をうたれちゃって。
HARUKA:遊び方が違うと思います。パーティがはじまっちゃえば一緒だけど、その日に懸ける感じが違いますよね。基本、ヒップホップとかレゲエのパーティのほうがお客さんも集まるし、そういうパーティのほうが多いんですけど、月1回ぐらいはダンス・ミュージックの日があって、その日しか楽しめないっていうのもあって、ものすごく楽しみに来てくれる人たちが多いです。
■DJとしてもクラブ関係者としてもお客さんの姿に感銘をうけた。パーティをつくる身としてはすごく嬉しい。オープニングからラストまで、作る側としてはその日1日の流れを考えるわけじゃない。でもなかなか成立しない。オープニングのDJが軽んじて見られたり、ラストのDJが最後まで聴いてもらえなかったりっていうさ。逆に言うと、あれだけ気合入ったお客さん相手だとやってても面白いんじゃない?
HARUKA:そうですね。やりがいはありましたね。平日水曜日に毎週やってた時期があって、ひとりとかふたりしか来ない日もあったけど、やっぱりすごい熱心なんですよ、お客さんが。そんなにダンス・ミュージックに詳しいわけじゃない、ガソリンスタンドでバイトしてる茶髪の姉ちゃんなんだけど、ベロベロに酔っ払ってずーっと踊っててくれて。たぶんかかってるのが何かとかそんなに気にしてないんだけど、よし、こっちも頑張ってやるか、みたいな。
■あるべき姿だね。なんで俺がハルカを贔屓してるかっていうとさ、そういうのが全部ハルカのパーティに反映されてるんだよ。そういうのを〈ハーモニー〉のクロージング・パーティで見て感銘を受けて、どういう過程でそこまで〈ハーモニー〉が到達したかが気になるんだよ。
HARUKA:(笑)。やっぱりお客さんの増減はすごいあったし......。17歳のときに歳をごまかして初めてパーティやったんですけど、街にあったニ軒のCD屋にポスターを貼っただけで120人ぐらいお客さんが来て。
■おぉ~、すげぇ。
HARUKA:その頃は何やってもお客さんが集まる時代で、毎回100~200人ぐらい集まってました。
■それって何年ぐらい前?
HARUKA:10年ぐらい前、2001年とかそれぐらいですね。東京とかほかの街がその頃どうだったかは知りませんけど、いまより軽い気持ちでパーティやってました。
■いや、俺の経験上わかるけど、10万人都市で120人集めたらもうニュースでしょ。
HARUKA:なんかもうふつうになってましたね。ほかのパーティもそのぐらい入るし、別に珍しいことじゃないっていうか。
■やっぱり山形県内の人が多いの?
HARUKA:そうですね......。自分も学生から上がってすぐで、友だち集めやすかったっていうのもあると思うんですけど。そのあとケンセイさんとヒラグリさんにやってもらったのが8年前ぐらい。そのときも150人ぐらい来て、その頃ですね、いちばんお客さんが来てたのは。で、〈ハーモニー〉になって1回ガクッと減って、ほんともう5~6人の身内だけでやってく時期が続いてくなかで、ノブさんとかトオルさんが来てくれて、ちょっとずつ楽しくなってきました。
■俺が〈ハーモニー〉に行っていちばん最初に目についたのが、ポスターもそうなんだけど、床のコンパネなのよ。設備にお金はかけられないけど、どうしても音を良くしたいっていう探求があったと思うのね。コンパネを敷いて打ち付けたことで、低音がすごい良い感じに伝わって。俺はコンパネのアイディアそのものに感銘をうけたのよ。あのアイディアはみんなで考えるの?
HARUKA:そうですね......盛岡に〈DJ BAR DAI〉があって、あそこは床が木なんですけど、踊ってる時の感じが好きで「僕らも木にしましょうよ」って酔っ払ったときに話してたりしてて、大工さんの友だちがいるから教えてもらおうみたいな。
■自分たちで作ったんでしょ? なければ作るっていう感じだよね。それが俺すごい感動しちゃって。
HARUKA:完全に素人の......というか、別に音響がどうのこうのじゃなくて、ただ木の床が羨ましいからやってみるぐらいの感じだったと思うんですけど......。
■結果オーライだったんだ。
HARUKA:はい。結果ほんとに音も良くなったし、あれで変わりましたね。冬超寒いんですよあそこ。なんで、木にしてからちょっと暖かくもなったんで、それも良かったなって。
■クロージング・パーティのとき爆笑だったもんな。吹雪だったもんな外出たら(笑)。乗ってた電車止まっちゃったし。
HARUKA:〈ハーモニー〉にはもうたどりつけないのかみたいな......(笑)。このまま五十嵐さんと温泉にでも泊まって......。
■ハハハハハ!! ちなみに雪がたくさん降る時期っていつぐらいですか?
HARUKA:やっぱりいちばんきついのは1月~2月ですね。12月とか3月も降るんですけど、ほんとにもっこり積もって閉ざされちゃう感じは1月~2月ですね。
■もうメートルぐらいの感じ?
HARUKA:そうですね。あと平野なんで、吹雪がものすごいんですよ。ブリザード地帯で、そこに人が住んでるのは日本でも鶴岡だけだそうです。平野の道路にブラインドみたいなのが設置してあって、冬になるとそれを閉じて吹雪避けにする。冬はSFです。
■俺は鶴岡の冬を知ってるからさ。だからこんなとこでクラブやって、実際に成り立ってお客さんが来るっていう時点でびっくりだったのよ。
HARUKA:実際ギリギリでしたけどね。冬はやっぱお客さん減りますし。トオルさんのときはクロージングっていうのでみんな集まってくれましたけど。
■1月~2月はやっぱり厳しいんだ。
HARUKA:客足は減ってましたね。
■実際、山形って来るのにも大変だけど出るのにも大変じゃない。東京だったら、「あのDJ見たい」って思ったら見れたり、技やレコードも盗めたり、どういうことやってるかわかったりするけど、鶴岡にいるときはどうやって情報収集してたの?
HARUKA:遊びに行ってました。仙台とか岩手とか。
■(笑)。ちなみに仙台と盛岡は車でどのぐらい?
HARUKA:仙台までだったら2~3時間、盛岡だったら早ければ4~5時間。
■うわぁ......。どれぐらいのペースでいってたの?
HARUKA:多いときは週いちぐらいでいってましたね。
■マジで? ハハハハハ!!
HARUKA:仙台に住んでた時期もあって。先輩がDJバーはじめたりしてて、そこでDJやったりもしてたんで。
■ 東京からなら4時間かければ静岡県の浜松まで行けるね。下手すると名古屋まで行けちゃうよ。
HARUKA:あとETCが1000円になったんで、それでものすごい拍車がかかって、もう東京も普通に行っちゃうみたいな感じになって。
■ハハハハハ!! イヤッホー! それ行けぇ~だ。
HARUKA:これで安く好きなところに遊びにいけると。
■ちなみに東京までどれぐらいですか?
HARUKA:距離で言えば350kmぐらいで、高速まるまる使えば6時間ぐらいですかね。
■6時間かぁ......、すごいな。熱意がすごいよね。
HARUKA:行き帰りも音楽聴けるじゃないですか。それが楽しくてしょうがなかった。
■遊びの行き帰りは楽しいもんね。
HARUKA:そうですね。温泉寄ったり、名物みたいなの食べたり。
■楽しんでるね、旅を。
HARUKA:いま群馬に住んでるニッシー君っていうDJとほんとによくいろいろ行ってましたね。
■ニッシーも最高だよね。あいつのバイブスもかなり好き。
HARUKA:ジプシーですからね。工場で働いてて、いろんなところを転々としてて、宮城が地元で山形に半年住んでたこともあった。いま群馬に落ち着いてるんですけど。一緒に〈フューチャー・テラー〉行ったりしてて。
■レコードとかは通販?
HARUKA:通販ですね。リサイクルショップ行ったりもしましたが、ほとんどはネットで。
■そういう大都市との情報の差みたいなのは......。
HARUKA:あったんでしょうけど、そんなに感じてなかったですね。
■みんなまず楽しむことを優先してるもんね。
HARUKA:そうですね。
■情報合戦じゃなかったもんね、行ったとき。
HARUKA:そういうのはまったくないですね。
■嬉しかったのがさ、俺がハルカと知りあったとき、もう〈フューチャー・テラー〉でノブくんと一緒ににやってくっていう時期だったから、こう、イメージでノブくんを語るのも失礼なんだけど、ガチガチのディープなテクノのところパーティなのかなぁと思ってたんだけど、俺がAHBの、Tenちゃんがヴォーカルの「In The Sky」をかけたらさ、みんなわぁーっとなって、泣いてくれたじゃん。みんなの好きな音楽が多岐にわたってて、情報合戦がなくて、パーティを楽しんでることにものすごい胸をうたれたの。あれはもう素養としてあるわけ?
HARUKA:どうなんですかね。ちょっとした技術や手法とか提唱するスタイルとか、そういう次元じゃなく良いDJを求めてたっていう感じはします。
■そんな感じはした。
HARUKA:いろんなDJを鶴岡に呼んだけど、結局何回も来てくれるのはトオルさんとノブさんのふたりだけ。
■ありがとうと言ったほうがいいのかな? 立場上......。
一同:ハハハハハ!!
HARUKA:長谷川ケンジさんなんかも......
■来てたねケンちゃんも。そっか......
取材:五十嵐慎太郎