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気が抜けているわけでもなく、何かがみなぎっているわけでもない。緊張感はあるけれど、極限まで張り詰めてはいない。いい意味で隙があり、LA風のラフさに溢れている。いまにも倒れそうなのに、パンチだけはスルドいボクサーという感じだろうか。
キャンプテン・エイハブとしてスラッシュ・ディスコ(?)のようなアルバムを4枚残し、スキリレックスにもヴォーカルで参加していたジョナサン・スナイプスは、マシュー・サリヴァン(『アンビエント・ディフィニティヴ』P246)とネックレイシングというノイズ・ユニットを組んでいたウイリアム・ハトスンと新たにヒップホップ・スタイルのクリッピングを09年に結成し、昨年、キューブリック・マニアを激怒させた『ルーム237』のサウンドトラックをケアテイカーらと共に手掛けた後、MCにデヴィード・ディッグスを得てデビュー・アルバム『ミッドシティ』を配信でリリース。これがハーシュ・ノイズとラップだけで構成されたような内容にもかかわらず、5ヵ月後には〈サブ・ポップ〉との契約が決まったという。
ハーシュ・ノイズだけというのは言い過ぎだけど、ノイズないしは接触音だけでヒップホップ・ビートを構成し切ってしまうセンスはかなり耳新しいものがあり、仮りにカニエ・ウエストを(テクノでいえば)エイフェックス世代の代表格だとすると、クリッピングはアルヴァ・ノト世代ともいうべき世代の台頭と見なすことができる。徹底的にミニマルで、過剰なほどコンセプチュアル、照り返しのようなものとしてフィジカルは捉えられ、叙情性もあらかたカットされている(『マッドシティ』の“アウトロ”は空耳アワーで「テーマ、何? テーマ、何?」というループに聴こえてしまう)。しかもアナログ盤はフラッシュ音(=クリッピン・ノイズ)を使ったジョン・ケージのカヴァー“ウイリアムズ・ミックス”(59)で終わるほど、アカデミックとの境界も侵食していく(国内盤のボーナス・トラックには意表をついたようなパンク・ナンバーなども)。
シャバズ・パレセズに続いて〈サブ・ポップ〉からは(『スター・ウォーズ』サーガを無視して)2番目のヒップホップ・アルバムとなる『 CLPPNG 』は……そう、気が抜けているわけでもなく、何かがみなぎっているわけでもない。文字通り、初期衝動は驚くほどの洗練へと向かい、ファンキーだとかグルーヴィーだと言い切れるような仕上がりでもないのに、ヒップホップの文脈には見事に落とし込まれた感がある(キング・Tやギャングスタ・ブーの客演もそれを物語っている)。ヒップホップとして変わったことをやったのではなく、変わったことをやっていたらヒップホップになったという感じに思えてしまうというか。そう、どう考えても『イーザス』よりもイーザンす。
ノイズの霧を取り払っても、そこには同じものが残っていた。『CLPPNG』の完成度をひと言で表すなら、そういうことになるだろう。ノイズどころか“ドミノーズ”には子どもたちの合唱までフィーチャーされ、トランスを批評的に扱っているような際どいチャレンジもある。シンプルな割りに録音には8ヶ月もかかっているので、おそらくは試行錯誤に明け暮れたアウトテイクスが山と存在しているのだろう。歌詞は主にLAのやさぐれた日常を扱っているようで、先行シングルはコック・ピストル・クリーをフィーチャーした「ワーク・ワーク」。
三田 格