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Album Reviews

Mouse On Mars

Mouse On Mars

Parastrophics

Monkeytown Records

野田 努      Apr 17,2012 UP

 1990年代生まれのリスナーが何曲か聴いたら、モードセレクターの曲をハドソン・モホークやフライング・ロータスがリミックスしたんじゃないかと勘違いするかもしれない。いやしかし、そのきめ細かいトリックに「おや」と思うだろう。マース・オン・マーズ(MOM)の6年ぶりのお茶目なIDM、〈モードセレクター〉のレーベルからのリリースとなるそれは、ラップトップのソフトウェアによるグリッチの効いたファンクが耳に残る。
 グリッチ――「不具合、予期せぬ事故、誤った電気的信号、電流の瞬間的異常」は、1990年代のドイツのエレクトロニック・ミュージックにおいて発展した一種の技だと言える。それは「失敗の美学」に基づいて、オヴァルを発端としながら、ドイツにおけるIDM/エレクトロニカというクラブ・ミュージックと微妙な距離を保っていた傍観者によって磨かれているが、MOMもそのいち部だった。MOMが初めて来日したとき、彼らがファンだったという中原昌也と対談をしてもらったが、話は「どうやってあの音を出しているのか?」という話題で沸騰した。MOMは、まずはテープで録音して、そのテープをグチャグチャにして、金槌で叩いたあと、そして2階から放り投げて、さらに足で踏みつぶして、それを再生して取り込むんだよと、秘密を明かしてくれた。このような微妙なユーモアがヤン・ヴェルナーとアンディ・トマのIDMにはある。
 MOMは、90年代なかばの最初の2枚のアルバムをインディ・ロック系の〈トゥ・ピュア〉からリリースしていることが物語るように、彼らにはたしかにクラウトロックの申し子のようなところがあり、先述した通りの「クラブ・ミュージックと微妙な距離を保っていた傍観者」だが、結局のところクラブ・ミュージックとの関わりを完璧に絶っているわけでもないように思える。MOMは、反動的なセクト――ある種のエリート意識で、オウテカがもっとも気を遣っていたところ――にとらわれた時期があったのかもしれないけれど(とはいえ、ヴェルナーとオヴァルによるマイクロストリア名義の作品は魅力的だった)、ポップを見失ったことはない。たとえオヴァルとともにロンドンの由緒あるバービカン劇場にてシュトックハウゼンの"少年の歌"を演奏したとしても......。

 この手の「捻り」に個人的に久しく接していなかったからだろうか、10枚目のスタジオ・アルバム『パラストロフィックス』を初めて聴いたとき、僕にはMOMがあらためて新鮮に思えた。このアルバムは、喩えるなら、クラフトワークの『コンピュータ・ワールド』やサイボトロンの、いわば80年代的なエレクトロをラップトップのなかで「グチャグチャにして、金槌で叩いたあと、そして2階から放り投げて、さらに足で踏みつぶして、それを再生して取り込んだ」ような強烈なファンクネスを感じる。"The Beach Stop"は本当に心地よい曲だ。人工的な女性のささやき声、フレンドリーのようでいて、穏やかに歪んでいくサウンドスケープ......初期の2枚に顕著だった無垢な遊び心は18年目経ったいまも健在で、その芸当は緻密になっている。
 ビートが際だっている"Metrotopy"や"Wienuss"、"Polaroyced"のような曲には可笑しさ、巧妙さ、そして強力なエネルギーがある。グルーヴィーなのだ。しかしリスナーは"Cricket"や"Baku Hipster"のような曲に含まれている悪意にも気をつけなければならない。パンキッシュな"They Know Your Name"は、マーク・E・スミスとのヴォン・スーデンフェッド名義による『トロマティック・リフレクションズ』(2007)を思い出すが、MOMはリスナーにとってつねに「いい人」であるとは限らない。批評的だし、彼らにはハードコアな側面、IDMにありがちな「やり過ぎ」たところもあるし、はっきり言えばからかいもある。それでも"Chord Blocker, Cinammon Toasted"や"They Know Your Name"には、知性派の嫌らしさを感じさせないぐらいのファッション性があるのだ。少なくもぐったりと疲れているときにお薦めできる音楽ではないが、不思議なことに、たっぷり睡眠を取った翌朝に聴くと「よし、やるぞ!」という気持ちになれる。ホント、不思議なことだが。

野田 努