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Kavain Wayne Space & XT - ele-king

 ジャズが、ことにビバップと呼ばれる音楽が小綺麗な室内の舞台ではなく、ときには俗悪なナイトクラブの夜の営みにおいて、酔っぱらった客を満足させ、あるいは自らの欲望を満たすことで研磨されていったというなら、それがやがて即興へと、そしてたとえば欧州に渡りインプロヴィゼーションとして発展していったとき、ある種性的な衝動や名状しがたい欲望が隠蔽され、何か高尚なものの下位へとすり替えられていったというのは、いくらなんでも言い過ぎだ。むしろ率先して、ジャズの背後にあった猥雑さや悪徳から離れていったことで生まれた遺産の多くをすでに我々は知っている。

 しかしながらシカゴのフットワークの、その原点にある衝動、その爆発力に関してはどうだろうか。まずないことだが、進歩人諸氏は、90年代半ばの〈ダンス・マニア〉というレーベルから出ている12インチを気紛れで買ったりしないことだ。ゲットー・ハウス、その数年後にはジュークとも呼ばれるシカゴのアンダーグラウンド・ダンス・ミュージックは、不適切極まりのないエネルギーが充満している。「ち●●」や「●●こ」のオンパレードなのだから、これはもうけしからんです。とはいえ、もういちど考えるのもいいかもしれない。2010年代において、ローカルは消滅し、文化が減速したと言われながら、ほとんど唯一といってくらいに革新的と言われた音楽スタイルがどれほど猥雑なところから生まれたのかを。

 RPブーという、House-O-Maticsなるシカゴの伝説的ダンサー・チームの元メンバーにして、90年代末にはフットワークの青写真を作ったDJ/プロデューサーが、英国人ふたりのインプロヴァイザー、サックス奏者のシーモア・ライトとドラマーのポール・アボットと共演したライヴ音源(しかも最初のセッションは2018年だった)があると聞いて、警戒をもって接している人間がここにいることは、もう充分にご理解いただけたことだろう。もちろん嬉しさもある。それは、フットワークの可能性が広がっているかもしれないという期待、もうひとつは、たとえばハウス・ミュージックが発展していったうえで、AOR的な展開をしたときのつまらなさを知っている人間からすると、この組み合わせに興味をそそられるのもたしかだ。また、こんにちではインプロヴィゼーションと括られる音楽が、ともすれば鼻につくような、お高くとまった世界で完結しているとしたなら、これは良い薬だ。ぼくも一緒に恍惚となれるかもしれない。

 言うまでもないことだが、この演奏でキーになるのはRPブーだ。シカゴのフットワークのあのビートは音符だけで表現できるものではない。EQを深くかけた裏拍子のクラップ、スネア、ハーフタイムのリズム、そしてサンプリングの容赦ない反復——、あまりにも特徴的なこのダンス・ミュージックの魅力をシーモア・ライトとポール・アボットはある程度は尊重しながらも逸脱させ、その混沌を抽出し、破壊的な音楽へと舵を取ろうとしている。2曲目、とくにその後半からがまったく素晴らしい。もしこのメンバーのなかに政治的なアジテイターがいようものなら、ザ・ポップ・グループもしくはザ・マフィアのパンク・ファンク・ダブの更新版と呼びたいところだ。最近では、ジャズとエレクトロニック・ダンス・ミュージックとの共演に関してはコメット・イズ・カミングが評判だが、自分の好みで言えば、まったくもってRPブーたちのこれだ。作品化されたことに感謝したい。

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