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ラジオから普通にディープ・ハウスが流れてくるでしょ。もうそれだけで興奮だった!
突然、アットジャズからメールが来た。いま日本にいるという。驚いた。彼は手に負えない飛行機嫌いで、昔彼と知り合った頃、イングランド中部の小さな街、ダービーで暮らすこのディープ・ハウスのDJを日本に呼びたくても叶えられなかった人間からすると、それはかなりの驚きだった。
アットジャズは、ハウス好きのあいだではすっかり有名な名前で、彼のソウルフルでファンキーなハウスは依然として評価が高い。〈インナーヴィジョンズ〉からもシングルを1枚出しているし、ここ数年はディクソンズやアームやトーキョー・ブラック・スター等々と一緒に、いわゆる"ニュー・ハウス" ムーヴメントの一員としても知られている。
アットジャズことマーティン・アイヴソンを僕に紹介したのは赤塚りえ子だ。1997年だった。当時まだ20歳ぐらいだったマーティンは、UKでもっともアナーキーなパーティ集団、ノッティンガムの〈DIY〉のコンピレーションに参加していた。のちにハーバートの〈サウンドライク〉からアルバムを発表する最年少のブルックスは当時はまだ16歳の高校生だった。マーティンやブルックスは地元ダービーで、友人のアンディと一緒に〈マンティス〉レーベルの一員として活動していた。赤塚りえ子は、たまたまダービーに住んでいて、いつの間にかその小さな街の小さなハウス・コミュニティのひとりになっていた。もちろん誰一人として彼女が天才バカボンの娘であることなど知らなかった......。彼女はボーイフレンドのジョン・レイト(後のハーバートのマネージャー。現在は音楽コーディネイター)と頻繁にレコード店に足を運ぶ日本人で、やたら渋い音楽ばかりを漁る音楽ファンしてレコ屋のスタッフから密かに評価されていたという、それがまあ、契機となった。音楽のコミュニティとは、それが輝くときは信じられないほど綺麗に輝くものなのだ。
マーティンの家に何日か泊まって、みんなで〈DIY〉が主催するフリー・パーティに出掛けたこともあった(それは実にスリリングな夜だった)。ダービーの、小さいけど熱いディープ・ハウスのクラブ・パーティに出掛けて、朝までぐだぐだ遊んだこともあった。彼らは......ある意味はわれわれと近いライフスタイルだ。ニューヨークの華麗なゲイ・カルチャーではないし、デトロイトの過酷なゲットーでもない。平日は働きながらこのシーンに携わっているような、われわれの身近にいるような連中なのである。
■ふたりは何年ぶりに会ったの?
マーティン:4年ぶりくらい?
赤塚:そうだね、私が日本に帰ってくる前に会っているから3年半ぶりくらいかな。
■そっか、むちゃくちゃ久しぶりって感じでもないんだね。
赤塚:そうそう。
■ちなみに、ふたりが最初に出会ったのは何年だったか覚えている?
赤塚:1996年!
マーティン:その頃だね。しかしリエコがダービーにたった2年しかいなかったなんて、いまだに信じられないな(笑)!
赤塚:95年、つまりダービーでの最初1年目はなかなか知り合いもいなかったけど、足しげく地元のレコード・ショップに通って顔を覚えてもらって、マーティンとは2年目の96年に出会ったんだよね。あー、なんだっけあのレコード・ショップの名前?
マーティン:〈ウェアヘッド〉でしょ?
赤塚:そうそう、〈ウェアヘッド〉!
■ブルックスのお兄さんが働いていたところだよね。
赤塚:そうそう、懐かしい! ジョン(・レイト)はそこで〈マンティス・レコード〉の12インチをむちゃくちゃ買っていた。〈マンティス・レコード〉の記念すべきファースト・リリースもそこで買ったんだよ。
マーティン:嬉しいね。
[[SplitPage]]■ふたりは直接どのように知り合ったの?
赤塚:アンディ(・ブルックス)とかクライウ゛(・アスティン)とか、その辺りの人たちの紹介だったと思う。
マーティン:たしかレコード・ショップから繋がっていったんじゃなかったっけ。
■それこそ僕がダービーに行ったときは、リッキーやマーティンに連れられて、DIYのフリー・パーティに連れて行ってもらったんだよね。あのときはリッキーが警察の壁を突破したんだよ(笑)。
赤塚:懐かしい(笑)! パーティを取り締まる警察に囲まれて大変だったんだ。
マーティン:覚えてるよ(笑)。警察が来てパーティが無理矢理中止させられそうになったんで、オレたちは面倒くさくなる前に逃げ出そうとしたんだ。
■そうそう! 帰りの車の中で、誰かが「クソみたいな警察だ」って言ったら、マーティンが「あれはまだマシな警察だ」って言ったのを覚えてる。
赤塚:ともかくいい体験をさせてもらったな。
■本当だね。ふたりはダービーにいた頃はそんなワイルドな生活ばっかりしていたの?
マーティン:いやー、あの当時、ああいうパーティはそんなに頻繁にあるものではなくて、年に2~3回くらいのペースでしかやれていなかったと思う。
赤塚:クリミナル・ジャスティスが施行される以前は、ああいうフリー・パーティももっとたくさんあったんだと思うけどね。
マーティン:その通りだよ。
■リッキーにとっては〈マンティス・レコード〉やダービー・ポッセの存在ってものすごく大きいんじゃない?
赤塚:そりゃとんでもなく大きいよ。95年と96年にいて、それが私とディープ・ハウスとの出会いでもあったから。
■その頃のUKのクラブ・ミュージックと言えば、ドラム&ベースがすごかった時期でしょ。それがああやって北部やミッドランドのローカルなシーンではディープ・ハウスが元気だったというのがまた面白いなあって。
マーティン:ほとんどのアンダーグラウンドなパーティは、レコード・ショップやレーベルの人間が中心になっておこなっていたよね。
■当時、アットジャズが面白いってリッキーから真っ先に紹介されたわけだけど......。
赤塚:そもそも私は音楽が好きだからという理由でイギリスに行ったんだけど、そうしたら、ダービーという日本ではあまり聞き慣れない町で、音楽を本当に愛している人たちによるものすごいピュアなシーンに偶然遭遇することができて、本当に感動したんだよね。レコード屋さんでいいレコードを見つけたときの感動とはまた別の、実際に音楽を作って、パーティをやっている人たちの熱気のなかに放り込まれて、貴重な発見や体験をすることができた。それって私にとってはものすごい大きなことだった。
マーティン:リッキーからそういう話をはじめて聞けて、嬉しいよ。
赤塚:ラジオから普通にディープ・ハウスが流れてくるでしょ。もうそれだけで興奮だった。
■日本にはないからね。
赤塚:アットジャズの音楽もすごく好きだった。それまではテクノばっかり聴いていたから、実はハウスの魅力ってあんまりわかっていなかったけど、ダービーで完全に目覚めた(笑)。あとその当時って〈イエロー・プロダクションズ〉とかモーターベースのようなフレンチ・ハウスとかも流行っていたから、どんどんディープ・ハウスを聴くようになった時期でもあった。
マーティン:エティエンヌ・ド・クレイシーとか『スーパー・ディスカウント』みたいなね。
赤塚:うわー、懐かしいね。大好きだった(笑)!
■その当時、ダービーの連中が「いいDJってのはベーシック・チャンネルをマイナス8でミックスするDJだ」って言っていたのをすごくよく覚えているんだけど。
マーティン:だははは、よく覚えていないけど、たしかにそうだと思うよ。実際、その当時は僕もベーシック・チャンネルのレコードをたくさん買っていたしね。
赤塚:私もよく買ってた。よくジョンとふたりで誰も買わないようなダブのレコードやそれこそベーシック・チャンネルのレコードを買って、店員さんに「あのふたりまた渋いの買ってたよー」みたいな感じで密かに注目されてて......、あ、思い出した! それで音楽の趣味が合うんじゃないかってことで、アンディたちと話すようになって、パーティに誘ってもらったりして、その繋がりでマーティンと出会ったんだ! いま思い出したよ(笑)!
マーティン:だはははは。とにかくジョンとリエコはパーティでもいちばんのお客さんだったよ。〈ウェアヘッド〉のオーナーのトムのことは覚えてる? 彼はたったの10ペンスでレコードを売ったりしていた。
赤塚:はははは、覚えてる! そうなんだよね、彼はあまりレコードの相場をわかっていなくて、セールになると、デトロイト・テクノなんかをものすごい安い金額で売ってたんだよね。当然、私たちはそれに飛びついて買いまくってたんだけど(笑)。
マーティン:そうそう! あとあの頃、自分たちのパーティにシカゴからジェミナイを呼んだこともあったっけ。
赤塚:呼んだねー。
■だってマーティンはその当時、ロン・トレントの〈プリスクリプション〉とか、シカゴのディープ・ハウスにハマっていたもんね。
マーティン:あははは、そうだね。
[[SplitPage]]■そういえば、マーティンに初めて会った時に、グラストンベリーでジ・オーブを聴いたときに思いっきりぶっ飛んだって話を聞いたんだよね(笑)。
マーティン:オー、そんな話よく覚えてるね! ちょうどアンビエント系の音楽にハマっていた頃で、当時僕は19歳だった。3年ぐらいアンビエントにハマっていた時期があったね。
■ちなみに、その後のダービーのシーンはどういう感じなの? 新しい世代は出てきてるの?
マーティン:いや、難しいところだね。ノダがいま再びダービーに来たら、ずいぶん寂しくなったと感じるかもしれないね。いくつかのクラブはなくなってしまったし。
■でもマーティンはいまだに〈インナーヴィジョンズ〉とかから積極的にリリースしているじゃない?
マーティン:でもいまはシーン自体はそんなに活気があるとは思えないな。新しいジャンルやサウンドはたしかに出てきているけれど、当時に比べるとシーンは全然エキサイティングなものじゃないね。いまのテクノロジーを使えば誰でもある程度の音楽は作れるようになった。でも同時に似たような音楽ばかりが氾濫する結果になってしまっているような気がする。テクノもハウスもヒップホップも似たようなものばかりだ。
■まあ、逆に言えば、当時のUKが活気があり過ぎたとも言えるのかもしれなしね。
マーティン:ほんとその通りだと思うよ。いろいろな理由があるかもしれないけれど、当時に比べて、どういうわけか音楽から得られる感動が減ってきたような気がする。ともかくダービーではアンダーグラウンドな音楽を売ったり、聴けたりする場所はなくなってしまった。
赤塚:みんなダウンロードしているのかな?
マーティン:イギリスではほとんどの人がダウンロードに移行しているね。しかも多くの人が違法ダウンロードにより、無料で音楽を手に入れているのが実状だよ。
■そりゃあ大変だ。
マーティン:いまやイギリス人の音楽に対するモラルはかなり希薄なものになってきたね。
■ふむ。でもイギリスがそうなってしまたっら悲しいなあ。......そういえば、マーティンは『天才バカボン』をもう読んだの?
マーティン:いや、実はまだコミックは読んだことがないんだ。でもとくに日本に来て、いろいろなところでキャラクターを見かけてビックリしているよ。本当に有名なキャラクターなんだって実感してる。
■マーティンは『天才バカボン』をジャケットに使用している世界でも唯一のハウス・プロデューサーだもんね。
マーティン:偉大なお父様の作品をジャケットに使わせてもらって、本当に光栄に思っているよ。
赤塚:こちらこそ、ありがとう。
■リッキーの親父さんって、イギリスで言えば、ジョージ・ベスト並の知名度だからね。
マーティン:すごいね......。
■しかし世界で唯一の『天才バカボン』のジャケットが、マーティンだっていうのが、なんともいい話だなって思って。
赤塚:あははは、そうだね。
■でもさ、アットジャズと言えば大の飛行機嫌いじゃない。その当時、リッキーがアットジャズという名のものすごいDJがいるから日本に呼びたいんだけど、彼は飛行機が嫌いらしくて実現できないかもしれないって悔しがっていたくらいだもんね。それがなんでいま。軽々と目の前にいるのかって(笑)。
マーティン:いまでも飛行機は大嫌いだよ。13時間、ずっと寝てきたんだ。
赤塚:本当によく来れたよね。いま日本でこうやってマーティンと会えていること自体、奇跡みたいで本当に嬉しい。初来日だもんね。
■いまイギリスでDIYみたいなフリーレイヴはあるの?
マーティン:本当に稀に、1年に1度くらいはあるね。
■どのくらいの人が集まるの?
マーティン:200人前後かな。
■ダービー・ポッセはどうなったの?
マーティン:いまはバラバラだね。活動期間は13年間だったかな。アンディはベルリンから帰ってきていまはマンチェスターに住んでいるよ。〈マンティス・レコード〉のような小さなインディ・レーベルにとっては厳しい時代になってきたから、いまだ解散したままだね。
■13年もやっていたんだね。
赤塚:すごいことだよ。
■実はね、自分でDJをするときは、いまだに必ず〈マンティス・レコード〉のレコードをプレイするんだよ。リッキーがレコードをくれたからね。年末のパーティでもかけたよ。
マーティン:嬉しいね。
■じゃあ......、最後にマーティンに前向きな発言をして締めて欲しいね。嘘でもいいから、前向きな(笑)!
マーティン:時代は変わっても、ハウス・ミュージックは必ず残って受け継がれていくと確信しているよ。音楽はハートで感るもの、そういう音楽の感じ方、楽しみ方は、絶対になくならないよ。
■昔、マーティンにダービー仕込みのハウスのダンスの仕方を伝授させられたんだ。
赤塚:そうそう、鶏に餌をまくようなダンスでしょ(笑)!
マーティン:だははは!
ちなみにアットジャズは、現在のところ3枚のアルバムと1枚のリミックス・アルバムを出している。最新作は、2008年に〈マンティス〉レーベルから出た『Full Circle 』。とても素敵なジャジー・ハウスで、1曲、ロバート・オウェンスが歌っている。また最近は自分のレーベル〈Atjazz〉もはじめている。
https://www.atjazz.co.uk/
06年の出世作「Sea of Sand」(Cocoon)辺りからこのイスラエルの才人に注目した僕は、まぁ最初に彼を見出したトランスやプログレッシヴ・ハウス畑のひとたち(それこそディグウィードとかさ)から見たら、遅いよって感じだろうけども、自ら"遅咲き"を名乗っちゃう彼のそこからのさらなる躍進はほんとーに目を見張るものがあった。卓球が〈Sterne〉に呼んだときにDJを、スヴェンが恵比寿ガーデンホールで〈Cocoon〉のパーティをやったときにライヴを聴いてるんだけど、実は現場でのプレイは期待が大きすぎたのか死んでもいいわぁ! と悶絶するほどいいってこともなく、どっちかというとスタジオのひとなのかなとも思ってる。しかし、出すもの出すものほとんど外しがなく、しかもトランスとテクノとミニマルとその狭間の微妙なキモチイイツボをクリクリと(グリグリじゃないんだよね)押してくる感じは、絶妙すぎて勝手に神格化したいくらいなんだが、どーもあまり日本では評判になったりする感じでもないようだ。元サッカー少年で、突然ニュー・オーダーだとかを聴いて音楽に目覚めたという微笑ましい経歴含め、とっても好きなんだけどな、ガイ・ガーバー(と読むのかどうかは謎、英語読みでいいのか?)。
さて、今回のリリースは、昨年末に出たEPで、アナログだと2枚組で4曲、約40分。デジタル配信だとさらに4曲追加で計8曲、70分超というアルバム並のヴォリュームで迫ってくる。基本DJ向きのリリースだし、CDも出てないのでメディアにもスルーされている感じだが、これはぜひぜひ、iTunes StoreとかBeatportとかで買って、DJ以外のひとにも聴いてほしいリリースだ。以前のはっきりしたメロディ感や、トランス的なキラキラ感はいささか後退し、よりディープなトリップ感、ミニマルなフロアと交感した後の気分を素直に曲にしたような恍惚感が充満してる。――と思ったら、制作期間は昨夏で、ちょうどイビサに住み込んで〈SPACE〉でレジデントDJをやったり、各地のフェスを回っていた時期に作られたトラックらしい。春頃にリリースされたルシアーノとの共作曲「Arcenciel」が超ディーーーーーーーーーープで、昨年のフォルクローレや生音/トライバル一色だった〈Cadenza〉にあってはちょっと異色な1枚だったけど、あれが好きだったひとなら間違いなく気に入るであろう傑作だ。ただ今作はディープさやガイの持ち味だった精緻なプロダクション、美しい世界観だけでなく、チャント的なヴォイスであったり、ポリリズム的なパーカッションが大きくフィーチャーされていたり、"Jango Records"のようにギターをフィーチャーした曲まであって10分を越える長尺であってもまったく飽きずに楽しめる。
これだけタイプの異なる曲をギミック的にならずに料理できる腕は業界随一と言えるレヴェルになってきたんじゃなかろうか。どの曲も甲乙つけがたいが、去年はEkloや、ガイのレーベルである〈Supplement Facts〉からもヒットを飛ばしたフランスの3人組dOPとの共作曲"Ei Sheket"あたりが白眉か。今年中に出るというセカンド・アルバムも楽しみだ。野外で聴きたいから夏にどこかのフェスに来てくれないかなぁ。
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PETRE INSPIRESCU
INTR O SEARA ORGANICA
[a:rpia:r] / Romania / 2009/12/25
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RYO MURAKAMI
JUST FOR THIS
Dessous / Germany / 2010/1/25
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THOMAS BRINKMANN
WALK WITH ME
Curle / Belgium / 2010/1/25
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THE RHYTHMIST
THE AGENCY
P&D / France / 2010/1/26
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R.ケリーを聴くと、少なくともひとつは良いことがあるのを僕は知っている。R&B好きの女性と音楽の話題を通して、愛や恋やセックスにまつわるトークを開けっぴろげに、ディープにできる。それはとても素敵な時間だ。普段は口にするのも恥ずかしい言葉を平然と言えてしまう。「R.ケリーはあの歌の中でこんなことを言っているけど、オレはこう思うんだよね」という感じに。盛り上がれば、「じゃあ今度、一緒に聴こうよ」なんて誘い文句を繰り出すこともできる。はははは、楽しいぞ! 男も女も魅了する愛のドラマを描けるR.ケリーはまったく偉大な男だ。野田編集長に拠れば、あの女傑、アリ・アップでさえR.ケリーに一目置いているという。
ディスコ/ヒップホップ以降、つまり"ポスト・ソウル時代"に登場した黒人男性R&Bシンガー/ソングライター/プロデューサーで、R.ケリーほど成功した人間はいないだろう。80年代後半、テディ・ライリーが発明したニュー・ジャック・スウィングはヒップホップ・ビートとR&Bのソングライティングを融合し、ヒップホップとR&Bの壁を取り払うことに成功する。それはブラック・ミュージックの歴史におけるひとつの革命だった。ニュー・ジャック・スウィング・ブームの余韻が残る90年代初頭にR.ケリーは本格的にキャリアをスタートさせる。
セカンド『愛の12プレイ』(93年)、サード『R.ケリー』(95年)で独自の所謂性愛路線を確立し、両アルバムはそれぞれ500万枚近くも売れたと言われている。『愛の12プレイ』に収録された「セックス・ミー(パート1&2)」のあけすけなセックス描写とねっとりと絡みつく甘いヴォーカルに、10代の僕はそれまで聴いたどんな音楽からも駆り立てられることのなかった卑猥な妄想を刺激されたものだ。
他方で、マイケル・ジャクソン「ユー・アー・ノット・アローン」をプロデュースし、映画『タイタニック』のテーマ曲で一躍時の人となったセリーヌ・デュオンとの「アイム・ユア・エンジェル」というデュエット曲を作っている。両者ともメロディ・メイカーとしてのR.ケリーの才能が光る、美しいスロー・バラードで、2曲ともクロスオーヴァー・ヒットを成し遂げた。
1967年、R.ケリーはシカゴのサウス・サイドのプロジェクト(低所得者向け公営住宅)で生まれる。彼は、ただただ甘ったるいバラードやセックス賛歌("セックス・ウィード"、"セックス・プラネット")や女たらしの歌(T.I.とT・ペインをフィーチャリングした「アイム・ア・フラート・リミックス」のスムースなグルーヴには溶けてしまいそうだ)だけを歌ってきたわけではない。ゲットーから抜け出すことを誓い合った彼女との思い出を回想する"ゲットー・クイーン"、シングル・マザーへの愛情を歌った"愛しのセイディ"、壮大なゴスペル調の"トレイド・イン・マイ・ライフ"といった曲があるように、宗教的な精神から貧しい黒人ゲットーの人々へ向けた同胞愛まで、様々なドラマを歌い分けてきた故に幅広い層からリスペクトされてきたのだろうし、常に(ダンスホール、レゲトンを含む)最新のアーバン・サウンドを取り入れるという意味でも、ストリートの感覚を反映させるという意味でも、ヒップホップ的感性はR.ケリーの音楽の重要な要素と言える。そしてなにより、どこか憂いのある艶かしく悩ましいあの声が聴く者のハートの深いところを締めつけてくる。それは、マーヴィン・ゲイにもプリンスにも通底するブラック・ミュージックにおけるもっとも濃密なソウル――性と快楽と剥き出しの魂が渾然一体となった黒い媚薬とでも言えるような――のひとつの象徴だろう。
それにしても、R.ケリーにうっとりした後にテレビから流れてくるアイドル歌手が歌うラヴ・ソングを耳にすると、どうにも幼稚でつらい。成熟よりも幼児性に傾きがちな日本のポップ産業においては仕方のないことかもしれない。が、恋愛やセックスが必ずしもピュアで、汚れなくキラキラしているとは限らないのに......まったく深みがなさ過ぎて本当にげんなりするものが多い。「大人を舐めるなよ~」という気持ちだ。恋愛をしていれば、彼女に飛び蹴りされて、コンクリートの路面にしたたかに体を打ちつけることだってあるし、金のことで言い争うこともある。また、ときたま事故のように訪れる......(以下、自主規制)。皆さんもよくご存知のように、愛や恋やセックスには壮絶な、嵐のような出来事が付き物なのだ。まさにR.ケリーが地で行くように。
児童ポルノや性的虐待に関する容疑による逮捕・起訴(無罪を勝ち取ってもいる)、離婚問題、2枚のタッグ・アルバムを制作したジェイ・Zとの仲違い。R・ケリーの周囲にはセックスや女性関係にまつわるスキャンダルをはじめ、裁判沙汰が後を絶たない。いまやR.ケリーをゴシップ・ネタとしか扱わない向きもあるのだろうが、ビヨンセ、リアーナ、アリシア・キーズなどの例を出すまでもなく、"女の時代"だった00年代のR&BシーンにおいてR.ケリーは第一線に立ち続けた。
そこで、前作『ダブル・アップ』から2年ぶりに届けられた、オリジナル・アルバムとして通算10作目となる『アンタイトルド』を聴く。特筆すべき"新しさ"があるわけではないが、安易に4つ打ちを取り入れた2曲と取って付けたようなサウス系の1曲を除けば、まったく期待を裏切らない出来と言っていい。欲を言えば、R.ケリーらしいストーリー・テリングをもっと聴きたかったというのはある。まあ、それでも十分に満足できる。ケリ・ヒルソンと猛々しくセックスを求め合う男女を演じるエネルギッシュなデュエット曲「ナンバー・ワン」(「Sex that we`re having here girl ohh(セックス、僕らは抱き合う、ガール、ohh)」)、売れっ子シンガー/プロデューサー、ザ・ドリームらをゲストに迎えたアーバン・ソウル"プレグナント"( 「Give you make me wanna get you pregnant(ガール、キミを妊娠させたくなっちゃうよ)」)、90年代中盤のメロウR&Bを彷彿とさせるセルフ・プロデュース曲"ゴー・ロウ"と"ホール・ロッタ・キスイズ"。いまR.ケリーを聴こうと思うならば、過去作ではなく、間違いなくこの集大成的な新作(リリースは昨年末)を手に取るべきだろう。これぞブラック・ミュージックにおけるエロスの真骨頂。堪らない。
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JOE CLAUSSELL
WITH MORE LOVE
SACRED RHYTHM (US) / 2009/11/20
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HOMEWRECKERS
NOT MY BUSINESS
CIRCUS COMPANY(GER) / 2010/1/21
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MICHEL CLEIS
LA MEZCLA-REMIX EP feat.TOTO LA MOMPOSINA
MOSTIKO(EU) / 2010/1/26
»COMMENT GET MUSIC
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V.A.(MANMADE SCIENCE FT. JOHN THROWER, SOULPHICTION, PHLEGMATIC...)
Motorsoul Vol. 1
PHILPOT / GER / 2009/12/26
»COMMENT GET MUSIC
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あけましておめでとうございます。相も変わらず労働とクラブ徘徊の生活を送っています。どうか今年もよろしくお願いします!
ちなみに昨年の大晦日から新年はTHE KLO(BE-WAVE)→DJ NAMIDA(BE-WAVE)→中原昌也(BONOBO)→DJ WADA(SOUNDBAR+)→MIXMASTER MORRIS(SOUNDBAR+)といった流れでした。良い幕開けです。遅ればせながら野田さんに勧められ、ディスクユニオン限定のヘア・スタイリスティックスを買いました。ジョン・ケージを越えてます。恐れ入りました。
さて、クラブ中毒者およびヴァイナル中毒者のためのテクノ系の12インチ、クリスマスから新年もリリースは好調で、いくつも面白いものが出ています。
90'Sのジャーマン・テクノを象徴するような無機質なレイヴ・サウンドを〈ディスコ・B〉(ミュンヘンの老舗のテクノ・レーベル)からリリースしていたマルタン・グレッシュマンことアシッド・ポールが、こんどは自身のレーベル〈スマウル〉からのリリース。作風はがらりと変わってソフトでシンプルなハウスを響かせている。
A面はガムランを基調に、蛙の声や水音など自然音を巧みに取り込んだ個性的な響きのトラック。B面では哀愁をおびたストリングスのサンプルを使った落ち着いたディープ・ハウスが中盤のブレイクからプログレ調に変化していく珍妙なトラックを展開する。アイディアとネタ一発だが、それがまさに今日的な"リエディット"の形。そしてこれがまたフロアでは効力を発揮する。
ちょっと古いけど、こいつも是非紹介したい。先にも挙げたアシッド・ポールの一作前のリリース。クラブで聴いている人も多いと思うが、マービン・ゲイの"ホワッツ・ゴーイング・オン"のヴォーカルがそのまま使用された、まるでシルクのように滑らかなディープ・ハウスだ。DJにとってはとても使いやすく、ヴォーカル・パートが入ってくるタイミングが遅いので前の曲からゆっくりとミックスすることができる。
現場でかけてみると面白いのが、大ネタにもかかわらず歓声があがるような盛り上がりではなく、ほかほかした良い空気が流れるところです。曲のスピードを変えても音程がぶれない、サンプラーの機能向上がもたらした奇跡の1枚。もちろんヴァイナル・オンリーです。
フランスの〈フリークン・チック〉に代表される新しいタイプのシカゴ・ハウス勢のなかで、目覚ましい活躍を見せているのがこのアンソニー・コリンズだ。DJあるいはダンス・マニアのあいだでいまいちばん信頼されているトラックメイカーのひとりでもある。
A面ではレーベルのカラーに合わせてミニマルを意識したのか、彼の得意技であるシカゴ経由のディスコ・テイストは影を潜め、中低域の音の運びが上手いダビーで深みのあるテック・ハウスを展開している。B面ではピアノとシンセとホーンのからみが絶妙な、ジャジーなフィーリングのディープ・ハウスを展開する。ブラック・ミュージックとしてのハウスを求めている人にはドンピシャな音でもある。明るすぎず、綺麗すぎず、ほど良い塩梅です。
トータスのジョン・マッケンタイアによるレーベル〈ヘフティ〉からオールドスクールなエレクトロを基調に数々の傑作を放ってきたテレフォン・テル・アビブのアルバムからのカットで、これはそのリミックス集。レーベルはベルリンのエレン・アリエン率いる〈ビッチ・コントロール〉から。豪華な面子がそろったお買い得盤である。
A1はレーベルが期待を寄せる新人トーマス・ムラーによるダークなエレクトロを基調にした金属的な質感のアシッド・ハウス。おかずのパーカッションがいまのフロアの気分を象徴している。
B1は人気の女性ミニマルDJ、ミス・フィッツによる原曲のヴォーカルを活かしたダビーなミニマル・ハウス。現在のミニマル・シーンを代表する〈パーロン〉からリリースされた前作の延長上で、よりシンプルに音の運びを意識したトラックに仕上がっている。この人の作る曲は、サンプルにエフェクトをかけたものが基調で、安易といえば安易なのだが、いまのDJならではのネタ感が良い。今回も毎度おなじみのブラック・ジャズからのサンプル使いだ。
B2はベルグハインの人気DJ、ベン・クロックによるソフトでグルーヴィーなテック・ハウス。ハード・テクノに傾倒していた作風から見事なシフト・チェンジ。ただ体の動かし方にはテクノを感じる。後半に入ってくる多幸感のあるシンセがトランシーで心地よい。
ドイツの歴史的に有名な美術学校「バウハウス」の名前がホワイト版にスタンプされただけの、アート志向のハウス。アーティストは不明。音は、太いキックとザラついたハット、中高域のノイズで引っ張るインダストリアルな質感のハード・ミニマル。レディオ・スレイヴに代表される90年代テイストのテクノをモチーフにしている。いわば懐古主義的なトラックとも言えるだろう。ネーミング、楽曲、スタイル、すべてが現在のテクノを支配する"ミニマリズム"の美学に基づかれている。
UKの新しいレーベル〈ダーク・ビート〉よりストイックなハード・テクノが登場。A面はUKテクノ・シーンのベテラン、マーク・ブルームによるリミックス。ハットの抜き差しとホワイト・ノイズで引っ張り、後半には覚醒的なシンセが展開する、ほどよく走ったミニマル・テクノ。うすら遠くに聴こえる女性の声の入れ方にセンスの良さを感じる。
B面は、グラスゴーの〈ソーマ〉で活躍するパーシー・エックスによるエディット・セレクト名義でのリミックス。"The Orb Theory"という意味深なタイトルが付けられている。パーカッションを主体としたグルーヴィーなミニマル・テクノで、ジェフ・ミルズのように裏と表が入れ替わる繊細なトラック。マーク・ブルームといい、トム・ミドルトンといい、UKではベテラン勢を中心にテクノがふたたび盛り上がってきている。
こちらはグラスゴーの新鋭ゲイリー・べックが自身で立ち上げた〈べック・オーディオ〉からの新譜。A面は中高域のフランジャーのかかったホワイト・ノイズで淡々と引っ張るミニマル・テクノ。
B面は原曲とほぼ同じ構成でノイズを強調したエディット・セレクトによるリミックス。人気のプログレッシヴ・ハウスDJ、ロコ・ダイスのトラックのように柔軟なグルーヴながら、ハードにもソフトにも使える1枚で、まさにDJフレンドリー。基本的に展開の少ない地味な曲だが、聴かせ方次第ではDJのピークタイムにも使えまる。次世代も負けてはいない。
ドイツのテック・ハウスレーベル〈アワー・ヴィジョン・レコーズ〉などで活躍する新鋭ギャスパー・デ・ラ・ベガ&ジー二アスによる新作が〈パープレックス〉よりリリースされた。
予定調和なデトロイティッシュ・テクノを聴かせるA1、B2はおいといて、B1のゆったりしたパーカッションにセクシーな女性ヴォーカルが絡むダブ・ハウスが面白い。ディレイによるダブ処理で音の"トビ"が強調されている。大箱でかかったら、スモークがバッチリはまりそうなイメージの曲だ。大げさで、ばかばかしくって、落差があるところが良い。先鋭的な試みや繊細構成はないものの、大箱でプレイされるために作られたプログレッシブ・ハウスのタフさが充分に滲み出ているクラブ・トラックだと言える。立体的で体感的な音楽。
NSIとは、テクノ・ファンにはサン・エレクトロニックの名前で古くから知られるベルリンのベテラン、マックス・ローダーバウアー、そしてリカルド・ヴィラロボスとのプロジェクト、オド・マシンをはじめ、ジーク・ウーバー・ディー・ゾンネ(Sieg Uber Die Sonne)のメンバーとしても活動するトビアス・フロイントによるユニット名である。NSIは2005年から活動をはじめ、すでに4枚のシングル、2007年には〈サッコ〉からは1枚のアルバムを発表している。
本シングルは全編生楽器の演奏を中心に繰り広げられ、それをエレクトロニクスによって加工した音響的なツール集とうい体裁をとっている。ルチアーノの〈カデンツァ〉からリリースされたシングルではミニマル・ハウスのフォーマットを借用していたが、ここではどこまでも実験的でダンスを目的としたクラブ・ツールは1曲もない。かろうじてB1が曲として機能している程度だ。フリー・フォームなクラウト・ロック・バンド、ファウストを想起させる。新しいフル・アルバムが早く聴きたい。
これは酷いジャケット。プードル犬が糞を垂れている。ハンブルグのパフォーマーンス集団スタジオ・ブラウンのメンバーとして活躍するジャックス・パルミンガーのニュー・シングルだ。『鳥屋の梯子と人生はそも短くて糞まみれ―ドイツ民衆文化再考(アラン・ダンデス)平凡社』を参照しよう。
新しいドイツのテック・ハウスを模索する〈パープレックス〉よりによると、ドイツ人にはスカトロジーを題材としたジョークを好む傾向があり、プードル犬が糞を垂れるモチーフも昔から頻繁に使われているそうだ。それはこの盤は、まさにドイツ人らしいユーモアの妙例なのだろう。
A1は原曲のポエトリーを活かしたシャックルトンによるリミックスで、装飾はそぎ落とされ、ベースとドラム最小限のシンセという骨格だけで聴かせるダブステップ。ベースの抜き差しが、まるでダブの始祖キング・タビーを彷彿させる。
A2はローレンスによる多幸感溢れるダウンテンポ・トラック。まるで元日の空のように美しく澄みきった穏やかさが魅力だ。B1はヘイ・O・ハンセンによるアシッド感のあるディレイがかったブロークンビーツ。B3はピーター・プレストによるメランコリックなピアノのメロディが印象的なエレクトロニカ。B2、B4はヴォーカルのみの短いスキット。現在のドイツの風俗が凝縮されているだけでなく、サウンド的にもとてもクオリティが高いリミックス集となっている。
『100%RAP』は怠け者による最高のサウンドトラックである
アルバム・チャートを作るのが楽しくて、ハマってしまった。CDを部屋中から集め、サンプル盤しかないものは新宿のタワレコに買いに行き、ついでにUSのヒップホップやR&Bを中心に結構な枚数を新しく手に入れた。そして、帰省していた年末年始を挟んで、昨年末から今まで聴きまくっている。僕は2009年も相変わらず日本のヒップホップをメインに追い続けたが、総合的にこのジャンルは1年を通して刺激的であり続けた。世の中の不安定な情勢をまるでエネルギーにするかのように、凋落するこの国の経済と反比例するかのように、進化を続けた。いまこの音楽を聴かないと何年か先に間違いなく後悔することになるだろう。もちろんすべてを完璧に追えているわけではないし、僕にも好き嫌いは当然ある。ただ、時間と気持ちとお金に多少でも余裕があれば、気になったものを聴いておいて損はない。
おそらく北米のインディ・ロック・シーンがそうであるように、ムーヴメントとしての面白さが現在の日本のヒップホップ・シーンにはあるのだろう。00年代後半、特に2009年の成熟ぶりには特筆すべきものがあった。それについてはこれから語ろう。ただ言っておくと、それは「最先端」とか、そういう言葉に納まる類のものではない。そんなスノビズムを拒絶するような泥にまみれながら輝く文化としてある。日本のヒップホップ/日本語ラップの魅力は、音と言葉で時代の変化や現実を克明に生々しく伝えるメディアとして機能している点にもある。だから、この国においてマイナーなジャンルであることに悲観することはないし、セールスとか、数値では計れない次元で目の醒めるような音楽的独創性と鋭い社会批評性を保っているこの文化に携わる人間には自信を持って堂々としていて欲しい。
批評家の矢部史郎は00年代初頭に言った。「マイナーを滅ぼすことはできない」と。そもそもこの国の経済そのものがガタガタなのだし、じたばたしてもはじまらない。SEEDAのリリックを引用するならば、「WE FUCKIN MAJOR インディーズだがメジャー WE DA OFFICIAL FUCKIN MAJOR」("Get That Job Done")ということになるのだろう。僕らは2009年も素晴らしい音楽とちゃんと出会えている。産業について考えることも大事だけれど、音楽を語る言葉を豊かにして、小さな蠢きをひとつの文化として活性化させることの方がよっぽど意味のあることだ。
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さて、前置きが長くなったが、僕はアルバム・チャートの1位に鎮座DOPENESSのファースト・ソロ・アルバム『100%RAP』を選んだ。このユーモアたっぷりの43分あまりのアルバムをトップにすることにまったく迷いはなかった。ジェイ・Zの『ザ・ブループリント3』を押さえての1位というのにも意味がある。もちろん賛否両論はあるだろうが、これはひとつのメッセージだ。たしかに『ザ・ブループリント3』は圧倒的だし、これぞヒップホップといった、エネルギッシュなアルバムだ。音は古くて新しく、ヴィヴィッドな時代性があり、しかもグローバルに波及するパワーがある。それでも僕は、鎮座DOPENESSの、植木等のスーダラな楽天性をこの時代に引っ張り出してきた嗅覚と、ファンキーでソウルフルなラップ、この国でしか生まれ得ない素晴らしく雑食的な感性――ダンスホール、ファンク、ソウル、フォーク、歌謡曲から忌野清志郎まで――を支持したい。鎮座DOPENESSの世界観をうまく捉えた菱沼彩子のキュートなイラストもとても良かった。『ザ・ブループリント3』がオバマ大統領就任に胸躍らせるアフリカン・アメリカンによるヒップホップだとしたら(冒頭の"WHAY WE TALIKIN` ABOUT"を聴いて欲しい)、『100%RAP』は政権交代以降、いまや一国のトップさえ経済成長に疑問を呈する国の怠け者による最高のサウンドトラックと言える。ボブ・マーリー風に言えば、「EVERYTHING IT`S GONNA BE ARLIGHT」という感じか。朝寝坊と電話で上司に遅刻の言い訳をする"朝起きて君は..."を聴くと、自分の苦い過去を思い出しつつ、笑ってしまう。こういう可笑しみのあるストーリーを書けるのも鎮座DOPENESのオリジナリティだ。
[[SplitPage]]アメリカでは、ドレイク、キッド・カディ、ワーレイはギャングスタ・ラップを更新する新たな時代のスター(3人は、昨年、米『GQ』誌の「Gangsta Killers」という記事でフィーチャーされた)としても注目を集めている。鎮座DOPENESS、PSG、S.L.A.C.K.(PSGのメンバー。ラッパー/トラックメイカー)の登場はその動向との奇妙なシンクロニシティがあって、00年代、この国のアンダーグラウンドで市民権を得た、上昇志向をキーワードとする所謂ハスリング・ラップ/ハードコア・ラップとは別の流れを今後生み出す契機に間違いなくなるだろう。昨年末、鎮座DOPENESSが、MSCの所属するレーベル〈Libra〉が主催するフリースタイル・バトルの全国大会〈UMB〉で優勝したのもその予兆と言えるかもしれない。

マクロに視れば、今の日本(あるいは諸外国)はアメリカの金融危機の余波による不況といった景気循環のひとつの局面ではなく、資本主義というシステムが再考されるべきレヴェルに達していると言う学者もいるぐらいで、事実、自分たちのライフスタイルを根本的に変えないと生き残れない時代に突入しているとの実感をヒシヒシ肌で感じている。実際、昨年末、アメリカで黒人若年層の失業率が34.5%に達したというニュースが報じられた。日本はまだそこまで絶望的な状況ではないけれど、頭ではわかっていても、いつまでも右肩上がり幻想が体から抜けない人はこれから生き残るのは難しいだろう。元々のこの国のありように何の期待もしていなかった(社会に無関心というわけではない)僕は逆に気楽な気持ちでいる。むしろ期待に満ちている。鎮座DOPENESS、PSG、S.L.A.C.K.の低空飛行は、そんな気分にしっくりくるものがある。彼らへの期待も高まるというものだ。
PSGのデビュー・アルバム『DAVID』と、弱冠22歳のS.L.A.C.K.のセカンド・アルバム『WHALABOUT』は、本当にわくわくしながら聴いた。S.L.A.C.K. の甘いソウルの感性やトリッキーなビートは、スラム・ヴィレッジやマッドリブを彷彿とさせるが、団塊の世代や大人に毒づく"ANOTHER LONELY DAY"のドキッとするような物言いはパンキッシュですらある。これは僕の今年の1曲だ。まったく末恐ろしい若者が登場したものだ。『David』に破壊力のあるミキシングやマスタリングが施されればもっと良かったと言う人の意見には賛同するけど、とはいえ彼らのユニークなアイディアやSF的発想力には目を見張るものがある。また、ヒップホップ、ハードコア、レゲエが衝突するCIA ZOOのラッパー/トラックメイカー、TONOのファースト・ソロ『TONO SAPIENS』の、カッコ良い! という言葉が思わず口からついて出てくるような疾走感には痺れた。スピードという点においては、トゥー・フィンガーズと同じぐらいの速さがあっただろう。彼ら新世代のアクトは、前時代的な所謂海外コンプレックスを独自のやり方で克服しようとしているように見える。そんな彼らの試みはまだ過程にあるものの、邦楽や日本文化への偏重から来る閉塞とは明らかに別の次元で鳴っている。
[[SplitPage]]他にもいろいろあった。DJ BAKUによる日本語ラップ・オムニバス『THE 12JAPS』には強い変革の意志を感じたし、KILLER-BONG(K-BOMB)の日々の実験と奔放なサンプリング・センスの成果をまとめた『LOST TAPES』には相変わらず輝くものがあった。年末におこなわれた、K-BOMBが所属するTHINK TANKの、ダブやフリー・ジャズの感性をヒップホップ・ライヴに落とし込んだタイトな復活ライヴには興奮したが、あの黒く狂った息吹はより多くの人の耳に吸い込まれていくことだろう。(今年のイヴェントだが)先週末、プライヴェートのこんがらがった日々から来るであろう痛々しさと力強さを剥き出しにしたRUMIの『HELL ME NATION』の告白的なリリース・ライヴから目を逸らすことができなかった。RUMIの、女性の加齢について大胆に切り込むラップは特別なものだ。あんな風に女性が肌の小皺と弛み(!)について歌う姿を僕は他で聴いたことがない。マッチョ男を縮み上がらせる、あの勇気にはマジで恐れ入る。応援するな、という方が無理な話だ。
ぶっちゃけて言うと、最近なんとなく気づいたのだけど、僕は00年代に一度、音楽が「必要ない」生活を知らず知らずのうちに送っていたのだと思う。曲がりなりにも音楽ライターという肩書きの人間が何を言っているんだと思われる方もいるだろうが、当たり前の話、音楽を追いかけるよりも優先しなければならないことや不意に訪れるアクシデントや熱狂が時に人生には起こるし、だからこそ音楽を強く欲することもできる。さらに言えば、つまらない「ミュージック・ラヴァー」とか「音楽ファン」には絶対になるものかという妙に捻くれた気持ちと既存の窮屈なシーンなるものへの違和感から生じた性急な音楽への愛の表現は、町中で大騒ぎしたり、踊りまくるエネルギーへと変換されていたのだ。まあそこには政治的な動機やもっと様々なモチヴェーションがあったのだけど、細かいことは原稿のテーマとずれるので書かない。今でもそんな一方的な音楽へのむちゃくちゃな想いは心の底にあるものの、ここ1、2年、もう少し素直に音楽ファンとしての気持ちを大事にしようと思えるようになった。
だからというわけではないが、2009年はここ数年でいちばんCDを買った年だった。他の年と比較してもダントツに買った。メジャー/インディともに面白いものがたくさんあった。配信への移行が進み、CDが売れないと言われる時代に逆行するようにレコード屋によく出かけた。CD/レコード文化を守ろうとかいう大それた使命感などはないが、前よりCDを買う経済的余裕が出てきて(たいした余裕じゃないけど。2、3年前はあの経済状況でよく生活できてたなぁ)、しかもこれまで以上に音楽を聴くのが楽しかった。単純に音を求めていたし、新譜を聴くことに喜びを感じていた。
[[SplitPage]] 正月の帰省中、高校時代にレディオヘッドやニルヴァーナのコピーまでしていた結婚間近の地元の男友達が、婚約者の運転する車の中で流行りのアイドル・グループの曲を「セクシーだよねー」と何気なくかけていて、音楽との付き合い方も変わるものだなと思ったのだけど、それが良い悪いとかじゃなくて、彼との関係も含め、あぁ、お互い随分変わったなと感慨深かった。僕が生きている社会と彼の社会はまったく別のところにあるという当然の事実を、ブラコン歌謡風の軽快なダンス・チューンを車内で聴きながら感じていた。突き詰めれば、そういう距離感や現実認識の中で僕は音楽について考えている。
そこでKREVAの『心臓』は、このチャートの中で唯一あの車の中で鳴っていても違和感なく聴けたはずだなと思った。『心臓』は絶妙なバランス感覚を有していて、密室的なラヴ・ソング集としても、ある意味ブラコン歌謡の最新形としても、R&B寄りのヒップホップ・アルバムとしても聴ける。つまり、大衆音楽として強度のあるアルバムだ。去年、家で繰り返し聴いた1枚だ。他方、KREVAが参照したのと同じUSアーバン・ミュージックやスタジアム・ロックばりの派手なギターを消化してオリジナルなサウンドを作り上げたSEEDAの通算7枚目のアルバム『SEEDA』は、自民党と民主党の固有名を挙げてストレートな政治批判を展開する "DEAR JAPAN"がいい例だが、SEEDAの内省と外(社会)に向かう気迫が融合したアヴァン・ポップな作品だった。騒々しく飛び交うシンセ音には圧倒されっぱなしだったが、今にも安室奈美恵がセクシーに歌いだしそうな"FASHION"のキャッチーさにもやられた。どちらが知名度の意味でポピュラーかと言えば、もちろんKREVAだが、どちらにポップ・ミュージックとしての突破力を感じるかと言えば、僕はSEEDAに軍配を上げたい。
S.L.A.C.K.やKREVAやSEEDAらのメロウでスウィートなテイストを持った楽曲はソフトな耳ざわりと裏腹に挑戦的な試みでもある。年末、オリコン・デイリーチャートで最高5位を記録したSEEDAの復活シングル「WISDOM」はその路線におけるひとつの結実だろう。シングルでは、七尾旅人とやけのはらの甘く切ない「ROLLIN` ROLLIN`」も最高だった。00年代中盤、MSCやSEEDAがファッション化していたストリートという概念に対抗的で野性的なニュアンスを注入して、ストリート・ミュージックとしてのヒップホップを再定義して以降の次なる展開の予感さえ感じる。昔はストリートなんて言葉は白々しくて使いたくなかったけど、彼らの出現以降、その言葉を使うことにそこまで躊躇しなくなった自分に今さらながら気づいたりもした。
まだまだ書きたいこと、突っ込むべきことは山ほどあるが、時間切れ。ムーヴメントと言うにはまったくてんでばらばらなこのシーンが10年代に果たしてどんな展開をみせるかは予測がつかないが、僕はアンビバレンツな、一筋縄では行かない気持ちを抱きながら、この国の大きな情勢から見れば、ほんの小さい、マイナーなムーヴメントをいまはどこまでも肯定しよう。それは去年1年間で熟成された気持ちで、2008年までは言えなかったことだ。2010年も刺激的な年になるに違いない。
■Top 20 Hip Hop albums of 2009 by Shin Futatsugi
1. 鎮座DOPENESS/100%Rap(W+K東京LAB /EMI)
2. Jay-Z/The Blueprint 3(Roc Nation/ユニバーサル)
3. PSG/David(ファイルレコード)
4. Seeda/Seeda(Concrete Green)
5. S.L.A.C.K./Whalabout(Dogear Records)
6. Drake/So Far Gone(October's Very Own)(mixtape)
7. Kid Cudi/Man On The Moon:The End Of Day(G.O.O.D/ユニバーサル)
8. Tono/Tono Sapiens(CIA REC)
9. Two Fingers/Two Fingers(Big Dada/Paper Bag Records)
10. Rumi/Hell Me Nation(Popgroup)
11. Mos Def/The Ecstatic(Downtown/Hostess)
12. ECD/天国よりマシなパンの耳(Pヴァイン)
13. Killer Bong/Lost Tapes(Blacksmoker)
14. Skyfish/Raw Price Music(Popgroup)
15. Shafiq Husayn/Shafiq` En A-Free-Ka(Rapster)
16. Keri Hilson/In A Perfect World...(Mosley/Interscope/ユニバーサル)
17. Kreva/心臓(ポニーキャニオン)
18. DJ Baku/The 12Japs(Popgroup)
19. Killa Turner/B.D.&Roverta Crack/Nipps/the sexorcist presents Black Rain(Tarpit Records)
20. Raekwon/Only Built 4 Cuban Linx... Pt.2(Ice H2O/EMI)
次点
The-Dream/Love VS. Money(Def Jam/ユニバーサル)
Wale/Attention Deficit(Interscope/Allido)
Rihana/Rated R(Def Jam/ユニバーサル)
Pitbull/Rebelution(RCA/Jive)
Ghostface Killah/Ghostdini Wizard Of Poetry In Emerald City(Def Jam)
Common/Universal Mind Control(Geffen/ユニバーサル)
Dudly Perkins/Holy Smokes(SomeOthaShip/E1)
スチャダラパー / 11(エイベックス)
Issugi/Thursday(Dogear Records)
O2/Stay True(Libra)
鬼 /獄窓(赤落PRODCUTION)
Juswanna/Black Box(Libra)
SD Junksta/Across Tha Gami River(Yukichi Records)
V.A/Chocolate Factory#2(Ing Records)
Zen-La-Rock/The Night Of Art(Awdr/Lr2)
般若/Hanya(昭和レコード)
サイプレス上野とロベルト吉野/Wonder Wheel(Almond Eyes/Pヴァイン)
the techno of the year! ルシアーノ。
いよいよゼロ年代も終わろうとしてる。あっという間すぎて、とりとめがなさすぎて、消化しきれてないこの10年。その様相をギュッと凝縮したようにまったくもってカオスで行く末もなにも不明瞭だった今年。いろいろ話していく中で"テクノはNGワード"というショッキングなトピックすら出てきたが、こうなったら行くとこまで行ってしまえという思いも湧いてきたのだった。
そもそも40すぎのおっさん一個人が体験できることなんてたかが知れてるし、「それで総括なんてちょっとおこがましいだろ」わたしの中のガイアがそう囁く。実は去年も某ではなく亡R誌の総括企画でいろいろ違う立場、違う世代のひとたちと語らって結構収穫があったのを思い出し、さっそく身近で現場にいちばん近いひとたちに声をかけた。ひとりは〈ageHa〉で積極的に旬のアーティストを招聘し、日本のDJたちもバシバシ登用してるパーティ〈CRASH〉のオーガナイザーの荒木くん、もうひとりは貴重なアナログを試聴して買える店舗として渋谷でがんばっている〈Technique〉のテクノ担当バイヤー佐藤くん。ふたりとも、それぞれの視点でなかなか外からは見えないことを語ってくれた。その貴重な発言を織り交ぜながら、09年を振り返ろう。
今年意外だったリヴァイヴァル現象のひとつは、ハード・テクノが復活の兆しを見せたこと。ちょっと前までは"最も需要のないジャンル"とまで言われたハードテクノ/ミニマルが、息を吹き返した。
「自分がテクノを好きになるきっかけのアーティストのひとりで、ルーク・スレイターは毎年呼んでるんですけど、今年はPlanetary名義のアルバムも出て、ヨーロッパでも評判が良くて調子も戻ってきてるって話を聞いて、すごい嬉しかったですね。一時低迷してる感じもあったでしょう。実際好調だっていうのを反映するように、DJプレイ自体すごく良かったし。このあいだ〈Drumcode〉のパーティで来たAdam Beyerもハードだったけどテクノ! って感じのプレイで、燃えました」(荒木)
ベルリンで"世界一"との称号を得るクラブ〈Berghain〉が核となったこの動き、ルークのPlanetary Assault Systems名義のアルバム『Temporary Suspension』 が〈Berghain〉の運営するレーベル、〈Ostgut Ton〉からリリースされ、またWIRE09のハイライトになったLen Fakiが同クラブの公式盤としてリリースしたミックスCDも素晴らしかった。両者とも、クリック~ミニマルの流れは意識しつつも、図太いキックを響かせハードなサウンドの復活を象徴していた。
「レーベルだと〈Blueprint〉とか〈Downwards〉が復活して、リイシューも含めると結構な数がリリースされる状況です。硬質なテクノはきてますね。ただ、シーンがハウス的なものばかりになってしまった反動で、30歳前後のかつてのハード・ミニマルの隆盛を知ってる層がまた聴きだしたという印象で、若いひとが新鮮に感じてるということはないんじゃないかなぁ。このあいだのSurgeonのDJでもフロアの年齢層高かったし」(佐藤)
昨年のリーマン・ショック以降の世界恐慌一歩手前という経済状況は、もちろんクラブ/音楽業界にも寒風を吹かせた。特に欧州では意識変革や時流とも相まってアナログ盤のセールスの激減という事態に結びつく。Native InstrumentsのDJ用ソフト開発に関わっている人物によると、ドイツでのヴァイナルの販売数は今年1/3にまで落ち込んだそうだ。しかし、日本の状況はどうかというと、意外に市場全体の規模としては急激に縮小してるわけではないという。
「レーベルだと〈Cadenza〉、もしくはリカルド(・ヴィラロボス)絡みのものだと、100~200枚売れることもありますが、それが最大。昔はウチだけで数百なんてよくある数字だったんですけどね。普通のものは10~30枚とかですよ。ただリリースの数がものすごく増えて、だから全体としてはそこまでセールスが落ち込んでない。ドイツのディストリビューターのひとと話したら、やはり多くのレーベルがアナログは全世界で300枚くらいしか売れないと言ってますね。そうなると日本はマーケットとしてすごくでかいし、次の展開としてアジアをどうにかしようと考えてるみたいです。ただ、そこまでプレス枚数が減ると値段上げて売り切りでもペイできないだろうし、DJとしてブッキング増やすためのプロモーション・ツールになってきてる」(佐藤)
実際のところアナログ盤を買うというのは、ある種の贅沢行為もしくは奇特な趣味になりつつあるのかもしれない。今年はまったく面識ない若い子と一緒にDJする機会が何度かあったけど、PCかCD-Rでやってるケースが大半で、ターンテーブルはもう物置場と化してるわ、カートリッジもついてないわ、隅のほうに縦置きされてるわで、なんとも悲しいブースだった。もっと名の知れたメジャーな箱でプレイしてるDJたちにしても最近は「アナログ使いますか?」と事前に確認されるとか、そうでなくてもデジタル・ソースで良く聞こえるようにPAが調整されていてアナログだとイマイチというケースも増えているそうだ。そして、11月末にはついにオーストラリア発で「パナソニックがテクニクスのターンテーブルの生産を中止する!」という噂までネット中を駆け巡り大騒ぎになった。ひとまずそれはガセと否定されたが、いつそんな状況になってもおかしくない、というのが現実か。
09年の最大のフロアヒットがリカルドのレーベル〈Sei Es Drum〉から出たRebootの"Caminando"もしくはルシアーノが半年以上かけてプッシュし続けたMichel Cleis"La Mezcla"であることは疑いないだろう。両方とも、フォルクローレ・ミニマルという今年の一大潮流となったトレンドを規定するような仕上がりで、実際南米の楽曲をもろにサンプルしたトラックだが、目の付け所やループの組み方など絶妙でまさに時代にフィットした感があった。リカルドは現在もアナログ・オンリーでDJしているし〈Sei Es Drum〉はデジタル・リリースをやってない。ルシアーノは現場ではPCを使っているが〈Cadenza〉は大半のリリースでアナログ重視の姿勢を貫いている。日本でも石野卓球や田中フミヤといった影響力のあるプレイヤーがいまだアナログにこだわっているといったように、ロールモデルになるトップDJたちの姿勢によってなんとかまだ最後のエリアは死守しているという状態だろうか。なにせ、Loco DiceやChris Liebing、Josh Wink等の例を持ち出すまでもなく、ほとんどのインターナショナルDJはすでにデータでのプレイに移行しているからだ。
「でも例えばDaniel Bellとか、Sascha Dive、Cassy、それとレーベル〈OSLO〉周辺のアーティストなんかはみんなアナログが大好きで、影響力あると思います。うちにも来るけど、ユニオンで中古盤買うのが楽しみみたいですね。ドイツだといい中古盤はあまりなくて、値段も高いからって。DBXなんて、ユニオンに行くために東京をツアーに組み込んでるんじゃないかな(笑)」(佐藤)
さらに09年は、完全にインプロビゼーション的な手法を持ち込んだライヴを行うアーティストが成果を見せ始めた年だったとも言える。テクノのライヴというと、ラップトップとにらめっこというのが普通だったが、ついにそこから大きくはみ出すことをテクノロジーとアイデアが可能にした。例えば、年明け早々に日本でも見られるMoritz Von Oswald Trio(モーリッツ翁とマックス・ローダーバウワー、ヴラディスラヴ・ディレイのユニット)が数々のステージでの実験を発展させて素晴らしいアルバムに結実させたし、ルシアーノはレーベルの若手Reboot、Lee Van Dowski、Mirko Loko、Digitaline、そしてアルバムにも参加したハン・ドラムのOmri Hasonがそれぞれ演奏する音の要素、さらにはシンクロする映像をMac上のソフトで自在に操り、誰の音が流れているか一目でわかるように光でアイコン化するという画期的なステージAEtherを展開。世界中をツアーして驚かせた。ラップトップを使いながらもその場で自由に音を組み立て、多人数で空間を作りあげるという実験はほかにもRichie Hawtinが多くのプロデューサーたちと積極的に行っている。
[[SplitPage]]さて、ele-king的にはあまり注目されない部分ではあると思うが、無視できない人気と勢力を維持しているのがエレクトロのシーンである。ベルギーで毎年行われている巨大テクノ・フェス"I ・ Techno"の公式コンピCDで、昨年Boys Noize、今年はCrookersがミックスを担当しているのは衝撃的だ。"テクノ"と銘打ってはいるが、実際のところメインどころで鳴っている音は巷でいうところのエレクトロが大半という事実。ある意味行くところまで行ってしまった"テクノ"のストイックすぎる音の対極にある派手で下世話でエネルギッシュなこの手の音が、昔でいうならレイヴ、ハードコアと同じような文脈で若いクラバーに支持されているのはよくわかる。〈WOMB〉が幕張メッセに出張して行う大規模イヴェント〈Womb Adventure〉は、2年目となる今年も、Richie HawtinとDubfireのユニットClick 2 ClickとDigitalismやDexpistolsが隣り合ってプレイするという普段のクラブ・イヴェントではなかなかお目にかかれない取り合わせを実現していた。
「DEXのやってるレーベルの若いアーティストでMYSSっていう2人組がいて、まだ22歳くらいですっごい若いんです。ここ数年でDJはじめてガーッと人気が出てきたっていうヤツらなんですが、去年の〈Womb Adventure〉に行ってリッチー知らなかったですからね! でも、かけてる曲聴いてると結構テクノなんですよ。あれは衝撃的だったな。僕らとは全然成り立ちが違うんだなと思って。曲は耳で聴いて採り入れてても、それをテクノとは認識してないんでしょうね」(荒木)
レコード店に足を運ぶのも、テクノのパーティで踊るのも、30歳から下というのが極端に減っているという。一方で、どんどん若い世代が飛び込んで育ち始めているのがエレクトロだと。極端ではあると思うが、同じ音でもテクノとラベルづけされるといきなり「暗い・難解」的なイメージで、人が呼べないという危惧があるからだって。なんたることだ! 今のエレクトロのDJやアーティストすべてが敬ってもいい"I'm a Disco Dancer"と"Popper"の生みの親であるChristopher Justさんなんて、いつのまにか「エレクトロの人気アーティスト」と宣伝されるようになっていたからなぁ......。
では、テクノの文脈でまったく新しいひとたちが出てきてないのかというと、そんなことはない。ロンドンとベルリンを拠点とする世界最高峰のエレクトロニック・ミュージックのサイト「Resident Advisor」が先日発表した読者投票によるトップ100DJのリストをみれば、多くの大御所たちを押しのけてたくさんのフレッシュな名前を見つけることができる。Marcel Dettmann、Magda、Ben Klockといったミニマル勢、Dixon、Nick Curly、Omar-Sといったハウスを新しいカタチで提示する連中も元気だ。では、日本のアーティストは......?
「海外でレコードでてるアーティストはたくさんいるんですよ。でも、日本のリスナーやDJはあまり日本人の作品プッシュしない印象ですね。メディアも取り上げないし、レコード出たからといって人気に火がつくわけでもなく、積極的にリリースしてるレーベルも〈Mule〉くらいですからね」(佐藤)
う~ん、たしかに。〈Poker Flat〉からもリリースするRyo Murakami、〈Minus〉や〈Immigrant〉などからリリースするRyoh Mitomiなどポツポツと新しいアーティストはいるが......。「ベルリンでプレイと言ってもギャラもあまり出ず、帰ってきてからのプロモーションになるかなという感じでやりに行くというケースも多いですよね。自費でいいなら来いよ、みたいな。やはり向こうに住むくらいでないと、難しいかも」(佐藤)。Akiko KiyamaやDen等のように拠点をベルリンに移すアーティストも中にはいるが、やはり距離と言葉の問題、それはITがこれだけ発達して、世界が狭くなったと言っても20年前と変わらず大きな壁なのだ。「ただ、店という場所があるし、アーティストのサポートしたいんで、どこのレーベルにアプローチしたらいいかとかいろいろ相談にものるし、レコードが出たらバックアップできるように多めにストックして在庫切らさないようにするんです。そうやってうまくリリースにつながったり、少しでも活動しやすくなれば嬉しいですよね」(佐藤)
今冬は気候も懐もずいぶん寒さが厳しい感じ。ついつい引きこもってぬくぬくしてても楽しいかもなどと自分をごまかしてしまいがちだ。特に今年後半一気に日本でもブレークしたTwitterのようなひととひとのつながりをうながす属人性の高いウェブサービスのおかげで、再会やあらたな出会いそんなもろもろが楽しい(テクノに限らずDJやクラブ音楽関係者もたくさんいる!)けれど、それでなにかを「わかった」気になってしまうのはいちばん危険。最後に、先日アルバムのリリース・ツアーを終えたDJ Tasakaがつぶやいていたツイートを転載しておこう。
「各地で会った皆さんありがとう。どこもそれぞれかなりの手応え。特に印象的だったのは神戸と大分。09年の日本のテクノ・パーティに関しては"東京が中心でその他の都市はそれを追う地方"的図式で見てしまうと、本質を完全に見誤るだろうことがよくわかりました」
「各地でパーティに熱意を持っている人達同士がリンクできる余地、まだまだありそうです。伝えて、広めて、続けるための環境作りに関して、みんな同じベクトル向いてる」
※ 月イチで国内外の旬なDJをフィーチャーする日本最大規模のテクノ・パーティ〈CRASH〉、来年一発目のオススメは2月に、〈Yellow〉や〈Unit〉を揺らし続けてきた〈REAL GROOVES〉との共催で、アルバムをリリースしたばかりのサンフランシスコのClaude VonStrokeなど多数のゲストを迎えてのフェス仕様で行うパーティ。詳細情報は〈ageHa〉もしくは〈REAL GROOVES〉公式サイトでチェックを!
■hot techno releases 2009
(ALBUM)
Moritz von Oswald Trio / Vertical Accent (Honest John's)
Planetary Assault Systems / Temporary Suspension (Ostgut Ton)
Len Faki / Berghain 03 (Ostgut Ton)
Mirko Loko / Seventynine (Cadenza)
Luciano / Tribute To The Sun (Cadenza)
Josh Wink / When A Banana Was Just A Banana (Ovum)
DJ Tasaka / Soul Crap (Ki/oon)
Laurence / Until Then, Good Bye (Mule Electronics)
Telephone Tel Aviv / Immorate Yourself (Bpitch Control)
Shakleton / Three EPs (Perlon)
Crookers / Put Your Hands on Me (Southern Fried)
Reboot + Sascha Dive / From Frankfurt to Mannheim (Cecille)
Mihalis Safras / Cry For The Last Dance (Trapez)
Tiga / Ciao! (Last Gang)
Peaches / I Feel Cream (Warner)
La Roux / La Roux (Polydor)
Jesse Rose / What Do You Do If You Don't? (Dub Sided)
Ben Klock / One (Ostgut Ton)
2000 and One / Heritage (100% Pure)
(SINGLE)
Cesar Merveille & Pablo Cahn Speyer / Descarga (Cadenza)
Mistress Barbara / Dance Me Till The End of Love (Iturnem)
Depeche Mode / Wrong (Magda's Scallop Funk Remix) (Mute)
Laurent Garnier / Gnanmankoudji (PIAS)
Nick Curly / Series 1.1 (8Bit)
Timo Maas / Subtellite (Cocoon)
Radio Slave / Koma Koma (No Sleep Part 6) (Rekids)
Electric Rescue / Devil's Star (Cocoon)
Sis / Mas O Menos (Titbit Music)
Felipe Venegas & Francisco Allendes / Llovizna EP (Cadenza)
Orlando Voorn feat. Obama / Yes We Can! (Night Vison)
Michel Cleis / La Mezcla (Cadenza)
RV feat. Los Updates, Reboot / Baile, Caminando (Sei Es Drum)
La Pena / 004 (La Pena)
Steve Bug / Two of A Kind (Pokerflat)
Markus Fix / It Depends On You (Cecille)
Bloody Mary / Black Pearl (Contexterrior)
Gavin Herlihy / 26 Miles (Cadenza)
DJ T / Bateria (Get Physical)
Sebo K & Metro / Saxtrack (Cecille)
Click Box / Wake Up Call (M_nus)
Chris Liebing, Speedy J / Discombobulated , Klave (Rekids)
The Mountain People / Mountain People 08 (Mountain People)
Deetron / Zircon+Orange (Music Man)
Tiga / Beep Beep Beep (Soulwax+Loco Dice Remixes) (Different)
Paco Osuna / Lemon Juice (Plus 8)
Proxy / Who Are You? (Turbo)
Adam Port / Enoralehu (Liebe Detail Spezial)
Jesper Dahlback / Roda Rummet EP (Acid Fuckers Unite)
Massimo Di Lena / Gypsytown (Cadenza)