Home > Regulars > NaBaBaの洋ゲー・レヴュー超教条主義 > vol.4 『Fez』- ――錯視の世界はインディーズ・ゲームの黄金比を描く
■多くのインディーズゲームにとっての理想の体現者
以上駆け足で『Fez』の周辺事情について解説してみましたが、既存のゲーム業界に対するカウンターとしての存在感の強さを感じていただけたかと思います。そしてそれは肝心のゲーム内容においても同様だと言えます。
『Fez』はパッと見は昔懐かしい8bitスタイルの2Dプラットフォーマーです。しかしそれは半分は当たっていますが、もう半分は間違っている。本作の画面は、じつは奥行きのある空間が平面に錯視して見えているのです。ゲーム中は基本的にいつでも画面を90度ずつ回転させることができ、そうすることで平面に見えていたマップも、遠近感がないだけでしっかり奥行きがあることがわかります。
ちょうど45度の角度から見るとこんな感じ。
本作がユニークなのはここからで、画面を回転させると当然奥行きに応じて物の角度や位置関係は変わるわけですが、プレイヤーは画面に映っているものは手前奥の関係を無視して、地続きの同一平面として歩き回れるのです。
これは例えればエッシャーの騙し絵のなかを歩き回っている感覚とでも言いましょうか。しかしこう説明してもたぶんサッパリわからないでしょうし、僕もこれ以上うまく説明できる自信がありません。なので論より証拠ということで、実際のゲーム中の映像を見ていただきましょう。どういうことか一発で理解できるはずです。
まさにヴァーチャルでしか表現できない空間である。
本作はまさに「発想の勝利」のゲームであり、3Dの概念を一風変わった方法で2Dプラットフォーマーに落とし込んだそのスタイルは、いままでにない新鮮な魅力があります。
またその発想をプレゼンテーションする術に長けているのも評価できるポイントです。本作は全編を通じてこの錯視を利用したパズルで構成されていますが、この錯視効果はともすればかなり複雑で難解になってしまうおそれもあります。しかしそれを回避し直感で遊べるとっつき易さと錯視の不思議さをうまく両立できているのはみごとと言うしかありません。
少し話が逸れますが、インディーズ・ゲームでは『Fez』のような8bitスタイルの2Dプラットフォーマーは非常によく見るジャンルのひとつです。それはメジャー・ゲームへのアンチテーゼ=過去の2D時代のゲームの復権という意識がインディーズ業界全体にあるからでしょうし、また限られた開発環境でも作りやすいスタイルであるという現場の事情もあるでしょう。
ただ多くの作品はそこからもうひとつアイディアが足りず、流行の後追いどまりだったり、単なる懐古趣味に落ちついてしまったりすることがほとんどです。『Fez』もまたその王道路線の上に立っている作品であるのは間違いありませんが、しかしひたすらに典型的な立ち位置でありながら、錯視というアイディアによって並みの作品とは一線を画す存在になっています。
おそらくはそれが本作がインディーズ・ゲーム業界内で多くの支持を集める理由でもあるのでしょう。ビジュアルからゲーム・システム、はたまた作中に散りばめられたオマージュの数々に至るまで、本作はかつての2Dゲーム時代の郷愁に満ちています。あるいはそれは現在のメジャー・ゲームへの痛烈な批判にも映るでしょう。その上で他にはない最高のアイディアを持っている。
これはまさに多くのインディーズ・ゲームが望み、求め、しかし得られない条件をすべてクリアしているのです。言うなればインディーズ・ゲームの黄金比。このへんの事情は業界を普段から眺めていないと見えてこないかもしれませんが、確かなおもしろさや新しさとしては誰しも等しく感じとることができるはずです。