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Album Reviews

Howler

Howler

America Give Up

Rough Trade/ホステス

野田 努      Mar 23,2012 UP

 ミネアポリス出身のバンド、ハウラーの『アメリカ・ギヴ・アップ』(アメリカは終わる/降参する)という実に興味深いタイトルのデビュー・アルバムは、とりあえずは、ロックンロールが年寄りの感傷ではないことを証明している。19歳の青年、ジョーダン・ゲイトスミスは、ラモーンズめいたメロディに載せて、言いたいこと言って、歌いたいことを歌っている。アルバムは最初から最後までほとんどダッシュ、ダッシュ。およそ40分弱、スピードを上げて走り抜ける。

 マルコム・マクラレンはセックス・ピストルズについて「音楽が面白いのではなく、姿勢が面白いのだ」と言ったものだが、ロックンロールという1950年代のスタイルはジョニー・ロットンがそれに"醒める"ことで蘇らせ、蘇生したそれはいまのところ情熱と信心深さによって生き延びている。ザ・クラッシュをはじめ、日本のブルー・ハーツ、ストーン・ローゼズからザ・ストロークスないしはアークティック・モンキーズまでみんながみんな情熱と信心深さを忘れない。「スタイル」もさることながら「姿勢」が面白いバンドもいくつもあった。ジーザス&メリー・チェイン、ザ・スミス、ザ・タイマーズ、それからまあストーン・ローゼズのデビュー・アルバムにも特筆すべき「姿勢」があった。「姿勢」とはセックス・ピストルズが言ったように「物事は見かけとは違う」ことを暴くこと、なかなか言えない少数派の意見をビビらないで言ってしまうこと。

もう試そうとも思わない
俺はビビッているし、俺はシャイ過ぎる "Beach Sluts"

 『アメリカ・ギヴ・アップ』のオープニング・トラックは、そうした「姿勢」の歴史、その重みに対するアイロニーのようだ。その慎重な入り方は、ロックンロールを取り戻すためのひとつのうまい手口かもしれない。またしても『NME』が過剰に持ち上げ、欧米では賛否両論を起こしているものの、他人の目を気にせずにやりたいことをやるのがロックンロールだ。いいんじゃないのか。僕は心情的には肯定できる。XTCを彷彿させる"Back To The Grave"やラモーンズ調の"This One's Different"や"Wailing"など、曲作りには巧さがあり、ジョーダン・ゲイトスミスの声はジョーイ・ラモーンとエルヴィス・プレスリー(たまにルー・リード)を彷彿させるような、いわば魅力的な低めの「ロックンロール声」を有している。
 「今夜俺を連れて行って......墓場に」と歌う"Back to the Grave"は、ロックのクリシェの冗談めいた書き換えだが、彼らの反抗心と楽しんでいる感覚が伝わる。「腐敗したカネと親父のかすかな不安/いますぐに逃げ出せ」――ロカビリー調の"アメリカ"も面白い。母国への失望を皮肉めいた言葉で、そしてプレスリーのような歌い方で歌っている。「まっとうなアメリカ人になりたい/だけどダーリン、もう終わっちゃったんだよ」――パロディじみた曲のなかには否定の意志が見え隠れする。

 否定における誠実さとは、いずれは政治的になることから逃れられない。セックス・ピストルズやザ・スミスは言うにおよばず、ザ・タイマーズ、ザ・ストロークスにも"ニューヨーク・シティ・コップ"がある。『アメリカ・ギヴ・アップ』は、そのタイトルに反して必ずしも政治的なアルバムとは言えない。社会よりも女の子への関心に占められている(当たり前の話、それは悪いことではない)。それでもこのやけっぱちな感じは、アメリカの凋落とは決して無縁ではないだろう。
 ラモーンズのようなポップ・センス(とくにコーラスは見事)、8ビートの疾走感と時折見せるロマンティックな高揚感。そして、最初から最後までダッシュの連続――そんなスピード狂のなかにあって"Too Much Blood"の気だるいメランコリーが耳に残る。
 「窓も床板もない部屋に暮らしている/いきなり真っ暗になるベッドで寝ている/外で風が空襲警報みたいに悲鳴をあげているあいだ/街で君に会うためにやって来た」――ジョーダンは、意味のない戦争で傷つき、不況を生きる思春期の代弁者のように見える。「誰を信じたらいいのかわかったらいいのにな/(略)俺は新しい街を見つける、新しい都市を見つける/それでも外で風が空襲警報みたいに悲鳴をあげている」

 そういえばブルース・スプリングスティーンの新作が話題になっているけれど、まあとにかくこれ以上世界中の人たちに迷惑をかけず、アメリカ(ないしはアメリカン・ドリーム)には終わって欲しい。〈ラフ・トレード〉のジェフ・トラヴィスほどの人物がこのバンドのどこに惚れたのか、本当のところを知りたい。

野田 努