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昨年のリリースだが、興味深いコンピレーションなので挙げておく。ロサンジェルスのレーベル〈ノット・ノット・ファン〉からリリースされた最新の女性バンドだけ11組をコンパイルしたアルバムで(ヴァイナルのみの発売)、タイトルを意訳すれば"私の女性ホルモン世代"。たぶんライオット・ガールズ以降なのだろう、USインディにおける女性バンドの数は急速に増え続け、ゼロ年代はそれがフリー・フォークのシーンにまでおよび、前にも書いたことだけれど、渋谷のワルシャワの新譜コーナーを眺めていると21世紀のインディ・ロックは女性のものになるんじゃないなかといった勢いを感じる。
もっとも〈ノット・ノット・ファン〉が紹介する"女性ホルモン世代"は、ライオット・ガールズ時代の男女同権を主張するものではなく、ヒップホップ以降の(エイミー・ワインハウスやリリー・アレンなどに顕著な)ポスト・フェミニズム的なニュアンスとも違う。スリーター・キニーやミカ・ミコのようなガレージ・バンドの流れとも少し違う。ジョアンナ・ニューサムのようなポスト・ビョークでもない。誤解を恐れずに言えば、おおよそOOIOOフォロワーなのだ......とは、もちろん言い過ぎなのだけれど、しかしこのアルバムから聴こえるのは、少なくともロックのクリシェには一瞥もくれてやらないような、ローファイ、エレクトロニクス、アブストラクト、エクスペリメンタル、トライバル、アンビエント、ドローン、ダブ、さもなければノイズ......そういったものである。
A面の1曲目を飾るゾーラ・ジーザスが呪術的なトライバルを披露すると、2曲目のティックリー・フィーザーがメランコリックなノイズ・インダストリアルを演奏する。3曲目では、〈ノット・ノット・ファン〉レーベルの看板バンドであるポカハウンテッドが登場してフリークアウトしたコズミック・サウンドを展開すれば、4曲目のインカ・オレはドローンを響かせ、そして5曲目のトパズ・レグス(〈ノット・ノット・ファン〉所属)によるメランコリックなクラウトロックから6曲目のHNYによるジリー・アレン(ゴング)を彷彿させるサイケデリックなフリー・フォークへと続く。
トーク・ノーマルの挑発的なノイズ・ミニマルな曲で幕を開けるB面は、A面を大雑把に"静"と形容できるなら"動"だ。2曲目のアイレイジャがノーマルを彷彿させるインダストリアルなエレクトロニクスを展開すると、3曲目のL.A.ヴァンパイアはザ・スリッツの精神を引き継ぎ、4曲目のU.S.ガールズ(もっとも政治的なバンドのひとつ)はクラウトロックの電子宇宙を泳ぎ、アルバムの最後に収録されたヴェレット(〈クランキー〉からアルバムを出している)もまたクラウトロック~スーサイド~スペクトラムの後を追うかのように電子ノイズの海の果てに消えていく。
40を超えた人間の言葉で言えば、ポスト・パンクにおける頂点の年、"1979"の再来とも言えるような創造性への関心の高まりを強く印象づける内容。あるいは。エレクトロ・ガール・ポップ・リヴォリューションに対する反旗とも受け止められる。いずれにしても興味深い。USインディにおける女性バンドが、エルヴィス・プレスリーではなくホルガー・シューカイを選んだのだから!
野田 努