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Live Reviews

きのこ帝国

きのこ帝国

@下北沢GARAGE

Mar 18, 2012

文:野田 努   写真:小原泰広      Mar 26,2012 UP

 女性ふたり、男性ふたりの4人組で、ステージ前方にはテレキャスターを持って歌っている女性(佐藤)、そしてカラフルな衣装に身を包んでギターを弾いている女性(あーちゃん)がいる。ナンバー・ガールを彷彿させる動きを見せるが、曲は内面の暗いドラマで張り裂けそうだ。痛ましい言葉が美しいメロディのなかでとめどなく流れてくる。「生ぬるい惰性で生活を綻ばす/ゴミ箱みたいな部屋のなかで、時が/過ぎるのをただただ待っている それだけ/眠れない夜更けに呼吸の音を聞く」"退屈しのぎ"

 きのこ帝国というくらいだからゆらゆら帝国とどこか繋がっているのか思いきや、あんなふうな笑いは......まったくない。果てしない夜のなかでぼろぼろに傷ついている。悲しみと、そう、どこまで消えない悲しみと、生死をかけているかのような、内面の葛藤が繰り広げられる。「目が覚めたらすっかり夜で/誰かに会いたくなったよ/鍵もかけずに部屋を出て/夜の、夜の、空を歩く/最近は爪も切らず/復讐もガソリン切れさ/なんにも食べたくないし/ずっと考えている」"夜が明けたら"

 きのこ帝国の演奏は、そして、潔癖性的な叙情によってリスナーをその世界に引きずり込む。ヴォーカルの佐藤は、言葉ひとつひとつを噛みしめるように丁寧に歌っている。ときおり、激しく声を張り上げる。地盤がガタガタに揺れているこの国の、信じられるものを失った世代が、豊かさとは何かを訴えているように聴こえる。
 これは、涙の領域にまでに連れていかれるような美しいソウル・ミュージックである。並はずれた情熱があり、暗い予感のすべて吐き出し、さらけ出すことによる、ある種のカタルシスがある。はっきり言えば、魂が揺さぶられる音楽なのだ。
 シューゲイザー......とも呼ばれているそうだが、もしそれをマイ・ブラッディ・ヴァレンタインやスペースメン3、スローダイヴなどの系譜と捉えるのであるのなら、きのこ帝国はシューゲイザーではない。この際言っておくが、そもそもシューゲイザーと言われる連中の音楽には、ミニマル/ドローン/ノイズからの影響がある。つまりシューゲイザーとはアンチ・ドラマで、聴覚における享楽性がある。自分でもたまに使っているので、こんなことを言うのも何だが、正直な話、シューゲイザーというターム自体が表層的で、無意味だと僕は思っている。だいたいきのこ帝国は、シューゲイザーと呼ぶには、どうにもドラマ(夢)に飢えているように思える。
 が、きのこ帝国をそう呼んでしまう人の気持ちもわからなくもない。このバンドには、ジョイ・ディヴィジョンに端を発しているような、いわゆる「重さ」が、そして同時に〈4AD〉的な、あるいはモグワイめいた耽美があり、それがナンバー・ガール的なセンス(ないしはジャックス&早川義夫)と交わっていると言える。力強い演奏力、大胆な言葉、そして魅力的ヴォーカリゼーション......夢を見たくて見たくて仕方がないことの裏返しのように聴こえる。たしかにこのバンドには、実存的な苦行へ突き進んでしまいそうな危さもある。が、マジー・スターを彷彿するような、低空飛行のなかの素晴らしい煌めきもある。おそるべきメランコリー......"退屈しのぎ"は名曲だ。

 面白いバンドが出てきた。数ヶ月後にはより多くの人間がこのバンド名を記憶するだろう。きのこ帝国のデビュー・アルバム『渦になる』は5月9日に発売される。

文:野田 努