Home > Interviews > interview with おとぎ話 - 何故ロックンロール?
![]() おとぎ話 CULTURE CLUB felicity |
おとぎ話はロック・バンド。大人が子供に聞かせる物語でも、貴公子たちのプログレ・バンドでもない。結成から屈折14年、男性4人組のご機嫌なロック・バンドだ。つーか、インディ・シーンで、14年もロック・バンドを続けているというのは、なかなかタフである。
インディ・バンドとはいえ、おとぎ話は、お茶の間で鳴ったとしても違和感のない、レトロスタイルの、ドライヴの効いたギター・ロックを演奏する。曲もキャッチーだし、気のよさそうな感じの連中だ。場慣れしたステージングにはライヴハウスでのキャリアの長さを感じさせる。楽しいし、誰もクレームを入れることはないだろう。なにしろこれは、そう、「おとぎ話」なのだ。
おとぎ話は先日、7枚目のアルバム『CULTURE CLUB』を〈フェリシティ〉から出したばかり。いったい何故ロックンロール? いったい何故バンド? いったい何故「おとぎ話」? 知りたいことばかりである。ヴォーカリストの有馬和樹と1時間あまり、お喋りをしてきた。
そのへんで育つと自分の父親が音楽的にいちばん長けている存在で、自分の父ちゃんから、キング・クリムゾンとか、レッド・ツェッペリンとか、そういうレコードを聴かせてもらって育っているんで。
■僕は、踊ってばかりの国と対バンしているときに初めて見たぐらいの……。
有馬:シェルターかな?
■そう、シェルター。2年前ですよね。そんなだから、おとぎ話をインタヴューをする資格がない人間なんですけど。
有馬:ハハハハ、そんなことないじゃないですか(笑)。
■だいたい今回のアルバムが7枚目っていうのがびっくりして。
有馬:お、ホントですか。
■だって、そんなに長くやっていたんですね。
有馬:実は長い……(笑)。
■しかも結成が2000年。
有馬:そうなんですよ、むちゃ長いんですよ(笑)。
■しかも結成から7年後の2007年にファースト・アルバム。
有馬:あっははは。稀に見るバンドですよ。
■たしかに稀に見るバンドかもね。
有馬:地下に潜り続けているバンドです(笑)。
■なんでそんなに長く続けられるんですか?
有馬:仲良いからじゃないですかね、メンバーが。
■ああ。
有馬:大学のときに結成して、ずっとやってるんで。ま、ずーっと喧嘩してきたんですけど、最近仲良くなったんで。仲良くなるためにやってきたんじゃないですかね。
■ああ。
有馬:バンドが続いているのは、それしかない。
■いや、その仲の良い感じは、ステージを見ていてもすごく伝わってくるんですよ。
有馬:はははは、すいません(笑)。
■「ロックンロール」という言葉が、“少年”という曲でたびたび出てきますが、いまの音楽シーンにおいては古典的な意味でのロックンロール神話というものは、本当にないと思うんですよ。
有馬:まったくないですね。
■僕はロックンロール黄金時代のお尻の世代なんですね。パンクの世代だから。でも、僕自身は、ロックンロールを追うのは昔にやめていて、もう長いあいだロック以外の音楽ばかり聴いてきているんです。
有馬:そうなんですか。
■でも、セックス・ピストルズとクラッシュとRCサクセションに対する愛情だけは変わらずにあるし(笑)。
有馬:ハハハハ。
■ロックというジャンルに対する思いよりも、特定のバンドに対する思いになってしまうんです。でもおとぎ話はガチにロックンロール・バンドなわけですよ! 有馬くんの世代にとって、ロックンロールというものはどこから来ているんですか?
有馬:どうなんですかね。
■何があったんですか? 何がよくてロックなんですか?
有馬:僕は……いま33歳なんですけど、小学校のときは小室とかの世代で、小6ぐらいになると二分化されるんですよね。とんねるずとかタモリとかで深夜番組を小学校6年生とかで見はじめちゃうのと、普段流れているオリコン系のわかりやすいものと選ぶタイプに二分化されていたんですよ。けっこうヤンキー文化だったんで。
■横浜のどのあたりですか?
有馬:戸塚っていって。
■なんかガラが悪そうですね。
有馬:サイプレス上野先輩とかサケロックのハマケンとかがいる学校のとなりの中学校とか小学校に通っていたのですが、カルチャー的には本当に過疎地でした。
■それは過疎地じゃないでしょ。
有馬:ハハハハ。
■それだけで言ったら、過疎地じゃないでしょ。
有馬:それだけで言ったらそうなんですけど(笑)。
■むしろカルチャー的じゃないですか。
有馬:ただ、ちょっと離れるとヤンキーが強くて。そいつらの下でびくびくしながら生きているようなところもあってね。
■へー。
有馬:そこだったんで、自分の意志で選択することができないような。
■駅で言うとどこ?
有馬:泉区っていうのがあって、戸塚駅からちょっと離れるんですけど。
■大船のほう?
有馬:いや、あっちまで行かないです。湘南台とかわかります?
■あ、わかる。小田急線の。
有馬:その、真ん中あたりなんすよね。
■あー、あのへんとか、僕からしたら未知のゾーンですね。
有馬:完全に未知だと思いますよ。相鉄線の最後のいずみ中央っていう駅とか。
■はー。
有馬:そのへんで育つと自分の父親が音楽的にいちばん長けている存在で、自分の父ちゃんから、キング・クリムゾンとか、レッド・ツェッペリンとか、そういうレコードを聴かせてもらって育っているんで。
■団塊の世代?
有馬:そうです、団塊パンチですね。
■ロックのゴールデン・エイジの。
有馬:そのオヤジの影響があるから、先輩が聴いているようなボン・ジョヴィとか聴いたとき、すげーダセーなと思って。もうそれだったら、とんねるずのほうにロックを感じていたんで。だから、ロックンロールなんか最初からないんですよね(笑)。
■えー、でもおとぎ話はスタイルとしては完全にロック・バンドじゃないですか。
有馬:そうなんですよ。超ロックですよね。でも、そこにこだわっている感じはないですね。
■またー。
有馬:自分自身がそんなにロックンロール・スターに憧れているわけじゃないし、ロックは死んだって言われているなかで聴いていたから、ニルヴァーナとか。あー、ニルヴァーナとか聴いたな。
■でも、お父さんからの影響のほうが大きかった?
有馬:レディオヘッドを最初に聴いたとき、「プログレだ」って思って。めちゃくちゃ嬉しくて。
■有馬君は、レディオヘッドがドンぴしゃな世代だよね。
有馬:だから、オヤジに聴かせたくてレディオヘッドを買うんですよ。で、オヤジに聴かせたら、「何コレ!?」って(笑)。
■ハハハハ。
有馬:「むっちゃプログレだよ、おまえ!」って。
■なるほどね。お父さんからの影響っていうのは、ポイントだよね。
有馬:だいぶポイントだと思いますよ。下津とかと話したときも、下津って、オヤジの影響が超濃いじゃないですか。
■そうなんだ?
有馬:「そこをおとぎ話が体現してくれているから、俺、東京出てくる決心ができたんや」って。「おれ背負ってる。重てー」って思いましたけどね(笑)。でも、最初の段階がそこなんで。
■おとぎ話は、お揃いのステージ衣装とか、60年代っぽいバンド・サウンドとか、レトロなテイストが入っているじゃない?
有馬:ありますね。
■あれが何だったのか、いままでの話を聞いてわかりましたね。
有馬:わかりました(笑)!?
■お父さんからの影響なわけでしょう!?
有馬:たしかにそうなんですけど、オヤジがすげー偏っているんですよね。めちゃブルース好きだったりとか。でも、オヤジが超好きで、ずっと聴いていたのは、ツェッペリンとクリムゾンとピンク・フロイドでしたね。でも、自分たちで演るときは、僕フーとか大嫌いなんですけど、勉強のために聴いてみたりもしたりしました。
■フーは違った?
有馬:うちのオヤジはフーとかは全然好きじゃないし……。オヤジが好きなのをばっかり聴いていたので、俺も偏っているでしょうね。人からは、グラムロックっぽいって言われたりとかするんですけど、実はそんなに通ってなかったり。
■髪型がそうやって見えるだけじゃないの(笑)? その髪は天然パーマなの?
有馬:天然パーマです。最初はストレートだったんですけど、マンガとかアニメが見たくてお風呂の時間を削っていたらシラミがわいちゃって(笑)。そこでボーズになって、髪が生えたときに天然パーマになっちゃったんですよね。
■そんなことってあるの?
有馬:戦後みたいなんですけど(笑)。
■お父さんの影響で音楽をはじめたひとたちが最近はわりと多いね。僕らが若かった時代では絶対にありえなかった話だな。当たり前だけど。
有馬:そうですよね。
■おとぎ話って名乗るくらいだから、いまやロックこそファンタジーだという?
有馬:むしろ変なことをしたかったんですよね。そうするんだったら、サウンドとか立ち振る舞いとかが変なんだけど、「ガンバの冒険」や「銀河鉄道999」のエンディングに使われているような曲をやることが最初のコンセプトだったので。
■なるほどね。シニカルな言い方で申し訳ないけれど、ロック・バンドと呼ぶにはあまりにも「いいひとビーム」がすごいというか。
有馬:うんうん、わかります。
■だいたいロック・バンドっていうのは、性格が悪いヤツがヴォーカルじゃなきゃいけないし。見るからにバンドのメンバーも悪そうで、それで初めてロック・バンドと言えるでしょう(笑)?
有馬:自分が最初に「うわ! ロックだな」って憧れたバンドは、高校生のときに聴いたペイヴメントなんです。普通の人がステージに立っちゃっている感じに憧れていましたね。それが超ロックだと思ったな。
■僕でも有馬くんの時代では、すでにグランジも過去のものだったし、普段着でステージに上がることが一般的になっていたでしょう?
有馬:そうなんですけど、なんなんですかね。あのペイヴメントに対する感覚って。これはいままでとは違うなって思うようになって。
取材:野田努(2015年1月29日)