interview with Yakenohara | ゆるいリミックス
April 14, 2014

取材:野田努


やけのはら
SELF-PORTRAIT

Felicity

Amazon

 やけらしい……というか、総じて、のんびりしている。カリブ海の影響を受けたリズムも、控え目に鳴っている。ジャケはかわいいイラスト。
 『SELF-PORTRAIT』はやけのはらのリミックス集で、2007年から2013年までのあいだに彼が手がけた楽曲が12曲入っている。
 このリミックス盤は……、彼のファースト・アルバム『ディス・ナイト・イズ・スティル・ヤング』が2010年のリリースなので、2007〜8年という、より初期のやけのはらが聴ける作品だと言える。リミックスを依頼しているのは──中村一義 、奇妙礼太郎、idea of a joke、ランタンパレード、アナログフィッシュ、Spangle call Lilli lineなどなど──名前を並べるとあまり統一感のないように思えるのだが、彼らの曲をやけのはらが再構築すると1枚のアルバムの1曲に収まる。
 個々のアイデアについては、彼自身が書いたライナーに詳細が記されている。ライナーをいつか自分で書きたかったということだが、たしかに力が入った言葉をみっちり書いている。

 ボヘミアン気質の初期の作風、オプティミスティックな感覚はいまでもやけのはらのトレードマークなのだろうが、やはりある時期までの初々しさは、その時期──彼がまだ真冬でもサンダル履きで街をうろついていた頃──だからこそ出せたものだと言えるだろう……ふと、いまこれを書きながら思ったのだが、サンダル履きのやけのはらは、日本でチャヴ・ファッションを先んじて実践していた男なのかもしれない。

 彼は、2000年代なかばの時点では、ラッパーというよりも、若手のDJのひとりとして評判だった。いろんなところから声をかけられ、よくDJをしていたと思う。ファースト・アルバムを出すのが遅すぎただけで、早い時期から彼のもとにリミックスのオファーがあっても不自然ではない……

ずっとリミックス盤を出したかったんですけど、タイトルが決まらなかった。エイフェックス・ツインのタイトル、『26ミクシーズ・フォー・キャッシュ』がずーっと頭にあって、ほんと最高のタイトルだなと思ってたんで(笑)。あの秀逸なタイトルが、ハードルとして高くありすぎましたね。

率直な感想を言うと、けっこうリミックスをやってたんだなっていう。

やけのはら(以下、やけ):あ、そうですか。まずそこから(笑)。

(笑)すごくやってたんだね! 奇妙礼太郎のリミックスは知ってるけど、他のはほとんど聴いてなかったなあ。知らないものばかりだったよ。

やけ:野田さんの聴きそうなところとはちょっと違うかもしれないですね、もしかすると。

日本では、リミックス作品のリリースが90年代ほど盛んじゃないし、あとポップスとDJカルチャーとの溝、いま日本では開いちゃってるからね。

やけ:その頃だったらリミックス盤ってけっこうありましたもんね。1枚丸々リミックスとか。

だから、いまエレキングでもリミックス盤って作ってるんだよ。12インチのアナログ盤で。

やけ:知ってますよ。踊ってばかりの国。

そうそう、それが1枚目で、次はオウガ・ユー・アスホールの新曲をアルツくんにリミックス頼んでいて……いま気がついたんだけど、やけちゃんってアルツくんに似てるよね?

やけ:それ見た目でしょ(笑)? たしかによく言われます。

へへへへ、それにしても、やけちゃん、こんなにリミックスをやってるんだなあ。売れっ子じゃない。

やけ:けっこう、長いタイムスパンのなかから選んだんで。でも、もっといっぱいあるから。まあ、あんまクラブ仕様って感じでもないですけどね。

そうかなー。やっぱ、どちらかと言うとクラブ寄りの感性だなと思ったんだけど……と言っても、オリジナルを知らない曲が多いから、オリジナルがクラブ寄りだったりするのかもね。でも、やけらしさは感じるよ。ちょっと清々しい感じとか、タイトルを『SELF-PORTRAIT』ってつけたくなる気持ちもわかる。良いタイトルだね。

やけ:はい。ありがとうございます。

やっぱ、フェリシティから出してから、リミキサーとしての仕事は多いの?

やけ:いや、わかんないです(笑)。ひとと比べて多いのか少ないのかわかんないですけど、まあたまに誘ってもらったり。さっきの、ポップスとクラブとの溝の話で言えば、僕がロックとかポップスが好きだったり理解があった上でクラブっぽいものができると思われてるのかもしれないですね。頼んでくれるひとからしたら。

ああー。(DJ)ヨーグルトとちょっと近いよね、その見られ方は。

やけ:あくまで想像なんで、実際はわからないですけどね。頼む側からすると、自分たちの音楽はあんまりわかんない人間がただクラブ仕様にするっていうのは、ちょっとなって思うのかもしれないです。

なるほど。頼まれると絶対断らないタイプでしょ?

やけ:基本は。ただ自分のそのときのスケジュールとかもあるんで。

よほどのことがない限りね。

やけ:まあそうですね。

相手は選ばない?

やけ:選ばないって言うとヘンですけど、なんというか、挑戦というか。例えばこれには入ってないですけど、てんぱ組.ってアイドルみたいなひとなんかもやらせてもらったりしたんですけど。そういう普段聴かなかったり自分の作っているものと距離があっても、リミックスだと、チャレンジでやってみようかな、っていうのはありますけど。

なんで入れなかったの。

やけ:リミックスは、今回選んだ曲の倍ぐらいあって、そのなかからこれにしたんで。なんとなく、評判が良かった風のやつから逆算して入れていったというか。あと、ぼんやりなんですけど「あのとき友だちがいいって言ってくれたな」とか。3票ぐらい。ゼロか3かくらいの小さい差なんですけど(笑)。あとは自分がいままで関わったやつの、一番端と端まで入れちゃうとぐちゃぐちゃになりすぎるんで。いちおう1枚の整合性とバランスを考えつつ。

なるほど。でも、昔から議論されることだけどさ、リミックスを楽しむ文化が、いまだに日本では定着してないんじゃない?

やけ:どういうことですか?

いまだにビョークの曲をハーバートがリミックスするとビョークのファンが怒っちゃうみたいな。

やけ:はい、はい。ミュージシャンのクレジットのほうが大きいのは仕方がないけど。

だから、アイドルだろうが何だろうがさ、リミックスする側からすれば関係ないじゃない。

やけ::そうなんですけど、でも僕の場合は、たとえば歌のひとの曲だったら歌は全部残すとか、素材にはしないって自分内での決めごとにしてるんで。元のひとの中心軸は、まあ歌なら歌で、全部残すんで。あとなんだろう、そのサジ加減を楽しんでるんですけど、思いっきり全部素材にはしないで、いちおう元のリアレンジって風にやってるんで。だから自分ヴァージョンにはなってるけど、元のひとの核は全部尊重してるっていうか残してるっていうか。

なるほどね。たしかにリミックスっていうのは原曲に対するリスペクトがあるかどうかっていうのは、ひとつあるかもね。

やけ:リスペクトって言葉かはわからないですけど、素材にしちゃうんだったら何でもいっしょになっちゃうんで、やっててもつまらないっていう。

まあね。エイフェックス・ツインがそれこそ「カネのためにやったリミックス」って言ったりね(笑)。

やけ:あれが頭にあったんですよね、あのタイトル。

『26ミクシーズ・フォー・キャッシュ』(2003年)だっけ。あれは、リミックス文化に対するシニカルな批評だもんね。

やけ:そうなんですよ。ずっと(リミックス盤を)出したかったんですけど、タイトルが決まらなかったんですよね。で、エイフェックス・ツインのあのタイトルがずーっと頭にあって、ほんと最高のタイトルだなと思ってたんで(笑)。『26ミクシーズ・フォー・キャッシュ』みたいなのがいいなーって。あの秀逸なタイトルが、ハードルとして高くありすぎましたね。それで、なかなか出せなかった。

ああー。それでなんで『SELF-PORTRAIT』にしたの?

やけ:これはね、もう……まあボブ・ディランなんですけど。

うわ、大きいこと言うねー(笑)!

やけ:いや、ディランのアルバムであるじゃないですか。カヴァーが多く入ってる『セルフ ポートレイト』。あの感じでいいかなっていう。いま言った話の流れに通じるかもしれないですね。一見ひとの曲だけど、意外と俺のエッセンスがあるぞ、と。

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リミックスって、トム・モルトンとかウォルター・ギボンズとか、初期ディスコのひとたちのリエディットが最初じゃないですか。もっと過去に遡れば、やっぱりジャマイカのダブって発想があるでしょう。すでに録音してある素材を並べ替えたり、抜き差ししたりっていうか。


やけのはら
SELF-PORTRAIT

Felicity

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このジャケットの感じも、2000年代半ばぐらいの、やけのはらが自主で作ったミックスCDを思い出すなー。

やけ:たぶん一貫してそういうノリが好きなんじゃないですかね、僕。

これって、どういうノリなんだろうね?

やけ:まあ明るい感じ。楽しい感じ。

かわいい感じ好きだよね。ちなみに、リミックスしても歌詞を残すっていうのは、ひとつのこだわり?

やけ:うーん、歌詞を残さないとつまらない。なんだろうな、元からあった自分の曲のストックにちょっとヴォイス・サンプル乗せるとかやり出したら、なんかあんまり楽しく取り組めないんで。

ある程度縛りがあるなかでオリジナリティを出すっていう。

やけ:そうっすね。あとはアレンジって意識なんで、元の曲の一番大事なところは残さないとアレンジにならないんで。野田さんはどれが面白かったとかありますか?

意外なことに、中村一義のリミックスがいちばん良かったね。

やけ:意外(笑)? 何に対して意外なのかわかんないですけど(笑)。僕もけっこういいと思ってるから2曲めにしてるんですよ。

あと1曲めも良かったけどね!

やけ:それはイントロですよ(笑)。大丈夫ですか、2曲めまでしか聴いてないんじゃないですか?(笑)

はははは、中村一義のリミックスは、ちょっとハウシーな感じじゃない?

やけ:ハウスではないですよ。アンビエントですよ。

ピッチが遅いけどビートはあるし、ビートダウン・ハウスって感じじゃない? 

やけ:キックがないし。

ああ、これはアンビエントという解釈なんだね。で、続く奇妙礼太郎はダブんだけど。

やけ:リミックスやるときに限らず、あんまり打ち出すタイミングがないんですけど。ダブとアンビエントはすごく好きなんですよ。ただそれだけなんですよね。

ダブとアンビエントっていうのは、自分のスタイルとして意識しているの?

やけ:それはね、違うんですよねー、なんとなく。でもリミックスって、トム・モルトンとかウォルター・ギボンズとか、初期ディスコのひとたちのリエディットが最初じゃないですか。もっと過去に遡れば、やっぱりジャマイカのダブって発想があるでしょう。すでに録音してある素材を並べ替えたり、抜き差ししたりっていうか。どうしてもリミックスって、ダブにたどり着くところがあるような気がしますけどね。

なるほどね。そういう理解かー。音色はどういう風に選んでるの?

やけ:マニアックな質問ですね(笑)。それはそのときどきで、「これが合うな」とか、逆に「合わないから面白いな」とか、ケース・バイ・ケースですけど。

なんで訊いたかって言うと、基本的にはわりとストレートな音色っていうかさ。

やけ:まあ、そうかもしれないですね。作っていくなかで、自分がしっくり来るものを選んでいるだけなんですけどね。

基本的にはキラキラした感じの、気持ちいいサウンドだよね、って言っちゃうと単純だけど。

やけ:まあ、そうですね。やっぱ自分のなかの要素としてはあんまりないんじゃないですか、インダストリアルとかは。

あんまり気持ち良すぎて、気持ち悪くなったりしない?

やけ:(笑)すごい質問ですね! 面白いですね。あ、でも、それがギリギリ僕のなかでテクノですかね。ちょっと砂糖多すぎるなと思うとテクノ聴いたり。

いまの世のなかの一部っていうのは、どんどん快適な方向に行ってるからさ。

やけ:いや、そこの対立軸には置いてほしくないっていうか。

はははは!

やけ:いや、この気持ちいい世界観は直接的にわかりやすい気持ち良さじゃないですよ。もうちょっと隙間産業的なもので。

(笑)ニッチな。

やけ:でもストレートに、「こういう風にしたら気持ちいいだろう」っていう風には行ってないっていうか。自分の意識としては。

すごく抽象的な質問だけど、じゃあどの辺に落とし込もうとしてるの?

やけ:それは毎回チャレンジというか。でも、けっこう行き先を決めないで作ってるかもしれないですね。自分の曲でもそうですけど。とりあえず、最短距離には行かないようにはしてるんですよね。たとえば「シティ・ポップ風のアレンジにしよう」とか、そういうのは自分のなかでは無いっていうか。

そうだね、当たり前だけど、やけのはらの個性が出てるもんね。

やけ:僕の好みは出ていますよね。

今回のリミックスで一番古いのってどれ?

やけ:Aira Mitsukiってひとかな。2008年とかだから。

このひとは知らないんだけど、どういうひとなの?

やけ:ちょっとアイドル的な。パフューム的なことをやってたひとですね。

とくに大変だったものってある?

やけ:うーん、どれが極端に大変だったってことはないかもしれないですね。もちろん、どれも頑張ってやってるんですけど、でもそんなに苦労しなかったやつのほうが入ってるかもしれないですね。こねくり回してやったやつは、なんだろう、悪いってわけでもないですけど。ここには入ってないやつのほうが、むしろこねくり回したり悩んじゃったのが多いかもしれないです。

「こういうリミックスをお願いしたい」みたいな、リクエストをされたことはある?

やけ:うーん、思い出す限り、基本的にはないですね。そういうオファーだったら他のひとに行くんじゃないですか(笑)。もっと器用にできそうなひとに。

「クラブでかけられるダンス・ミュージックにしてくれ」っていう依頼はなかった?

やけ:思い出す限りそういうのはなかったですね。あと、僕がリミックスやるときは、そのメディアのことも考えてやるんで。CDのあとにボーナス・トラックで付くのか、5曲ぐらいのシングルのカップリングで入るのか、レコードの7インチや12インチで出るのか、とかは、いちおう考えて作ってるんで。最初からレコードだったら、クラブでもかかる可能性のあるようなのにしようとか。
 あと、対象のミュージシャンを僕が知ってる場合もあんまり知らない場合もあるんですけど、どんなリスナー層が多いのかな、とかもぼんやりとは気にするというか。そのひとたちがまったく好きにならないものは避けたいけど、合わせてもつまらないので、そのバランスは最初に考えますけどね。ギリギリ楽しんでくれるかな、ぐらいの感じだけど、その層のひとが聴かない要素も入れたりとか。そういう案配は考えます。

時代的な難しさはとくに感じなかった? リミックスって、そのファンのためにやるものでもないんだけど、そのファンに聴いて欲しいものでもあるし。

やけ:リミックスなんで、ひとから頼んでやってることが前提にありますからね。まずは、頼んでくれるひとがいたからできたものなんで、そこは受け身は受け身ですから。ただ、今回リミックスを出したいと思ったのは、自分なりにそのときどき──バイト的にではなく──ちゃんとリミックスをやってるって意識があったり、それが世のなか的にどう取られるのかはわからないですけど、まとめて聴いて面白く聴いてもらえるんじゃないかと思ってるからなんですね。

ダンスフロアのことは考えない?

やけ:僕の曲ってもともと日本語の歌とかが入ってるのが多いので、ダンスフロアのど真ん中、2時とかの感じではないですよね。アレンジや曲調によっては時間帯が違えばかけられるかも、とかはあっても。

昔、ディスコをよくかけてたじゃない?

やけ:ディスコはいまでもかけてますよ。ダンスフロアの感覚はどれもあるんですけど。でも、けっこう(自分が頼まれるリミックスは)歌ものが多いからなー。そういう意味ではダンス・リミックスって言うより、やっぱりリアレンジしてるって意識かもしれないですね。あんまり想定はフロアではなかったりもする。
 そういう意味で言えば、たしかに直接的にダンスフロアを目指したものは少ない。っていうかそういう意識はないかもしれないですね。でも後半のアンビエント的なやつも、自分のなかではダンスフロア的な感覚でアンビエントになってはいるんですけどね。自分としては、ハウスやテクノもやってみたいんですけどね。あんまりそう見られてないのかもしれないですね。いまは、あんまりダンスのイメージがないのかもしれない。

選曲は、それなりに大変だった?

やけ:選曲は、けっこう大変でしたね。リミックス盤は、5年前からずっと出したいなと思ってたんですよ、ファースト・アルバム(※2010年の『ディス・ナイト・イズ・スティル・ヤング』)の前ぐらいから。僕の気持ちとしてはもっと前からやりたかったんですけど。

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僕のことをラッパーだと知らなかったひとも多かったと思います。自分でラップをしてるひとが、ひとの曲をリミックスしてアルバム出すっていうのも前代未聞な気がするんですけどね。


やけのはら
SELF-PORTRAIT

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2007年から2013年までに作った曲が入っているわけだけど、やけのはらは、2007年のあたりはクラブ系だと括られていたじゃない?

やけ:ある意味、いまでもそのつもりなんですけど(笑)。でもリミックスって、クラブ・ヴァージョンにするもんだってことも忘れて作業してましたね。普通にただリアレンジのつもりっていうか。アレンジャーの気分っていうか。ただ自分の手駒として、ギターを上手く弾けるとかじゃないんで、どうしてもクラブ的な感覚が自分のできる解釈になるっていうのはありますけど。

2007年から2013年だと、デビュー・アルバム前からの仕事も入っているわけだけど、自分自身のリミックス・ワークに対する姿勢はあんまり変わらなかった?

やけ:聴き返して思うのは、変わらないっていうとヘンかもしれないですけど、古い曲でもいま作りたいものや好きなものと細かいポイントはあんまり変わらなかったり。興味あることなんかはそのときどきで変わるんですけど。今回振り返って、逆に連続性を感じましたね。半分ぐらいミックスも直したりしたんですよ。古い曲に手を入れたりしてたら、そんなに断絶したものと感じなかったというか。

統一感があるよね。

やけ:さっきの話とも繋がるんですけど、そのときに流行ってる音のモード/ジャンル/スタイルをちょっと取り入れてても、そのときそのときで飛び石的に変えていくってことをやってないですからね。自分なりのやり方でいつもやってるし、そういう面では時間軸はあんまり関係なかったりする。良くも悪くも。この時代は流行ってたからエレクトロやってたけど、いまではEDMですねとか、そういう直接的な進み方ではないっていうか。

たとえば、アイドルには興味なくても、アイドルのやけのはらリミックスには興味がある人もいるはずだし。

やけ:僕も、自分と関わりのないひとのリミックスもしてみたいですけどね。

それもやっぱ、それはやけのはら的なものに落とし込まれるんだろうね。メローで、アンビエントなフィーリングなものに。

やけ:わからないけど、自分の好きテイストには持って行こうと努力しますね。

やけちゃんって不思議なポジションだよね。ヒップホップでもないし、ロックでもないし、ハウスやテクノのクラブDJでもない。なんか、カテゴライズできないよね。

やけ:そこは僕も悩みどころなんですよ。

なんで(笑)? 良いことじゃない、カテゴライズされたくないって言いながらカテゴライズされた音楽をやるより。

やけ:いや、それは自然にやっててそういう状況になってるんですけど。どれもやりたくてやってるからいまから変わりようもないんですけど、普通の感じの売り方──っていう言い方が合ってるかもわからないですけど──でいったら、こういうのじゃダメなんだろうなーとか思ったりするんですけど。どれも楽しく、思い入れあってやってるんで難しいんですけど。

2007年って言うとDJばかりをやってた頃?

やけ:そうですね。その頃やってたことを今回まとめられたりしたんで。そのときにアルバムって形で直接出せなくても、やってたことがいままとめられたし良かったかなとは思います。今後に関しては、自分のアルバムを5年に一度、10年に一度ではなく、もっと早いペースで出したいなっていうのは思っていますね。

もうちょっと制作に力を入れたいんだ。

やけ:なんていうか、作るのが遅いんですよね。

ファースト・アルバムもリリースが遅かったもんね。

やけ:そうですね。たぶん遅いんです。27歳とかでアルバム出せても良かったのかもしれないし。20代のときはいっぱいDJをやってそれが楽しくて良かったっていうのもあったんですけど、形に残ることでいろいろしたいなっていうのは思いますけど。

最近はクラブとライヴハウスだったらどっちからのオファーが多い?

やけ:けっこう同じぐらいになってるかもしれないですね。ちょっと前までは基本DJやクラブをバーッといっぱいやって、ライヴのほうがちょこちょこって感じだったのが。

ライヴのオファーがけっこう増えてるんだ?

やけ:それと、DJが減ってる。で、ラップのアルバムを出すとライヴに誘ってくれるひとが増えて、クラブ系のひとは「あれ、この頃あんまりDJやってないのかな」みたいな感じで両方のバランスが動くというか。自分としてもそれをどっちかだけに振り切りたいわけでもないし。DJのオファーが減ると寂しいんですけど。

ははは。

やけ:だけどDJばっかり年100本とかできないな、とかもあるし。そのペースでやってるとアルバムが作れないんですよ、結局。

そうだよね。ファースト・アルバム出る前は、DJとして評判だった男だもんね。

やけ:まあラッパーであることを知らなかったひとも多かったと思いますしね。ひとの曲にたまに参加しても、そういうことを知らないひとはいっぱいいたんじゃないですか。このひとはラップをしてる、みたいなことは。ちなみにその話で言うと、自分でラップをしてるひとが、ひとの曲をリミックスしてアルバム出すっていうのも前代未聞な気がするんですけどね。普通あんまりないっていう。それだったらどっちかって言うと、自分のラップをいろんなひとにリミックスしてもらったアルバムは出すでしょうけど。

たしかにそれは言えてる。だからそういう意味でヘンなポジションだと思うんだよ。

やけ:そうですね。そういう認識は自分でもあります。

良くも悪くもオリジナルなポジションだよね(笑)。

やけ:もっとわかりやすいほうが良かったのかなと思ったりもするんですけど、でも変えようがないんでね。

でも、やりたいことは、はっきりあるでしょう?

やけ:それはつねにありますね。いつでもいっぱいある。10個ぐらい先までありますね(笑)。そういう意味で言うと。アンビエントのアルバム出してみたいとか、ブレイクビーツのアルバム出してみたいとか。ラップのアルバムはラップのアルバムで、僕のなかにいろいろあるんですよ。たとえば全部バンドでやってみたいとかもあるし、全部ひとにプロデュースしてもらってやってみたいとか。そういうやりたいことはいっぱいあって。「でも次はこれをやろうかな」とか、いまのことより次のことを日々考えてるって感じですね。

じゃ、次はアンビエントだ。

やけ:アンビエントは僕のなかで取っといてるんですけどね。20年後ぐらい後にやろうかなと。

はははは、20年後生きてるかどうかわからないよ(笑)。

やけ:ま、そうですけど、いまはまだ、先に、もっとフィジカルなものをやりたい気分ですね。


※初回盤特典のダウンロードEP(5曲入り)は思い切りダンス仕様でした。


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やけのはら
SELF-PORTRAIT

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 やけらしい……というか、総じて、のんびりしている。カリブ海の影響を受けたリズムも、控え目に鳴っている。ジャケはかわいいイラスト。
 『SELF-PORTRAIT』はやけのはらのリミックス集で、2007年から2013年までのあいだに彼が手がけた楽曲が12曲入っている。
 このリミックス盤は……、彼のファースト・アルバム『ディス・ナイト・イズ・スティル・ヤング』が2010年のリリースなので、2007〜8年という、より初期のやけのはらが聴ける作品だと言える。リミックスを依頼しているのは──中村一義 、奇妙礼太郎、idea of a joke、ランタンパレード、アナログフィッシュ、Spangle call Lilli lineなどなど──名前を並べるとあまり統一感のないように思えるのだが、彼らの曲をやけのはらが再構築すると1枚のアルバムの1曲に収まる。
 個々のアイデアについては、彼自身が書いたライナーに詳細が記されている。ライナーをいつか自分で書きたかったということだが、たしかに力が入った言葉をみっちり書いている。

 ボヘミアン気質の初期の作風、オプティミスティックな感覚はいまでもやけのはらのトレードマークなのだろうが、やはりある時期までの初々しさは、その時期──彼がまだ真冬でもサンダル履きで街をうろついていた頃──だからこそ出せたものだと言えるだろう……ふと、いまこれを書きながら思ったのだが、サンダル履きのやけのはらは、日本でチャヴ・ファッションを先んじて実践していた男なのかもしれない。

 彼は、2000年代なかばの時点では、ラッパーというよりも、若手のDJのひとりとして評判だった。いろんなところから声をかけられ、よくDJをしていたと思う。ファースト・アルバムを出すのが遅すぎただけで、早い時期から彼のもとにリミックスのオファーがあっても不自然ではない……

ずっとリミックス盤を出したかったんですけど、タイトルが決まらなかった。エイフェックス・ツインのタイトル、『26ミクシーズ・フォー・キャッシュ』がずーっと頭にあって、ほんと最高のタイトルだなと思ってたんで(笑)。あの秀逸なタイトルが、ハードルとして高くありすぎましたね。

率直な感想を言うと、けっこうリミックスをやってたんだなっていう。

やけのはら(以下、やけ):あ、そうですか。まずそこから(笑)。

(笑)すごくやってたんだね! 奇妙礼太郎のリミックスは知ってるけど、他のはほとんど聴いてなかったなあ。知らないものばかりだったよ。

やけ:野田さんの聴きそうなところとはちょっと違うかもしれないですね、もしかすると。

日本では、リミックス作品のリリースが90年代ほど盛んじゃないし、あとポップスとDJカルチャーとの溝、いま日本では開いちゃってるからね。

やけ:その頃だったらリミックス盤ってけっこうありましたもんね。1枚丸々リミックスとか。

だから、いまエレキングでもリミックス盤って作ってるんだよ。12インチのアナログ盤で。

やけ:知ってますよ。踊ってばかりの国。

そうそう、それが1枚目で、次はオウガ・ユー・アスホールの新曲をアルツくんにリミックス頼んでいて……いま気がついたんだけど、やけちゃんってアルツくんに似てるよね?

やけ:それ見た目でしょ(笑)? たしかによく言われます。

へへへへ、それにしても、やけちゃん、こんなにリミックスをやってるんだなあ。売れっ子じゃない。

やけ:けっこう、長いタイムスパンのなかから選んだんで。でも、もっといっぱいあるから。まあ、あんまクラブ仕様って感じでもないですけどね。

そうかなー。やっぱ、どちらかと言うとクラブ寄りの感性だなと思ったんだけど……と言っても、オリジナルを知らない曲が多いから、オリジナルがクラブ寄りだったりするのかもね。でも、やけらしさは感じるよ。ちょっと清々しい感じとか、タイトルを『SELF-PORTRAIT』ってつけたくなる気持ちもわかる。良いタイトルだね。

やけ:はい。ありがとうございます。

やっぱ、フェリシティから出してから、リミキサーとしての仕事は多いの?

やけ:いや、わかんないです(笑)。ひとと比べて多いのか少ないのかわかんないですけど、まあたまに誘ってもらったり。さっきの、ポップスとクラブとの溝の話で言えば、僕がロックとかポップスが好きだったり理解があった上でクラブっぽいものができると思われてるのかもしれないですね。頼んでくれるひとからしたら。

ああー。(DJ)ヨーグルトとちょっと近いよね、その見られ方は。

やけ:あくまで想像なんで、実際はわからないですけどね。頼む側からすると、自分たちの音楽はあんまりわかんない人間がただクラブ仕様にするっていうのは、ちょっとなって思うのかもしれないです。

なるほど。頼まれると絶対断らないタイプでしょ?

やけ:基本は。ただ自分のそのときのスケジュールとかもあるんで。

よほどのことがない限りね。

やけ:まあそうですね。

相手は選ばない?

やけ:選ばないって言うとヘンですけど、なんというか、挑戦というか。例えばこれには入ってないですけど、てんぱ組.ってアイドルみたいなひとなんかもやらせてもらったりしたんですけど。そういう普段聴かなかったり自分の作っているものと距離があっても、リミックスだと、チャレンジでやってみようかな、っていうのはありますけど。

なんで入れなかったの。

やけ:リミックスは、今回選んだ曲の倍ぐらいあって、そのなかからこれにしたんで。なんとなく、評判が良かった風のやつから逆算して入れていったというか。あと、ぼんやりなんですけど「あのとき友だちがいいって言ってくれたな」とか。3票ぐらい。ゼロか3かくらいの小さい差なんですけど(笑)。あとは自分がいままで関わったやつの、一番端と端まで入れちゃうとぐちゃぐちゃになりすぎるんで。いちおう1枚の整合性とバランスを考えつつ。

なるほど。でも、昔から議論されることだけどさ、リミックスを楽しむ文化が、いまだに日本では定着してないんじゃない?

やけ:どういうことですか?

いまだにビョークの曲をハーバートがリミックスするとビョークのファンが怒っちゃうみたいな。

やけ:はい、はい。ミュージシャンのクレジットのほうが大きいのは仕方がないけど。

だから、アイドルだろうが何だろうがさ、リミックスする側からすれば関係ないじゃない。

やけ::そうなんですけど、でも僕の場合は、たとえば歌のひとの曲だったら歌は全部残すとか、素材にはしないって自分内での決めごとにしてるんで。元のひとの中心軸は、まあ歌なら歌で、全部残すんで。あとなんだろう、そのサジ加減を楽しんでるんですけど、思いっきり全部素材にはしないで、いちおう元のリアレンジって風にやってるんで。だから自分ヴァージョンにはなってるけど、元のひとの核は全部尊重してるっていうか残してるっていうか。

なるほどね。たしかにリミックスっていうのは原曲に対するリスペクトがあるかどうかっていうのは、ひとつあるかもね。

やけ:リスペクトって言葉かはわからないですけど、素材にしちゃうんだったら何でもいっしょになっちゃうんで、やっててもつまらないっていう。

まあね。エイフェックス・ツインがそれこそ「カネのためにやったリミックス」って言ったりね(笑)。

やけ:あれが頭にあったんですよね、あのタイトル。

『26ミクシーズ・フォー・キャッシュ』(2003年)だっけ。あれは、リミックス文化に対するシニカルな批評だもんね。

やけ:そうなんですよ。ずっと(リミックス盤を)出したかったんですけど、タイトルが決まらなかったんですよね。で、エイフェックス・ツインのあのタイトルがずーっと頭にあって、ほんと最高のタイトルだなと思ってたんで(笑)。『26ミクシーズ・フォー・キャッシュ』みたいなのがいいなーって。あの秀逸なタイトルが、ハードルとして高くありすぎましたね。それで、なかなか出せなかった。

ああー。それでなんで『SELF-PORTRAIT』にしたの?

やけ:これはね、もう……まあボブ・ディランなんですけど。

うわ、大きいこと言うねー(笑)!

やけ:いや、ディランのアルバムであるじゃないですか。カヴァーが多く入ってる『セルフ ポートレイト』。あの感じでいいかなっていう。いま言った話の流れに通じるかもしれないですね。一見ひとの曲だけど、意外と俺のエッセンスがあるぞ、と。