![]() 石橋英子 Imitation of life felicity |
あるとき、ある音楽を憑かれたように聴き続けたり、突然放りだしたりするのは、なにもあなたが飽きっぽいからでも狂っているからでもない。私なぞ商売柄つい使ってしまうが、ジャンルという早見表のほかに、音楽には(音楽だけではないが)形式を構成する要素を配置する力があり、構造がある。と、やおら小難しく書きだしてしまいましたが、なんのことはない、私は私たちの心情の総和として、こんな音楽が聴きたいよね、というのがあるといいたいのです。時代のムードとも耳の季節感ともいえるものだ。その一方で「いま聴きたくない音楽」というものもやはりある。むしろ、季節感を考える上では聴きたくない音楽を考える方が近道だともいえる。
私は数年前まで、プログレ(と揶揄含みで略してみる)的な装飾過多の音楽をまったく受けつけなかった。中高生の時分は好んで聴いていたはずなのに、いま聴くと、グルーヴに乏しく、ゴテゴテしていて、めまぐるしい。それがしばらく前から、気にならなくなったのはクラシカルあるいはゴチックと形容される音を聴き慣れたせいかもしれないが、ともあれ、構築的な音により惹かれる自分を発見したのは驚きだった。カーヴを曲がって視界が開けるような、継続的なのにあざやかなきりかえしを、私は季節の変わり目とも思ったのだった。
『carapace』から『imitation of life』へいたる石橋英子の変化は音楽の潮流の変化を読みきったものといえる。いや「読み」というほど能動的なものではなく、石橋英子は現在の音楽の背後にある私たちが共有する耳のツボを感覚的に探りあてる術に長けているのだろう、『imitation of life』には"プログレッシヴ"な構築性が基調になっているものの、前作で試みた細やかなソングライティングの発展形ともいえるポップでやわらかな肌ざわりも消えてはいない。マリンバが変拍子をリードするパルスとなり、絡まったリズムの間を弦楽器が縫うインスト・パート、その浮遊する歌、この類い希なアンサンブルは「死んだ人たち」(ジム・オルーク、須藤俊明、山本達久、波多野敦子)の仕業だ。
2012年のロック/ポップスとして自信をもってレコメンドしたい作品である。
私ね、だんだん退行している気がして。最初に戻っていくような感じがするんですよ、いろんな意味で。最初ってカオスだったと思うし、そういう感じになっていく気がするんですよね。
石橋:この前、野田さんに会ったときも「レコメン!」っていわれました。私、レコメンという言葉を知らなかったから「レコメンってなんですか?」って訊いちゃいましたけど、やたらレコメンっていわれるんですよ。
■昨年末に出した紙の『ele-king』(Vol.4)の座談会で2011年のソウカツとして「レコメンがリヴァイヴァルした」といったら失笑されたんですが、石橋さんにこういう作品を出してもらって安心しました(笑)。
石橋:おまえのいった通りだったみたいな(笑)。
■とはいえ、じっさいにプログレシッヴ・ポップと謳っていますし、プログレ的なものを意識していないことはないですよね?
石橋:意識していないことはないですね。とはいえ、これはほとんど冗談みたいなものなんですけど、私のレコーディングの前に(プロデューサーである)ジム(・オルーク)さんのアルバムのレコーディングがあったんです。そのときにプログレのレコードをかけたり、YouTubeで観たりすることが多かったんですね。そのときから「次の英子さんのアルバムはプログレ・エピックだ!」っていわれ続けていたんです。ピーター・ガブリエルがいたころのジェネシスとかジェスロ・タルの『シック・アズ・ア・ブリック』とか。ジムさんは酔っぱらってるし、私は話半分で聴いていたんですけど、一度ジムさんがプロトゥールスでMIDIのレッスンをしてくれたんですね。こういう風につくると各パートのアレンジも考えられて、デモの段階で全体像がつくれるからやった方がいいといわれたんです。それでMIDIでデモをつくっているうちにほんとうにプログレっぽくなってきちゃった(笑)。
■どの曲からつくりはじめました?
石橋:"fugitive"という曲が最初です。この曲は『carapace』の特典用につくった曲で、この曲はギターでつくったんですが、バンド用にアレンジし直したらいい感じになったからいれたんですね。
■ギターを使って曲づくりしたのはどういう理由ですか?
石橋:ガット・ギターをもらったからです(笑)。それで弾いてみようって。
■これまでに弾いたことは?
石橋:ほとんどないです。さわっているうちにできた感じですね。
■そのわりに上手ですね。
石橋:そうかなあ。でも、それをジムさんにライヴで弾いてもらうんですけど、ジムさんは「弾きにくい」ということもありますね(笑)。初心者の変なポジションで弾いているから、弾きにくいみたいですね。弾きにくいみたいですね。じっさいMIDIを使ってつくりはじめたのは"silent running"からです。実質この曲がアルバム用の曲をつくろうとしてはじめてつくった曲です。
■その時点で組曲形式、コンセプト・アルバム的な構成を考えていましたか?
石橋:正直そこまでできないというか、考えてはいなかったです。今回は、バンドのライヴがあるたびに新曲をもっていく感じだったんですね。メンバー全員忙しいので、ライヴの前の練習も一回くらいしかできない。だからある程度詰めないといけない。ドラムのMIDIなんかはヘンな音だから、スタジオでじっさいに叩いたり、ジムさんが「ディス・ヒートみたいなリズム・パターンを叩け」って(山本)達久にいったりしながらつくりました(笑)。
■たとえば"introduction"みたいな曲は一回練習しただけでできますか?
石橋:無理やりライヴでやるんですよ(笑)。楽譜とか譜面にしちゃうと難しくみえるんですけど、やってみるとそうでもないですよ。ほかのひとの音を聴かないとか、そういったやり方で(笑)。
■変拍子の曲を演奏するコツは他のメンバーのリズムに惑わされないということですもんね。
石橋:そうそう。だからなんとなくのグルーヴができていれば、ほかのひとの音を聴かなければできるようになるんじゃないですかね。
■ちなみに、この曲は何拍子の組み合わせですか?
石橋:長いインストの部分は......(といってしばらく拍数を勘定する)達久がいうには(笑)、23と24の繰り返しということでした(笑)。でもそれは達久の数え方なんですが。それにベースはまたちょっとちがくって。
■前のアルバムから何を変えようと思っていましたか?
石橋:意図したのは、やっぱりつくり方かな。バンドでやろうと思っていたから、キャストも決まっていたし、メンバーも決まっていた。このひとのどういう演奏してもらいたいかを考えてつくっていった感じがあります。脚本を書くような感じでした。
■登場人物に当ててつくった感じだったんですね。
石橋:ちょっとした悪戯心みたいなものもありつつ(笑)。
■わざと厳しい演奏を要求してみたり(笑)。
石橋:そうそう。
■完全にバンド・サウンドですよね。
石橋:そうです。
■「もう死んだ人たち」というバンド名はどこからきたんですか?
石橋:私がつけたんですけど、(NHK FMの)「ライブビート」という番組に出演したとき、ラジオ番組だし、見えないだろうと思って(笑)、メンバーはジョン・ボーナムとジャコ・パストリアスとデレク・ベイリーとストラディバリって紹介したんですよ。だからなんとなく、バンド名も「もう死んだ人たち」。それがなんとなくそのまま続いたんです。
■それは石橋さんの理想のメンバーなんですか?
石橋:なんとなく死んだ人を探しちゃったんですよ。じっさいその人たちが集まっても(笑)。
■音楽にならなそうですね(笑)。それで、アルバムの全体像はすぐにできあがりました?
石橋:"fugitive""silent running"ときて、 "written in the wind"、その次が"introduction"でした。その後に"long scan of the test tube of sea"。5曲くらいできあがったあとに、ジムさんに「英子さん、そろそろ簡単な曲をお願いします」っていわれてつくったのが2曲目("resurrection")と最後の曲("imitation of life")だったんですね。それで全曲出揃った感じでしたね。
■坂田(明)さんをゲストに招いたのはどなたのアイデアですか?
石橋:私です。ベーシックを録ったときに、"imitation of life"では坂田さんに吹いていただきたいと思ったんですね。この曲のコード進行ができたときに、世界全体が溶けていくイメージがあったんです。坂田さんのブワーッていうサックスの音は破壊力があると前からずっと思っていてピッタリだと思ったんです。
■このアルバムはある種のメカニカルな側面のある作品ですが、坂田さんの登場によって、すごく混沌とした感じになりましたね。
石橋:グニャっとしたもの、カオスを表現したかったんですよね。
■その余韻が石橋さんの世界に対するものの見方を象徴しているんでしょうか?
石橋:私ね、だんだん退行している気がして。最初に戻っていくような感じがするんですよ、いろんな意味で。最初ってカオスだったと思うし、そういう感じになっていく気がするんですよね。
■そういうとき、音楽はどうあるべきだと思いますか?
石橋:それは明白にはいえないんです。音楽が社会にどう関わっていくべきかというよりも、それ以前に自分がなぜ音楽をつくるのか、という段階に留まっているので。
■その点については、音楽をつくるごとに問いかけがあるんですか?
石橋:なぜ自分がつくる必要があるのか、ということを考えているから、社会に対して音楽がなにができるか、といえば、私は音楽は無力だと思っているし、たとえば困ったことがあっても、音楽は役には立たない。役に立つこともあるかもしれないけど、それはあくまで結果論であって、つくる側が役に立っていると思ってつくれるわけじゃないと思うんです。
■自分の音楽が誰かの癒しになっているとは――
石橋:全然思わない。
■そういう声を聞くことはありますよね?
石橋:ありますけどね。結果として事実として、そういう声は受け止めますが、だからといってそれで自分のやることは定義されないというか、定義されるはずではないと思っています。
■毎回つくることに対するハードルはあるんですか?
石橋:つくるハードルがあるとすると、なぜつくるのかということです。それは毎回思います。曲をつくる課程、フレーズ単位で、ほんとうに必要な音なのかどうか考えますよ。
[[SplitPage]]枠組みから抜けだそうとして、曲として強いものをつくって、歌詞でも壮大な物語をつくる。形式ではなくて。形式を乗り越えることがプログレッシヴだと思うんです。
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■歌詞は7曲でひと続きの物語のような構成になっていますね。
石橋:ライヴのときは歌詞は仮歌だったんですね。時間がないし。ライヴをある程度積み重ねていって、レコーディングでベーシックを録り終わって、曲順が決まってから、メロディと歌詞にとりかかりました。けっこう時間がかかりました。一ヶ月くらいずっと歌詞を書いていましたね。歌詞に関しては、物語性をもたせたいというのはあったかもしれないです。地震が無関係とはいいきれないですが、でもみんなが取り沙汰していないような物語を探すつもりでつくっていたかもしれない。誰もとりあげていない物語、声にだしていないひと、声にされていない物語があるかもしれない、それを探すつもりで歌詞を書いていた気がします。
■内面を直接歌うより登場人物の声に耳を澄ませた、と。
石橋:そういう感じです。今回はパッと言葉を出していく、自分の気持ちを出すのとはちがう、物語を書きたいと思っていたので。
■偏見かもしれませんが、歌手、とくに女性の歌手にはエモーショナルなりがちだと思うんですよ。そういう歌い手とは距離を置きたかった?
石橋:ひとに対してはそういう風には考えはないですが、私が自分のことを歌ってもつまらないと思うんですよ(笑)。でもふりかえってみると、『drifting devil』のときはそれでも、そういうものもあったかもしれない。自分のエゴのようなものが。
■なぜそれが『imitation of life』では変わってきたんでしょう?
石橋:バンドに守られているところがあったと思うんですよ。『drifting devil』のころはひとりで多重録音をしていたし、同時に歌詞も書いていましたから。
■『imitation of life』はバンドとの共同作業の面が強い?
石橋:私の気持ちのなかではそうですね。
■ソロ活動をつづけてきて、あらためてバンド・サウンドに回帰したとき、そのふたつを較べて、どちらがいいとかありますか?
石橋:この前久しぶりにひとりでライヴをやったんですよ。ピアノの弾き語りだったんですが。すごく疲れるな、と思いました(笑)。
■どうして疲れたんですか?
石橋:歌い方が変わるんですよね。声を張って歌っている方が楽なんですよね。バンド・サウンドでアンプから音が出ていて、ドラムがバーって叩いているなかで歌うには声を張らないといけないじゃないですか。ダイナミクスよりも声量が必要になりますよね。その方が私は楽なんですね。それがピアノと自分の声だけになると、恥ずかしさも相俟って(笑)。
■恥ずかしさはまだあるんですか?
石橋:あります。緊張もしているし。声のだし方も変わってきちゃうから、すごく疲れるんですよ。
■楽器を弾いている方が楽?
石橋:作業はともかく、気持ち的にはそうです。歌うのは別の重圧感があります。
■いまご自分の肩書きをあえてひとつに限定するとしたら、なんになると思います?
石橋:なんでしょうね(といってしばし考えこむ)。
■シンガー・ソングライター、器楽奏者、歌手、いろいろありますが。
石橋:全然関係ないですけど、以前「ex SSW」って書かれたことがあるんですよ。
■どういう意味ですか?
石橋:「SSW」がシンガー・ソングライターであることがわからなくて、バンド名だと思われたんでしょうね(笑)。
■元SSWですね。でもそれは暗示的ですね。たとえばCDのオビにジャンル名を書くじゃないですか。その場合、自分の音楽はどう区分されると考えますか?
石橋:ロックじゃないかなあ。
■いまのいい方は半疑問形でしたね。
石橋:ジャンルってわからないよなあ。
■飲み屋のオヤジみたいな質問でもうしわけないですが、まあ飲み屋でインタヴューしているのでしょうがないところもありますが、プログレ四天王だったらどれが一番好きですか?
石橋:四天王?
■えーっと、キンクリ、EL&P、イエス、ジェネシスかな。
石橋:フロイドは?
■諸説ありますからね。ピンク・フロイドも入れましょう。そのなかでどのバンドが一番好きですか?
石橋:そのなかではピンク・フロイドとピーター・ガブリエルがヴォーカルのときのジェネシスです。その他は好きじゃないです。ひと通り聴きましたけど、グッとこない。キング・クリムゾンだったらロバート・フリップのソロの方が好きだし。
■『imitation of life』は(ユニオンの)新宿のプログレ館のお客さんに今回の作品はストライクではない気がしますよね。
石橋:私もそう思います。でもときどき、プログレ館をみているとジュディ・シルとかがあったりしてちょっとうれしくなったりするんですけどね(笑)。
■その端っこにある音楽なのかもしれないですが、ジャンルの音楽ではないと思いました。
石橋:私はプログレッシヴという言葉をほんとうの意味で考えると、ジェネシスがやろうとしていたことなんかがそうだと思うんですよ。枠組みから抜けだそうとして、曲として強いものをつくって、歌詞でも壮大な物語をつくる。形式ではなくて。形式を乗り越えることがプログレッシヴだと思うんです。
私がやっているのは探すことかもしれないですね。
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■ちょっと気が早いですが、次にやるとしたらどういうことをやりたいですか?
石橋:まだ構想段階でボンヤリしていますが、このバンドで次のチャレンジをしたいと思っていることはあります。だけどまだヒ・ミ・ツ(笑)。
野田:ヒップホップ?
石橋:ハハハハ。
野田:エレクトロニクスもまだやってないから。あとドローンもやってないじゃない。
■そういうのはどうですか?
石橋:それはまた別の話ですけど、このバンドでカヴァーアルバムをつくろうという話はありましたけどね。この前のライヴではブラッフォードの"ヘルズ・ベルズ(Hell's Bells)"をやりましたよ。途中まででしたけど。スタジオでふざけそういう曲をよくやってるんですよ。
■石橋:英子ともう死んだ人たち以外で予定していることはありますか?
石橋:ピアノのアルバムを予定しています。
野田:フローリアン・フリッケがモーツァルトのカヴァー集(『Florian Fricke Spielt Mozart』1991年 )をつくったじゃない。それみたいなのをやろうとしているんだよ!
石橋:まあオリジナルの曲なんですけどね(笑)。
■どういう曲調のピアノ曲ですか? モーツァルト、ドビュッシー、ベートーヴェン、バッハ......無数にありますけど(笑)。
野田:石橋さんはベートーヴェンだよ!
石橋:たしかに一番長く弾いてきたのはベートーヴェンとバッハでしたね。
野田:石橋さんはやっぱり庶民派なんだよ。
石橋:ベートーヴェンはロックですからね。
野田:ベートーヴェンは大衆に愛されたからね。
石橋:ドビュッシーのような繊細な音楽を聴くようになったのは大人になってからですよ。
■野田さんは石橋さんの弾き語りの方が好きなの?
野田:弾き語りもこのアルバムも最高ですよ。ダイナミックになりましたよね。だって俺は『drifting devil』を個人の年間ベストにいれたくらいですよ。でもあれをファーストって書いて、「セカンド・アルバムです」って石橋さんに訂正されたんだけどね(笑)。
石橋:実質はファーストですけどね。
■ファーストはそれまでの集大成でしたからね。4作目まできて、ソロ活動をはじめて6年になり、石橋英子のアーティスト像も板についた感じがありますが、あらためてご自分を位置づけるとしたらどうなりますか?
野田:いますごく業界人的ないい方だったね!
■なんでまぜっかえすんですか!
野田:ハハハハ。演奏家としての石橋英子と、歌手=石橋英子ってのはあるでしょ?
石橋:さっきの肩書きの話に戻りましたね(笑)。やっぱわかんないや(笑)。
野田:じゃあさ、歌うたいの自分をどう思う?
石橋:ヘタクソだと思いますよ。
野田:でも歌うのは好き?
石橋:しょうがないから歌っている。
野田:絶対それはウソだよ!
石橋:ウソじゃないですよ! ジムさんにもいわれたのは、ミックスの段階で、「英子さんは歌いたくて歌っているひとじゃないから、ミックスするときにこうなる(歌がひっこんだ)」とはいわれましたね。歌いたいって感じで歌っていたら声の出し方も変わってくるはずなんですよね。今回のアルバムなんかは、バンド・サウンドのなかで浮き出た方がいいような、歌が好きなひとが歌った方がいいような曲ではあると思うんですよ。だけど、私がそうじゃないから、その点は(ジムさんも)困ったみたいですね。でもだんだんライヴするうちに好きになってきましたよ。
野田:シンガー・ソングライターとしての自覚が出てきた?
石橋:それはわからないですけど、バンドのなかで歌うのが好きになってきたのはありますね。
野田:メロディみたいな聴覚に強く訴えるものは一歩まちがえれば、簡単にひとを馴らすことができるじゃない。おなじみのメロディがあってパターンがあって、ようはクリシェだよね。クリシェっていうのはコントロールしやすいものじゃない。でも石橋さんはコントロールしにくいものをやろうとしているから心を打たれるんですよ。
石橋:ありがとうございます。
野田:そうなんだよ、松村! 政治的な問題とか絡んでないんだよ。
■そんなこといってないですよ。
石橋:さっきの話に戻るけど、音楽が社会にとってどういうことができるかという話になると、私は基本的に役に立たないと思っているんです。
野田:必ずしもそうじゃないよ!
石橋:もちろん私はいろんな音楽を聴いて人生が変わったと思っているんですけど、自分がつくる側としてはそうは思わない。
■「役立たずの音楽家が寄り添う事も出来ず海の底に震えて轟く」という歌詞("long scan of the test tube sea")がありますね。
野田:これは敗北宣言なの!?
■敗北主義的な意味ではないと思いますけど。
石橋:そもそも戦いの土俵にあがっていないということかもしれないですね。
野田:最近、サファイア・スロウズって女の子にインタヴューしたときに、彼女はJ-POPを好きにれなかった。なぜなのか訊いたら、与えられるものが嫌いだからという答えだったのね。彼女にとっては自分で探すものの方が価値がある。そういう意味でいうと、石橋英子がやっていることはまさに――
石橋:探すことかもしれないですね。
野田:与えられるものじゃないじゃない。探してたどりつける音楽じゃない。リスナーが能動的にならなければたどりつけない音楽をやろうとしているわけじゃない。それでもかなり今回のアルバムにしても前回のアルバムにしても、リスナーにアプローチしてきていると思うんだよね。
■難曲はありますけど、難解ではないですからね。
野田:レコメン系っていったら石橋さんに怒られたからね!
石橋:怒ったんじゃないです。わからなかったんです(笑)。






























