Home >  Reviews >  Tools > MXH-DBA700 / DD600- maxell

Tools

MXH-DBA700 / DD600

MXH-DBA700 / DD600

maxell

松村正人 (書籍『ele-king』編集長)   Dec 17,2012 UP
このエントリーをはてなブックマークに追加

 私は音楽を聴いて考える仕事が多いので日中は家でよく音楽をかけている。ところが、夜は狭いくせに高い東京の住宅事情と、何かしら茫漠とした家族への負い目もあいまって、スピーカーは鳴らせないか、鳴らせたとしても蚊の鳴くような音である。書きものをするのはたいてい深夜なので、必然的にヘッドホンをつけることになる。私はふだんカナル型のヘッドホンを愛用しているが、それはいくつか理由がある。オーバーヘッド型はかさばるので――外に持ち出すには――機動性に欠け、インイヤー型は心許ない、首かけ、耳かけは、オーバーヘッド型にもいえることだが、首が凝るし耳のうしろが痛くなる。と、のっけから注文ばかりで恐縮ですが、音楽好きにとって、ヘッドホンは「聴取環境」のなかでも再生機器以上に見過ごせない要素であることはまちがない。いや、むしろ、これだけアナログ(レコード、カセット)からデジタルまで、デジタルであっても複数のファイル形式に音声(データ)が多様化し、PCから各種プレイヤー(のグレード)まで再生環境が分化したいまとなっては、情報が最終的に音に変換される場所、音と身体の接点がなによりも大切になってくるが、一本数百万するスピーカーに金をかけられるのは医者とか会社経営者とか、金持ちの骨董趣味の老人くらいだろう。私たちはもっと現実的に、というよりも現在的に音楽を聴いているはずだ。そこでヘッドホンが問題になる。耳と音のセッションする接点としてのそれが。

 前述の通り、私はヘッドホンをいつも使っているが、これは原音に忠実なのを謳った某社のものなので比較的フラットな再現性である。ノイズ~ドローン、クラブミュージック、バンドものからSSW、アコースティックなジャズとかクラシックとか、多種の音楽を偏り少なく聴くための気配りなのだがつねひごろ物足りない気はしなくもなかった。なので、maxellの2タイプのヘッドホンを試せるのをもっけの幸いとばかり、ふだんよく聴く音楽を元に「MXH-DD600」と「MXH-DBA700」を、買い換えを視野に入れ、真剣に聴き較べてみた。
 視聴音源に選んだのはマーラの『マーラ・イン・キューバ』から"Revolution"。今年出たアルバムのなかでもウェブ、紙の「ele-king」で、とみに評価の高かった作品であるだけでなく、高音から低音まで広いレンジをふくみ、かつデジタルとナマ音(のサンプリング)をミックからなるこの曲を聴き較べに最適とみなした。まず、赤色使いもかわいい「MXH-DD600」は一聴してバランス感覚にすぐれたヘッドホンという印象。これまでは、いくらか暴力的にも感じられた"Revolution"が「MXH-DD600」だと、まとまりをもった、こなれたものになっている。低音を殺さず中音域に配慮したデュアル・ドライバにより、ドラムやパーカッションといった中音域に固まりがちな楽器群をクリアに再生するためか、ダブステップとキューバ音楽のフュージョンである『マーラ・イン・キューバ』のような境界線上の音楽の意図を、「MXH-DD600」は俯瞰するように届けてくれる。この特性ならソウルやファンクなどのファットな音色にも相性がいいはず。それに歌ものも。というわけで、つづけざまに、これも野田さんはじめ、下半期の「ele-king」で話題になった「公営住宅地のボブ・ディラン」ことジェイク・バグの同名作から"Broken"をかけてみた。私はこの曲を聴くたびに、これってディランより山崎まさよしのワン・モアなんとかなんじゃないのと口を滑らしそうになるのだが、「MXH-DD600」で聴くと、歌の細かいニュアンスが手によるようにわかり、美しいメロディと隣り合わせの荒涼とした心象が歌の襞からにじんでいる気がして、彼の音楽との俄然距離が縮まった。ありがとうございました。

 さて一方、黒一色のシャープな「MXH-DBA700」であるが、こちらはBA(バランスド・アーマチュア)型とダイナミック型ドライバ搭載により "Revolution"の低音の迫力と高音の伸びを過不足なく再生する。傾向としてはドンシャリ、つまりハイとローをもちあげた音楽になじみがいいだろうから、ダンスミュージックにはうってつけである。音の分離が明快なので、各パートがどのように周期しグルーヴをつくるかもよくわかる。ためしにシャックルトンの『ミュージック・フォー・ザ・クワイエット・アワー』も聴いてみたが、重層的な音の構造体そのものが剥き出しになったようで、これまで聴いていたヘッドホンでは感得できなかった発見があった。あまりに強力なヘッドギアともいえるもので、これをポータブルプレイヤーないしはスマートフォンに装着して街に出ようものなら、踊り出すか固まるかして、渋谷警察の角あたりで職質を受けないともかぎらないので注意が必要である。また、ヘッドホンの重要な選択基準ともいえる、フィット感と携帯性については、「MXH-DBA700/DD600」のゆるやかな円筒形のシェイプは耳を圧迫しすぎることのない、ほどよい密着感をもっており、しかも絡みにくいフラットコードを採用した、こころにくいホスピタリティ(?)には、私がキシメン派であることをさしひいても、賢明なる読者諸兄の賛同を得られるのではないか。

松村正人 (書籍『ele-king』編集長)