Home > News > Playing Changes - ——『変わりゆくものを奏でる──21世紀のジャズ』刊行のお知らせ
ネイト・チネンによる『変わりゆくものを奏でる(Playing Changes)』のことを知ったのは、2018年にピッチフォークに掲載されたインタヴュー記事においてだった。「ジャズはかつてのような商業的魅力はないが、新世紀のジャズは創造性の爆発的な高まりを特徴としている」——つまり、1950年代のジャズのように音楽的娯楽の主流の座にはいないし、60年代のようにモードやフリーのような革命が起きているわけではない。しかし、こんにちのジャズは、かつてないほどあらゆる影響が注がれて、その創造性の高まりにおいて特徴を持っているとチネンは主張している。ジャズが文化エリートからの承認を得て久しいが、いまのジャズは、むしろジャズの正統的な歴史と格闘しているかのような、雑食性をいとわないジャズのなかにこそ面白さがあるという意見には共感する(スティル・ハウス・プランツにはジャズの影響があるし、注目の若きサックス奏者、ゾウ・アンバ擁するBeingsを聴いてもそれは感じる)。そして、それは本書が、カマシ・ワシトンにはじまり、ディアンジェロやフライローをジャズの側面から評価し、メアリー・ハルヴォーソンで終わっていることが象徴的に思える。
長年、ニューヨーク・タイムズ紙でジャズを担当してきたチネンにとって、ジャズについて書くこととは、たんに読者にすすめる必聴盤を何百枚も選んで紹介することではなく、その背景と議論の道筋を見せながら紹介することだった。だからこの本は、「21世紀のジャズ」についての本であり、その主要アーティスト/主要作品を紹介する本ではあるが、話は1960年代にも飛ぶし、文脈を辿っている。わかりやすく言えば、カマシ・ワシトンについて語ることはアリス・コルトレーンについて触れなければならない。しかし同時に彼にはアリスにない現代的な雑食性がある。
前世紀のジャズの言語でいまは語れないし、いま起きていることにまだ批評言語が追いついていないという思いがチネンの本の背景にはあるようだが、ぜひ本書を読みながら、現代のジャズを楽しんでもらいたい。巻末には、2000年から2024年までの必聴盤のリストもあります(日本版のために最新のものまで追記してくれた)。
情報量がすごいので、読むのは時間がかかります。でも、その分、長時間楽しめるでしょう。ネイト・チネン著『変わりゆくものを奏でる──21世紀のジャズ』(坂本麻里子訳)は11月27日発売。
カマシ・ワシントンからウィントン・マルサリス、
ロバート・グラスパーにエスペランサ・スポルディング、
そしてブラッド・メルドーにメアリー・ハルヴォーソン……
アメリカにおいてジャズは21世紀になってどのように変わり、
そしてどのように変わらないのか……
刊行と同時にすべての米国主要メディアから絶賛された名著がいよいよ上陸!
元ニューヨーク・タイムズ紙のジャズ批評家
ジャズ・ジャーナリスト協会選定の優秀執筆賞の13回受賞、
アメリカ屈指のジャズ批評家である著者が、
その博識と気品ある文体をもって21世紀ジャズの魅力を解説する
※21世紀の(2024年の現時点までの)必聴アルバム選:154作のリスト付き
(本書より)
ジャズは常に最先端を探究してきたし、複数の領域にわたり実験をおこなってきた。その点は、過去はもちろん現在も同様だ。しかし前衛の修錬と形式上の発明は今や著しい度合いで主流にまで巧みに浸透し、ジャズの美学的な中心をずらしてしまった。骨董品収集めいたホット・ジャズ熱──懐古趣味を堂々と認め、誇りとする者たちの領域──の復興ですら、多言語的なハイパーモダニズムを志向する現潮流、予想外の混合物と集合体を目指すトレンドをせき止めることはできない。
(登場するアーティスト)
カマシ・ワシントン、ウィントン・マルサリス、セシル・マクロリン・サルヴァント、ブラッド・メルドー、エスペランサ・スポルディング、ジョシュア・レッドマン、ジョン・ゾーン、ティム・バーン、ジャック・ディジョネット、ポール・モチアン、ウェイン・ショーター・クァルテット、ジェイソン・モラン、マーク・ターナー、オーネット・コールマン、ヴィジェイ・アイヤー、ロバート・グラスパー・エクスペリメント、フライング・ロータス、ジェフ・パーカー、エスペランサ・スポルディング、シャバカ・ハッチングス、モーゼス・ボイド、リオーネル・ルエケ…………そしてメアリー・ハルヴォーソン…………(ほか多数)
四六判/440頁
■目次
序文
1 政権交代
2 フロム・ディス・モーメント・オン
3 アップタウン、ダウンタウン
4 山を演奏する
5 新たな年長者たち
6 ループされるギャングスタリズム
7 ジャズを学ぶ
8 侵入し急襲せよ
9 変わってゆく同じもの
10 露出
11 十字路
12 スタイルの対決
後書き
※21世紀の(2024年の現時点までの)必聴アルバム選:154作
[著者プロフィール]
ネイト・チネン(NATE CHINEN)
ネイト・チネンはジャズに関して20年以上執筆してきた。ジャズ・ジャーナリスト協会の選ぶ「Helen Dance–Robert Palmer Award for Excellence in Writing」賞を13回受賞した彼は、『ニューヨーク・タイムズ』で12年にわたり音楽に関する報道をおこない、『ジャズタイムズ』でも長期連載コラムを執筆した。2017年にWBGO〔※ニュージャージー州のジャズ専門公共ラジオ局〕の記事製作責任者となり、オンライン報道を指揮する一方で、NPRミュージック向けに幅広いジャズ番組の企画に貢献している。著名なジャズ興行主である、ジョージ・ウィーンの自伝『Myself Among Others: A Life in Music』(2003)を共著し、また音楽評論家アレックス・ロスの編集した「Best Music Writing 2011」にも文章が収録されている。妻とふたりの娘と共に、ニューヨーク州ビーコン在住。
[訳者プロフィール]
坂本麻里子
1970年東京生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業。ライター/通訳/翻訳者として活動。ロンドン在住。訳書にコージー・ファニ・トゥッティ『アート セックス ミュージック──コージー・ファニ・トゥッティ自伝』、ジョン・サヴェージ『この灼けるほどの光、この太陽、そしてそれ以外の何もかも──ジョイ・ディヴィジョン ジ・オーラル・ヒストリー』、マシュー・コリン『レイヴ・カルチャー──エクスタシー文化とアシッド・ハウスの物語』、ジェン・ペリー『ザ・レインコーツ──普通の女たちの静かなポスト・パンク革命』、ハンナ・ロス『自転車と女たちの世紀』、マーク・フィッシャー『K-PUNK 夢想のメソッド──本・映画・ドラマ』『K-PUNK 自分の武器を選べ──音楽・政治』、ほか多数。