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Album Reviews

The Host

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Planet Mu

野田 努      Apr 18,2012 UP

 ダブステップは、昨年、ジェームズ・ブレイクがアルバムを出す前から風船がはぜるように空中分解して、四方八方に飛んでいる。風に流れたボックスカッターは、ポスト・ダブステップという境界線のぼやけた領域で、片足半分をIDMに入れながら、ダブステップのドラムパターンの癖を引きずっていた。

 元から彼はダブステップの部外者だった、とも言える。昨年、ele-kingのレヴューで僕はこう書いている。「2006年のデビュー・アルバムのときから、彼の音楽はより幅の広いものだったが、強いて言えばそれはIDMとダブステップ/グライムのブレンドだった。ロンドンで生まれたウォブリー・サウンドを、その外側にいる人間が面白がって、IDMテクスチャーのなかに大胆に取り入れたのがバリー・リンで、それはロバート・フリップに傾倒したギタリストが安いPCを手に入れて、ヒップホップとスクエプッシャー、ハウスとテクノ、UKガラージとジャングル、そして 2004年に〈リフレックス〉がリリースしたコンピレーション・アルバム『グライム』に強く影響を受けて生まれた音楽だった」
 「彼の重たいベースとダブの空間、細かくチョップされたブレイク、そしてIDMテクスチャーによる独創的な展開にはユーモアと軽妙さがあり、オリジナル・ダブステップのドープな感覚に対して「ごめん、わかるけど、きついわ」と口をねじ曲げていたリスナーにとっては「むしろこっち」と言わせる魅力がある」(http://www.dommune.com/ele-king/review/album/001772/)

 北アイルランドのバリー・リン......彼のザ・ホスト名義による最初のアルバムがこれ、『ザ・ホスト』だ。アルバムを聴いていると、彼が名義を変えた理由が理解できる。ザ・ホストはベース・ミュージックの影響を引っぱってはいるものの、明らかに他の場所に移動しているからだ。ボックスカッターも軽かったが、さらに軽い空間を創出して、柔らかいアンビエントを展開している。そして彼はギターやベースを弾いて、サイケデリックなサウンドスケープに彼なりの味を与えている。
 とはいえ、『ザ・ホスト』は、ジャンル別に整理するレコード店泣かせのアルバムだ。浮き足立ちながら、バリー・リンはスタイルを気にせず好きなように作っている。よくわらないけれどシュールなアートワークが、ザ・ホストの落ち着きのなさをうまく表している。"ネオ・ゲオシテチーズ"の素っ頓狂なIDMで惹きつけておきながら、"隠れた形而上学"ではクラウトロックの電子宇宙を広げ、"Org"ではドラムンベースを引用する。"午前3時のサーフィン"では電子ノイズの雨を降らせ、メロウなギターを重ねる。"雨のシーケンス/眼内閃光パターン"でもギターを手に取り、ベースを重ねて、チルアウトな感覚を際だたせる。"カナヴェラル岬の夏至"では素晴らしい夢の境地に足を踏み入れ、そしてラスト2曲まで「サイケデリック・ミュージック」の領域へまっしぐら......といった具合だ。
 この彷徨は、いったいどこに落ち着くというのであろう。とにかく彼は向きを変えた。UKのベース・ミュージックの過渡期を象徴する1枚である。

野田 努