「Nothing」と一致するもの

マージナル=ジャカルタ・パンク - ele-king

 インドネシアに熱いパンク・シーンがあるという話はけっこう前から小耳に挟んでいたし、日本からもFuck on the BeachやCheerio、Jabaraといったアンダーグラウンドなハードコア・バンドがインドネシア・ツアーを行って現地バンドと交流しているのも知っていた(FxOxBは東南アジア・ツアーで共演したジャカルタのバンドRelationshitとスプリットCDもリリースしている)。
 そんなジャカルタのパンク・シーンに興味を持ち、取材を続けている日本人女性がいる、ということを都築響一さんがメルマガの記事にしていた。
https://www.roadsiders.com/backnumbers/article.php?a_id=294
https://www.roadsiders.com/backnumbers/article.php?a_id=297

 メルマガでの、フォトジャーナリストの中西あゆみさんへのインタヴューでは、彼女がどのようにジャカルタのパンクに興味を持ち、紆余曲折を経てシーンの中でもある種特別なポジションにあるバンド、マージナルと出会い、彼らに魅せられて取材を続けていったのかが紹介された。最終的にはマージナルのドキュメンタリー映画として完成させることが目標となっているプロジェクトだが、資金調達を兼ねた経過報告として、ライヴハウスなどでの小規模な上映会が行われたのが昨年秋のこと。その際、ぼくは中野のライヴハウス〈ムーンステップ〉で、Cheerioなどいくつかの日本のバンドのライヴと併せた形で行われた上映会に足を運んだ(そのときのことはブログにも書きました。ここで一気に心をつかまれた。

 いわば高度経済成長期にあるインドネシア、とくにジャカルタでは大規模な都市開発が進む一方で、少なからずそれに取り残された人々が存在する。マージナルは学校に行くこともままならないような貧しい子どもたちにウクレレを提供して演奏を教え、自分自身で日銭を稼ぐ術を与えている。バンドの音楽性は代表曲“レンチョン・マレンチョン”をはじめ、人懐っこくも力強いシンガロングをフィーチャーしたフォーク・パンクともいうべきものだが、子どもでも演奏できることが想定されているのだと思うとそれもまた納得できる。



 さらには自分たちが住む住居をコミュニティ〈タリンバビ〉(「豚の牙」の意)として近隣の子どもたちに場所を提供しているのである。バンドのマーチャンダイズ、そしてバンド・メンバーたちによる版画やタトゥーの収入などで家賃を捻出し、みんなで食事をしている姿には、CRASS以来のアナーコパンクの理想が地に足をつけて息づいていることがまざまざと感じられる。

 さて、じつはぼくは1月にインドネシア旅行に行ったので、その際に〈タリンバビ〉を訪れている。数日前からメールや電話でコンタクトを試みていたのだがぜんぜん連絡が取れずにおかしいなと思っていたのだけれど、住所はわかってるからとりあえず行ってみることにした。タクシーの運転手にその住所を見せたところ、「そのあたりは洪水の被害に遭っているから行けないかもしれないよ」と。たしかにちょうどその時期は雨季にあたり、何度か土砂降りにあったりもしていたのだが、それで連絡がつかなかったのか……。でもせっかく来たので「なんなら泳いでいくからとにかく行けるとこまで行ってくれ」とタクシーを走らせて一路郊外へ。1時間ほども走ったところで、「この先だよ」と言って、小さな路地を指差される。見るとたしかに、一歩路地に入ると膝まで水に浸かっている。まあ仕方ない、ここまで来たら行くしかないとザブザブと入っていく。

 道の両脇には民家が並んでおり、ぶらぶらしている人がいるので、前方を指差して「タリンバビ?」と聞いたりしていると、ちょっと前を歩いている女の子たちが「あなたたちもタリンバビに行くの? わたしたちも行くからいっしょいっしょに行こう」と言ってくれた。マレーシアから来たという。
 数十メートルも歩いていくと、小さな一軒家にたどり着く。「ハローハロー」とか言いながら入っていくと、マージナルのヴォーカリスト、マイクや子どもたちが笑顔で迎えてくれた。

 マイクは昨年の上映会の際に来日しており、終了後にぼくもちょっと挨拶もしたのだけど、幸いこちらのことを覚えていてくれて、そこから1時間ほどいろんな話をしてくれた。
マージナルはそもそもスハルト政権時代に、政府に抗議する学生運動を通して生まれたこと、近所の人たちとはうまくやっていて政府から弾圧されるようなことがあってもみんなが守ってくれること、近所の子どもたちからすればタリンバビは第二の我が家みたいなものだということ。洪水の被害は心配していたほどではないようで、雨季にはよくあることなので洪水が来れば近所同士で声を掛け合い、手助けしあって荷物を二階に運んでいること等々。


 そうはいっても大変だろうからせめて何かの足しにでもと思い、Tシャツを買うと申し出たのだけれど、むしろこんな状況でおもてなしもできなかったからと言ってTシャツやらパッチやら次々と「いいから持って帰れ」と言ってこちらに渡してくるので、このままいるとどんどん物をもらうことになってしまいそうなので、再会を誓って帰ることに。
 映画のとおりの魅力的な人物だった。短い滞在だったがいっしょに行った妻(ロックとかパンクとかはぜんぜん興味がないというかむしろ嫌いなのだが)も、マイクの暖かい人柄に、すっかりファンになったのだった。

 そして、そのマイクとマージナルがやってくる。すでにアップリンクにてドキュメンタリー映画(「2014年春版」としてアップデートされている)の上映ははじまっており、マイクおよびバンドのもうひとりの顔であるボブは上映にあわせて一足先に来日してアコースティック・ライヴや版画のワークショップを行っている。「パンク」というものに多少なりとも思い入れを持っているすべての人に見てほしいと思う。



■マージナル=ジャカルタ・パンク 2014年春版
Jakarta, Where PUNK Lives ? MARJINAL


© AYUMI NAKANISHI

渋谷アップリンク・ファクトリー
料金一律¥1,500(別途ドリンク代)
https://www.uplink.co.jp/movie/2014/25940

・5/11(日)アコースティックライヴ&版画ワークショップ
(ゲスト:MARJINAL Mike&Bob)
※5/11(日)版画ワークショップは開場時間から始めさせていただきます。
・5/12(月)アコースティックライヴ
(ゲスト:MARJINAL Mike&Bob)
・6/11(水)トークショー ゲスト近日発表
・6/12(木)トークショー ゲスト近日発表
・6/13(金)トークショー ゲスト:都築響一、中西あゆみ

さらにはほかのメンバーが合流し、バンドとしてのツアーも続く。タートル・アイランド主催の「橋の下音楽祭2014」に出演するほか、各地のすばらしいアンダーグラウンド・ハードコア・バンドたちとの共演や映画上映、ワークショップ等が行われる。

5/16 (Fri): 中野MOONSTEP(東京)
517&18 (Sat)(Sun): 豊田橋の下音楽祭. "SOUL BEAT ASIA 2014," (愛知)
5/19 (Mon): 四日市VOTRTEX(三重)
5/21 (Wed): CAFE BORDER(広島)
5/24 (Sat): PLAYER'S CAFE(沖縄)
5/25 (Sun): 新宿ANTIKNOCK(東京)
5/28 (Wed): 横浜CLUB LIZARD(神奈川)

DBS presents ZINC x LOEFAH x GOTH-TRAD - ele-king

 ドラム&ベース・セッション、通称DBS、5月16日の出演者は、ジンク、ローファー、ゴス・トラッドという大物3人。
 90年代なかばに〈ガンジャ〉レーベルを通して、ジャングルのシーンから登場して以来、スクリームのリミックスをヒットさせたり、クラックハウスを提唱したりと、いまだUKのダンス・ミュージックを更新し続ける超ベテランのジンク。
 マーラたちと並んで、オリジナル・ダブステップ世代を代表するひとり、ローファー名義での数々の名作をはじめ、人気レーベル〈Swamp 81〉の首謀者として知られるローファー。そして「Back To Chill」な男、ゴスさんことゴス・トラッド。
 ジンクは、Rinse FMの相棒MCティッパーを引き連れてのプレイなので、UKベース・ミュージックの興奮ががつんとダイレクトに伝わるでしょう。UKの最高のダンス・ミュージックを楽しめるひと晩!

2014.05.16 (FRI) @ UNIT

feat.
ZINC & MC TIPPA
LOEFAH
GOTH-TRAD

with:
DJ STITCH

saloon:
JUNGLE ROCK
DJ MASSIVE
DJ MIYU
PRETTYBWOY
ZUKAROHI

open/start 23:30
adv. 3,500yen door 4,000yen

info. 03.5459.8630 UNIT
https://www.dbs-tokyo.com

Ticket outlets:NOW ON SALE!
PIA (0570-02-9999/P-code:230-527)、 LAWSON (L-code:76961)
e+ (UNIT携帯サイトから購入できます)
clubberia/https://www.clubberia.com/store/
渋谷/disk union CLUB MUSIC SHOP (3476-2627)、
TECHNIQUE (5458-4143)、GANBAN (3477-5701)
代官山/UNIT (5459-8630)、Bonjour Records (5458-6020)
原宿/GLOCAL RECORDS (090-3807-2073)
下北沢/DISC SHOP ZERO (5432-6129)、JET SET TOKYO (5452-2262)、
disk union CLUB MUSIC SHOP(5738-2971)
新宿/disk union CLUB MUSIC SHOP (5919-2422)、
Dub Store Record Mart(3364-5251)
吉祥寺/Jar-Beat Record (0422-42-4877)、disk union (0422-20-8062)
町田/disk union (042-720-7240)
千葉/disk union (043-224-6372)

UNIT
Za HOUSE BLD. 1-34-17 EBISU-NISHI, SHIBUYA-KU, TOKYO
tel.03-5459-8630
www.unit-tokyo.com


DJ ZINC (Rinse,UK)
ハウス、ブレイクビーツの影響を受け、89年からDJ活動を開始。海賊放送やレイヴで活躍、ハードコア~ジャングル/ドラム&ベースの制作をはじめる。95年にGanjaから"Super Sharp Shooter"の大ヒットを放ち、96年にはDJ HYPE、PASCALと共にレーベル、True Playazを設立、ファンキービーツとバウンシーかつディープなベースラインで独自のスタイルを築く。00年の“138 Trek"は自己のレーベル、Bingo Beatsに発展、ブレイクステップの新領域を開き、2ステップ~グライムやブレイクス・シーンに多大な影響を与える。03年にはPolydorから1st.アルバム『 FASTER』を発表。09年以降、“Crack House”と銘打ったZINC自身が提唱する新型サウンドを布教。“Crack House”はBasslineサウンドを主体として、エレクトロ、ダブステップ、フィジェットハウス、ブレイクス、ジャングル等をミクスチャーした最先鋭のエレクトロ・ダンスミュージック。MS DYNAMITEをフィーチャーした10年の"Wile Out"はアンセムとなる。近年はA-TRAKとの共作をはじめ、自身のSoundcloudで新曲を続々とフリー・ダウンロードで挙げ、多大な支持を得ている。毎週金曜にRinse FMでオンエア。
https://rinse.fm/
https://www.facebook.com/djzinc
https://twitter.com/djzinc
https://soundcloud.com/zinc

LOEFAH (Swamp 81, UK)
ディープ&ドープな最重量ベース・サウンドでダブステップの真髄を表現する"King of Wobble Bass"、LOEFAH。90年代ロンドンのレイヴ・シーンでハードコア~ジャングル/ドラム&ベースを体感し、4HEROのReinforced、GOLDIEのMetalheadzからの作品群にインスパイアされる。2000年頃には古いダブ、レアグルーヴ、ソウル、ヒップホップを再発見し、音楽的基礎を広げる。やがて友人のDIGITAL MYSTIKZのMALA&COKIと音を作り始め、138bpmでダビーなトラックを作る等、様々な実験を繰り返す。04年にはDIGITAL MYSTIKZとレーベル、DMZを旗揚げし、"Dubsession"、"Twisup"を発表。またBig Appleから"Jungle Infiltrator"、Tempaから"Truly Dread"、Rephlexからのコンピ『GRIME 2』では3曲フィーチャーされる等、彼の存在がダブステップと共に脚光を浴びる。その後もDMZを始め、Tectonic等からフロアーフィラーを連発する。09年からは自己のレーベル、Swamp 81を設立、ポスト・ダブステップの潮流を開き、エレクトロ、ハウス、テクノ、ガラージ、ゲットー等を奔放にmix。BODDIKA、JOY ORBISON、ZED BIASらを擁し、UKベース・シーンの要塞となっている。
https://www.swamp81.com/
https://twitter.com/swamp81
https://soundcloud.com/swamp81

GOTH-TRAD (Deep Medi Musik, BTC,JPN)
ミキシングを自在に操り、様々なアプローチで ダンスミュージックを生み出すサウンド・オ リジネイター。03年に1st.アルバム『GOTH-TRAD』を発表。国内、ヨーロッパを中心に海外ツアーを始める。05年には 2nd.アルバム『THE INVERTED PERSPECTIVE』をリリース。また同年"Mad Rave"と称した新たなダンスミュージックへのアプローチを打ち出し、3rd.アルバム『MAD RAVER'S DANCE FLOOR』を発表。06年には自身のパーティー「Back To Chill」を開始する。『MAD RAVER'S~』収録曲"Back To Chill"が本場ロンドンの DUBSTEP シーンで話題となり、07年にUKのレーベル、SKUD BEATから『Back To Chill EP』、MALAが主宰するDEEP MEDi MUSIKから"Cut End/Flags"をリリース。12年2月、DEEP MEDiから待望のニューアルバム『NEW EPOCH』を発表、斬新かつルーツに根差した音楽性に世界が驚愕し、精力的なツアーで各地を席巻している。
https://www.gothtrad.com/
https://www.facebook.com/gothtrad

Pharrell - ele-king

 30才以下で、アファーマティヴ・アクションという政策を知っている日本人はどのくらいいるのだろうか? 
 先月4月24日付けのウォール・ストリート・ジャーナル(日本版)に、「米最高裁、ミシガン州のマイノリティ優遇廃止に合憲判断」という記事が掲載された。これは、ミシガン州が、公立大学入学において、アファーマティヴ・アクション(積極的差別是正策)を2006年に廃止したものに対して、米連邦最高裁判所が合憲と判断したというものであった。記事に付随していたアメリカの国立教育統計センターの2012年の統計によれば、大学進学比率は、ヒスパニック系が68.5%、白人が67%、黒人が62.1%と、ほぼその差がなくなっているという。さらに記事によれば、カリフォルニア州を含む8州では、ついに、と言うべきか、すでにアファーマティヴ・アクションは廃止されているとのことであった(この政策は、当初からアフリカ系アメリカ人の中でも賛否両論あり意見が分かれていた)。

 時代は完全に変わったのであろうか。少なくとも90年代は、「キープ・イット・リアル」といういまではいっさい聞かなくなった言葉に象徴されるように、アフリカ系アメリカ人によるヒップホップ・アルバムのほとんどは、行き場のない怒りと聴く者を威圧するようなサウンドに満ちていた。その時代を象徴する楽曲のひとつが、ファレル・ウィリアムスとチャド・ヒューゴによるプロデューサー・ユニット、ザ・ネプチューンズが手掛けた、ノリエガの“スーパーサグ”(1998)である。
 そもそも音楽という表象的な表現手段に留まらず、事実1992年には、日本でも大きく報道された「ロス暴動」というロサンゼルス市街で起きた大規模な放火、略奪といった多数の死傷者を出す事件すらあった。この事件の根は深く、ここでその背景を詳しく説明することは控えるが、それから20年以上が経過し、やはり時代は確実に前に進んでいると考えてよいのだろう。バラク・オバマが奴隷の子孫ではないにせよ、アフリカ系アメリカ人が大統領として国家のリーダーシップを取るその聡明な姿を日々メディアで目にすれば、一部の白人至上主義者がかつて持っていた有色人種に対する差別的な見解は、(当然なのだが)まったくの出鱈目であることは誰の目にも明らかだ。もしかしたら、アメリカの問題はすでに「人種」ではないのかもしれない。

 ファレル・ウィリアムスは、2枚目となるソロ・アルバム『ガール』をリリースした。公式インタヴューによれば、同アルバムは、ファレルが参加したダフト・パンクの“ゲット・ラッキー”を受けて、ソニーからオファーされたものであったという。従って、アルバム全体の印象は、ダフト・パンクの『ランダム・アクセス・メモリーズ』に通じる部分も多いが、『ガール』のほうは、よりファレルの持つファンクネスが強調されたアルバムに仕上がっている。共演陣も、ジャスティン・ティンバーレイク、マイリー・サイラス、アリシア・キーズ、そして、ダフト・パンクなど多彩な顔ぶれとなっており、良い意味で濃厚なブラック・ミュージックと言うよりは、良質のポップスとして広く受け入れられるようなトラックが並んでいる。
 そして、ファレルが、今回のアルバムについて「女性に対する感謝の気持ちのスペクトラム」と述べている通り、ポジティヴなリリックが全編に渡り綴られている。また、リード・シングルとなった“ハッピー”では、24時間にわたる前代未聞のミュージック・ヴィデオが制作・公開されたが、そこに登場するのは、OFWGKTAのタイラー・ザ・クリエイター、アール・スウェットシャツや、ジェレミー・フォックス、マジック・ジョンソンなどの著名人が何人かカメオ出演しているものの、そのほとんどは一般の人びとである。
 そこでは、その多くのファレルの言う「普通の人」が、ゴージャスなプールサイドや洒落たパーティ会場ではなく、ごくありふれた場所、例えば、街のガソリンスタンドや地下道、ショッピングモールなどでまさに自由に踊っている。さらに、ファレルは、収録曲“マリリン・モンロー”について、下記のように述べている。

 “どういうわけか、社会と言うのは、自分が大勢の中の1人だって思わせようとしてきた。でも、お互いにこう言えばいいじゃないか。「いいかい、君はスペシャルなんだ。唯一無二の存在なんだ」って。”

 そしてこのメッセージは、“ハッピー”のミュージック・ヴィデオでも同様に見事に体現されている。

 先月末、現在、アメリカでは、新たな貧富の差による分断が進んでいる――といった内容のNHKの報道番組が放映されていた。そこではかつてのような人種による分断ではなく、職業や所得による分断の実情が報告されていた。当然、その大多数は貧しい側だ。貧富の格差が固定化され、1%が99%を切り捨てていくその現実に、かつて貧しい者の精神的な支柱でもあったアメリカンドリームの構造は消えかけているという。

 先述した通り、映像でファレルは、その99%の側である「普通の人」を主役にしている。もし仮にセレブリティ(彼らは、ときに富める者を象徴する)だけを集めたヴィデオを制作していたとしたら、それはプロモーション・ヴィデオにはなるかも知れないが、たんに24時間というトピック以外に意味を持ち得ることはなかったかもしれない。この映像のアーティスティックな作品としての価値は、それが仮に無意識であったにせよ作家から見た社会の有りの侭を映し出しているからこそ、だ。そして、映像のなかの彼らは、悲観的ではない。それぞれが、自由に、思うままにダンスしている。もちろん、そこに「人種」による分断はもはや見られない。

 これが、99%の側の者たちの「それでも楽しんでやるよ」という諦めの境地なのかどうかはわからない。しかし、ファレル・ウィリアムスは、稀代の音楽家、そして現代のポップスターである。彼が奏でる音楽を聴く者は、その瞬間だけでも日常の嫌なことを忘れ、「ハッピー」な感情に包まれることができるのかも知れない(まるで、『夏の夜の夢』のパックの魔法のように)。そして、彼らはまた、階層が固定化された日々のループに戻っていく。本来、自由と平等=競争(アメリカンドリーム)を是認してきたアメリカ。反転してそれが崩壊している現状が見えてくる、というのは筆者の単なる深読みであろうか。

まだまだGW圏内!
いま公開中、もしくはもうすぐ公開の注目映画をいくつかご紹介いたします。


© Final Cut for Real Aps, Piraya Film AS and Novaya Zemlya LTD, 2012
アクト・オブ・キリング
監督/ジョシュア・オッペンハイマー
配給/トランスフォーマー
シアター・イメージフォーラム 他にて、全国公開中。

 ドキュメンタリー映画としては……いや、ミニシアター系のなかでも、異例の動員となっているらしい。本作については水越真紀さんと紙エレキングで対談したのでそちらをご参照いただきたいが、そこに改めて付け加えるとすれば、やはりこれだけ世界的にも評価された上に多くの映画好きの心を掴んだのは、これが非常に含みのある、映画についての映画となっているからだろう。すなわち、映画はどういうところで生まれるのか、どうしてわたしたちは映画を観ることを欲望するのか? 幸運なことに僕は監督にインタヴューする機会に恵まれたのだが、そこで尋ねるとこんな風に答えてくれた。「映画というのは、現代でもっともストーリーテリングに長けたメディアです。この映画では、人間が自分を説得するためにどのように“物語るか”ということに関心がありました。インドネシア政権も、嘘の歴史を“物語って”いるわけですから」。『アクト・オブ・キリング』は、虐殺の加害者たちが自分たちの過去を自慢げに“物語る”様をわたしたちが「観たい、知りたい」と思う欲望を言い当てているのである。つまり、それが映画の罪深さであり、同時に可能性であるのだと。わたしたちはその欲望を入り口としながらも、思わぬ領域までこの「映画」で連れて行かれる。
 この映画で何かが具体的に解決するわけではないが、政治的であると同時に優れてアート的で示唆的だという点で、歴史に残る一本となるだろう。ヒットを受けて、都心部以外の上映も次々と決まっている。ぜひ目撃してほしい。

予告編


©2013 AKSON STUDIO SP. Z O.O., CANAL+CYFROWY SP. Z O.O., NARODOWE CENTRUM KULTURY, TELEKOMUNIKACJA POLSKA S.A., TELEWIZJA POLSKA S.A. ALL RIGHTS RESERVED
ワレサ 連帯の男
監督/アンジェイ・ワイダ
出演/ロベルト・ヴィェンツキェヴィチ、アグニェシュカ・グロホフスカ 他
配給/アルバトロス・フィルム
岩波ホール 他にて、全国公開中。

 もし10代、20代に「いま上映している映画で何を観ればいいか」と問われれば、僕はこれを推薦したい。ポーランドの超大御所、アンジェイ・ワイダによる〈連帯〉のレフ・ワレサ(正しい発音はヴァウェンサ)の伝記映画……というと、堅苦しいものが想像されるかもしれないが、これが非常に熱い一本となっているのは嬉しい驚きだ。政治的にはワレサと袂を分かったらしいワイダ監督だが、ここでは彼の歴史的な功績を描くことに集中しており、彼の傲慢さも含めてエネルギッシュな人物像が魅力的に立ち上がっている。本作ではイタリア人女性ジャーナリストによるワレサへの有名なインタヴューが軸になっているのだが、そこでふたりがタバコをスパスパ吸いながら遠慮なくやり合う様など、どうにも痛快だ。高揚感のある政治映画はある意味では危険だが、そこはワイダ監督なので労働者……民衆を中心に置くことに迷いはない。そして80年代のポーランド語のロックとパンクがかかり、ワレサのダブルピースが掲げられる。かつての理想主義、そして政治参加という意味で、スピルバーグの『リンカーン』と併せて観たいところ。 



© 2013 UNIVERSAL STUDIOS
ワールズ・エンド
酔っぱらいが世界を救う!

監督/エドガー・ライト
出演/サイモン・ペッグ、ニック・フロスト 他 
配給/シンカ、パルコ
渋谷シネクイント 他にて、全国公開中。

 サブカル好きにもファンが多い、『ショーン・オブ・ザ・デッド』、『ホット・ファズ』チームによる新作。高校時代は輝いていたが中年になって落ちぶれた主人公が幼なじみを地元に集め、かつて達成できなかった12軒のパブのハシゴ酒に挑戦するが、町はエイリアンに支配されていて……というB級コメディ・アクション、そしてどこまでも野郎ノリなのはこれまで同様。そこに無条件に盛り上がるひとも多いみたいだけれど、僕はこの「(男は)いつまでもガキ」な感じに完全に乗ることはできないし、プライマル・スクリームの“ローデッド”ではじめるオープニングもちょっとベタすぎると思う。が、書けないけどラストである反転が用意されていて、それは本当に感心した。マイノリティというのはべつに、「人数が少ない」ことではないし、また「虐げられた同情すべきひとたち」でもない。それは選び取る立場なのだ……という決意。その1点において、僕はこの映画を支持する。イギリスの音楽もいろいろかかります。

予告編


© 2013- WILD BUNCH - QUAT’S SOUS FILMS – FRANCE 2 CINEMA – SCOPE PICTURES – RTBF (Télévision belge) - VERTIGO FILMS
アデル、ブルーは熱い色
監督/アブデラティフ・ケシシュ
出演/アデル・エグザルコプロス、レア・セドゥ 他
配給/コムストック・グループ
ヒューマントラストシネマ有楽町 他にて、全国公開中。

 90年代のサブカル系少女マンガと近い感覚を指摘するひともいてたしかにそうなんだけど、フランス映画らしくバックグラウンドにはっきりと社会が描かれていることは見落としてはならないだろう。あるふたりの女同士のカップル(「レズビアン」であることを強調はしない)の蜜月と別れを3時間に渡って辛抱強く描くのだが、それぞれが属する異なる社会的階層がその土台にある。美学生のエマはアーティストである種のエリートだが、主人公のアデルは一種の社会奉仕的な立場としての教師という職業に身を捧げていく。ある苛烈な愛を描きながらも、そこからむしろ離れたところで使命を見出していくひとりの若い女性の感動的な歩みを映している。それぞれの立場を無効にするのが激しいラヴ・シーンなんだろうけど、それが過度にスキャンダラスなまでに絵画的に美しく描かれているかどうかは、正直判断しがたい。が、それ以上にラスト・カットのアデルの歩き去る姿、それこそがこの映画の芯だと僕は感じた。その瞬間のための3時間だと。

予告編


Photograph by Jessica Miglio © 2013 Gravier Productions, Inc.
ブルージャスミン
監督/ウディ・アレン
出演/ケイト・ブランシェット、サリー・ホーキンス、アレック・ボールドウィン 他
配給/ロングライド
5月10日(土)より、新宿ピカデリー、Bunkamuraル・シネマ 他にて全国公開。

 ここのところヨーロッパで軽妙なラヴコメを撮っていた印象のウディ・アレンだが、これもまた彼のシニカルさの純度を研ぎ澄ましたという意味で、あまりに「らしい」一本。いや、『それでも恋するバルセロナ』(08)辺りと比べても、あの最後のカットの虚しさを引き伸ばしたものだとも言えるだろう。セレブ暮らしだった女がその虚栄心ゆえに落ちぶれていく様を、ただただ「まあ人間こんなもんだよ」という認識であっさり描いているのだが、それでもケイト・ブランシェットのエレガントな壊れ方はパフォーマンスとして優れている(相変わらず発話が素晴らしい)。それを肯定も否定もせず、そこに「在るもの」として簡潔に見せてしまうために彼女の力が必要だったのだろう。80歳目前のアレンのこの冷めた見解にはある意味呆然とするが、しかしある種の救いを今後の彼の作品に期待するのも見当違いなのかもしれない。

予告編

Damon Albarn - ele-king

 このCDのジャケットを見て、「サッド・キアヌ」(邦訳:ぼっちキアヌ)を連想したのはわたしだけだろうか。ここでわたしが言及しているのは、元祖の、フィギュアにもなったあの有名なキアヌ・リーヴスのぼっち姿である。
 さらに、背景の色がまたふるっている。英国の空の色は、一般に「灰色」と表現されるし、わたしも頻繁にその表現を使うが、実際には違う。「濡れた脱脂綿の色」と表現したのは詩人でも作家でもなくダンプ運転手のうちの連れ合いだが、たしかに英国の空はいつも白々としている。
 しかし、なんでデーモンが英国の空の片隅でぼっちキアヌになってんだろう。
 ということが気になり、どうしても気になってつい買ってしまった。

                ******

 ブラー、ゴリラズ、The Good、the Bad & the Queen、Rocket Juice & the Moonなどでの活動の加え、2本の映画音楽と2作のオペラ音楽を手がけ、アフリカで現地のミュージシャンたちとセッションし、現代音楽の作曲家とも積極的にコラボして……という彼のキャリアを見ていると、プロリフィックという言葉はこの人のためにあるようだ。昔はオアシスVSブラーなんて構図がタブロイドを騒がせた時代もあったのだが、ショービズ界のご意見番になったノエル・ギャラガーとは対照的に、デーモンはひたすら音楽を探究して来た印象がある。様々な分野の音楽を交合させるデーモンはハイブリッド・フェチでもあるが、それもそのはず、ブリットポップと“パークライフ”のデーモンは、実はこのパンクばばあと同世代だ。ポストパンク期に思春期を送った人間がハイブリッドに拘泥するのはよくわかる。

 にわかには信じがたいが、本作は彼が本人名義で出す初めてのソロ・アルバムだという。いったいどんな斬新な音が聞けることやら。と思っていると、ジャケットのヴィジュアル同様、サウンドも余白が多かった。花火が見れるかと思ってたら、アロマキャンドルが窓辺に立っていた。という感じ。メランコリックでミニマルでスリーピーだが、この眠気は夜の闇の中で襲われる睡魔ではない。白い朝の空の下でまどろんでいるような音だ。The XXがブライアン・イーノの『ラヴリー・ボーンズ』のサウンドトラックをアレンジして演奏していたら、「いや、それ僕らのほうがうまくやれるかも」とAlt-J(https://www.ele-king.net/review/album/002624/)が出て来たような感じ。と言えばいいのか。コンテンポラリーといえばコンテンポラリーだが、意図的に力を抜いたムードで先鋭的ではない。

 デーモン本人はこのアルバムの音について、「空っぽのクラブで聞こえる音」と語っている。自伝的な作品だと発言していることを鑑みれば、それは開店前のクラブのことなんだろうか。「ソロというのは、あまりに孤独」と本人は言っているが、しかしこのクラブは完全に空っぽというわけではない。Bat For Lashesのナターシャ・カーンやブライアン・イーノも彼と一緒に踊っている。そこら辺も、ハイブリッド・フェチであると同時にコラボ・フェチでもあるデーモンらしいところだ。彼はいろんな意味でソロにはなり切れないアーティストなんだろう。

              ******

 「ぼっちキアヌ」は、ハリウッド俳優が浮浪者風の気の抜けたファッションで公園に座っていたことで話題になったが、「ぼっちデーモン」はいかにもミドルクラスの中年らしい恰好をして座っている。先日、ブライトンで毎年行われているチルドレンズ・パレードという催しを見ていると、子供たちと一緒に歩いていたお父さんたちはみんなデーモンみたいな恰好をしていた(こういう行事に参加するイクメンは、だいたいミドルクラスの人だ)。アルバム中、1曲だけ全然曲調が違う“Mr Tembo”という曲があり、それは娘のために書いた歌だそうで、こういうエコほのぼのとした象さんの歌を子供のために書くというのもいかにもミドルクラスの洒落たダディがやりそうなことだ。
 そういう私生活の部分も垣間見せるので、「これまででもっとも素のデーモンが出ている」とか「もっともパーソナルでしみじみとしたアルバム」とかいうことが、だいたいこのアルバムの定評のようだ。が、わたしは全然そうは思わない。
 
 これはれっきとしたコンセプト・アルバムだろう。
 そうとしか思えないのは、わたしがこのアルバムのジャケットを初めて見た時に、サッド・キアヌのパロディーだと思って大笑いしたせいだが、アルバムの冒頭が、コメディアンのロード・バックリーのギャグのサンプリングだと知ると、いよいよこのアルバムは「ソロ」という分野のパロディ・アルバムなんじゃないかと思えて来る。
 というのも、ポストパンクで育った世代は、物寂しくてメロウな自伝的アルバムを作って、うなだれている自分の写真をジャケットに使うなどということは絶対にできない体質だからだ。
 ぼっち。というジャンルとその一般的な在り様を、ぼっち。を演じてみながら考察したアルバム。とでも言えばいいだろうか。
 いずれにせよ、そういうことを感じさせる自分自身への距離の取り方がデーモン・アルバーンという人の持ち味であり、聡明さである。
 この人は次は全然違うことをやるに違いない。

第6回:女の子が好きな女の子 - ele-king


V.A.
アナと雪の女王 オリジナル・サウンドトラック

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 ここ1ヶ月半ほど、「ありの~ままの~すがた見せるのよぉ~」と我が家の6歳児がかしましい。もちろん彼女が歌うのは、大ヒット公開中のディズニー・プリンセス映画『アナと雪の女王』の主題歌“レット・イット・ゴー”日本語版です。アンタそれ以上ありのままになってどうするんだ……と突っ込んだところで、「何も怖くない。風よ吹け(I don't care. what they're going to say.Let the storm rage on.)」と、こちらがフローズンされそうな勢い。「友だちの話聞いてたらもう一度見に行きたくなった!」と、彼女の『アナ雪』愛は深まるばかりです。彼女の通う小学校ではサビのフレーズをどれだけ大声で歌うか、もしくはヘン声が歌うかを競うのが女の子の間で大流行。ブランコに乗りながら「アロハ~バイバ~イ」とオラフ(雪だるま)のモノマネをしたり(そんなセリフありましたっけ? 母はうろ覚え……)、オラフのギャグ「てかハンスって誰~?」を繰り返したりするのも流行っているそう。

 ジブリ、ディズニー、ピクサー……これまで数々の子ども向け映画を我が子といっしょに観てきましたが、「クラス中の女子が一つの映画の話題で持ちきり」というほどに子ども界を席巻した映画はなかったように思います。日経ビジネスONLINEによれば、すでにアニメ映画として『トイ・ストーリー3』を抜く全世界歴代1位の興行収入を記録し、実写映画を含むランキングでも歴代6位なのだとか。我が子たちのフィーバーぶりに、この記録的な大ヒットをしみじみ実感しています。
 大ヒットの理由については識者がすでにさまざまな論考を重ねていることでしょうが、少なくとも女児にウケた理由は識者ではない私にもわかります。まず、〈M-1グランプリ〉の決勝大会なみにギャグの手数が多いこと。オラフの体を張ったギャグの数々のおかげで、映画館では子どもたちの笑い声がひっきりなしに鳴り響いていました(女の子は小さい頃からお笑いが大好き!)。そして何より重要なのが、女の子同士の連帯を描いていることでしょう。

 4~7歳のプリンセス期にある女の子は、とにかく女の子が大好き。これは女児を持つ親の多くが実感することではないでしょうか。女の子同士で「○○ちゃんだいすきだよ」「LOVE」などとカラフルなシールやハートマークをちりばめた手紙を毎日のようにやりとりし、遊ぶのももっぱら女の子。テレビを観ていても、少年アイドルやイケメン俳優より少女アイドルやヒロイン女優に夢中です。彼女たちがピンクやドレス、ティアラ、妖精といったキラキラデコデコひらひらしたものを好むのは、それが「女の子」を象徴しているからなのです。
 女の子のプリンセス願望というと、王子様待ちの他力本願、受動的な生き方の象徴としてとかくやり玉に挙げられがちですが、幼い女の子は王子様など眼中にありません。21世紀以降着実に売り上げを伸ばし、現在では2万6千点以上のグッズを抱える「ディズニープリンセス」ブランドも、プリンセス映画から王子様を排除してプリンセスだけで世界観を固めたからこそ、女児のハートをつかんだのです。
 日本でも現代女児の心をとらえてはなさないTVアニメは、『プリキュア』シリーズに『アイカツ!』など、女の子同士の連帯の描写に重きを置いたものばかり。白雪姫とシンデレラはグッズの中で並んでいても、手に手を取って戦ったりはしませんでしたから、プリキュアのほうが進んでいるともいえます。見方を変えれば、『アナと雪の女王』の女児人気は、「ディズニープリンセス」がプリキュア要素を取り入れた結果とも言えるのではないでしょうか。


『アナと雪の女王』
監督:ジェニファー・リー、クリス・バック
製作年 / 国:2013年 / アメリカ合衆国
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
ハンス・クリスチャン・アンデルセンの童話『雪の女王』を原案とした長編アニメ映画。王家の姉妹が試練を乗り越え、凍った国を救い、自身らの愛を取り戻す顛末をスペクタクルに描くディズニー最新作。日本国内でも大ヒットを記録し、公開7週めにして累計動員970万人、興行収入121億円を突破して社会現象化しつつある。映画本体に加えてサントラ盤も好調にセールスを伸ばし、とくにMay J.が歌う主題歌“レット・イット・ゴー”は、国民的なヒット・ナンバーとして連日街頭やテレビなどを華やがせている。


 なぜ女児はこれほどまでに「女の子」の世界に執着するのか。一説によれば、アイデンティティを確立する上で必要なプロセスだからだと言われています。自分が何者かであるかを意識せずに生きていくことは難しい。たいていの大人にとって性別は自明ですし、職業や周囲に認知された人格、あるいは「ボン・ジョヴィのモノマネをさせたら三国一」などの特殊技能でアイデンティティを保つこともできます。しかし通常の子どもは、そこまで確立されたアイデンティティを持ち合わせていませんし、生物学的性差への理解もあやふやです。そこで「性別を象徴するすてきな何か」に自らを同化させ、同じ性別を有する者同士で愛情を育むことで、アイデンティティ確立への第一歩を踏み出すのでしょう。男児がスーパーヒーローに自己同一化するのも同じことです(もちろん男女が逆転する場合もあるでしょう)。

 ところで、女児が同性を好むのが自然な発達過程なのだとしたら、そこを当て込んだ女児向けの女の子連帯モノが昔からあってもよさそうなものです。しかし私の子ども時代の女児アニメといえば『キャンディ・キャンディ』『小公女セーラ』に代表されるように、けなげで無垢なヒロインが意地悪な同性にいじめられても耐え、お金持ちの男性に救われるというシンデレラ・ストーリーが王道でした(いじめ描写が苦手な私は女児アニメを避け、『機動戦士ガンダム』に入れ込んだものです)。富や権力が男性に握られている世界では、結婚で富を得るにしても仕事で成功するにしても、権力のある男性にすくい上げてもらうしかありません。つまりかつての女の子にとってのサクセスとは、自ら目標を立て努力し、他人と協力しながら何かを成し遂げることではなく、自分一人にスポットが当たること。そして男性に愛されるには、自意識や自我を隠し、無垢やけなげを装わなくてはいけない。女の自意識や自我は恥ずべきものであると教え込まれた女性たちは、他の同性の自意識や自我の攻撃に走ることもしばしばです。幼い頃に刷り込まれたこうした価値観は、女性たちの生きづらさの一因になっているようにも感じられます。

Be the good girl you always have to be  良い子でいなさい、いつもそうしてきたように
Conceal, don't feel,  隠しなさい、感情を抑えて
don't let them know  誰にも知られてはいけない

 “レット・イット・ゴー”の歌詞の原文を読んだとき、真っ先に思い出したのは、フェイスブックの女性COOによって書かれた全米ベストセラー『リーン・イン』(シェリル・サンドバーグ)でした。同書がクローズアップしたのは、上昇志向や能力、自己主張を隠し、控えめにふるまうのが愛される「良い子」であると刷り込まれているばかりに、女性たちがチャンスを逃がしてしまうという問題です。上記の歌詞は氷を操る能力を隠すように言い聞かされて育った姉・エルサの孤独を描写するものですが、女性全般が感じがちな抑圧にも通じるのではないでしょうか。同書で紹介されている「ハイディ・ハワード実験」は、こうした抑圧の源となるバイアスを明らかにしています。実験内容は、実在する野心的な女性起業家が成功した過程を、ある学生グループに対しては男性名「ハワード」で、もう一つの学生グループには女性名「ハイディ」で、それぞれ読み上げるというもの。すると性別以外の情報はそっくり同じだったにも関わらず、ハワードは好ましい同僚と見なされ、ハイディは自己主張が激しく自分勝手で一緒に働きたくない人物と見なされたのです。単純に言ってしまえば、男性の場合は成功と好感度が正比例し、女性の場合はその逆ということなのでしょう。


『リーン・イン 女性、仕事、リーダーへの意欲』(日本経済新聞出版)
シェリル・サンドバーグ著、村井章子訳
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 著者のシェリル・サンドバーグ自身も、フェイスブックに転職した際、ライフルを構えたコラージュ写真がネットに掲載されるなど激しいバッシングにさらされたといいます(3章「できる女は嫌われる」)。「そして結局、いちばんいいのは無視することだとわかった。無視する。そして自分の仕事をするしかないのだ、と」。まさに「I don't care what they're going to say.Let the storm rage on.(もう皆に何を言われようとも気にしない。嵐よ吹き荒れるがいい)」という“レット・イット・ゴー”の歌詞のとおりです。
 とはいえ、著者は「みんなに嫌われても全然オッケー!」とは言いません。「本音を言えば、チームの和を乱す女だとみなされるのではないか。文句ばかり言ういやな女だと思われるのではないか」とおびえ、意見を言うテーブルにつこうとしない女性たちに、本音でありながら怒りを招かない言い方はスキルとして習得できるとアドヴァイスしています(6章「本音のコミュニケーション」)。また、女性の能力を認めてくれる有力者が目をかけたくなるような実力を身につけ、信頼関係を築き、味方につけなさい、とも(5章「メンターになってくれませんか?」)。『アナと雪の女王』について、「エルサほどの能力があれば世界征服をすればよかったじゃないか。あの結末は日和ってる」「国民を楽しませるだけでは偉大な力の無駄遣いだ」という(主に男性の)感想をちらほら見かけます。たしかにエルサが男性であれば、「世界征服かっけー!」と力に憧れる男性たちが貢ぎ物を持ち寄り、その権力を目当てに女性たちが群がって、強者である自分に満足しながらつつがなく暮らしてゆくことができたかもしれません。しかし、エルサはあのままでは国民とともに飢え死にするほかなかったでしょう。強者ゆえの孤独は男性にもあるかもしれませんが、女性のそれは死に直結しかねません。エルサの物語は、能力を隠しきれなかったことで孤独に陥りながらも、わかってくれる者と信頼関係を築き、その能力を隠すのではなく他者の利になるようにコントロールすることで居場所を獲得したシェリルの人生に似ています。女性が健全なアイデンティティを育むには、まずは抑圧をはねのけて自我のありようを肯定し、その上で信頼できる他者に受け入れられる術を探るという2段階のプロセスをたどる必要があるのです。そう考えれば、プリンセス映画でありながら女児モノの枠を超えて大人の女性を虜にし、世界的に大ヒットした理由も想像できます。
 もちろん、一般女性はエルサやシェリルのような特別な能力を有していないかもしれません。しかし「権利を主張したり賢しらにふるまったりしたら“ブス”“フェミ”として社会から排除するぞ。そうすれば生きていけないぞ」という恐怖にコントロールされ、理不尽をニコニコやり過ごしてきた女性たちも、SNSの発達で自己表現したり、同性と連帯する楽しさを知りつつあります。劇場で声を揃えて「レリゴ~」と歌う女性たちは、ひととき小さな女の子になって「女の子大好き! 自分大好き!」という自己肯定感を育み直すことで、嵐吹き荒れる社会に立ち向かう活力を得ているのかもしれません。

ウィズネイルと僕 - ele-king

 英国映画の定番。というか、誰の家に行っても必ず本棚に並んでいるDVDがある。で、そういう映画ほどなぜか日本では観ることができないことが多い。
 例えば、シェーン・メドウズ監督の『メイド・オブ・ストーン』が日本公開された時。
 宣伝する側は(わたしも含めて)「『This Is England』の監督が撮ったストーン・ローゼズのドキュメンタリー」と書いた。しかし、実際にメドウズが初めてイアン・ブラウンに会った時、イアンは「僕は君の『Dead Man’s Shoes』が大好きだよ」とメドウズに言ったのであり、ジョン・スクワイアも「『Dead Man’s Shoes』の監督だからシェーンに(ドキュメンタリーを)任せようと思った」と『メイド・オブ・ストーン』のUKプレミアで語った。
 つまり、英国の音楽や映画が好きな人々の間では、シェーン・メドウズといえば『Dead Man’s Shoes』の監督なのだが、残念なことに日本では公開されていない。見れない映画について書いたところでしょうがないと思いつつ、拙著にこの映画のレヴューを入れたのは、UKの音楽やカルチャーが好きな人は押さえておくべき1本だと思ったからだ。

 そしてこの『ウィズネイルと僕』こそ、そういう映画の代表的作品である。
 わたしが10年前にHP活動をはじめた時、ジョン・ライドンの応援ページ(当時、世間はB級セレブ番組に出演したライドンへの非難と怒号に満ちていた)と共に作成したのが、この映画のページだった。
 その後、この映画の邦版DVD発売を求める運動を行っている方々の存在を知った。日本でも吉祥寺バウスシアターで単館上映されたことがあると知った。で、そのバウスシアターが閉館するという。そのクロージング・イヴェントが行われている5月を通じて、同館が上映しているのが『ウィズネイルと僕』らしい。バウスの閉館を飾るのに、これほど相応しい作品があるだろうか。別の言葉で言えば、『ウィズネイルと僕』を日本で唯一上映したような映画館が閉じるのである。日本の人々はそれでいいのか。わたしが日本にいたら暴れる。

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 いまデーモン・アルバーンのソロを聴いているのだが、デーモンも『ウィズネイルと僕』ラヴァーであることを公言している(そう思うと、彼のソロはパロディ・アルバムじゃないかというわたしの疑念はいよいよ強まる)。
 そういえば、ブリットポップ期は『さらば青春の光』と『ウィズネイルと僕』人気の再燃期でもあった。ブラーとオアシスがこの2作を「好きな映画」に挙げたからだ。オアシスがモッズの『さらば青春の光』派で、ブラーが『ウィズネイルと僕』派といえばいかにもの構図だが、実はその辺が微妙にクロスオーヴァーもしていて、デーモンは“パークライフ”で『さらば青春の光』のフィル・ダニエルズとデュエットし、リアムは『ウィズネイルと僕』でリチャード・E・グラントが着用したコートをTV司会者と取り合って話題になった(リアムはオークションで競り負けた)。

 モリッシーの『Vauxhall & I』のタイトルが『ウィズネイルと僕(“Withnail & I”)』にちなんだものであることは知られているし、米国のキングス・オブ・レオンの曲の歌詞にも「Withnail & I」は登場する。元ミュージシャンのジョニー・デップは「死ぬ前に見たい映画」に本作を挙げているし、UKでもっとも激辛な映画批評を書くガーディアン紙の名物ライター、ピーター・ブラッドショーがレヴューで5つ星を付けた奇跡のような映画でもある。

 この映画がそれほど人びとを魅了するのは何故だろう。
 それは、一言でいえば「UKらしさ」だとわたしは思っている。
 ここでわたしが言うUKとは、ガーデニングとかアフタヌーン・ティーとかのUKではない。それらの要素はどうでもいいんだけど、それでも「UK好き」を自認する人は、好きな要素がすべてここにあるだろう。
 悲喜劇。は英国人が得意とする分野だ。しかし『ウィズネイルと僕』は喜悲劇の域に達している。
 「後にも先にも、この映画のような作品は存在しない」
 と、あのピーター・ブラッドショーが書く所以である。
 これは「笑って泣かせる」映画じゃない。あるシーンでは笑わせ、次のシーンでは泣かせるような作品ではないのだ。全編を通じて「大笑いしながらも心の奥底で泣きたい」ような映画だ。
 ふたりの売れない俳優志望の青年が、だらだらといい加減に日常を生きているというだけのストーリーは、誰も死なないし、何らの衝撃的なツイストがあるわけでもない。ただ全編ふざけているだけのような映画でもある。だが、大笑いさせられながらも何故か奥底にくすぶっていたせつなさを一気に噴出させるようなラストシーン。雨の中でウィズネイルがロンドン動物園のオオカミたちを前に「ハムレット」のセリフを朗々と叫ぶ場面は英国映画史上に残る名シーンである。

 やることなすこと失敗し、アル中になったブランメルみたいなウィズネイルというキャラクターは、セックス・ピストルズのジョニー・ロットンやグレアム・グリーンの「ブライトン・ロック」のピンキーに匹敵するアンチ・ヒーローでもある。
 UKほど魅力的なアンチ・ヒーローを生み出す国はない。
UKほど滑稽なルーザーをクールに見せる国はない。
 それは英国が負けるということの美学を、勇ましく竹槍を突き上げることのダサさを知り抜いている国だからだろう。この国のヒーローは「勝つ」なんて無粋なことをしてはいけないのだ。
 その証拠に、リアム・ギャラガーだけではない。人生のある時点で、猛烈にウィズネイルのコートを着てみたかったという英国人の男性をわたしは何人も知っている。

Sun Kil Moon - ele-king

 先日のフィリップ・シーモア・ホフマンの急逝で心が乱れたのは、その訃報を最初に知ったのがツイッターのタイムライン上だったことである。しばらくして流れていく、数々の「追悼」ツイート……おかしな話だが、自分もその「ソーシャル・ネットワーキング・サービス」を利用していながら、しかし彼の死をそこで見たくはなかったのだ。それはこの20年間のアメリカ映画に夢中だった自分にとって、会ったこともないがしかし、たぶん遠くない人間のものだった。僕がたしかに好きだった彼の死の「情報」は、ほかの日常的なツイートに紛れて、しばらくすると消えていった。
 レッド・ハウス・ペインターのマーク・コズレックの現在のプロジェクト、サン・キル・ムーンの6枚めのアルバム『ベンジ』はおびただしい数の死が描かれたアルバムで、聴きながら歌詞を追っているとふと、自分の知っている人間の死に出くわすこととなった。ジェームズ・ギャンドルフィーニというアメリカの俳優で、僕は彼の愛嬌のある風貌が好きだった。昨年の彼の急死も、僕はたしかインターネットで知ったはずだ。彼の死について、アルバムではこんな風に歌われている。「ラーメンを食べて緑茶を飲んでいるときに、『ザ・ソプラノズ』のジェームズ・ギャンドルフィーニが51歳で死んだニュースを見た/ドラムを演奏しに来る男と同じ年だ」。このアルバムに参加しているドラマーのことらしいが、サン・キル・ムーンのソングライター、マーク・コズレックはそんなふうに徹底して自らの身の周りに起きたこととしての死をここで語っていく。この曲のタイトルは「リチャード・ラミレスは今日自然的原因で死んだ」だ(リチャード・ラミレスは実在の連続殺人犯の名前)。『ベンジ』はそして、簡単にひとの死をどこかに流し去ったりせず、それをアコースティック・ギターの穏やかな調べとコズレックの深い歌声に変換して、語り手の揺らぐ感情へと流し込んでいく。結局、ひとはどんな状況でそれを知ったとしても、次々にやってくる誰かの死と対峙するしかないのだと……ただそのことが、このアルバムを陶酔的なまでにメランコリックで美しいフォーク・ソング集、ある種の優れた文学作品の領域へと引きこんでいる。

 オープニングの“カリッサ”でのギターの丹念な演奏と不思議に震える音程、そしてストーリーテリングが見事な導入となっている。カリッサはコズレックのいとこで、不慮の事故によって35歳で命を落としたのだという。長らく会っていなかったという親戚の死にコズレックは、ひどく打ちひしがれている様子をここで隠さない。だが、ウィル・オールダムが加わるコーラスは気が遠くなるほど優美だ。そうしてアルバムは、老いた母への愛、叔父の死、自らのセックス体験、子ども時代の父の記憶……と、きわめて私小説的に場面を変えていきながら、ディープなブルーズ(“トラック・ドライヴァー”)やときにヒップホップ的なフロウ感覚(“リチャード・ラミレス~”)をも通過していく。歌っている内容のせいだろうか、コズレックのヴォーカルはときにこちらがぎくりとするような危うさを隠さない。

 僕はウィル・オールダムの名前を見て思い出し、本当に何度となく聴いたボニー・プリンス・ビリーの『アイ・シー・ア・ダークネス』に久しぶりに耳を傾けてみた。近いものがあるのではないかと思ったのだ。たしかに時間感覚が消えていくような静けさは共通するものがあった、が、そのアルバムに収録されているたとえば“デス・トゥ・エヴリワン”のようなぞっとするような暗さは『ベンジ』にはない。ジャケットの色合いのちがいにも表れているように、もっと茫漠とした悲しみが広がっていて、それはどこまでも沈んでいくようなものではない。ふと音を外すギターのように、心地よい揺らぎが漂っている。ラスト・トラックの“ベンズ・マイ・フレンド”に至っては、ジャジーで涼しげなサックス・ソロすら聴けるナンバーで、ポスタル・サーヴィスのライヴを観に行った体験とそこで自覚する自らの老いを描いており、これも私小説的だが語り口はユーモラスだ。そしてこの曲でアルバムが終わることで、不思議と聴いたあとの感触は軽やかだ。

 「きみの知っているひとはみんな死ぬ」と歌ったバンドのことが僕は大好きだが、しかしその現実をたやすく受け止められるほど僕たちは強くなくて、だから『ベンジ』はその弱さにゆっくりと混ざり溶けていくレコードである。震えるギターの弦の音に意識を委ねているうちに、不条理に暴力的に訪れる数々の死、その悲しみに浸るある種の心地よさを思い出させるフォーク・ミュージックだ。そしてそれは僕たちがまた日常、老いて死に向かっていく日々に帰っていくこと……生きることを歌っている。

DJ WADA (Sublime, Dirreta) - ele-king

今年セルフレーベルDirretaを始動させました!
1枚目のEPからCloudy Spaceです。
よろしくお願いします!
https://www.youtube.com/watch?v=gbta_1GYz5g
https://www.facebook.com/beetbeat

DJ WADA chart


1
Jah Wobble, PJ Higgins - Watch How You Walk (Red Rack'em Remix) - Sonar Kollektiv

2
DJ Koze- Nices Wolkchen (Robag's Bronky Frumu Rehand) - Pampa Records

3
Pharaohs - If It Ever Feels Right (Tornado Wallace Remix) - ESP Institute

4
Santos - Garlic (Original Mix) - Dissonant

5
Jacob Husley, August Jakobsen - Blue (Minilogue Remix) - WetYourSelf Recordings

6
Kenny Larkin - You Are (C2 Remix) - Planet E Communications

7
Petar Dundov - Rise (Original Mix) - Music Man Records

8
DJ Kaos - Swoop (Club Edit) - Jolly Jams

9
DJ WADA - Cloudy Space - Dirreta

10
Richter - Natura Contro (Dj Wada Remix) - The Zone Records

The Tenses - ele-king

 ラフムス。羅府夢衆。嗚呼、なんて素敵な響きなのだろう。ロサンゼルスの夢追い人たちよ、僕らはみんなあなたの子どもだ。

 僕がロサンザルス・フリー・ミュージック・ソサエティー(LAFMS)をディグるきっかけとなったのは1971年創業の老舗中の老舗ともいえるLAのレコ屋、プーバー(Poo-Bah)だ。永久に売れることのないセールワゴンに積もる魔法の埃には、この店に踏み入る者に幸運をもたらす不思議な力が宿っているのだ。思い返せば僕も、まだ出会ってまもないマシューデイヴィッドのアンビエント・セットと慣れないメディカル・ウィードに完全にノックアウトされ、インストア・ライヴ中に店の床で爆睡してしまったのもココであるし(起きたらレコ屋ってすげーびっくりするよ)、後に同じ屋根の下で暮らすことになるショーン・マッカンやマシュー・サリヴァン、アレックス・グレイらと親交を深めたのもココであるし、先日も金欠を理由にはるか昔に頼まれた仕事をいまさら仕上げて持っていっても笑顔でメシと給与を施してくれたのもココである。プーバーの懐は果てしなく深く、広く、そしてゆるい。
 だから、入手困難であったLAFMSの音源の販売や再発など、彼らの徹底したDIY主義に共鳴し、プーバーが長年サポートしてきたことは必然に思えるのだ。

 LAFMSコレクティヴの中核を成すスメグマ(Smegma)のジュ・サック・リート・ミートとジャッキー・スチュワートによるベテラン奇才デュオ、テンシズ(Tences)のサウンドはスメグマのそれよりミニマルなセットアップのコンパクトなプロジェクトだ。ターンテーブル、テープ・マニュピュレーション、歪みまくるサーフ・ギターとコルネット等で丹念に築き上げられたこのレコード。映画や短波レディオ・ドラマからのサンプリングとループやサイレン等のノン・インストゥルメントのコラージュの上を縦横無尽に駆け巡るリンク・レイ的なギター・リフ、聴者がエコーマシンに乗ってカリフォルニアの空へどこまでも飛ばされてゆくサウンドはひたすらに享楽的だ。エクスペリメンタル=難解というイメージを抱くリスナーにこそこのレコードでトリップしていただきたい。誰かの敷いたレールの上でなく、誰かの模倣でもなく、自分たちのやり方で、独自の作品を創造するLAFMSのヴィジョンをあなたも夢見ることができるかもしれない。

 僕にとってのLAは羅府夢衆そのものとも言える。ローカル・アーティスト、インディペンデント・ギャラリー、レコ屋、DIYスタジオetc、町中の至るところにその夢は生きている。ジュ・サック・リート・ミートに週2、3で近所のカフェで遭遇したりもする。
 プーバーももちろん然り。LAFMSコレクティヴやレコード・コレクター、自宅のゴミ・レコードを店先に放置する地元のオッサンやオバハン、ルンペンにネコ、シャモジ等々……ありとあらゆる人種が交錯するこのレコ屋は、先日のジャパン・ツアーでも最高のアクトを披露してくれたラスGがバイヤーを務めるということもあり、〈ローエンド〉や〈ストーンズ・スロー〉周辺のLAビート・キッズも多く集う。野田編集長がよく呟く、LAのヒップホップは何故ビートが溶けるほどにサイケデリックなのか? という問いかけの答えのヒントはここにもあるかもしれない。

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