これまでヴァレンタインとはほとんど無縁な人生を送ってきた、そしてこれからもそのように過ごすつもりだ......が、この「ヴァレンタイン」は気になるね。2011年の注目株のひとり、SBTRKTのヒット・シングルにフィーチャーされたふたりのシンガーによる「ヴァレンタイン」である。すでにシングル発売され話題になっていた曲で、知っている人も少なくないはず。ele-kingからヴァレンタインに無縁なみなさんへのプレゼントということで......。
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これはシンガー・ソングライターのアルバムである。歌は、ジョニ・ミッチェルの『ブルー』、もしくはアントニー&ザ・ジョンソンズのように悲しく美しいソウル、トラックはブリアルとマウント・キンビーがタッグを組んだように暗く透明で、ダブステップ以降のビートを有している。が、これはいま喩えに挙げたどの名前の音楽とも違っている。ジェームス・ブレイクはここ最近では、もっとも実験的なアーティストとして知られているのだ。
2010年の夏前、僕たちの耳を惹きつけたのは"CMYK"だった。ケリスの"コート・アウト・ゼア"という大ネタを、それとわからないように巧妙にサンプリングしたそのポスト・ダブステップのダンス・ミュージックは、アントールドやラマダンマンと同じようにアンダーグラウンドの最前線に躍り出た。それどころか、無名の青年が作った1枚の12インチ・シングルがシーンを大きく揺さぶった。
クラブ・カルチャーのこの新しい夢に僕たちは素早く反応した。慌てて、ラマダンマンのレーベル〈ヘッスル・オーディオ〉から出ている「ザ・ベルズ・スケッチ」、そしてマウント・キンビーのリミックス盤を探した。
それから数か月後にリリースされた「クラヴィアヴェルクEP」で、彼は重厚なベースの上でピアノを弾いた。そして同時期にYoutubeにアップされたファイストのカヴァー曲"リミット・トゥ・ユア・ラヴ(あなたの愛への限度)"で彼は歌った。彼の声帯は、サンプリング著作権をめぐる訴訟を回避するためだけだったとは思えない。いま思えばそれはたしかに、22歳の英国人青年のデビュー・アルバムのイントロダクションないしは予告として申し分のない曲だったのだから。
待望のデビュー・アルバム『ジェームス・ブレイク』には、21世紀のポップの重要課題が含まれている。それは昨今のオートチューン・ブームに象徴されるように、ヴォーカル・トラックにおけるデジタル処理というテーマだ。Tペインをきっかけにオートチューンが流行はじめたとき、わが国でも何人かの識者がそれを批判の対象としたそうだが、しかしそうした「けしからん」という言葉とは裏腹に、ほとんど世界的に、オーヴァーグラウンドでもアンダーグラウンドでもそのブームは途絶えていない。ドレイクのアルバムでもグイードのアルバムでも、ザ・ストリーツの新作でも、あるいはクレヴァの武道館のライヴでも、それはほとんど時代の暗号のように使われまくっている。(それは......その昔ドラムマシンやサンプラーが流行ったときに「これは音楽ではない」という批判があるいっぽうで、機材は容赦なく氾濫したことを思い出させる)
ブリアルの"アーチェンジェル"はそうしたデジタル処理による歌を、オートチューン的なお決まりのポップな音色にするのではなく、深夜の都会のまるで幽霊の声のように仕上げてみせた。ブレイクの"CMYK"は、そして、電子的に加工した歌にさらなるヴァリエーションを与えた。しかもブレイクの手さばきは、ずいぶんと細かかった。彼はまるで、そう、歌のデジタル処理そのものを演奏しているようだった。彼の"芸"は「クラヴィアヴェルクEP」でも披露された。ベースを聴けばわかることだが、そのシングルは"CMYK"と同じようにクラブ・カルチャーを背景に持つ音楽だった。
が、"リミット・トゥ・ユア・ラヴ"は違った。いわゆる"歌モノ"のそれは彼自身が歌う歌で、歌はときにエフェクトがかけられ、あるいは一瞬揺らいでいた。そうした微妙な不安定さと簡素なピアノ、長いブレイク、ダブステップ以降の閉所恐怖症的なビートないしは震えるベース、そして"あなたの愛への限度"という決して楽天的ではない曲の主題がぴたりとハマった。
アルバム『ジェームス・ブレイク』はそのヴァリエーションである。つまり、はなっから"CMYK"を期待している人は間違いなく混乱をきたすものと思われる......(そういう意味でブレイクは、多くの期待を裏切っているかもしれないが、同時にそのことは彼の非凡さを際だたせている)。
1曲目"アンラック(不運)"は、その素晴らしい入口として申し分のない出来の曲だ。変調された歌声と分裂症的なビートの組み合わせの上を、中世の修道院に響き渡るように、オルガンの音が重なっていく。"ザ・ウィヘルム・スクリーム(ウィルヘルムの悲鳴)"もまた、言うなれば映画『薔薇の名前』のようだ。マッシヴ・アタックのダークサイドをさらに実験的に展開しているようだが、反響する音はキングストンのダブというよりも洞窟のそれで、悲しみに沈む"アイ・ネヴァー・リーント・トゥ・シェア(私は分けることを知らない)"はゴシックそのものである。
アルバムは、そして、極北のR&B"リンデスファーネ"から"リミット・トゥ・ユア・ラヴ"へと繋がっている。続いてピアノ・バラードの"ギヴ・ミー・マイ・マンス(私に私のひと月を下さい)"、それから歌を電子的に弄ぶ"トゥ・ケア"でブレイクはさらに愛を懇願する。歌は電子的に加工され、支離滅裂な展開をするが、本質的にはハウス・ミュージックにおけるトーチソング(求愛の歌)のような濃厚なエモーションがある。
そして、ふたたびピアノ・バラードの"ホワイ・ドント・ユー・コール・ミー(何故僕を呼ばないの)"。続く"アイ・マインド"はアルバム中もっともビートが前面に出ている曲で、もっとも怪しく、もっとも混沌とした曲でもある。こうした彼の独創的なリズム感をもうちょっと聴きたかったというのは正直な話......ある。クローザー・トラックの"メジャーメント(測量)"はゴスペルだ。震えるベースが震える歌声の合唱とともに演奏され、曲はあっけないほどピタっと終わる。
ジェームス・ブレイクは、もっと手っ取り早く、簡単にみんなを喜ばせる作品を作ることができたはずである。彼にとって「CMYK EP」や、あるいは「ザ・ベルズ・スケッチ」や「クラヴィアヴェルクEP」のヴァリエーションを考えることは容易なはずだ。が、しかし彼は、まったく別の、ある意味では反商業的とも言える創造的な道を選んだ。そして『ジェームス・ブレイク』は、アートワークの彼のポートレイトがそうであるように、なかば匿名的にぼやけながらも僕たちに強烈なインパクトを与えている。そのインパクトは、これから先のエレクトロニック・ミュージックもしくはポップ・カルチャーに向けられているのである。
作業はきわめて孤独のうちにおこなわれるものだし、もともと愁いを帯びた曲が好きだった。ジョニ・ミッチェルの『ブルー』ばかり聴いてたときもあった。感情に訴えかけるようなものを作りたいという思いはつねにある。
■本当に素晴らしいアルバムができましたね。アルバムの最初の曲、"アンラック"を聴いた瞬間に傑作だと思いました。日本でもあなたのシングルが出るとすぐに売り切れるほどの人気なんですよ。
ブレイク:ありがとう。僕のレコードを買ってくれる人が日本にもたくさんいるというのは、あまり知らなかったな。そうだといいなとは思ってたけど。嬉しいね。
■あなたのファースト・アルバムを楽しみにしているリスナーがとても多いので、よろしくお願いします。
ブレイク:こちらこそ。
■いま住んでいるのはロンドンの......
ブレイク:ブリクストンだね。
■ちなみに生まれはロンドン?
ブレイク:いや、生まれたのはもう少し郊外の北のほうで、エンフィールドってところなんだ。ロンドンの市内からだと車で3~40分くらいの場所だね。
■まず、アルバムの話の前にあなたの音楽的な背景について質問します。あなたが音楽にのめり込んだ経緯について話してもらえますか? 小さい頃から楽器には親しんでいたのですか?
小学校のころから歌っていたね。サム・クックとかオーティス・レディングとかスティーヴィー・ワンダーなんかの古いソウルが好きで、そういうレコードにあわせて歌ったりしてた。
ブレイク:正直あまり、明確なきっかけみたいなものは覚えていないんだけど6歳のころからピアノを弾いていたんだ。というか父親も音楽をやっていた関係で、最初から自然と音楽がまわりにあって、誰に言われるでもなく、という感じだったかな。ギターも持ったことがあったけど、ピアノのほうがしっくりきて、結局ずっとピアノをやることになった。
■「クラヴィアヴェルクEP」、10インチ・シングル「リミット・トゥ・ユア・ラヴ」、そして今回のアルバムはとくにピアノを強調されていますが、ピアノの音色はあなたにとってどんな特別な響きを持っているんでしょうか?
ブレイク:そもそも6歳のころからピアノを習っていたからね。ダブステップに接したのは学生になってからだけど、それよりずいぶんと長い時間を、ピアノと一緒に過ごしてきたので、むしろこちらが自分にとっての自然な姿なんだと思う。
■いつぐらいから自分で歌っていたのですか?
ブレイク:小学校のころから歌っていたね。サム・クックとかオーティス・レディングとかスティーヴィー・ワンダーなんかの古いソウルが好きで、そういうレコードにあわせて歌ったりしてた。
■アルバムを聴くと、あなたはトラックメイカーというよりもソングライターと呼んだほうが適切なんじゃないかと思うのですが、ご自身ではどう思いますか?
ブレイク:うーん......(しばらく沈黙)。他の人が自分にどのうようなラベルをつけても、僕は自分のことをやり続けるだけだと思う。正直どっちでもかまわないかな。トラックメイカーと言われればそうだと思うし、ソングライターと呼ばれても問題ないし、別の何かでもかまわない。
[[SplitPage]]R&Bそれ自体というよりも、R&Bのヴォーカルをサンプリングするやり方、とくにブリアルやマウント・キンビーのやり方に触発されて......というところが大きい。彼らの出音を聴いて面白いなぁと思って、でも同じことをやるのはどうかと思い、自分なりのやり方をできないかといろいろとトライして、ていう。
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■"CMYK"ではケリスの"コート・アウト・ゼア"をサンプリングしていましたが、あなたにとってのR&Bからの影響について話してもらえますか?
ブレイク:R&Bそれ自体というよりも、R&Bのヴォーカルをサンプリングするやり方、とくにブリアルやマウント・キンビーのやり方に触発されて......というところが大きい。彼らの出音を聴いて面白いなぁと思って、でも同じことをやるのはどうかと思い、自分なりのやり方をできないかといろいろとトライして、ていう。それまで他の人がやることに影響を受けて、ということはほとんどなかったんだけど、これに関しては、彼らのことを追いかけながら自分の流儀を編み出していった。
■"CMYK"のように、大ネタをわからないように借用するという手法は、あなたにとってある種の"悪戯"のような感覚だったのでしょうか?
ブレイク:悪戯というよりも、ヴォーカルのサンプリングという手法自体を、もう少し高い次元に持っていきたいというか、それ自体はもう当たり前の手法なんだけど、ひと手間加えてユニークなこと、オリジナルなことをしてみたいという意識があった。
■デスチャの"ビルズ・ビルズ・ビルズ"やリル・ウェインの"ア・ミリー"の非公式のリミックスもしていますよね。ああいうのはあなたにとってどんな面白さがありますか?
ブレイク:実はあれにはテーマがあってね。その名の通りハーモニーを加えているんだ。リル・ウェインとかオリジナルはほとんどビートとヴォーカルだけだけど、いろいろとハーモニーさせてのリワークになってるんだよ。ただのアンオフィシャル、というわけではないんだ。
■アルバムを聴くとあなたがとてもクラバーとは思えないのですが、しかしベースとビートからは確実にアンダーグラウンドのクラブ・シーンとの共振を感じます。あなたとダブステップ・シーンとの関係について話してもらえますか?
ブレイク:はじめて〈FWD〉に行ったときは衝撃だった。それまでダンス・ミュージックのことなんかまったく考えたこともなかったけど、あの日を境にすべてが変わった。それからロジックとかいじるようになって、少しずつトラック制作の技術を身に付けていったんだ。クラブで体験したような音楽をアウトプットしようといろいろと試行錯誤を重ねた。幸運にも〈ヘムロック〉や〈ヘッスル・オーディオ〉と知り合うことができて、ダブステップというシーンの一員に加わることができた。他方でマウント・キンビーを通じてザ・XXなんかと交流を持つようになったり、いま自分が置かれている環境を考えると、自分がどこにいるのかっていうのを言い表すのは簡単ではないよね。もともとロンドンという場所自体が、そういうところだと思うし。
ダブステップのクラブの何が好きかって、とても内省的な空気が流れているんだけど、そこにはとても強い繋がりというか連帯感を感じることがあるんだ。そういう雰囲気にそぐうものができるのではないかと思って、やった。
■あなたのアルバムを聴いていると、音楽はそれぞれ違えど、ブリアルの世界観ととても近いものを感じます。真夜中の街角で、孤独で、そして雨が降っているような情景が浮かびます。あなたにとってブリアルはどんな存在ですか?
ブレイク:ハハハハ。そうだね、ブリアルのすごいところは、ダブステップのアイコンというか、そういう立場でありながら、なおかつそこからかなり逸脱しているというか。彼のファンって、必ずしもダンス・ミュージック・リスナーだけじゃないよね。ダブステップとかクラブとかを超えたところにまでその音が届いている。アンビエント的なファンも多いと思うし。本当に尊敬すべきアーティストだと思うよ。ダブステップ・シーンにとってだけじゃなくて、いまのイギリスの音楽全体にとっての大きな財産なんじゃないかな。あと彼もR&Bなんかのサンプリングをいろいろと駆使しているけど、その使い方や処理の仕方が他の誰よりもズバ抜けてうまいと思う。最近だとマウント・キンビーもそうだけど、それかブリアルか、という感じがするね。
■2009年に「エア&ラック・ゼアオフ」で〈ヘムロック〉からデビューするにいたった経緯を教えてください。その後、どうして〈ヘッスル・オーディオ〉と〈R&S〉からリリースしたのかも。
ブレイク:"エア&ラック・ゼアオフ"は、プロデュースをするようになってから初めて完成させた曲だったんだけど、ある日、リンスかどこかで曲を聴いてくれたジャック(アントールド=〈ヘムロック〉主宰)のほうからアプローチしてきてくれたんだ。ジャックと〈ヘッスル・オーディオ〉の連中はもともと知り合いだったし、よく一緒につるんでいたりもしてたので、その〈ヘムロック〉を通じて〈ヘッスル・オーディオ〉とも仲良くなって......という感じ。〈R&S〉は、マネージャーがもともとそこで働いていた関係で繋がったんだよね。正直このレーベルにドップリな感じのテクノ・キッズではなかったけど、歴史のあるレーベルで、それでいてとても先進的な考え方を持ったレーベルだと思うし、ここでリリースすることができて本当に光栄だった。
■"リミット・トゥ・ユア・ラヴ"が今回のアルバムのはじまりなんでしょうけど、あの曲をカヴァーした理由を教えてください。多くの曲があるなかで、あの曲を選んだ理由はなんでしょうか?
ブレイク:単純に、クラブでかかったらいいんじゃないかと思ったんだ。間違ってもポップ・ソングを作ってヒットを飛ばしたいとか、そういう理由ではないね。ダブステップのクラブの何が好きかって、とても内省的な空気が流れているんだけど、そこにはとても強い繋がりというか連帯感を感じることがあるんだ。そういう雰囲気にそぐうものができるのではないかと思って、やった。
■"CMYK"のようなヒット曲、あるいは「クラヴィアヴェルクEP」に収録された曲を再録しなかったのは、レーベルの契約的な問題ですか? サンプリングの著作権的な問題ですか? それともアルバムのコンセプト的な問題ですか?
ブレイク:アルバムがどういうものになるか、という自分のイメージもあったけど、たとえば"CMYK"はケリスとか使ってるし、物理的に無理、というのもあったよね。
■アルバム全体がメランコリックな雰囲気を持っているのは何故でしょう? あなたの世界の見方がそうなのか? あるいは、あなたの音楽的な好みの問題なのでしょうか?
ブレイク:必ずしも統一したひとつのテーマのもとに制作を進めたわけではなかったけど、ギグやDJの行き帰りに電車のなかでリリックを考えたり、深夜にひとりでコツコツとパソコンに向かいながら曲を作ったり、たいがいの作業はきわめて孤独のうちにおこなわれるものなんだ。それがある程度は影響していると思う。ただもとから愁いを帯びた曲が好きだったりもするけど。いっときジョニ・ミッチェルの『ブルー』ばかり聴いてたときなんかもあった......。
■ああ、なるほど。ジョニ・ミッチェルの『ブルー』の感覚はたしかにアルバムから感じますが、これは間違いなく2011年の音楽です。
ブレイク:感情に訴えかけるようなものを作りたいという思いはつねにあるからね。歌詞に関しては、半分は哀しみや孤独について、あと半分は、もう少し皮肉がきいているようなものなんだよ。ぜひ意味を汲み取ってもらえたらいいな。
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ハイイロ・デ・ロッシとタクマ・ザ・グレイトという若き勇敢なふたりのラッパーによる「WE'RE THE SAME ASIAN」はいわばヒップホップ・アゲインスト・レイシズムである。ラップ・ミュージックによる人種差別や排外主義への強烈かつ的確なカウンター・パンチであり、今日の日本において非常に重要な問題を提起している。
彼らが昨年の11月28日にYouTubeにアップした「WE'RE THE SAME ASIAN」はすぐさまYAHOO! ニュースへ飛び火し、YouTubeには彼らにたいするアンサー・ソングがアップされる。「日本のラッパーが中国、韓国との差別解消を訴える」と題されたYAHOO!の記事には200件あまりのコメントがポストされ、炎上する。"活発な議論"というよりも誹謗中傷の嵐と言ったほうが正しいだろう。コメント欄は差別意識や悪意をむき出しにした罵詈雑言で溢れた。
私たちはこのあいだ、領土問題や在日参政権をめぐる問題などで同じような光景に何度も直面している。アジア・カップの日韓戦の奇誠庸(キ・ソンヨン)の猿まねが日本人に対する侮辱だということで日韓のメディア、ネットで賛否両論の議論が展開されている。
問題なのは、ここぞとばかりに便乗して差別意識や狂信的なナショナリズムを煽ろうとする人びとである。こういうときにこそ私たちは冷静になるべきだ。憎悪や不信や偏見を煽り、争いの火を焚きつけようとする同じ国の人びとよりも、平和と相互理解を求める隣国の人びとのほうが自分たちに近いのではないかと疑ってみることも必要ではないだろうか。ごくごく当たり前の話である。
そう、ふたりは"当たり前のこと"を静かにラップしている。彼らはがなり立てない。メランコリックなジャジー・ヒップホップの上で叙情と情緒をコントロールしながら、静かな声明を差し出している。
明確な政治的主張はないが、開かれた社会性があり、多文化主義と平和主義のコンセプトがある。表現が素直過ぎると感じる人がいるかもしれないが、それゆえの力強さがある。
ヒップホップのアーティストがリスクを背負って、政治的に際どいテーマ(人種差別、排外主義)についての議論の場を作ろうとしたことにたいして私たちは応えるべきだろう。ハイイロ・デ・ロッシとタクマ・ザ・グレイトの勇気ある行動を僕はいまどこまでも肯定しよう。ハイイロ・デ・ロッシに話を訊いた。
オレらは右でも左でもないし、そういう思想は持ってない。ただ、普通に普通のことを言っただけなんですよ。普通にヒップホップだと思うことをやった。そしたら、普通じゃない反応が返ってきたから、ここ(日本)は普通じゃないんだって認知できた。
■「WE'RE THE SAME ASIAN」の問題提起はいまの日本でもっともラディカルなもののひとつだと思いました。
ハイイロ・デ・ロッシ:勇気があったのはタクマだけじゃないですか。あいつはハーフで横浜の黄金町っていう町に住んでいる。昔、赤線があった場所です。家族もそうだし、いわゆる日本人以外のエイジアンのコミュニティが近くにある状態で生活している。だから、渋谷であった反中国のデモや朝鮮学校に石が投げられた事件もダイレクトに入ってくる。もし、彼がやってくれるって言わなかったらあの曲は実現しなかった。ハーフだから、リスクもあるじゃないですか。偏見の目で見られるかもしれないし。
■YouTubeのコメントや反応は見てますか?
ハイイロ・デ・ロッシ:あれこそオレらが狙ってたことなんです。あれを起こそうと思ってた。YouTubeのコメント欄だけじゃなくて、『bmr』のウェブ版のニュースに「WE'RE THE SAME ASIAN」のことが掲載されて、YAHOO!にも飛び火しました。そこに中傷コメントが200件ぐらい来て炎上したんです。あの曲を録っている過程もUSTREAMで配信していたんですけど、2時間ぐらいのあいだに300人ぐらいが見ていた。ツイッターでもRTされまくった。そして、次の日にYouTubeにアップしたんです。最初は、USTREAMを見ている人たちとオレたちの曲だった。でも、オレらがYouTubeにアップした時点で、曲が議論の場所に変わる。それがオレらの理想だったんです。最初は悪いコメントが集中したけど、「これがいまの日本なんだよ」っていうのがオレらが言いたかったことなんです。
■なるほど。確信犯としてやったんですね。
ハイイロ・デ・ロッシ:でも、最近のコメントでちょっとずつ擁護のコメントが増えているんです。擁護が増えて来ていて、反対派と賛成派のやり取りがはじまっている。これでコミュニケーションが活字でもできるじゃないですか。
■いわゆる"ネット・ウヨク"の冷静さを欠いたコメントは酷かったね。
ハイイロ・デ・ロッシ:あれが彼らのベスト・パフォーマンスなんですよ。オレらは音楽でベスト・パフォーマンスをしている。彼らも彼らで、あれがベスト・パフォーマンスだから、オレらもそれを受け入れるべきだと思う。一生懸命考えて、彼らはアレですからね。
■相手を傷つけたい一心で書いている感じがするよね。
ハイイロ・デ・ロッシ:そうです。でも、あれで傷つくんだったら、オレはああいうことは表現していない。それなら表現するのを止めたほうがいい。
■素晴らしいね。
ハイイロ・デ・ロッシ:日本人のコンプレックスがすごく問題だと思うんですよ。アジアでいちばんになりたいというのがあからさまに見えるじゃないですか。でも、正直言って、サッカーも韓国のほうが強いし、パク・チソンがなんでスターにならないの? って思う。日本を除外したすべての国から彼はトップ・プレーヤーとして認められていますよ。でも、日本だったら、いいところ中村俊輔と並べられて報道されるぐらいでしょ。それでも日本からすれば妥協じゃないですか。あれほどの選手がアジアから出たことに誇りを持てない。
■show-kというラッパーのアンサー・ソングにもちゃんと返していましたね。
ハイイロ・デ・ロッシ:あそこで逃げたら文系ラッパーって舐められたまんまじゃないですか。右翼だろうが、ギャングスタだろうが、オレはラップだったらやりますよ。
■僕が、中国人や韓国人にたいする排外主義が嫌なのは単純な話で、その考え方が憎悪や不信や偏見を煽っているからなんですよ。
ハイイロ・デ・ロッシ:話していることが国だったり、自分の手のなかにないものですからね。オレらは普通に人に言っている。オレらは右でも左でもないし、そういう思想は持ってない。ただ、普通に普通のことを言っただけなんですよ。普通にヒップホップだと思うことをやった。そしたら、普通じゃない反応が返ってきたから、ここ(日本)は普通じゃないんだって認知できた。それをずっとshow-kさんへのアンサー・ソングでも言っていたんです。けっきょくは人びとじゃないですか。目の前の人が中国人や韓国人だから態度が変わるわけではない。それを変えようとしてきたのが日本じゃないですか。それがオレらにも染み付いているのはわかるから、ぶっちゃけ自衛でやったのもある。「WE'RE THE SAME ASIAN」はオレらがやらなきゃいけないことでもあった。タクマもいて、いまはLAのヤツらもどんどん絡んできているんです。プロジェクト・ブロウド(LAを拠点とするヒップホップ・コレクティヴ)のヤツらにも日系のアメリカ人やいろんなヤツらがいるんですよ。
[[SplitPage]]テレビやYouTubeを観て危険だって感じることもあるけど、オレたちの場合は横浜が近いし、中華街があるじゃないですか。タクマの家はモロその辺りなんですよ。オレはヤツのお母さんとも普通に仲良いし。やっぱり危険は感じていましたよ。だから、オレらに何かできることはねーかって考えた。
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■これまで僕は、ハイイロくんのラップはどちらかと言えば文学性に重きがあると思っていたから、「WE'RE THE SAME ASIAN」のような曲をああいう形で出したことに驚いたんです。タクマくんたちとの出会いが大きかったんですか?
ハイイロ・デ・ロッシ:もともとそういう考えはありましたね。うちの母親が養護学校の先生なんですよ。そういうことを小学校の先生とかは知っているじゃないですか。だから、特別学級の子が運動会で走る横でいっしょに走る役をお願いされたりとかしていた。オレは良いことをしている気も、悪いことしている気もなかった。だから、友だちの親とかに「すごいね」って言われることに違和感があった。その時点で差別的じゃないですか。家庭内で「差別はまじで止めろ」って言われていた。最初は人種とかじゃなくて、障害に関して親から言われたことが大きかったのかもしれない。
■右翼のデモの熱量も凄いじゃないですか。そういう時代の風向きも肌で感じていました?
ハイイロ・デ・ロッシ:やっぱり危険っすもんね。
■テレビを観ると、戦争を煽るような報道が平気であるわけじゃないですか。
ハイイロ・デ・ロッシ:テレビやYouTubeを観て危険だって感じることもあるけど、オレたちの場合は横浜が近いし、中華街があるじゃないですか。タクマの家はモロその辺りなんですよ。オレはヤツのお母さんとも普通に仲良いし。やっぱり危険は感じていましたよ。だから、オレらに何かできることはねーかって考えた。なんだかんだ批判のコメントが目立つけど、評価も注目もされているし、議論もされているから、狙い通りじゃないですか。モス・デフがブラックスターの歌詞で、「なんでオレがハスリングもしてないし、ストリート・ファイトもできないのにストリートからプロップスを得ているかわかるか? それはお前らよりラップができるからだよ」というようなことをラップしているんです。オレが音楽やヒップホップに求めているのはそういうことです。たとえば、右翼が絡んできたとしても、オレはラップが上手いからラップで返す。show-kさんとのビーフに関しても、あれはタクマが出るべきじゃない。ふたりで返すのが筋だけど、あれ以上はあいつ以外も傷つける可能性があるじゃないですか。だから、オレがひとりで出たんです。あそこでダサいラップをしたらおじゃんだったし、リスクがあったぶん、返って来たものも大きかった。
■あそこでタクマくんを出さなかったことを考えると、今回の曲についてかなり慎重に考えていたってことだよね。
ハイイロ・デ・ロッシ:そうですね。そこを考えないで行ったら、ただの喧嘩ですからね。
■なるほど。ハイイロくんのこれまでのキャリアについて少し教えてもらえますか。
ハイイロ・デ・ロッシ:17歳のときにラップをはじめたんですけど、最初は芽が出る雰囲気がゼロでしたね。20歳のときに活動の場所を地元の湘南から都内に移したんです。ノルマを払うしかない状況を一回作ってみた。そこでエクシーと知り合って、エクシー周りのイヴェントに出はじめました。で、1年ぐらいして〈スライ・レコーズ〉に入った。そこからはとんとんと進みました。去年、セカンドを出して、メンタル的にも身体的にも一度湘南に戻っていますね。湘南でやっていた人も上がってきているし、わりとオレの状態も湘南にフィットしています。
■最初に影響を受けた音楽は?
ハイイロ・デ・ロッシ:いちばん最初はコーンやリンプ・ビズキットを聴いていて、そこからエミネムに行きました。で、コモンの『レザレクション』を聴いて、「これもエミネムと同じジャンルの音楽なんだ!」ってことに驚いた。それからいわゆるネイティヴ・タンやソウルクエリアンズ周りを聴くようになった。いわゆる向こうでナードって捉えられているラッパーもアルバムのなかに一曲はバトル・ライムが入っているじゃないですか。そういうところには忠実でいたいですね。
■ハイイロくんのアルバムを聴き直して、〈ロウカス〉にもかなり影響を受けているのかなって感じました。どうですか?
ハイイロ・デ・ロッシ:そこはほんとにありますね。僕自身がモス・デフにむちゃくちゃ影響されている。モス・デフとQ・ティップが大きいですね。モス・デフはブルックリンだけど、ボヘミアニズムがあるじゃないですか。ああいう風にありたいと思います。Q・ティップのJ・ディラを発掘したりする、人を見つける力、プロデューサーの力をすごく尊敬してますね。タクマはタリブ・クウェリの超信者なんですよ。
■ブラックスターじゃん!(笑)
ハイイロ・デ・ロッシ:そうそう(笑)。あいつと出会って、曲を作るミーティングをしようってなったときに、けっきょく車のなかでタリブのアルバムについて10時間ぐらい話したんです。オレらはタリブのラップに関して超研究していますね。とくにラップの拍の取り方ですね。
■タクマ・ザ・グレイトと知り合ったのは去年?
ハイイロ・デ・ロッシ:17歳ぐらいからお互いクラブで見たりして知っていたけど、その頃はみんな尖っているから、タメとは絡みたくないという気持ちがあるじゃないですか。負けたくないというのもあるし。
■湘南はどんな町ですか?
ハイイロ・デ・ロッシ:アレステッド・ディベロップメントとか合いますね(笑)。
■ゆったりとしている?
ハイイロ・デ・ロッシ:そうですね。良いことかはわからないけど、夢を見て育てる場所ですね。
■以前、インタヴューしたときに話していたけど、ギャングスタ系のラップをしようとしていた時期もあったんだよね?
ハイイロ・デ・ロッシ:それがちょうどエミネムを聴いている時期ですね。スリップノットとかも聴いていたから。破壊したかったんですよね。でも、やっぱり違うということに気づいた。
■破壊というのはどういうこと?
ハイイロ・デ・ロッシ:すべてをぶっ壊す音楽をやりたかったんです。そういう時期だったんでしょうね。でも、コモンや〈ロウカス〉を聴くようになって変わりました。バイオレンスやイリーガルさを出しても、けっきょくラップが下手だったら、意味がないと思った。クラックだらけのジャケットにしても、そいつからその匂いがしなかったらおかしいじゃないですか。匂いがいちばん大事だと思います。その時期にジャズもスゲェ聴くようになった。オレにとってジャズは匂いがすごく強かった。
■どんなジャズを聴いていたの?
ハイイロ・デ・ロッシ:マイルス・デイヴィスの『カインド・オブ・ブルー』をいちばん聴きました。あと、『サムシング・エルス』ですね。いわゆる有名盤を聴いていました。マイルスは白人のビル・エヴァンスをバンド・メンバーに入れたことで叩かれたじゃないですか。マイルスの自伝も読みましたけど、「いいプレイをする奴なら、肌の色が緑色の奴でも雇うぜ」って言っている。その気持ちはオレらも持っていますね。ファーストを作っている頃は、ジャズのネタでラップをすれば、オレが思うジャズ・ラップになると思っていたけど、それは違うんじゃないかなって。トラックがどういうトラックでもオレがジャズなラップをしとけばいいと思った。だから、いまはジャズにそこまで固執しなくなりましたね。
■たとえば、ジェイ・Zのラップを音符にすればジャズに置き換えられるという説もあるけど、そういうのも意識している?
ハイイロ・デ・ロッシ:そうですね。レコーディングのとき、歌詞を読みながらラップするじゃないですか。いくつものヴァージョンを録ってみて、どれがいちばんいいのか、その瞬間生まれるものがある。エンジニアとちゃんと話したほうがいいのか、ひとりで高めてブースに入りっぱなしがいいのか。そのモチヴェーションの作り方はいま現在も研究しています。
■ジャズ・バンドを従えてライヴしたいという気持ちなんかもある?
ハイイロ・デ・ロッシ:いずれはやりたいですね。オレが最終的に目指しているのは、日本人がワンマンで〈ブルーノート〉や〈ビルボード〉でやることなんです。武道館とかじゃないんですよ。
[[SplitPage]]ハイイロ・デ・ロッシはこれまでに『TRUE BLUES』と『SAME SAME BUT DIFFERENT』という2枚のアルバムを出している。音楽的に言えば、流麗なジャジー・ヒップホップを基調としている。タクマ・ザ・グレイトは先日、デビュー・アルバム『TAKUMA THE GREAT』をハイイロ・デ・ロッシ主宰のインディペンデント・レーベル〈forte〉から発表したばかりだ。彼は台湾系ジャパニーズとして横浜の黄金町で育ち、LAで活動していた時期もある。日本語、北京語、英語を巧みに織り交ぜながらスムースにフロウするスタイルには特筆すべきオリジナリティがある。タクマ・ザ・グレイトが黄金町についてラップする"Sumeba Miyako"は、私たちを"もうひとつの日本"へと案内してくれる。町の匂いが伝わってくる素晴らしい曲だ。これを聴けば、彼らが「WE'RE THE SAME ASIAN」へと至った背景もわかるだろう。
メッセージ云々を言っているヤツらがなんでやらないのって思いますよ。オレはあの曲を聴いて欲しかったから、何人かのアーティストにオレのフォロワーにも見えるようにツイッターでリプライを飛ばしているんです。でも、なんの返信もない。オレらがこういうことをやっているのを評価して欲しいんじゃなくて、知って欲しいだけなんですよ。
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■ハイイロくんのような音楽主義の人が危機感を持って、ああいう曲を作ったことがまた興味深いね。
ハイイロ・デ・ロッシ:逆に言えば、メッセージ云々を言っているヤツらがなんでやらないのって思いますよ。オレはあの曲を聴いて欲しかったから、何人かのアーティストにオレのフォロワーにも見えるようにツイッターでリプライを飛ばしているんです。でも、なんの返信もない。オレらがこういうことをやっているのを評価して欲しいんじゃなくて、知って欲しいだけなんですよ。
■でも、それだけ中国や韓国をはじめとしたアジアの人種問題は多くの人が積極的に触れたくないことだと思う。ある意味タブー視されていることでもあるから。
ハイイロ・デ・ロッシ:でも、それが臭い物に蓋をしていることじゃないですか。反対意見でもいいから反応が欲しかったですね。シカトはないでしょって。
■それだけハイイロくんとタクマくんが勇敢だったということですよね。
ハイイロ・デ・ロッシ:でも、みんなそういうことを言っていませんか? アメリカでもジャマイカでもアーティストは危険と言われるメッセージを伝えようとしているじゃないですか。だから、レベル・ミュージックじゃないですか。一般の人からしたらリスクがあることをやるから、ウォーリアーと言われたり、アーティストと言われるんでしょ。それをやらないでポップス批判していても何にもならないと思うんですよ。
■ほんとにハイイロくんの言うとおりだと思いますよ。たとえば、ハイイロくんが日本のアーティストやラッパーでメッセージの部分で共感できる人はいますか?
ハイイロ・デ・ロッシ:(長い沈黙)......みんな自分のことを言いたいことを言っているとは思いますけど、主張という意味ではオレよりちょい若いぐらいのビートメイカーが主張していますね。ラッパーだったら、気になるのはL-VOKALですね。
■それはどうして?
ハイイロ・デ・ロッシ:PVを観ると、けっこう際どいですよ。狙いでやっているのかは知らないけど。ほんとに面白いです。
■シミラボは知っていますか?
ハイイロ・デ・ロッシ:音源は聴いています。
■日本であれだけ多様な人種的背景のある人たちが登場してきたことに僕は希望を感じますね。平気で人種差別的なことを言う人たちがいるけど、彼らのような人たちが出てくる複雑な現実がある世のなかで、オレはそんな短絡的に物事を考えられない。
ハイイロ・デ・ロッシ:中国批判しているラッパーがいてもいいと思うし、いなくなれとは思わない。ただ、ラフ・ライダーズのジンっていうチャイニーズ・アメリカンのラッパーがいたじゃないですか。あいつとかラップが超上手いんですよ。あのラップを聴いて、あまりの格の違いを感じないのかなと思う。さっきのマイルスの話じゃないですけど、いっしょに音楽をやる仲間は言葉が通じなくても、ラップが上手ければ上手いほうがいいし、トラックがヤバければヤバイほうがいいじゃないですか。音楽において優れているヤツを探すのは、日本のなかだけより、世界で探したほうがいいと思う。日本人だけでいちばんを決めたところで、海外にはそいつよりヤバいヤツらがゴロゴロいるから。シンゴ02が"400"のなかで、「同じ文化の違う世代よりも違う文化の同じ世代、そういう時代」って言っていたけど、まさにそうだと思う。ずいぶん前にそう言っていたけど、いまはそういう時代だと思う。
■いずれにせよ、ここまで議論になったんだから成功ですよね。
ハイイロ・デ・ロッシ:これで危ないことがなければいちばんいですね。
■それはほんとにそうだね。
ハイイロ・デ・ロッシ:成功したってスゲェ言える出来事があったんです。この前、横浜のクラブに遊びに行ったら話しかけて来てくれた子がいて、彼は中国人のハーフで、お母さんが中国人学校で働いているらしいんです。お母さんにあの曲を聴かせたら、「こういうことを日本人の若い子が言ってくれるのはありがたい」ってことでお礼を伝えに来ましたって言われて。ああ、これだなって。
■いい話だね。
ハイイロ・デ・ロッシ:ビーフ云々はほんとにオプションですね。
■一方で、show-kのような考え方の人もたくさんいるよね。
ハイイロ・デ・ロッシ:多いと思いますよ。しかも、それをスゲェ支持する人もいるわけじゃないですか。
■もちろんそうだね。
ハイイロ・デ・ロッシ:オレは最後のアンサー・ソングで「クリックはプロップスじゃねーからな」ってラップしていますけど、難しいところですよね。彼らみたいなラップが評価される場所もあって、オレらがボロクソになる場所もある。
■そうだね。
ハイイロ・デ・ロッシ:でも、オレは音楽からすべてが出ると思う。匂いとか活動とか発言とかタイミングとか、全部含めて音楽でしか良い悪いは決めさせられない。
■うん。それはハイイロくんがアーティストとして地に足をつけているからですよね。
ハイイロ・デ・ロッシ:そいつらがオレよりラップが上手かったら完全否定はできないですね。そいつらよりヤバいトラックを作って、上手いラップをする自信がいま現在もありますね。でも、クリーンなほうだと思いますよ。右に寄っていたとしても、バイオレンスを持ち込んでいない時点でショーマンシップに則っていると思う。
■愛国心や排外主義を歌うようなラッパーも世のなかに危機を感じて本人たちはレベル・ミュージックをやっているつもりだと思うんですよ。そこが難しいところだと思う。たとえば、政治的な集会なんかでもライヴしているAreiRaise (英霊来世)っていうヒップホップ・グループがいるんだけど、彼らの「8 30」という曲のYouTubeのコメントを見ると、彼らとパブリック・エネミーやレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンを比較しているようなコメントがあって、実際そう考えている人たちは多いと思う。でも、AreiRaiseがやっているつもりの"反抗"は圧倒的にマジョリティの論理なんですよ。彼らの音楽は、イメージとしては"反抗的"だけど、主張は生粋の保守の政治家が言う内容をデフォルメしている。それは、少数派の、これまで抑圧されてきた意見でもなんでもない。だから、少なくともカウンター・カルチャーではない。僕はshow-kのラップにも同じものを感じた。過激に見えるけど、よく歌詞を聴くとすごく凡庸な意見なんだよね。
ハイイロ・デ・ロッシ:でも、オレらがやっているのは反抗じゃないですよ。
■反抗じゃない?
ハイイロ・デ・ロッシ:ただ振り回しているだけじゃないから。狙ってカウンターを撃っているから。そうじゃないと当たらないし。
[[SplitPage]]「アシッド、MDMA、コケイン、オプションがなきゃ語れないペイン」って言ってるんです。やるのはいいけど、オプションのためにドラッグをやるんだったら、意味ないですね。オレは精神安定剤で内臓ボロボロになって、いま病院に行っている状態なんです。そこにイリーガルもリーガルも関係ない。ドラッグは武器でもなんでもないし、マイナスにしかならないから、オレは思いっきり切り離したいです。
![]() Haiiro De Rossi Same Same But Different Slye Records |
■「WE'RE THE SAME ASIAN」は歌詞の内容をめぐって議論できるリアリズムがあるのが素晴らしいと思いましたね。
ハイイロ・デ・ロッシ:抉り方は注意しましたね。わかりやすくするためにラップ的には下手に書いたと思いますよ。音楽的な拍のところなんかを詰めずに当たり前のことを当たり前に言うことだけを考えてやりました。そのぶん、歌詞がシンプルになった。だから、show-kさんから誤解を招いた。「渋谷のデモがテロ」なんて言っていないのに、そういう誤解を招いた。それはオレらの表現の仕方が悪かった。オレらがあの曲を発売しない理由もわかって欲しいですね。あれを500円で売ったら多少の金にはなるじゃないですか。でも、オレはあれを発売する気はない。
■それはなぜ?
ハイイロ・デ・ロッシ:あれは曲じゃないから。あれは議論する場ですから。図書館や会議場を作って、そこで金を取るわけにはいかないじゃないですか。
■でも、自分たちの曲という意識はあるでしょ?
ハイイロ・デ・ロッシ:オレらが蒔いた種ではあるけど、そこから育てるも枯らすも人びと次第ですね。唯一国が潰しに来ない場所ができたんだから。
■主張というより問題提起という気持ちが強い?
ハイイロ・デ・ロッシ:主張できるほどオレらは頭良くないですから。オレらより政治的に理解があるヤツらはいっぱいいるから。
■オレはあの曲には十分主張があると思うけどね。
ハイイロ・デ・ロッシ:オレは人としてラップしたし、タクマはそれにたいして勇気を持って協力してくれた。エンジニアやトラックを作ってくれたヤツもそうだし。
■政治的な曲をお金にするのはうしろめたいという気持ちがある?
ハイイロ・デ・ロッシ:いや、そういうことではないです。形が変わってしまったからです。曲ではなくなってしまったからです。音楽を売るなら売るけど、音楽ではなくなってしまった。
■なるほど。ところで、今年は3枚目のアルバムを出すんですよね?
ハイイロ・デ・ロッシ:12インチを先行で切ります。「グッバイ・キッズ・ヒップホップ」という曲です。いわゆる暴力やドラッグにたいして決別する曲です。
■ドラッグを否定するのはどうして?
ハイイロ・デ・ロッシ:オレは歌詞で、「アシッド、MDMA、コケイン、オプションがなきゃ語れないペイン」って言ってるんです。ドラッグを好きにやるのはいいけど、オプションのためにドラッグをやるんだったら、意味ないですね。オレは精神安定剤で内臓ボロボロになって、いま病院に行っている状態なんです。そこまで行っても「ドラッグやってるぜ」なんて言わない。そこにイリーガルもリーガルも関係ない。ドラッグは武器でもなんでもないし、マイナスにしかならないから、オレは思いっきり切り離したいです。「グッバイ・キッズ・ヒップホップ」といっしょに収録するのが、「ドラッグ・バラード」って曲なんです。それがそのチェーンを切ってくれって曲です。
■これまでとはまた違う、切迫感のあるアルバムになりそうだね。
ハイイロ・デ・ロッシ:3枚目は自分のレーベルですべてやります。追い込まれて、擦り切れそうな状態で作ったから、聴きづらいかもしれません。でも、満員電車に耐えられないとか、そういうヤツらって意外といっぱいいると思うんですよ。電車を降りないとヤバイ状態だけど、終電だよ、どうしようって。次のアルバムはそういうヤツらがあと10分乗って頑張れるようなアルバムにしたい。エミネムの『リカヴァリー』の6曲目から7曲目の流れがあるじゃないですか。いち度ぐちゃぐちゃになってからもオレはやるんだって。オレ、あそこで超泣いたんですよ。オレがどうやって乗り越えたのかっていうことを見せたいですね、次のアルバムでは。
LAのインディ・ロック・シーンのもっともクールな連中、ノー・エイジがやってくるんだけど、これ、見逃さない手はないね。知っていると思うけど、LAにおける現代版CBGBとも言えるユース・アート・スペース、〈THE SMELL〉の運営に関わるオピニオン・リーダー的バンドがノー・エイジである。徹底したDIY精神を貫きながら、音楽のみならずヴィジュアル~パフォーマンス・アートの領域にまで影響を及ぼしてている連中だ。
英〈ファット・キャット〉からリリースされたコンピレーション『WEIRDO RIPPERS』に収録されたのがはじまりだった。で、2008年に強力なデビュー・アルバム『NOUNS』を〈サブ・ポップ〉から発表、これが"ロックの新しい音"を代表する1枚となって、また、ネオシューゲイザー/シットゲイズ・ブームともリンク、さらにレディオヘッドやコーネリアスがNO AGEのTシャツを着用するなどいちやく時代の寵児となった。
2010年は素晴らしいアルバム『Evetything in Between』をリリースしているし、今回は待望の再来日ですよ!
【公演詳細】
2.15 tue @ 大阪 SUNSUI
NO AGE
Special Guest : A-ron the Downtown Don
Open 18:00 Start 19:00
¥5,000 (Advance) 1 drink charged @ door
Info: 06-6535-5569 (SMASH WEST),
06-6243-3641 (SUNSUI)
TICKETS: ぴあ (P: 122-581) 0570-02-9999
ローソン (L: 51998) 0570-084-005
e+ (epuls.jp)
2.16 wed @ 東京 CLUB QUATTRO
NO AGE
Special Guest : A-ron the Downtown Don
Open 18:00 Start 19:00
¥5,000 (Advance) 1 drink charged @ door
Info: 03-3444-6751 (SMASH)
03-3477-8750 (CLUB QUATTRO)
TICKETS: ぴあ (P: 122-721) 0570-02-9999
ローソン (L: 71941) 0570-084-003
e+ (epuls.jp)
岩盤 (03-3477-5701)
2011年、音楽における"プロテスト"は何処にいった? 何処にもいかない。ここにある。シミ・ラボに引き続き、ele-kingが注目する若手ラッパー、ハイイロ・デ・ロッシの新曲。昨年末話題となったポリティカル・ラップ「WE'RE THE SAME ASIAN」以来の新曲で、彼は今日の日本のドラッグ・カルチャーのネガティヴな側面を容赦なく浮き彫りにしている。
今週末に、二木信による彼のインタヴュー記事がupされます。乞うご期待!
ドラムンベース・シーンのビッグパーティー"BUKEM IN SESSION"が2年振りに日本で開催決定! ドラムンベースの神様と称され、90年代にエレクトロニック・ミュージック界を席巻した歴史的名曲"ミュージック"、"ホライズン"でその絶対的地位を確立した超大物が待望の再来日を果たす。ジェフ・ミルズと双璧を成すその圧倒的な存在感とテクニックを要し、DJシーンの主流がデジタルに移行するなか、ひたすらアナログ、ヴァイナルにこだわり続ける孤高の天才ブケムがMCコンラッドと繰り広げる究極のDJパフォーマンス、それが"BUKEM IN SESSION"。当日は、"DBS"15周年カウントダウン第一弾目の幕開けに相応しくブケムの4時間を越す東京オンリー・プレミアム・ロングセットを披露。前回の公演では、すさまじい集客動員を記録、DBSの新たなレジェンド・ナイトに記憶され、今回も最高の一夜になること間違いなし。
脇を固めるのが、UKの人気ドラムンベース・レーベル〈W10〉主催でアジムスをリミックスした「The Brazil Project」(Far Out)も話題のダニー・ウィーラー、日本からはシーンを代表するDBSのトップレジデントDJで本サイトの連載でもお馴染みの3デックス・マスター、テツジ・タナカが強力サポート。
さらにサルーンでは"AUDIO SUTRA SOUND"主催でジャズ・ブラザーズの"ヤマ"主導によるメインフロア級のラインナップを揃えたダブステップ・ナイトを開催。テクノ層のみならず、全エレクトロ二ック・ミュージック・ファンにオススメする必見のユニット公演。混雑が予想されるのでお早めにご来場を!
experience for the next level....free spirit!
Drum & Bass Sessions 2011
"Bukem in Session"
feat.
LTJ BUKEM feat. MC CONRAD
DANNY WHEELER
TETSUJI TANAKA
vj: laser : SO IN THE HOUSE
B3/SALOON : AUDIO SUTRA presents
SAHIB A.K.A.YAMA/DJunsei/DJ Nu-doh /Nick Stone + MILI / MAMMOTHDUB
https://www.dbs-tokyo.com
https://www.unit-tokyo.com
2011. 2.12 (SAT) @ UNIT
open/start 23:30
adv.3500yen door 4000yen
LTJ BUKEM (Good Looking, uk)

"Music"、"Horizons"をはじめとする歴史的名曲を生み、ドラム&ベースを創造したパイオニア、そしてオリジナルなサウンドと超絶的なテクニックで進化を続ける至高のDJ。91年の設立以来、スピリチュアルかつエモーショナルな独自の音楽宇宙を創造するGood Looking Recordsを主宰し、多くの才能を世に送り出す。2000年の1st.アルバム『JOURNEY IN WARDS』は偉大なるブラックミュージックのエッセンスをテクノロジーで昇華し、21世紀のソウル・ミュージックを逸早く提示する。レーベル運営においては『EARTH』シリーズ、サブレーベルCOOKIN'等、ドラム&ベースにとどまらない多様なアプローチを見せ、LTJブケムの世界は拡がり続ける。そしてDJとしてMCコンラッドと共に世界各国をツアーし、今日のグローバルなドラム&ベース・ムーヴメントに最大級の貢献を果たし、シーンの最前線に立ち続けている。08年の"Switch"、09年の"Atmospherical
Jubilancy"と新曲の発表もあり、アルバムリリースが待たれる。最新MIX CDは『FabricLive 46』(09年)。
またGood Lookingから新たにMIXシリーズ『MELLOW YELLOW』がはじまる。
www.myspace.com/therealdannyltjbukem
MC CONRAD (Good Looking, uk)

ヒップホップ・シーンでの活動を経てLTJブケムと知り合い、以来20年近く活動を共にしてきたMCコンラッド。絶妙にコントロールされたハイテンションなMCでクラウドに深いインスピレーションを与える彼の存在は〈Good Looking〉のパーティ"PROGRESSION SESSIONS"に不可欠なものとなり、世界各国で熱烈な支持を受けている。自身のプロジェクト/レーベル、〈WORDS 2 B HEARD〉を主宰し、ドラム&ベースにおけるMC/ヴォーカルをアートフォームに進化させている。
代表的なレコーディング作品に『VOCALIST01』、『LOGICAL PROGRESSION -LEVEL4』があり、彼のオリジナル・スタイルが堪能できる。MAKOTOとの"Golden Girl"、TOTAL SCIENCEとの"Soul Patrol"、FURNEYとの"Drum Tools"等のコラボレーションも話題を集めた。
www.myspace.com/mcconradw2bh
![]() オーブ メタリック・スフィアーズ[Limited Edition] ソニー・ミュージック・ジャパン |
「コケコッコー」からはじまるのが『アドヴェンチャー・ビヨンド・ジ・ウルトラワールド』だ。もういちど言うが、あれは、不衛生なレイヴ会場のラヴインにとっては完璧なBGMだった。"リトル・フラッフィ・クラウズ"は20年後のいまも名曲であり続けている。
ハウスとヒップホップのブレンドで設計されたその音楽は、当時、いちぶの批評家からは「レイヴ世代のピンク・フロイド」などと評されていた。『ウルトラワールド』が発表された1991年の前の年には、アレックス・パターソンが関わったザ・KLFの『チルアウト』が話題となっているが、そのアートワークはピンク・フロイドの『原子心母』のパロディだった。また、『ウルトラワールド』では『アニマルズ』のジャケットのモチーフとなったバターシーの発電所が極彩色に染まっている(ガトウィック空港から電車でロンドン市内に入るとその脇を通るので、初めて見たときは「お、ピンク・フロイド!」、と思ったものだった)。さらにまた、リミックス・アルバムの『ジ・ウルトラワールド・イクスカージョンズ』では発言所が宙でひっくり返っている。"バックサイド・オブ・ザ・ムーン"という曲名もある。ライヴ・アルバム『ライヴ93』では羊が空を飛んでいる。つまり......人がオーブとピンク・フロイドを関連づけてしまうのも無理のないことだった。
だが、多少なりともオーブの音楽に遊んだことのある人なら、アレックス・パターソンの背後にあるのがパンクとダブ、ハウスとテクノ、もしくはヒップホップであることを知っている。彼はスティーヴ・ヒレッジと何度も共演しているが、基本的に彼はヒッピーが嫌いな元パンク野郎だ。ゆえにオーブにとって11枚目のオリジナル・アルバム『メタリック・スフィアーズ』にデヴィッド・ギルモアが参加しているという事実は、すんなり納得できるものではないけれど、充分に興味を抱かせる話ではある。
もうひとつ『メタリック・スフィアーズ』において興味深いのは、アレックス・パターソンにしては珍しく、ストレートに政治性が出ていることだ。そもそもデヴィッド・ギルモアに誘われて参加したという、アメリカ政府に告訴されたイギリス人のハッカーを支援するチャリティ・ソング"シカゴ――チェンジ・ザ・ワールド"を契機にはじまったのが今回のプロジェクトだ。こうした経緯を思えば当たり前かもしれないけれど、どちらかといえば世界を斜めに見ていたオーブのアルバムから「君が正義を信じるなら/君が自由を信じるなら/人間はそれぞれ人間らしい暮らしをすればいい」などという直球な言葉が聴けるのは、感慨深いといえば感慨深い。ピンク・フロイドからの誘いには乗りたくなかったけれど、その政治的な目的において同意し、その結果、オーブとデヴィッド・ギルモアのコラボレーションは実現したと、それが本当のところだろう。そしてそれは悪くない結果を生んだ。前作の『バグダッド・バッテリーズ』と比べると、欧米のメディアの評もすこぶる良い。
『メタリック・スフィアーズ』の音楽には、10年以上におよぶオーブの音楽旅行(ダブ、サイケデリック、エクスペリメンタル、ドラムンベース、デトロイト・テクノ、ポップス、ミニマル・テクノ......)において、昔ながらのチルアウト部屋に戻ってきたようなレトロな感覚がある。全2曲のなかでは、アレックス・パターソンが得意とするダブのベースラインが響き、ハウスの催眠ビートが脈打っている。ドアを開けると汚いレイヴァーがストーンしている......まあ、自分もそのなかのひとりだったわけだが、その懐かしいレイヴな感じは、デヴィッド・ギルモアのメロウなギターの音色によってさらに強度を増している。
あるいはこういう言い方もある。『ウルトラワールド』はポップ・アート的だったが、『メタリック・スフィアーズ』はエモーショナルな作品だと。メランコリックなはじまりがあり、平和な場面があり、アップリフティングな展開がある。それがこのアルバムの魅力で、部屋でかけていると気分を上げてくれる理由だ。
去る1月20日、ライヴ公演のため日本に到着したばかりのアレックス・パターソンに会って、話を聞いた。肝心なところのいくつかは、例によって、曖昧にされてしまったけれど、少々疲れ気味だったアンビエント・ハウスのドクターは、基本的には最後まで真摯に語ってくれた。
『メタリック・スフィアーズ』は棺桶に釘を刺すための釘のうちの1本。帽子に付ける羽根のうちの1本である。もしくは、終わりのはじまりで、はじまりの終わりでもある。そしてギタリストをフィーチャーしたトリロジーのひとつでもある。
■最初にオーブで来日したときにホテルで会っているんですけどね。細野晴臣さんのイヴェントに出たときです。およそ20年前ですかね。
アレックス:そのときのライヴのことはよく覚えていないんだけどね。
■僕はよく覚えているんですけど、昼過ぎかな、あなたとスラッシュ(当時のメンバー)がジャックダニエルのボトルを片手に現れたことを(笑)。
アレックス:ジャックダニエル?
■覚えてない?
アレックス:覚えてない。
■その次は『UFOrb』の頃かな。ポリドールというレコード会社の一室で取材して......。
アレックス:ジャックダニエルは?
■そのときのあなたはコーヒーを飲んでいましたよ(笑)。
アレックス:それは良かった。ちなみに今日はジンジャエールだから。
■ハハハハ。
アレックス:たまにジャックダニエルも飲むんだけど、日本ではほとんど飲まない。ちなみに僕の本当の最初の来日はジャックダニエルの前だよ。リヴェンジで来たのが最初だ。
■ああ、そうでしたね。
アレックス:知ってるでしょ。ジョイ・ディヴィジョン、ニュー・オーダーのベーシストだったピーター・フックのバンドだよ。
■DJとして来たんですよね。
アレックス:僕は覚えているよ。なぜかって、そのとき僕は病気で、調子が悪かったから。だから覚えているんだよ。
■なるほど。それでは質問をはじめたいと思います。あらためてお伺いしますが、『メタリック・スフィアーズ』は長いオーブの歴史のなかでどんな意味をもつ作品ですか?
アレックス:棺桶に釘を刺すための釘のうちの1本。帽子に付ける羽根のうちの1本である。もしくは、終わりのはじまりで、はじまりの終わりでもある。そしてギタリストをフィーチャーしたトリロジー(3部作)のひとつでもある。
■トリロジーというと?
アレックス:ロバート・フリップ(1994年、FFWD名義の作品)、スティーヴ・ヒレッジ(1992年の「ブルー・ルーム」、1997年の『オーブリヴィオン』、2007年の『ザ・ドリーム』)、そして最後がデヴィッド・ギルモアになるわけだ。
■なるほどー。棺桶の釘であり、帽子の羽根という比喩は、それだけ『メタリック・スフィアーズ』が重要な作品であるということを意味しているんでしょうか?
アレックス:違うね。もっとも重要なのはファースト・アルバム(『アドヴェンチャー・ビヨンド・ジ・ウルトラワールド』)だ。オーブとして自信を持って名作だと言えるのは、1991年に発表したファースト・アルバムだね。バンドがはじまるとき、デビュー作はつねにベストでなければならない。『ウルトラワールド』がなければ『メタリック・スフィアーズ』は生まれていなかった。『ウルトラワールド』にはクリエイティヴ面における100%の自由があった。レコード会社の人間から「ああいうのを作れ」「こういうのを作れ」などと指図されなかった。しかし、その後はいろいろと指示されるようになった......。
[[SplitPage]]1992年、ブリクストン・アカデミーでピンク・フロイドがライヴをやるときに、ニック・メイソンが「オーブもいっしょにやらないかい?」と誘ってくれたんだけど、僕は「ファック・オフ」と言って断った。「死ね」と。「俺はパンクなんだ」と言った。
![]() オーブ メタリック・スフィアーズ[Limited Edition] ソニー・ミュージック・ジャパン |
■あなたがプロダクションに関わったと言われているザ・KLFの『チルアウト』と『メタリック・スフィアーズ』を関連づけることは可能ですか?
アレックス:『チルアウト』はKLFだよ。
■部分的なんですけど、『メタリック・スフィアーズ』で、あなたのアンビエント・サウンドのうえにメロウなギターが入る箇所を聴いていると、『チルアウト』を思い出すんですよね、『チルアウト』はジャケもピンク・フロイドだし。
アレックス:オッケー、そういうことね。でも、『チルアウト』はサンプリング・ミュージックだよ。そういう意味では『メタリック・スフィアーズ』とぜんぜん違う。だから今回は、余計な(著作権をめぐる)トラブルも起きなかったからね。
■なるほど(笑)。まったく違いますか?
アレックス:うん。アンビエントという点では同じだけど、『チルアウト』はサンプリング・ミュージックで、『メタリック・スフィアーズ』は演奏している。そしてKLFはビル・ドラモンドとジミー・コーティによるもので、オーブは僕だ。僕はDJとして彼らにネタを提供した。そういう観点で言えば、2枚は完璧に違う。『メタリック・スフィアーズ』ではサンプリングによってプレスリーが歌うことはないけれど、ギルモアが本当に歌っている。
アレックス:(日本盤のライナーをしげしげと眺めながら)あれ、ここにもKLFと書かれているぞ!
■歴史について書いているんですよ。『チルアウト』はたしかにKLFの作品だけど、あなたの存在が大きかったからですよ。
アレックス:実はわりと最近、KLFが100万ポンドのギャラを得て、その自叙伝が出版されたんだけど、本のなかで「どうやって『チルアウト』という名作が生まれたのか」という章があってね、そこに詳しく記されている。ビルとジミーから頼まれて、僕も当時の話を細かく喋ったから読んでみてよ。DJとしてトランセントラル・スタジオに招かれて、ひと晩10時間のセッションをやった。それをカットアップして、そして名作が生まれたという、その伝説が描かれているんだよ。ちなみに本のなかには僕とスティーヴ・ヒレッジとの出会いについても描かれているよ。ある晩、僕は6枚のレコードを同時にかけていたんだけど、そのなかの1枚がスティーヴ・ヒレッジのレコードだった。その場にスティーヴもいて、それでいい友だちになったんだよね。
■なるほど。『メタリック・スフィアーズ』に戻しましょう。
アレックス:そうだね。
■作品がリリースされて時間が経ちますが、反応はいかがでしたか?
アレックス:ポジティヴで良い反応を得ているよ。
■とくに面白かった感想があれば言ってください。
アレックス:メディアの評判も良かったんだけど、マイスペースを通して知った、購入者からの意見が面白かった。興味深いことに、北欧、あるいはチェコやポーランドのリスナーからの感想が多くてね......これもピンク・フロイドのおかげかな?
■ハハハハ。
アレックス:ガイ・プラットってわかる?
■誰でしょう?
アレックス:ファースト・アルバムでベースを弾いている旧友だが、ロジャー・ウォーターズがピンク・フロイドを脱退したあとにベースを弾いたのが彼だった。今回のアルバムでキーパーソンがいるとしたら、彼だ。ユース、ガイ・プラッド、そして僕の3人は、子供の頃からの連れで、同じ学校に通っていたんだ。そんな彼がオーブのあとにピンク・フロイドに入って、今回のデヴィッド・ギルモアに繋がるわけだよ。
■なるほど。
アレックス:実は、いちどだけピンク・フロイドをサンプリングしたことがあって、ジョン・ピール・セッションで"ア・ヒュージ・エヴァー・グローイング・パルセイティング・ブレイン"をやったときに"シャイン・オン・ユー・クレイジー・ダイアモンド"を使ったんだよね。当時その演奏がすごく好評で、リクエストは最多だったそうだ。で、サンプリングの許可を得なければならなかったんだけど、そのときもガイ・プラットが話を付けてくれた。そして......1992年、ブリクストン・アカデミーでピンク・フロイドがライヴをやるときに、ニック・メイソンが「オーブもいっしょにやらないかい?」と誘ってくれたんだけど、僕は「ファック・オフ」と言って断った。「死ね」と。「俺はパンクなんだ」と言った。これはいままで誰にも言ったことがない秘話だよ。面白い話でしょ?
■ハハハハ。たしかに面白いですね。それでは、あなたとピンク・フロイドの関係をはっきさせたいので、敢えて訊きますね。あなたは子供の頃、ヒッピーが嫌いなパンクスでしたよね。パンクに傾倒し、ダブやレゲエが好きで、デトロイトやシカゴのアンダーグラウンドな音楽に関する知識が豊富なDJでした。しかし、『ウルトラワールド』では、ピンク・フロイドの『アニマルズ』のアートワークを引用しました。
アレックス:あの発電所は、たまたま同じ駅だったんだ。同じ街(バターシー)に住んでいたからああなったのであって、ピンク・フロイドの真似じゃないよ。クラフトワークだって発電所をアートワークに使っているよ。
■"バックサイド・オブ・ザ・ムーン"という曲もあります。そして、多くの人はその音楽のなかにピンク・フロイドと共通するものを感じました。90年代初頭は、オーブはレイヴ世代のピンク・フロイドなどど形容されていましたよね。
アレックス:20年前の話だね。
■そう、20年前の話。で、実際はどうなんですか? あなたとピンク・フロイドっていうのは。
アレックス:まったく興味がなかった。もし関連性があったとしても、それが売りになるとも思えなかった。しかし......当時乗らなかったボートに僕は19年目にして乗ってしまったわけだ。『メタリック・スフィアーズ』で残念なことは、すべてを自分でコントロールできなかったことだよね。
[[SplitPage]]地球をテーマに......どうやって地球ができたのかをテーマに僕がオペラを書いているんだけど、それと関連している。そのことがあって、『メタリック・スフィアーズ』というタイトルに惹かれたんだよね......そう、つまり......ああ、僕はパンク野郎じゃなく、ヒッピーだったんだ! いま気がついたよ!
![]() オーブ メタリック・スフィアーズ[Limited Edition] ソニー・ミュージック・ジャパン |
■アルバムにおけるデヴィッド・ギルモアの役割はどんなものだったのですか?
アレックス:ギターを弾いた。
■はい。
アレックス:あとヴォーカル少々、そして......消えた。
■ハハハハ。
アレックス:アルバムがリリースされてから数か月後、(ギルモアと)共通の知り合いのサッカー選手と話す機会があったんだよ。そうしたら、彼がこう言うのさ。「デヴィッド・ギルモアがいままで作ったアルバムでいちばん楽だったと言っていたぞ」って。僕は「そりゃあ、当たり前だ。あいつは3時間しかいなかったんだから」と言ってやった。「1日もいなかったんだぜ。それは楽だろう」ってね。
■あなたが彼にディレクションしたことがあれば教えてください。
アレックス:いいや、何も......ていうか、僕はスタジオには立ち会ってないから。ユースは立ち会っていたよ。とにかくミスター・ギルモアはピンク・フロイド的なギターを弾いた。弾きまくった。まあ、マニュエル・ゲッチング的なミニマルな箇所もちょっとだけあるけどね。
■コンセプト的にはデヴィッド・ギルモアが入る前からあなたのなかではできあがっていたんでしょうけど、前作『バグダッド・バッテリーズ』からの連続性はあるんですか?
アレックス:あるよ。
■それは環境問題とリンクしているんですか?
アレックス:ていうか......『バグダッド・バッテリーズ』は、2000年前のバグダッドの話がモチーフになっているんだけど、『メタリック・スフィアーズ』は2800年前の南アフリカに実際にあったメタリックな造形物なんだよ。ググればすぐにわかるよ。500個も出てきたらしい。
■あなたは、そのメタリック・スフィアのどんなところに興味を抱いたのでしょう?
アレックス:それは子供に名前を付けるようなもので、今後のオーブの方向性を表すようなものとして『メタリック・スフィアーズ』と名付けた。いまはまだ詳細を話せないんだけど、ロンドンのコヴェント・ガーデンにあるオペラハウスで、僕が関わるプロジェクトが進んでいる。それは地球をテーマに......どうやって地球ができたのかをテーマに僕がオペラを書いているんだけど、それと関連している。そのことがあって、『メタリック・スフィアーズ』というタイトルに惹かれたんだよね......そう、つまり......ああ、僕はパンク野郎じゃなく、ヒッピーだったんだ! いま気がついたよ!
■ハハハハ。ちなみに"メタリック・サイド"が何を意味し、"スフィア・サイド"は何を意味しているのでしょうか?
アレックス:とくに意味はないけど、Aサイド、Bサイド、Cサイド、Dサイドと分けるよりはふたつに分けたほうがいいだろうと。CDでは1面しかないんだけど、こうすればふたつに分けられる。もっと詳しく話そう。実はアルバムには10曲入っている。しかし、iTunesでそれをバラにダウンロードすると、アルバムという作品の意味がなくなってしまう。アルバムとして聴いてもらえなくなる。レンブラントやピカソの絵が1枚ではなく、部分部分を切り取ったら作品として成立しないでしょ。そういうこともあって、"メタリック・サイド"に5曲、"スフィア・サイド"に5曲収録した。で、1曲の値段で5曲を売るという、これなら買う人にとってもハッピーでしょ。それにピンク・フロイドは長年、iTunesと闘ってたよね。彼らもアルバムとして聴いて欲しいからそうしたんだけど、これはそういう意味で良いアイデアだと思った。
■ふたつの世界観を表しているわけではないんですか?
アレックス:とくにない。半分に分けているだけで、中間点とも言える。"メタリック・サイド"の曲が"スフィア・サイド"でまた出てきたりしているだろ。
■グラハム・ナッシュの"シカゴ"のような曲を現在取り上げることの意義をどう考えますか?
アレックス:"シカゴ"は僕たちのカヴァー・ヴァージョンだよ。
■"ヒム・トゥ・ザ・サン"では、サンプリングされていますね。この曲は当時の新左翼(シカゴ・エイト)への共感を歌っているそうですが、アルバムのメッセージを代弁していると言えますか?
アレックス:代弁している。つまり希望だ。
■希望?
アレックス:よりよい世界への希望だよ。
■なるほど。
アレックス:ミスター・ギルモアならアルバムのタイトルを"ヒム・トゥ・ザ・サン"にしたかったろうね。まあ......今回はミスター・ギルモアとは電話やメールでしかやり取りしてないからね。もしこんどいっしょにやる機会があれば、時間を作ってじっくり会ってからやりたいよ。
■会ってないというのはびっくりですね。
アレックス:会ったことはあるんだけど、今回のプロジェクトでは会っていない。21世紀のファイルシェアリングのお陰だ。
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僕にとって自由はとても重要な意味を持つ。そういう意味で、ゲイリー・マッキノンのハッカーとしての活動に共感するのさ。イギリス人の彼は、アメリカ政府から政治的に「とんでもないヤツ」という話になって、逮捕された。そして逆に洗脳されて、アメリカ政府のためにハッキングさせられたりもした。
![]() オーブ メタリック・スフィアーズ[Limited Edition] ソニー・ミュージック・ジャパン |
■ちなみに今回のプロジェクトの契機となった、ゲイリー・マッキノンというハッカーを支援するチャリティ・ソングへの参加について話してもらえますか? あなたは政治的な事柄に関しては、それなりに慎重な態度で接してきたと思いますが、あなたをその気にさせた理由はどこにあったのでしょうか?
アレックス:僕も歳を取ったってことさ。
■なるほど。
アレックス:もともとはチャリティー・ソングに参加して欲しいとミスター・ギルモアから話があった。そして彼はギターを弾いて帰っていった。しかし、そのあと僕とユースは余った音源を使ってアルバムを作ってしまった。ミスター・ギルモアはとてもびっくりした。なんでこんなことになっているんだ、と彼は思った。それをマネージャーが入って、なんとか話を付けた。その9ヶ月間、いろいろ僕たちのあいだで話があった。
■ゲイリー・マッキノンというハッカーに関してはどうなんですか? どんなシンパシーがあったんですか?
アレックス:共感があった。やりたいことを自由にやるという点に共感するんだよ。僕にとって自由はとても重要な意味を持つ。そういう意味で、ゲイリー・マッキノンのハッカーとしての活動に共感するのさ。イギリス人の彼は、アメリカ政府から政治的に「とんでもないヤツ」という話になって、逮捕された。そして逆に洗脳されて、アメリカ政府のためにハッキングさせられたりもした。
■なるほど。自由......ですか。先ほど、あなたの口から「希望」という言葉を聞いたときもびっくりしたんですよね。
アレックス:ありがとう。
■昔のあなたはそういう言葉をユーモアで包み隠すところがあったじゃないですか。
アレックス:んー、はははは、そうだっけ?
■逆に、あなたのなかで世界に対する危機感が募っているということでもあるんでしょうね。世界はどんどん悪くなっているっていう。
アレックス:いまの時代、希望はより持ちにくくなっていると思う。イギリスの政府を見てもそうだよ。税金をいくら使っても世のなかはよくならない。それなら国民にお小遣いとしてばらまいたほうがよほどマシだ。あと僕は音楽家だから、できれば人びとに希望を与えるようなことをしたいと思っているんだ。それが今回の方向性を決定づけているね。
■なるほど。そういえば今回トーマス・フェルマンが参加してませんね。
アレックス:彼はいまバンクーバーだかモントリオールのシンフォニーの仕事で忙しいからね。でもまたいっしょにやる可能性はあるよ。
■ユースといっしょにやった理由を教えてください。
アレックス:うん、彼は素晴らしい仕事をしてくれたな。
■あなたは20年以上にも渡ってコンスタントに作品を出し続けていますが、なぜ、それができるのでしょうか?
アレックス:この世を去ったときに、自分が生きてきた証として作品を残したいんだ。家族のためにもね。
■では最後の質問ですが、ジョン・ライドンが昨年『ガーディアン』の取材で「実はピンク・フロイドは好きだった」と告白していますよね。読みました?
アレックス:知ってる。その記事は僕も読んだ。まさか......だよね。パンクがヒッピーの音楽をぶっ壊したんだと思っていたから、その記事のジョンの発言にはホントにがっかりしたよ。
デトロイトのソウルフルなハウス・ミュージックのファンには待ちきれない週末をふたつ紹介しよう。待望のアルバム『アナログ・アクアリウム』を発表したリック・ウィルハイトが1月末に来日する。そして、昨年の暮れに地味にリリースされたアルバム『スケッチーズ』(IGカルチャーやラリー・マイゼルもフィーチャーされたジャズ・アルバム)がじわじわと話題のセオ・パリッシュが2月のなかばに来日。どちらもブラック・ミュージック・ラヴァーズにとってはトーナメントのベスト4並みの重要なパーティ、翌日のことをいっさいに考えずに飲んで、踊ろう。
Rick Wilhite "ANALOG AQUARIUM" Release Tour
■2011.01.29(SAT) 東京 南青山 @Trigram
MAIN ROOM:
Rick Wilhite, Billion Dollar Boys Club (4 the love), Kenta (Time & Space)
SIDE ROOM:
Ken Hidaka (hangouter/Wax Poetics Japan), musiqconcierge (dB UKi/casablanca), Dave Clark III (UCC)
open : 23:00
Discount : 2500yen (contact : info@4thelove.net for discount)
Door : 3000yen
INFO : 4 the love https://www.4thelove.net
Trigram https://www.trigram.jp TEL 03-3479-2530
■2011.01.30(SUN) 横浜 @ Jack Cafe Bassment
- Freedom School presents THE DANCER vol.6 -
Special Guest DJ: Rick Wilhite
Special Guest Dancers: Stax Groove and Broken Sport
DJ: Downwell 79's(14catherine/Jazzy Sport Brooklyn), Kentaro Kojima(Freedom School), Keisuke Matsuoka
Live Painting: Tadaomi Shibuya
Food: Donuts and Hot Dog
Sake: Dareyame
Flower Decoration: Natsu
open 14:00 - close 21:00 再入場、出入り自由です。
Door 2000yen
INFO: Freedom School info@freedom-school.net
https://www.freedom-school.net/
045-664-0822(JACK CAFE BASSMENT) https://www.jcbassment.com/
RICK WILHITE (The Godson/3Chairs/From Detroit)
デトロイト・ハウス最強のユニット3 Chairs(スリーチェアーズ)。メンバーのセオ・パリッシュ、ムーディーマンと並ぶ第3の男が、Rick Wilhite(リック・ウィルハイト)だ。ムーディーマンが運営するKDJレーベルから96年にSoul Edgeでデビュー。デトロイトのレコードショップ『Vibes Rare & New Music』のオーナーを勤める傍ら、ソロ名義"Godson"としてもシカゴのStill Musicからシングルをリリース。昨年末にオランダのRUSHHOURレーベルからリリースしたショップと同名のコンピレーションはカルトヒットとなった。ファーストアルバム『ANALOG
AQUARIUM』を2月9日にリリース予定。プログラミングソフトを用いずキーボードやハンドクラップをあえて「アナログ」な手法で取り込み、ディスコ、ジャズやアフロなど様々なサウンド・マテリアルを呪術的なビートに重ね合わせることによって「濃厚な黒さ」を感じさせる作品となっている。
Theo Parrish "SKETCHES" Release Tour

■2.18(FRI) Kyoto @club Metro
STILL ECHO meets Theo Parrish
Special Guest DJ: Theo Parrish
LIVE: daichi(based on kyoto)
DJ: KAZUMA(MO'WAVE), DJ PODD
LIGHTING: YAMACHANG(POWWOW, □)
FOOD: THE GREEN
open/start 22:00
Advanced 2500yen
Door 3000yen
Advanced Ticket at チケットぴあ (0570-02-9999 / 0570-02-9966 P-code:128-554)
ローソンチケット(ローソンLoppi L-code 52254)にて1/8より発売
JAPONICA music store(075-211-8580) newtone Records(06-6281-0403) Transit Records Kyoto(075-241-3077)
INFO: 075-752-4765(Club METRO) https://www.metro.ne.jp
■2.19(SAT) Gunma Takasaki @WOAL
DJ: Theo Parrish, K, ara
open 22:00
With Flyer 4000yen with 1Drink
Door 4500yen with 1Drink
INFO: 027-326-6999(WOAL) https://members3.jcom.home.ne.jp/woal
access: 湘南新宿ライン高崎駅(新宿/渋谷駅から乗り換えなし)
■2.20(SUN) Niigata @Under Water Bar Praha
DJ: Theo Parrish, 中沢将紫, HONDA(VINYLITE) and more
open 22:00
Advanced 3000yen with 1Drink
Door 3500yen with 1Drink
INFO: 025-249-2121(praha) https://www.peacemaker-inc.com/praha
■2.25(FRI) Hiroshima @SACRED SPIRITS
DISCO UNION "ROUTINE 9th ANNIVERSARY PARTY"
Special Guest DJ: Theo Parrish
Guest DJ: KZA(Force Of Nature)
DJ: DJ ABU
open 22:00
Advanced 4000yen with 1Drink
Door 4500yen with 1Drink
INFO: 082-544-4427 info@routine-net.com (ROUTINE)
082-240-0505(SACRED SPIRITS)
■2.26(SAT) Tokyo @AIR
DJ: Theo Parrish(open-last set)
open 22:00
With Flyer 3000yen
AIR Member 3000yen
Door 3500yen
INFO: 03-5784-3386 (AIR) https://www.air-tokyo.com
Total Tour Info AHB Production 06-6212-2587 https://www.ahbproduction.com
2010年、インディは本当にチルウェイヴの年だったのだろうか? ......いや、きっとそうなのだろう。チルウェイヴに属すると言われる若いアーティストは単純に数の問題で言っても見過ごせないほど増えているし、作品として議論に上るものも多かった年だった。だが、それでも「2010年はチルウェイヴの年だった」と結論付けられることに抵抗があるのはどうしてだろう。26歳のインディ・リスナーである自分が、2010年トロ・イ・モワやスモール・ブラックのアルバムに心底興奮しなかったのはどうしてだろう......。現実逃避的な音楽はいつでも必要だし、ますます若者を憂鬱や孤独が襲う2010年においてはなおさらだろう。しかしそんななかにあってこそ、僕がチルウェイヴの心地良い逃避にどうしても逆らいたいと思ってしまうのは、2010年はそれでも現実から目を逸らさなかった音楽に心を動かされたからだ。チルウェイヴ的な動きは今年出るパンダ・ベアの新作が決着をつけるだろうと予想するが、ここではそれとは別のものについて書いてみようと思う。2010年にele-kingでレヴューで紹介されず、かつ欧米で高く評価された作品がいくつかあって、それはチルウェイヴ的な「子どもたちの音楽」に対比させて言うならば「大人たちの音楽」だ。
![]() Arcade Fire The Suburbs ユニバーサル |
北米のインディ・ロックにとって、2010年のハイライトになった作品がザ・ナショナルの『ハイ・ヴァイオレット』とアーケイド・ファイアの『ザ・サバーブス』だ。優れた文学性とリベラルな活動が高く評価されるこのふたつのバンドが同じように経験したのは、オバマの「チェンジ」に少なからず加担したことであった。アーケイド・ファイアの2007年の前作『ネオン・バイブル』は、ブッシュ政権末期に響いた「アメリカには住みたくない」という告白に象徴されるように当時切実に時代とシンクロしていた。そして"ノー・カーズ・ゴー"では「私たちは車が行かない場所を知って」いて、その場所に「行こう!」とエクソダスを宣言し、それを当時の希望としたのである。だが政権交代とオバマへのバックラッシュを経た2010年、アーケイド・ファイアは......ウィン・バトラーが育ったアメリカの郊外に立ち返る。はじめ、それはあまりに感傷的な所作に見えた。つまりそれは自分たちがやったことに対する失意や後悔が苦く滲み出たもので、ある意味では非常にアメリカ的な凡庸なテーマであるように思えたからだ。だがウィン・バトラーはそのような典型的な物語を避けることはせず、スプリングスティーンの道程を思い返しつつ、もう一度アメリカの内部から生まれる物語について見返してみたのだ。『ネオン・バイブル』ほど重くはないが後悔や罪悪感が顔を覗かせ、いくらかのノスタルジックな感傷も呼び覚ましつつ、そしてアルバムは「もし時間を取り戻せたら/もういちど僕は時間を無駄にするだろう」という決意に辿り着いていく。つまり、アーケイド・ファイアは自らが宣言したエクソダスの後始末について決着をつけたのだった。決して苦難は終わらないが、それでも何度でもやり直すことは出来る――というシンプルなメッセージが『ザ・サバーブス』には刻まれていた。

Arcade Fire
![]() The National High Violet 4AD / Hostess |
ザ・ナショナルはいっぽうで、エクソダスにすら参加できずにアメリカの内部に留まり続けたごく普通の人びとの物語を歌にした。自分のことを書けば、2010年にもっとも感動したのが彼らの『ハイ・ヴァイオレット』だ。前作『ボクサー』に収録されていた"フェイク・エンパイア"がオバマのキャンペーン・ソングに大抜擢される経験をした彼らだが、しかしこの新作ではある種の特権的な立場から言葉を紡ごうとしていない。バンドにとっての新たな代表曲である躍動感のあるロック・ナンバー"ブラッドバズ・オハイオ"は、保守的な故郷を嫌ってそこから離れた男が、それでも故郷への想いを捨てきれない心情を歌った1曲である。「俺は結婚しなかったけれど、オハイオは俺のことを覚えていない」
「結婚しなかった」というのは結局リベラルになりきれなかったことのメタファーだろう。「故郷のことを考えるとき、俺は愛について考えなかった」と嘯きながら、自分の本当の生きる場所を見つけられずに苦しむ男の物語を浮かび上がらせる......例えばスフィアン・スティーヴンスの『イリノイ』と並べると見えてくるものがある作品だと言えるだろう。「ニューヨークで生きて死ぬなんて、俺には何の意味もない」と吐露する"レモンワールド"では「とにかくいまはもう、どこかに車を走らせるには疲れすぎているんだ」と言うように、アルバムでは歌の主人公たちはとにかく疲弊しきっていて身動きが取れないというイメージが繰り返される。もっと良く、正しく、幸福に生きようと願いながら、どうしてもそうすることが叶わない普通の人びとの歌を歌うことを、ザ・ナショナルは自らの使命にしたのだ。それは、「チェンジ」後も生きづらいことは変わらない現代のアメリカの歌だ。
そして『ハイ・ヴァイオレット』の素晴らしさとは、そんないまの現実の苦難を引き受けながら、それをセクシーなポップ・ソングとして昇華させてしまった点に尽きる。バンドが自らの音楽を「ダッド・ロック」と冗談めかして言うようにある種の古風なダンディズムに支えられてはいるが、マット・バーニンガーは自分のバリトン・ヴォイスの色気により自覚的になり、そしてバンドの音は何ひとつ奇を衒ったことをしなくともタフにダイナミックに響き渡る。それはこれらの歌の底には、それでも潰えない尊厳があるという宣言のように聞こえる。
ラストのゴスペル・ソング"ヴァンダーライル・クライベイビー・ギークス"では「僕たちの最良の部分をすべて捧げて/愛のために自らを犠牲にするんだ」と、新たな場所に足を踏み出すことも示唆される。人びとに必要なのは劇的な「チェンジ」ではなくて、着実に地面を踏みしめる足取りであると......つまりザ・ナショナルは80年代のR.E.M.を引き継ぐのだと決意したのだった。今年の春に、シカゴではアーケイド・ファイアとザ・ナショナルがともにライヴをやるのだという。それはアメリカにとって、非常に輝かしい夜になるだろうと思う。

The National
![]() LCD Soundsystem This Is Happening DFA / EMI |
「ニューヨーク、俺はお前を愛しているけど、お前は俺を落ち込ませる......」とニューヨークに対する失意と幻滅と、そして愛をこぼしていたLCDサウンドシステムのジェームズ・マーフィもまた、ポップに対する理想を捨て切れなかった男である。インターネットの土壌が進んで出てきた初めてのムーヴメントがチルウェイヴだとしたら、ジェームズはそういった動きに対して最後の悪あがきを繰り広げるような活動をしてきた。70年代のボウイのあり方をポップの理想とし、自分より若くて才能のある連中のケツを蹴り上げるような存在でありたいと、彼は繰り返し語ってきた。分断化が取り沙汰されたゼロ年代にあって、それでもそこに抵抗する形で「ポップ」を定義し直そうとした彼の姿は、僕たち若い音楽好きを虜にした。音楽オタクであることしか誇れることがない男のみっともない恨み言を並べた"ルージング・マイ・エッジ"での彼を未来の自分の姿だと確信した人間は、ジェームズ・マーフィを心底信頼したのだ。だがそんなものはもう終わっていくのだろう、とジェームズ本人が自分たちの挑戦に決着をつける意味で制作されたのが、ラスト・アルバムだと予め宣言された『ディス・イズ・ハプニング』であった。
『ディス・イズ・ハプニング』は音楽的な参照点もやや広げ、例えばOMDのようなシンセ・ポップも溶け込ませながら、これまででもっともキャッチーな佇まいを持った作品となった。全編ダンス・トラックでありながらも非常にメロディアスで、そしてメロウでスウィートだ。歌詞はファースト・アルバムのような自問自答よりも、自分の仲間たちや聴き手に対する目線がこめられている。相変わらず自分の情けなさやみっともなさを綴りながら、しかしどこか清々しさが感じられるのはバンドが辿ってきた道のりやその記憶が明滅しているからだろうか。ラスト・トラックの"ホーム"は間違いなく、彼の挑戦を見つめ続けてきた僕たちに向けて......そしてたぶん、ジェームズよりも若い連中に向けて歌われている。「君が自分に必要なものを気にしているなら/見回してみなよ/君は囲い込まれている/そんなの、何にも良くなりゃしないよ」というのは、明らかにリスナーに向けた愛の言葉だ。ジェームズはツアーを回りながら「やっぱりこれからもアルバムを制作するかも」と思い直したことが明らかにされているが、しかし『ディス・イズ・ハプニング』が2010年において、一つの「ポップ」の時代に対して決着をつけたラスト・アルバムであったことは変わらない。

LCD Soundsystem
これらの「大人たちの音楽」から聞こえてくるのは、現実の困難に何度も何度も打ちのめされながらも、それでも信じるものがある......という不屈さだ。あるいは、LCDの歌にはつねに自虐や情けなさが盛り込まれていながら、しかしそこには必ずユーモアがある。それは自分たちの音楽をきちんと表現へと昇華させるという意志の表れである。「子どもたちの音楽」に何か信じるものはあるのだろうか? もちろん、そんなものが見つからないからこそのリアリティなのだろうが......いっぽうで2010年にこんなにもタフで知性的な音楽があったことも忘れてはならないと思う。
ただ、ここ日本ではそのようなものは共感されにくい。中年男が社会のなかで、正しく生きようと苦しみもがく姿の色気を伝えるのはとても難しい。音楽と社会が、音楽と政治が密接に繋がっていない(ような素振りを見せる)この国では、政権交代した後も相変わらず生きづらい社会についてポップ・ソングが歌うことは大抵の場合避けられる。そして若者たちは、子どもたちはうずくまり、現実に背を向ける......。ある意味で、若者による現実逃避はこの国ではより切迫した問題だ。社会に背を向けるということもまた抵抗だとすれば、日本でこそチルウェイヴ的な(現実や政治から切り離された)まどろみがより必要とされているとも考えられるだろう。
あるいは、社会に根ざした若者の音楽は知性やユーモアや文学性よりも、その感情の質量、その重さが目立っている(それだけ追い詰められているということだろう)。僕が世代的にも立場的にも共感できるはずの神聖かまってちゃんにどうしても距離を感じてしまうのも、そのような理由かもしれない。社会に対する怨恨を隠そうとしない彼らの音楽はアナーキーで切実で生々しいが......あまりにも痛ましい。かまってちゃんがいることは日本においてリアルだが、それがあまりに切実に求められるような状況は辛いとも思う。もしくは曽我部恵一のように、若者たちよりも青春を鳴らそうと目論む大人たちの歌がもっと届いてほしい。
今年はどんな音楽が響くのだろう。アメリカに関して言えば、ブッシュ政権下より現在の方が遥かに表現に求められることが難しくなっている。問題だらけのオバマ政権の下、状況はさらに複雑化しているからだ。チルウェイヴのような流れはもうしばらく続くであろうからそれらは横目で見つつも、僕はそれでも現実を見据えたアーティストに期待したいと思う。比較的若い連中にもそういったミュージシャンはいる。例えば2月に新作が出るアクロン/ファミリーは前作でサイケデリックなアメリカ国旗をアートワークに掲げながら、「太陽は輝くだろう、そして僕は隠れない」と歌うことを厭わなかった。アクロンは不思議なバンドで、初期にはフリー・フォーク的な文脈で、前作頃ではブルックリン・シーンの文脈で語られつつも、実のところそのどちらともあまり関係ない朗らかなヒッピーイズムとアート志向が根本にある。それから、フリー・フォークではなくて新しい時代のフォークとして登場したボン・イヴェールとフリート・フォクシーズ。彼らは何よりも高い音楽性でもってこそ勝負しようとする、真面目さと理想主義的な立場で音楽に真摯に向き合っている。また、ヘラクレス・アンド・ラヴ・アフェアはきっと、相変わらず頑なにレイヴ・カルチャーの理想を信じる新作を放ってくるだろう。
音楽が現実の状況に追随しているばかりでは寂しい。世界の見方を少しばかり、時には大きく変えてしまうようなものを、僕はいまこそ聴きたいと思うのだ。
大出世作である前作『ボクサー』でつけた自信は、USインディの現在の活況をリプレゼントしたコンピレーション『ダーク・ワズ・ザ・ナイト』のキュレーターを彼らに務めさせることとなる。そしてそれを経た本作は、バンドとしてより広い場所に進もうとする意欲に満ち満ちたものとなった。ポスト・パンク、チェンバー・ポップ、それに所謂アメリカーナ的なものをしっかりとアメリカン・ロックの土台でブレンドした音楽性はしかし行儀良く収まらずに、感情に任せてややバランスを崩しそうになる瞬間も見せつつスリリングに響く。フロントマンのダンディなヒゲの中年男、マット・バーニンガーの書く歌詞は抽象性もありつつ、より具体的なイメージを喚起しやすいものとなっている。そして彼が、曲によって異なる主人公を――しかし一様に思いつめたようにうなだれた男を演じ、そのバリトン・ヴォイスを響かせることでセクシーなハードボイルド感をも滲ませている。
とにかくオープニングの"ダンス・ユアセルフ・クリーン"が素晴らしい。抑えたイントロがやがてシンセと共にリズムを鳴らすと、ジェームズ・マーフィが絶唱する――「まっさらになるまで踊れ!」。そうしてアルバムは幕を開け、中盤に向けて次第にメロウになっていく。ジェームズは自分がロックンロール・バンドのフロントマンをやっていることの居心地の悪さを何度も語っていたが、それでも開き直ったようにさらに自分を曝け出すようなエモーショナルな歌を聞かせるのは、やはりラスト・アルバムという決意があったからだろうか。前作の"ニューヨーク、アイ・ラヴ・ユー~"のようなバラッドはなくとも、これまでで最も切ないムードが漂っている。「僕が欲しいのは君の哀れみ」なんていう、相変わらずのみっともない歌詞も彼ならではで......そして僕たちはそんな彼のキャラクターを既に知っているからこそ、ジェームズ・マーフィその人の魅力を改めて思い知ったのだった。
グーグルの機能を駆使し、自分の育った土地の住所を入力するとその風景がぐるぐると映し出される"ウィ・ユースト・トゥ・ウェイト"のインタラクティヴなビデオが非常に話題になっていたが、それは本作のテーマを見事に射抜いている。(もしかするとかつて捨ててしまった)自分の出自に立ち返ること......アメリカン・サバービアはかの地において宿命的なテーマだが、ウィン・バトラーはそれに真っ向から取り組んだのだった。アメリカを嫌ってカナダに抜け出した彼は、ここで自身の記憶を呼び覚ましながらアメリカのありふれた物語を描き出す。これまでの作品の悲壮感や演劇性はやや後退し、その分ニューウェーヴ風やパンク・ソングなど、音楽性を広げてとっつきやすいものになっているのも一部の層だけに届くだけでは満足しなかったからだろう。郊外の物語を個人の感傷ではなくて我らのものとして語る、現代の北米を代表するバンドであるという自負と貫禄が備わっている。
★ザ・ナショナル、来日します!
3月17日@Duo、詳細は→www.creativeman.co.jp/artist/2011/03national
木津 毅/Tsuyoshi Kizu
1984年大阪生まれ。大学で映画評論を専攻し、現在大阪在住のフリーター。ブログにて、映画や音楽について執筆中。 https://blogs.yahoo.co.jp/freaksfreaxx
現在、渋谷のユーロスペースで公開されている映画を紹介したい。『WE DON'T CARE ABOUT MUSIC ANYWAY...』という日本の実験音楽/即興音楽のアーティストたちを追ったドキュメンタリー・フィルムだ。坂本弘道、大友良英、山川冬樹、L?K?O、Numb&Saidrum、Kirihito、Umi no Yeah!!(竹久圏、嶋崎朋子)、Goth-Trad、Hikoといったさまざまなジャンルのアーティストが出演している。
『WE DON'T CARE ABOUT MUSIC ANYWAY...』は音楽主義を貫いていると言える。フランス人を中心とした制作クルーは、アーティストの歴史や背景を追うことよりも、彼らの一度きりの即興を捉えることに情熱を傾けている。画面は音の立ち上がる過程と瞬間をリアルに映し出し、4年という歳月をかけてパフォーマンスの現場に拘りつづけた努力は素晴らしい結果を生み出している。
この映画はすでに、スイス、フランス、ドイツ、スペイン、イタリア、ポーランド、カナダ、アメリカ、アルゼンチン、ブラジル、メキシコ、シンガポールといった世界各地の映画祭などで上映され、国内では昨年、吉祥寺バウスシアターで開催された爆音映画祭で先行上映された。
とにかく面白い音を出して、未知の領域を開拓したいというアーティストたちの無邪気で原始的な動機に痺れる作品だ。実験音楽/即興音楽に普段は親しみのない音楽ファンも必ずや振り向かせることだろう。それだけ魅力のある"音楽映画"だ。DVD化するかは未定なので、いま映画館で体感しておいたほうがいい。(二木信)

WE DON'T CARE ABOUT MUSIC ANYWAY
https://www.wedontcareaboutmusicanyway.com/ja/
劇場情報
2011年1月15日(土)より、3週間レイトショー!!
21:00(連日)
渋谷ユーロスペース www.eurospace.co.jp
渋谷・文化村前交差点左折
03-3461-0211
特別鑑賞券 1,400円(税込) 発売中!
○劇場窓口・プレイガイドにて
○劇場窓口、各プレイガイドにてお求めください。
○ご鑑賞当日、劇場受付にて入場整理番号とお引き換え下さい。
当日:一般1,700円/大学・専門学校生1,400円/会員・シニア1,200円/高校生800円/中学生以下500円

出演者
●坂本弘道
1962年、広島生まれ。チェロ奏者、他にボイス、ノコギリを奏する。様々なエフェクター類を駆使し、叩く、こする、回す、果ては電動ドリルやグラインダーでチェロから火花を散らすパフォーマンスまで、イメージの氾濫ともいうべき演奏は常に刺激に満ちている。
「midori」(88年~92年)、少年マルタとの「echo-U-nite」(90年~01年)、石塚俊明(ex頭脳警察)の「シノラマ」を経て、ロケット・マツ主宰「パスカルズ」、チェロのみ3人のユニット「COTU COTU」、Lars Hollmer(from Sweden)と日本人音楽家とのユニット「SOLA」、大熊ワタル主宰「シカラムータ」等数々のバンドに名を連ねる。滝本晃司(from たま)、Mika PUSSE(from Paris)、十時由紀子、あかね、大谷氏・とっちゃん(from 富山)、高橋CAZ、火取ゆき、遠藤ミチロウ、等ボーカリストとの共演も多く、02年11月?03年1月にかけてUAの全国ツアー「空の小屋」に参加した。03年にはHacoとの共同プロジェクト「Ash
in the Rainbow」を発表。
また、インプロヴァイザーとしての活動を中心に、様々な音楽家とのセッションを精力的に行っている。過去の共演者?さがゆき、風巻隆、おおたか静流、横川タダヒコ、鬼怒無月、ライオン・メリー、林栄一、向島ゆり子、沢井原兒、小山彰太、とうじ魔とうじ、梅津和時、サム・ベネット、HONZI、不破大輔、中尾勘二、大友良英、内橋和久、黒田京子、千野秀一、安藤明(from Berlin)、故・井上敬三、ARFIの「32 JANVIER」(from Lyon)、Jonathan Segel(from California)、等々。ジョン・ゾーンの「コブラ」「ベジーク」(プロンプター:巻上公一)等の集団即興にも度々参加している。
近年は精力的にソロライヴを行っており、99年にソロアルバム「零式」を発表している。
https://home.catv.ne.jp/dd/piromiti
●大友良英
1959年生まれ。ターンテーブル奏者 / ギタリスト / 作曲家として、日本はもとより世界各地でのコンサートやレコーディング等、常にインディペンデントなスタンスで活動し、多くのアーティストとコラボレーションを行っている。
また、映画音楽家としても、中国 / 香港映画を中心に数多くのサウンドトラックを手がけ、ベルリンをはじめとした多くの映画祭で受賞、高い評価を得ている。
近年はポスト・サンプリング指向を強め、「Ground-Zero」のプロジェクトに代表されるようなノイズやカット・アップ等を多用した大音量の作品から、音響の発生そのものに焦点をあてたスポンティニアスな作品へと、ドラスティックに作風を変化させている。
Sachiko Mと結成した電子音響系プロジェクト「Filament」で徹底した脱メモリー音楽を指向する一方で、伝統楽器とエレクトロニクスによるアンサンブル「Cathode」や、60年代のジャズを今日的な視点でよみがえらせる「大友良英 New Jazz Quintet」等をスタート。他にも邦楽器の為の作品の作曲、多方面でのリミックス、プロデュース・ワーク等、多忙を極める。
https://www.japanimprov.com/yotomo/yotomoj
●山川冬樹
ホーメイ歌手、あるいは『全身美術家/全身音楽家』。 1973年、ロンドンに生まれ。横浜市在住。音楽、美術、舞台芸術の分野で活動。
身体内部で起きている微細な活動や物理的現象をテクノロジーによって拡張、表出したパフォーマンスを得意とする。電子聴診器で心音を重低音で増幅し、さらに心臓の鼓動の速度や強さを意図的に制御し、時に停止させながら、それを光の明滅として視覚化。己を音と光として空間に満たすことで、観客との間の境界線を消滅させることを試みる。また、骨伝導マイクを使った頭蓋骨とハミングによるパーカッシブなパフォーマンスは、ソニーウォークマンのコマーシャルで取り上げられ話題を呼んだ。
活動の範囲は国内にとどまらず国際的に展開。2007年、ヴェネツィア・ビエンナーレ・コンテンポラリーダンスフェスティバルから前年に引き続き二回連続で招聘を受け、同年秋に行った米国ツアーは各地で公演がソールドアウト。ヨーロッパ、アメリカ、アジアのライブハウス、劇場、美術館でライブ・パフォーマンスを行う。
こうしたパフォーマンス活動の一方で展示形式の作品を制作。遺された声と記憶をテーマにした、映像・サウンド・インスタレーション「The Voice-over」を、釜山ビエンナーレ(2008)、東京都写真美術館(2008)、ヨコハマ国際映像祭(2009)、などで発表する。同作品は東京都現代美術館のコレクションに収蔵され、現在常設展示室で公開されている。
歌い手としては、日本における「ホーメイ」の名手として知られ、2003年ロシア連邦トゥバ共和国で開催された「ユネスコ主催 第4回国際ホーメイフェスティバル」に参加。コンテストでは「アヴァンギャルド賞」を受賞。その独自のスタイルは、現地の人々に「авангардное хоомей(アヴァンガルド・ホーメイ)」と称される。同年東京で開催された「第2回日本ホーメイコンテスト」では、第1回大会(2001年)に引き続きグランプリと観客賞をダブル受賞。「ホーメイ」の伝統と、現代の等身大の感覚からなるハイブリッドなスタンスで、独自の境地を切り開く。2004年よりシタール奏者ヨシダダイキチが結成したバンド「AlayaVijana」に参加。バンドのフロントマンをつとめ、フジロックフェスティバルをはじめ多くのフェスティバルに出演、2枚のアルバムを発表。
また、声ついての連載エッセイを、「未来(未來社)」誌上で2007年より2年間執筆。複数の大学入試において国語科目の長文問題に採用されている。
現在、東京藝術大学先端芸術表現科、多摩美術大学情報芸術コース非常勤講師。
https://fuyuki.org/
●L?K?O
1974年、東京生まれ。
ターンテ-ブリストとして早くから様々な音楽フォーマットをスクラッチにより解体、再構築するスタイルをベースに活動。Moodman、Original Love、ooioo、灰野敬二氏などあらゆる分野のアーティストとのセッションを経て、近年では、海外でのイベントにも度々招聘されるまでに至る。スクラッチとリアルタイムのDSP処理によって常に変化を生み出す唯一無二のDJスタイルは多数の音楽家から評価を受け、各種コンピレーションアルバムに自身の楽曲を提供、数々のRemixを手掛けるなど、多岐に渡る活動を続けている。
https://m-hz.com/lko/index.html
●Numb
1992年、ニューヨークのINSTITUTE OF AUDIO RESEARCHでエンジニアリングを学び、帰国後の1995年、CALMと共にレーベルKARMA MUSICを立ち上げ、シングル「FILE#2 /深脳」をリリース。
1997年にはレーベル、リヴァースの立ち上げに携わり「BEGINNING OF THE END」「ILLFUSION」「89」といった12インチシングルをリリースする。そして、2002年にリリースしたファースト・アルバム『NUMB』は、鋭さと荒々しさの裏に静寂さを合わせもつ奥深いサウンドで、聴く者のすべての感覚を振動させた。
NUMBはサウンド・パフォーマンスにおいて、ラップトップを用い、MIDIコントローラーでビートやヴォリューム、エフェクトや曲の構成をリアルタイムに操り、フィジカルに演奏する。そして、その音が身体に吸収されると、退化していた器官は開き、細胞が音を聴き始める。その霊妙な演奏は、パリで行われたBATOFARやアムステルダムのSONIC LIGHT、日本のFUJI ROCK FESTIVAL、そしてデンマークのROSKILDE FESTIVAL、同じくデンマークのFUTURE SOUND OF JAZZ FESTIVAL等、国内外で高い評価を得ている。
2003年5月、それらのサウンド・パフォーマンスをパッケージしたライヴ・アルバム『東京』をリリースし、凄まじい勢いで変貌する東京の街に疑問を投げかけた。そして、消費やスピードと引き換えにしてきたものを取り戻したいという彼の強い念が、ラップトップに魂を宿らせた。 2004年、そのサウンドはエレクトロニカ、テクノ、ブレイクビーツ、トランス、ヒップ・ホップと総てを網羅しながら、新たなグルーヴの創造を続けている。
https://www.ekoune.org/
●Saidrum
NOIZEから削り出される緻密な音響工作、そしてミニマルに展開されてゆくダブ・ワイズなスタイルで、ラディカルかつ、ディープなリズム・サウンドを演出するSound Innovationist。
96年にNUMBと出会い、サンプリング・マシーンを軸に、ジャングル、ダブ、D&B、ハードコアブレイクビーツを中心としたトラック制作を開始。その後、1999年にファーストシングル「MATADOR」をリリース。
以来、情報過多な社会の中で発生するカオティックなリズム、自然の中で脈々と流れ続ける普遍的なリズム、それら対極的な要素を音に混在させ、独自のバランス感覚でトラックを構築する。又、2004年には待望のファースト・アルバム『deadpan rhythm』(RECD-010)をリリース。圧倒的なまでの密度と緊張感が支配するデジタル・オーディオの急先鋒とも謳われたそのサウンドメイキングは、聴けば聴くほどに引きずりこまれてゆく孤高のインダストリアル・サウンドを演出した。そして、音の洪水で満たされるライブ・パフォーマンスは、その空間を時に不規則に、時に規則的に、徐々に変化をつけ、サブリミナル・催眠的とも言える魔性のグルーヴを紡ぎだす。
https://www.ekoune.org/
●Kirihito
1994年結成。GROUPのメンバーでもあり、UAのライヴ・バンドや、一十三十一やFLYING RHYTHMSの作品に参加している竹久圏(g, vo, key, etc)と、GAKIDEKA、高品格でも活動する、THE BACILLUS BRAINSのサポートも務める早川俊介(ds, vo, etc)のデュオ。ライトニング・ボルトよりも、ヘラよりも、あふりらんぽよりも早かったデュオ、である。ギターをかき鳴らしながら足でカシオ・トーンを弾き、歌う竹久、スタンディング・スタイルでドラムを叩く早川という、見世物的というか、アクロバティックなライヴ・パフォーマンスの楽しさも然ることながら、ポップでダンサブルでありながらもキテレツかつ凶暴なその音楽はまさにワン&オンリー。これまでにホッピー神山のGOD MOUNTAINレーベルより2枚、DMBQの増子真二のナノフォニカ・レーベルより1枚のアルバムをリリースしている。1996年から98年にかけて4
回、アメリカ・ツアーを敢行し、ダブ・ナルコティック・サウンド・システム、アンワウンド、モデスト・マウス等と共演している。日本国内においても全国各地で精力的なライヴ活動を展開している。ミュージシャンのシンパも多い。
https://www.kirihito.com/
●Umi no Yeah!!
神奈川県、油壺マリンパークで出会った2人が 意気投合し結成。 商売繁盛トロピカルサウンドをモットーとする 常夏の伊豆(ノイズ)ユニット。 マズくてもウマく感じるカレーライス。 摩訶不思議、海の家。 貸ボートはありません。 竹久圏(KIRIHITO/Group/younGSounds)と女優の嶋崎朋子による常夏トロピカル・ノイズユニット! 最近ではバイト(メンバー)にシロップさん(aka コンピューマ)藻JAH先生(aka KUJUN)加わり、年中無休開店中!
https://umi-no-yeah.com/
●Goth-Trad
ミキシングを自在に操り、アブストラクトなアプローチでダンス・ミュージックを 生み出すサウンド・オリジネイター。
2001年12月にフランスの船上パーティ"Batofar(バトファー)"で海外イベントに初登場。独自のサウンド・コラージュで話題を集めた。2001年、秋本"Heavy"武士とともにREBEL FAMILIAを結成。
ソロ、GOTH-TRAD(ゴス・トラッド)として、2003年4月に 1stソロ・アルバム「GOTH-TRAD I」を発表。国内でソロ活動を本格的にスタートする。同年秋にフランス・ツアーを敢行。
翌2004年1月、THE MARS VOLTA東名阪ツアーの オー プニングアクトを務めた。5月~6月にもヨーロッパ・ツアーを敢行。11月にはアート・リンゼイの東京公演にオープニングアクトとして出演。
2005年1月、2枚目のソロ・ アル バム「The Inverted Perspective」をリリース。同年3月、韓国ソウルで開催された日韓友情年イベントの"KOREA-JAPAN Road Club Festival 2005"に出演。マッド・レイヴと称した新たな音楽性を打ち出し、3枚目のソロ・アルバム「Mad Raver's Dance Floor」を発表後、ベルリン,パリ,メッツ,ロンドンそして国内8都市でリリース・ツアーを行なった。
2006年1月、限定アナログ盤12"シングル「Paranoia/Acid Steps」のリリースをかわきりに、現在
進行形Mad Raverに送る、新たなフロアチューンを製作中。
https://www.gothtrad.com/index_j.html
●Hiko
国内外で活躍中のパンクバンド「GAUZE」のドラマー。その活動と平行して、「あらゆる芸術、芸能、表現活動」の、「最も攻撃的な、破れかぶれな」部分と自己のドラミングスタイルとの融合をもって「在りそうで無かった"ハードコア的パフォーマンス、音楽」の実現を標榜し、各種表現者らと共闘中。過去の共闘者は、舞踏家、格闘家(立ち技打撃系)、バリガムラン奏者及びダンサー、俳優による朗読、薩摩琵琶奏者、ホーメィ歌手、コンテンポラリーダンサー、フェンシング競技者、暴走族のバイクのアクセルミュージック等。










