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Prettybwoy

Mar 22,2013 UP

DJ file(7)

Prettybwoy

取材:野田 努

123

Various Artits
Grime 2.0

BIG DADA

Amazon

 時代は少しづつ変わっていきます。5月に〈ビッグダダ〉からリリース予定のグライム/UKガラージのコンピレーション盤『Grime 2.0』には、Prettybwoyと名乗る日本人のプロデューサーの曲が収録される。
 グライム/UKガラージとは、ブリテイン島の複雑な歴史が絡みつつ生まれたハイブリッド音楽で、ジャングルやダブステップと同じUK生まれの音楽だが、後者が国際的なジャンルへと拡大したのに対して、グライム/UKガラージは......英国ではむしろメジャーな音楽だと言うのに、ジャングルやダブステップのように他国へは飛び火していない。言葉があり、ある意味では洗練されていないからだろうか。
 僕はグライムの、洗練されていないところが好きだし、そして、迫力満点のリズム感も好きだ。グライム/UKガラージの最初のピークはワイリーやディジー・ラスカルが注目を集めた10年前だったが(ダブステップやフットワーク/ジュークに目を付けた〈プラネット・ミュー〉も、最初はグライムだった)、コード9が予言したように、最近もまた、昨年のスウィンドルのように、このシーンからは面白い音源が出ているようだ。そもそも〈ビッグダダ〉がグライムのコンピレーションを出そうとしていることが、その風向きを証明している。
 そのアルバムには、ひとりの日本人プロデューサーも加わっている。10年前にはなかったことだ。日本にながらグライム/UKガラージをプレイし続けている男、Prettybwoyを紹介しよう。

生まれはどちからですか?

Prettybwoy:東京生まれですが、地味に引越しが多く、学生時代は茅ヶ崎~逗子~横須賀と。学校は、小:鎌倉、中~大:横浜でした。東京には大人になってから帰ってきたという感じです。

子供の頃に好きだった音楽は?

Prettybwoy:子供の頃はコナミのファミコン全盛期? で、ゲーム・ミュージックがとても好きでした。サントラCDとかも良く買っていました。ゲームのはまり具合とかもあると思いますが、「ラグランジュポイント」というファミコンソフトの音楽は強烈に印象に残っています(笑)。たしか他にはないFM音源チップをカセットに積んでるとかで、カセットサイズが倍くらいあるんです。ゲームって、クリアしたらもうやらないタイプだったのですが、CDはいつまでも聴いてましたね。
 余談ですが、ゲームのサントラを買っていたのはスーパーファミコン期まで。あの制限のなかで表現している感が好きだったんだと思います(笑)。

クラブ・ミュージックやDJに興味を覚えた経緯は?

Prettybwoy:ちょうど高校生の頃、Bボーイブーム(?)のようなものがありました。行きませんでしたが、さんぴんCAMPとかもその頃だったと思います。その頃に、まぁ、人並み過ぎるんですが、HIPHOP/R&Bからクラブ・ミュージックに入りました。初めて買ったのが、バスタ・ライムスのファースト・アルバムだった気がします。そこから、フィーチャリングのアーティストを掘り進めて、買っては新しいアーチストと出会い......というのが面白くて聴いていました。
 共有できる友だちはクラスにたくさんいたと思いますが、あまり人付き合いが得意ではなく、独りで掘り進んでいました。その頃は、神奈川のローカルTVで毎週ビルボードTOP40(usR&BのPVをよくVHS録画してました)、それとどっかの局で深夜にクラブ専門番組、それ終わって「ビートUK」って番組やってたり、インターネットが普及しはじめの時期だったので、情報はそんなくらいでした。
 大学入ってヒップホップ~テクノとか適当に聴いていて、やっと、学校のPCルームでインターネットのありがたさを実感した頃でした。あるとき、バイト代が数十万貯まっている事に気付いて、たまたまVestaxの2CD&MIXER一体型のCDJを買って、さらにいろいろ満遍なく聴いてみるようになりました。

UKガラージとは、どのように出会ったのでしょう?

Prettybwoy:たまたま買ったR&Bミックス・テープのラストに、原曲の後に、2step remixを繋がれていて。ビートはかなり軽快で、あくまで歌が主役なんだけど、不協和音で、いままでのUSヒップホップとは別次元の、妙によどんだ空気を感じました。なんだコレ? って思った最初の音楽かもしれません。こういうの何て言うんだろう?今 より全然情報の無いインターネット、それとかろうじてHMVとかでもPUSHされていたおかげで、それが2ステップ/UKガラージ/スピード・ガラージという呼ばれ方は変われど、同質のひとつのジャンルなんだと知ることができました。
 いまよりもずっと、DJがミックステープでかける曲が、未知の音楽体験を与えていた時代かなと思えます。いまはリスナーがちょっと調べたら最先端を視聴程度ならできますからね。

UKガラージのどんなところが好きになりましたか?

Prettybwoy:当時横浜のHMVですら、UKガラージのミックスCDをコーナーで置いていました。MJコールのファースト・アルバムが、出たかくらいの時期だったと思います。まず僕はミックスCDから手をつけて行きました。きっと僕は運が良かったのか、これもめぐり合わせだと思うのですが、いちばん最初に手にした〈Pure Silk〉から出ていたMike"Ruff Cut" LloydのミックスCDが、最高にかっこよかったんです。まず、こんなにアンダーグラウンド感があるんだ? って感想でしたね。入ってるトラックは、いまではレジェンド級の名曲オンパレードなんだけど、全体的に土臭くてRAWな質感にヤラレました。
 派手なシンセなんかはほとんどまったく入ってなくて、お馴染みのサンプリング・ネタも随所に散りばめられて、BPM140くらいのベースと裏打ちリディム、そこにカットアップされたヴォーカル。とにかく黒いなぁ。って思いました。2000年くらいだから、ヒップホップも正直つまらなくなっていたし。本当の黒さがここにあるなって衝撃でした。
 あと面白いのが、後になって、オリジナルを手に入れて、曲の地味さに驚くことがすごく多いジャンルですね(笑)。いまは結構元から派手目なトラック多いですけどね。それだけDJのミックスしがいのあるってことだと思います。ただ繋いでるだけじゃ、絶対伝わらない。ミキサーのフェーダー使いもスイッチが随分多いジャンルだなって思いました。

PrettybwoyさんなりのUKガラージの定義を教えてください。

Prettybwoy:とても難しい質問だと思います(笑)。
 僕は、2ステップの時代にこのジャンルを知りました。そこから掘り起こしてみると、UKガラージという言葉が出てきました。さらにその前は、スピード・ガラージという言葉まであります。コレは、UKガラージのなかから発生したひとつの流行が、名前を付けて出て来たに過ぎないと思っています。
 いまに例えると、Disclosureがとても人気があって、流行っています。UKガラージのディープ・ハウス的アプローチがとても流行っています。これ単体に新しいジャンル名がつくとはまったく思いませんが、大小合わせて、そういうのの繰り返しと言うことだと思います。
 とくに2000年以降、ダブステップやグライム、ベースライン、ファンキーという言葉も出てきました。さらにはそこからまた派生ジャンルまで......ひとつひとつを厳密にジャンル分けして考えることは、もはや無意味だと思います。
 ここ6~7年で、ダブステップは世界的に拡がり、独自性をもったジャンルになっていると思います。いわゆる、特徴的な跳ねたビート・フォーマットのことをUKガラージといってしまうと、じゃああんまり跳ねない重たいビートはガラージじゃないの? ってことになるし、逆にそれさえ守ればUKガラージなの? って話にもなるし......。じゃあ、グライムは何でガラージと親和性を保っているの? という話も出てきますし。
 懐古主義ではないけれど、1997~8年から2002年くらいの、オールドスクールと言われるUK ガラージの良さを、理解して、現在、ガラージなり、グライムなり活動しているアーティストを、僕はUKガラージと定義しています。例えば、DJで言うと、Rossi B & Luca,EZ、Q、Cameoなんかは、わかりやすいですよね。UKガラージと言われるけれど、グライムもプレイするし。僕自身、UKガラージ/グライムのDJと言っていますが、厳密なジャンル分けはこの周辺音楽にとってはナンセンスと思ってます。
 ついでに、フューチャー・ガラージなんて言葉もありますが、例えばWhistlaのレーベル・アーティストなんかは、もともとUKガラージとは別の活動をしてきた人がほとんどみたいです。そういった、ガラージフォーマットを使って活動しているアーティストをフューチャー・ガラージと言うのかと思います。

衝撃を受けたパーティとかありますか?

Prettybwoy:昔、六本木にCOREという箱があって、そこで開催されたUKガラージのパーティのゲストがZED BIASだったんです。僕は大学生だったんですが、初めて見たUKガラージのアーティストだったので、衝撃でしたね。
 ちょうど、「Jigga Up(Ring the Alarm)」をリリースする前で、その曲をかけてたのがすごい印象に残っています。それと、派手な衣装を着たダンサーがブース横にいました(笑)。一緒に来日していた、たしか、MC RBだったんですが、急に曲が止まって、みんな、後ろを観てくれ! って煽って、後ろを見たら、そのダンサーたちのダンス・ショーケースがはじまったんです。しかもSunshipかなんかの曲で(笑)。その時のちょっとバブリーなパーティ感は忘れないですね。ああチャラいなと(同時に、Moduleなんかでは、超アンダーグラウンドな音楽勝負!! みたいなUKガラージのパーティもおこなわれていました)。
 それと、DBS Presentsで、GRIMEのワイリーとDJ スリミムジーが来日したパーティ。代官山UNITですね。いままで経験したなかで、MCがあんなに喋って、DJがあんなにリワインドしたパーティは初めてでした。2005年、あの時期にこれをやるDBSって、凄い!!っ て思いました。

最初は、どんなところでDJをはじめたのでしょうか?

Prettybwoy:ヒップホップのDJをやっている友だちがいて、彼に、ラウンジだけど、DJやってみる? って言われたのがきっかけで、DJ活動をはじめました。正直それまではミックステープを渡しても、個人的に好きだけど、現場ではねぇ......って言われて、やれる場所を見つけられず、DJ活動は正直半ば諦めて、働いていた服屋でBGMとして自分のミックスをかけるくらいでした。それでもちょっとアッパーすぎて、お店からNGを出されることも良くありました(笑)。それが、2006年の初め頃です。
 でも、ヒップホップ/R&Bのパーティのラウンジでやってても、共演者に上手いね。こっちのパーティでもやってよって言われることはあっても、なかなかお客さん自体に反応を貰うことはありませんでしたね。
 そんなときに、Drum&Bass Sessionsから、SALOONをUKガラージでやりたい、っていうことでオファーを頂いたんです(実は、DBS GRIME特集のパーティに言った直後、DBSのサイトに直接メールをして......)。それが、D&B、そして俗に言うUK BASS MUSICのシーンへの入口でした。それからすべてがはじまりましたね。

自分に方向性を与えた作品(シングルでもアルバムでも曲でも)を5つ挙げてください。

Prettybwoy:実は、2月に国書刊行会から出版された『ダブステップディスクガイド』で相当な枚数のUKガラージ、アーリー・グライム紹介させていただいたので、ここではあえて当時学生でお金も無く、すごい欲しかったけどレコードでは集め切れなかった盤を5枚。当時、このBPMで、ヒップホップしてるのがすごいかっこ良かったです。

・G.A.R.A.G.E(DJ Narrows Resurection remix) - Corrupted Cru ft.MC Neat
http://youtu.be/CtN8qHLaSqU
・Fly Bi - T/K/S
http://youtu.be/aj_M50uh8hg
・We Can Make It Happen (Dubaholics 4 to the floor) - NCA & Robbie Craig
http://youtu.be/Ft0V2-Wp6mM
・Haertless Theme - Heartless Crew
http://youtu.be/qEYQM1mm8Rc
・Whats It Gonna Be (Sticky Y2K Mix) - Neshe
http://youtu.be/Qp0mKDiPFP4

取材:野田 努