![]() Liars - Mess Mute / Traffic |
ライアーズは嘘をつかない。いや、言い直そう。ライアーズは自らのネーミングがものするように、嘘をつくことを認めている、という意味で嘘をつかない。
アルバムごとにそのサウンドを目まぐるしく変化させ、つねにシーンのど真ん中のはずれで野蛮な実験を繰り返すライアーズ。それは意識的なようでいて、じつに原始的で、クールなようでいて、たまらなくホットで、いつも目的からずるずるズレて、ズレてズレて……気がつけば誰もいない荒野の先端でひとり奮闘している。なんて素敵なんだ。彼らが持つほとんど野生のカンともいえる実験本能。それをライアーズの性(さが)と呼べばいいのだろうか。
そんなライアーズが2年ぶりに7枚めとなるアルバム『メス』をリリースした。ここにあるのは、彼らがレッテルを貼られ続けたポストパンクでもエレクトロクラッシュでもなく、また、カオスの渦でもトライバルなクラウトロックでもない。そう、大きくモード・チェンジした前作『WIXIW』のサウンドを引き継ぎつつも、よりダークに、よりミニマルに、ときに大味なエレクトリック・サウンドがダンス中枢をくすぐりまくるライアーズの新境地——まっさらなテクノ・サウンドだ。シンプルなビートに合わせて駆動する野太いシーケンス。ゴスな装飾を薄くまとったシンセのフレーズ。そんなダークなムードにカラフルな色を添えてはじけるポップなエレクトロニクスたち。ライアーズの新たなマスター・ピースの誕生だ。
まずは、先行公開された“メス・オン・ザ・ミション”の抜きん出たブレイクスルー感を体感してみてほしい。身長2メートルを超える大男アンガス・アンドリューのボーカルもいつになく脂が乗っていて、低いところからファルセットまで縦横無尽に声色を変えてはしなやかに吠えまくる。容赦なし。遠慮なし。その鮮烈すぎる突破口から無辺に広がる「歌って踊れるエクスペリメンタル・ミュージック」。外は冷たいのに中は熱い。まるでアイスの天ぷらをあべこべにしたようなストレンジな昂揚に、われわれの体温もぐいぐい上がりっ放しだ。
あらためて。ライアーズは嘘をつかない。いや、言い直そう。ライアーズは嘘をつかないが意表をつく。騙されたと思って最高の新作『メス』を聴いてほしい。彼らの嘘は本物だから。
アイデアと実際にでき上がったものにはそんなに大差はなかったよ。すべてはあっという間に起こってね。
■2年ぶりのアルバム『メス』の完成おめでとうございます。まずはいまの心境を聞かせてください。
AA:早朝のロサンゼルスでスッキリした気持ちだね。
■この2年間はどのように過ごしていたのですか?
AA:前作『WIXIW』ではたくさんのツアーをしたよ。それが終わってからオフを取って、生まれ故郷のフィリピンに行ったんだ。
■ライアーズはこれまでほぼ2年に1枚のペースでアルバムをリリースしていますが、このペースが自分たちにいちばん合っているのですか?
AA:それはつまりこういうことだと思うんだ。僕らは大体1年にわたってツアーを行い、それからは当然のように、再びいらつきながら制作に入っていく時間になる。ときには音楽やアートに関してもっと時間をかけようと思ったりするんだけど、自然に任せてやりたいようにやるとそのタイミングになるんだと思う。
■デビューから14年ですが、『メス』の制作を経て、ライアーズとして新たに発見したことはありますか?
AA:「アルバム制作は楽しみながらしないとダメだ」ということをあらためて思ったよ。過去のいくつかの作品に関しては、制作過程でシリアスになり過ぎたり、頭を使い過ぎちゃったりもしたけど、まずは「アルバムを作りたい!」という思いを楽しむこと。それを忘れていたような気がする。
■アルバムごとに作風をガラリと変えてきたライアーズですが、今作は『WIXIW』で大きくモードチェンジしたエレクトリック路線を引き継ぎつつも、さらにダークでミニマルな世界を追求しているように感じました。前作との関連性を教えてください。
AA:前作『WIXIW』を作ったとき、僕らはすべての電子楽器やソフトウェアを新しくしたんだ。文字どおり、ユーザーマニュアルを開きながら曲作りをやっていたんだ。でも、『メス』に関してはこの点がクリアされていたので、自分の思いついたアイデアをきちんと演奏に反映できるようになっていたんだ。それと、制作過程もすごくスピーディーにしてみた。最初にトライしたことをすぐ曲に反映させていったらすべてがフレッシュなままの作品に仕上がったよ。
■前作には〈ミュート〉のオーナー、ダニエル・ミラーがプロダクションで参加していましたが、今作にもクレジットされているのですか? また彼との長きにわたる仕事で得たものは何ですか?
AA:『WIXIW』を制作しているとき、エレクトロの世界は僕らにとってすごく新鮮で、ダニエルにありとあらゆる質問をして確かめていたよ。彼はその界隈では有名な先駆者だからね。技術的なものや機材的なアドヴァイスの面ですごく助かったよ。『メス』に関してはその点がクリアされていたから、彼のクレジットはないんだ。もちろん僕らが音楽をやる上で彼はいちばん大切な人だけど、制作的なことで言えば、いまは僕ら自身で実行しているよ。
■『メス』というタイトルどおり、混沌として多彩なビートとディスコ・サウンドが収められながらも、アルバム全体にはライアーズらしい「暗さ」と「野蛮さ」と「冷めた熱」がしっかりと根底に漂っているのを感じました。アルバム・タイトルに『メス』を選んだ意図を教えてください。
AA:『メス』とつけたのはすごく主観的なものなんだ。ある人はあるものを見て、それが何であるかをきちんと考える。一方で、別の人は同じものを見ながら、それを「まったくはちゃめちゃ」と言ったりする。すべては見る人の見方によるんだよね。僕にとってこの考えってすごくおもしろいんだ……というのは僕らが作っている音楽にからめて考えても、それは自然なことだからね。
■制作中の試行錯誤には、はかり知れないものがあったと思いますが、制作前のイメージと完成した作品に大きな変化はありましたか?
AA:アイデアと実際にでき上がったものにはそんなに大差はなかったよ。すべてはあっという間に起こってね。アイデアが出てくるとすぐにそれをまとめてアルバムにしたからすごく楽しかったよ。
■先行で公開された“メス・オン・ア・ミッション”を聴いたとき、最近のライアーズらしいストレンジでグルーヴィーなシンセポップに舞い上がるとともに、計算されつくしていた印象の前作『WIXIW』よりも直感的/本能的な勢いを感じました。ファルセット全開のサビの昂揚なんてライヴで盛り上がること間違いなしですね。曲作りの段階でライヴでのイメージを想定しているのですか?
AA:それはないね。スタジオで曲を書くときに「ライヴを前提に」とかの制限はつけたくないんだ。さまざまな楽器を使ったりするのもそうだし、いつも曲そのものが向かいたい方向に進められるように考えているんだ。いつかはそういった縛りで曲作りをやってみてもおもしろおもしろいかもね。自分たちで持ちこめる楽器だけを飛行機に載せてツアーすることができたら、相当クールだと思うんだけど。でも結局は、アルバム音源をライヴ用にまた作り直してやった方がずっと簡単なんだけどね。
■“ダークサイド”〜“ボーイゾーン”の金属的なエレクトロニクス、呪術的なヴォーカルにはインダストリアル・ノイズの影響を聴くことができると同時に、『果てしなきドラム』(2006年)の頃のサウンドがエレクトロ化したような、ライアーズの新しい側面を感じました。昨今のインダストリアル・テクノではなく、70年代後期~80年代の〈ミュート〉が鳴らしていたオリジナルなエレクトリック・ミュージックの香りというか。そのあたりの影響は受けているのですか?
AA:それはそのとおり。僕らのお気に入りですごくよく聴いている作品のひとつに『ミュート・オーディオ・ドキュメンツ(MUTE AUDIO DOCUMENTS)』(2007年にリリースされた〈ミュート〉の初期シングル&レア音源を集めた10枚組ボックス)があるんだ。あれを聴くたびにすごく勇気づけられる。DAF、ファド・ガジェットらエレクトロのアーティストにはすごく影響を受けているよ。
そうだな、個人的には太鼓(タイコ・ドラミング)だけのアルバムを作ってみたいとずっと思っているよ。もしかしたら八丈島に移住して、そこでアルバムを作っているかもしれないな(笑)。
■ライアーズはいつも時代の先端に寄り添っているように見えて、じつは誰よりも勇敢に誰も知らないところに向かって猛進しているように思えます。進行形のシーンに対して意識的な部分はあるのですか?
AA:人がどんなシーンに興味を持っているかを聞くのは楽しいんだけど、だからといってそれが僕らの意思決定には影響しないよ。本当に自分たちが聴いたことのないような音楽を作りたいし、それがライアーズにとってもっともエキサイティングなことなんだ。
■アートワークにあしらわれているカラフルにもつれ合う毛糸についてお聞きします。ライアーズのTumblrでさまざまなシチュエーションにおける毛糸の画像が公開されていたり、本物の毛糸が真空パックされた500枚限定のデラックス・ヴァイナル・エディションをリリースしたりと、本作におけるアートワークへのこだわりを強く感じさせますね。
AA:今回のアートワークに関しては、このアルバムの持つ「遊び心」や「自然」な感じを出したかったんだ。カラフルな毛糸はそのことを表していて、加えて「WHAT IS A MESS ?」(混乱ってなに?)ってことを具体化したものでもあるんだよ。
■なるほど。そんなアートワークだけでなく音についてもですが、実験的な要素とリスナーに受け入れられるポピュラリティーのバランスはどのように考えていますか?
AA:うーん、べつにポピュラーになることなんて考えたこともないけどね。僕らにとって音楽やアートを作るってことは、僕らが本当に人とコミュニケートしたい、って考えの発露なわけで、期待されているものを指図されて作っているわけではないんだ。いつもやることなすことが実験につぐ実験の繰り返しだと思う。たとえ僕らがいわゆる「ポップソング」にトライすることになったとしても、それはすごく実験的なプロセスをたどることになるよ。それってある意味おもしろいけどね。
■残念なことにあなたたちの変化に追いつこうともせず、いまだにライアーズのことを「ポストパンク・リヴァイヴァル」の一部として認識している人もいますが、ライアーズにとって2000年代初頭のあのシーンはどのようなものでしたか? またその渦中にいるという意識はあったのですか?
AA:当時のニューヨークに住んでいたのはすごくよかったよね。素晴らしいことをしているヤツらとずいぶん知り合いになれたし、本当にそれぞれ違ったことをしていたし。でも、僕らも含めて誰もが「ポストパンク的なもの」の一部と呼ばれたがってはいないと思うよ。僕らは自身の思うことをやっているし、何かを復活させているつもりもないんだ。ただ、これらの考え方のなかで意識的なのは、9.11の悲劇に関する部分だよ。自分がニューヨークに住んでいるということをまざまざと実感させられた。まさしく歴史的にも重要な場所で、世界中に向かって発信しなければいけない場所に住んでいるんだ、ってね。
■ブルックリンのシーンから登場し、ニュージャージー、ベルリン、ロサンゼルスと拠点を変えてきたライアーズですが、ここ3作はロサンゼルスでのレコーディングとなっていますね。お気に入りの土地なのですか?
AA:ロサンゼルスがいまいちばんいちばん好きな場所かというと、そうとは言えないな。ある意味、便利な場所ではあるけど。ロサンゼルスで生活したり制作したりするのはいい感じだよ。おもしろいことをやっていたり、刺激を受けたりする友達もいるしね。でも、僕に関して言えば、たえず動いていたいタイプなので、ほかの都市や国にも行きたいと思っているよ。
■最後の曲“レフト・スピーカー・ブラウン”におけるミニマルなベース音、神妙な歌、声のサンプリング、きめ細かな電子音、ドローンのようなストリングスに早くもライアーズのネクスト・ステップを予見して、期待を引きずったままアルバムを聴き終えました。恐れることなく変化を受け入れるライアーズですが、次作のヴィジョン、もしくは今後チャレンジしたいことなどがあれば教えてください。
AA:うーん、僕が次作に関して言えるのは、「どういうものになりそうか、まだアイデアがない」と言う以外には、「ライアーズとして続けていることがベスト」っていうことかな。前進することが良いわけでも悪いわけでもないと思っているので。そうだな、個人的には太鼓(タイコ・ドラミング)だけのアルバムを作ってみたいとずっと思っているよ。もしかしたら八丈島に移住して、そこでアルバムを作っているかもしれないな(笑)。
■最後に、新作『メス』を一言で表現するとすれば、ズバリ?
AA:自然。自発的。自由意志。このなかから選んでもらえればありがたいよ。「他からの介入なく自律的に動いて行くさま」を表しているんだ。





