「坂本慎太郎」と一致するもの

Cornelius - ele-king

北中正和

 音楽で複雑なことを表現しようとするとき、普通のミュージシャンは難しいコードを使ったり、リズムの実験を重ねたり、音数を増やしたりして、足し算や掛け算で対応しようとする。『ファンタズマ』のころまで、コーネリアスもそうだった。

 しかしそれが『POINT』では一転する。音数が激減して、簡潔かつポップになったのに、奥行きが深まったのだ。何が彼にその転換をうながしたのか、不勉強でよく知らないのだが、数少ない音で、一聴してコーネリアスとわかる音楽が出現。次の『SENSUOUS』はその方向の洗練を極めたアルバムだった。

 そこから反射的に連想されるのは、純邦楽における間の感覚、石庭に象徴される禅の思想、俳句の省略の美学などだった。べつに日本の音階が使われているわけでも、和楽器が演奏されているわけでもないのに、そこにはまぎれもなく伝統をふまえつつ更新していく現代の日本のポップスの姿があった。
 それから11年。アルバム『Mellow Waves』に先立って発表されたシングル「あなたがいるなら」は、まさにその延長線上の曲で、落ち着いた演奏にポップなヴォーカルがのっかっている。作詞は坂本慎太郎。音楽は小山田圭吾。現在望みうるかぎり最強のコンビの期待にたがわぬ名ラヴ・ソングと言っていいだろう。

 セカンド・シングルの「いつか/どこか」は小山田圭吾が作詞作曲したファンク・ロック・チューン。ドラムやベースやシンセの音は、「あなたがいるなら」のキーボード同様、往年のR&Bやファンクを思わせるが、歌の後ろのリズム・ギターはどちらかといえばカントリー系、間奏はワイルドなノイズ系で、歌も含めた全体の組み合わせは、ありそうでなかったものだ。
 この曲、 歌声は軽快だが、うたわれていることは、諸行無常の世界。隠遁した老人の思いを先取りするかのような歌に驚く。アルバムではそれは、この曲の次に置かれた“未来の人へ”の内容にもリンクしている。こちらの歌は、自分のアナログ・レコードが遠い未来の誰かに聞かれることを想像する内容だが、その関係はそのまま、いまレコードを聞いている自分とそのレコードの作者の関係にあてはまる。これも坂本慎太郎の作詞だ。
“夢の中で”は夢の深層心理の歌で、漢字の四文字と三文字の熟語が出てくるところは、細細野晴臣や高野寛の初期の作品みたいだなと最初は思ったのだが、探索中という歌詞は、探し物は何ですか、という井上陽水の“夢の中へ”にも通じる。この交錯が意図的でないとすれば、実に興味深いシンクロニシティだ。
 ループが巧みに使われた「Mellow Yellow Feel」にしても、雨の日の気分を一筆書きのように描いた“”The Rain Song”にしても、磨き抜かれた透明感のあるサウンドと最小限の言葉からイメージがどんどん広がっていく。こういう作品では、物語性をはらんだ坂本慎太郎の詞の作風とのちがいもよくわかる。

 他の作品にふれる字数がなくなったが、2010年代の名作として語りつがれていくであろう素晴らしいアルバムの登場を喜びたい。

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野田努

 『ファンタズマ』には、「97年3月にJUST LIKE HONEYという歌を世界中でたったひとり口ずさんだ男だった」と歌う曲がある。彼がかつてサンプリングしたビーチ・ボーイズの曲名と同じ曲名の曲だが、このラインを意訳するとこうなる。「オレは、流行に敏感なだけの男ではない」
 実際、『Mellow Waves』は流行の作風ではない。思えば『69/96』も趣味がよいと言われていた「渋谷系」なるタームへの当てつけのように、絶対に渋谷系的な人たちが嫌うであろうへヴィメタルを「引用」したほどだから、まあ、我こそ最先端というノリには基本アンチであり、むしろ英米の動向への関心が以前よりも落ち着きはじめたのが『ファンタズマ』だった、とぼくは考えている。それでも、1年前に“ガール/ボーイ・ソング”を愛聴していたぼくは、“スター・フルーツ〜”を初めて聴いた瞬間に「エイフェックス・ツインじゃん!」と叫んでしまうことを我慢できなかったということも告白しよう。
 が、しかし、欧米の批評のひとつとしてKeigo Oyamadaを「科学者」に喩える人がいたように、コーネリアスのエレクトロニックな立体音響は、欧米の基準からすれば「緻密」かつ「クリア」で、100mlのメスシリンダーを使って1ml単位も正確に計量するプロセスにおいて完成する精密な何かに見えるのかもしれない。そうした丹念さと同時に、同時代のいかなるロック・バンドよりも、圧倒的に多彩な「引用」と高い「参照性」、巧妙かつ独創的な、そしてポストモダンな「再構築」がその名作の評価の土台となっている。

 それはたしかにそうだが、ぼくがコーネリアスに惹かれる最大の要因は、即物主義と叙情主義との駆け引きの絶妙さにある。“スター・フルーツ〜”においてエモーショナルなのは、歌詞の棒読みのような歌よりも、あの当時のテクノロジー環境としてはおそろしく労力を擁するであろう、過剰にエディットされたドラムンベースだ。あのブレイクビーツを聴いているとき、ぼくは最初はクスっと笑っているが、じょじょにあの曲を作った作者の、表面上からは隠された穏やかなならぬ心情に触れているような気がするのだ。が、同時に、「いや、それは気のせいじゃないだろうか」とも思うのだ。

 1小節のなかにスライスされたビートを詰め込むだけ詰め込んだ“スター・フルーツ〜”とは対照的に、先行シングルとなった“あなたがいるなら”は、マッシヴ・アタックの“エンジェル”を彷彿させるスローモーションの世界で、そのローピッチな、広げられたビートの間隔には魅惑的な沈黙がある。坂本慎太郎による感傷的な歌詞がなかば涙もろい節回しで歌われるわけだが、それら湿り気&古風な表層は並行してミックスされる即物的かつモダンなシンセベースの乾きによって刹那押しのけられ、距離がはかられる。まさにコーネリアス、だ。
 このスローテンポ、そして「あなた」という他者の不在すなわち「未練」が歌われていることは意表を突いているといえば意表を突いているが、“あなたがいるなら”はときにユーモアさえ感じるほど芸が効いているからまだいい。即物的なるモノと叙情的なるモノとのせめぎ合いは、その次の曲、“いつか / どこか”で早くも最高潮を迎える。美しいアルペジオと感情の起伏のない歌い出しとともに挿入されるシンセベースは、別れの歌に洒落た衣装をまとわせ、楽曲への耽溺を制御させる。音楽において我を見失わない態度は(そしてエモさのないヴォーカリゼーションも含めて)、ぼくにはクラフトワークを思わせるのだが、それはコーネリアスが年齢によって定義される音楽ではないことを意味している。

 とにかく、アルバムは目を見張る2曲ではじまる。3曲目以降は、圧倒的なそれら2曲とくらべてしまうと大人しいと感じるかもしれないが、『Mellow Waves』は音も、そして歌も、コーネリアス作品にしては「言葉」も耳に残る佳曲揃いである。悟ったかのように淡々としながらどこか切なさも入り混じった坂本作詞の“未来へ”では、彼は「わたし」が不在の未来を空想している。そのいっぽう“Mellow Yellow Feel”ではサウンドにフォーカスする。「声」と「ギター」が織りなす華麗なミニマリズムの穏やかな幻覚性は、ニック・ドレイクめいたメランコリーの“The Rain Song”にも引き継がれる。Lushのミキ・ベレーニをフィーチャーした“The Spell of a Vanishing Loveliness”は、そうしたはかなさをさっともみ消すような、熟れたギター・ポップだ。小山田圭吾の棒読みヴォーカルとは対照的なメリハリのある歌は、アルバムの切なさに高ぶる空想=裏読みに対して、「いや、なんでもない」と言っているかのようだ。シンプルな8ビートの“夢の中で”はアルバム中もっともキャッチーな曲で、ユーモアが入り混じった歌詞もさることながら、その展開の親しみやすさは、ニュー・ミュージックのようであり、コーネリアスにおいては冗談のようにポップと言えよう……。

 こうしたアプローチは、先述したように本作が流行を気にしていないという話とも繫がる。なるほど大半の曲に見られる裏拍子にアクセントをおくリズムは今日的なベース・ミュージックとリンクするとこじつけられるなくもないが、インターネットが普及し、24時間個人個人がおのおのの欲望にアクセスできる(逆説的には、24時間消費活動を強いられている)現代では、そもそも隣近所も巻き込むような流行(ムーヴメント/トレンド)は起こりづらく、起きたとしても滞空時間も短いだろう。一瞬にして消え、また現れ、また消える。だいたいコーネリアスが参照性の豊富さを武器にしたのは、PCをいじっていればどんなにマニアックなものでも簡単にコピー&ペイスト(物真似が)できる「いま」ではなく、20年以上も「昔」の話なのだ。

 『Mellow Waves』は偉大なアルバムである。そのもっともな理由は、『ファンタズマ』以降の3枚がそうであるように、これと似たアルバムが他にないからである。この2ヶ月、ぼくはコーネリアスについて集中的に考えを巡らせていた。このことを問い詰めていくと、ひとつには、日本人として日本に生まれ音楽的野心抱きながらポピュラー・ミュージックを続けていくことの困難さにぶち当たる。それを思えばコーネリアスはなおのことたいしたものだが、最後にもういちど反復すると、ぼくが彼の音楽にときめきを感じるのは、丹念にデザインされた立体音響とユーモア、そして、結局のところその奥ゆかしい感情表現にあるのだろう。直球にモノを言えない日本人と言われてしまえばそうかもしれないが、しかし……しかし……、だからこそ、絶妙なバランス感覚をもって流暢に展開する“いつか / どこか”は、いまさら誰がやるんだと耳を疑うような、古典的なロック・ギターソロによって破綻する。科学者が設計したパーフェクトなロボットにも涙をこらえきれないときがあるように。

Cornelius - ele-king

 いよいよ来週末(6月24日)、新作『Mellow Waves』をリリースするコーネリアスの大特集号が、今週末(6月17日)、別冊ele-kingとして刊行されます。
 本年度の最重要作品=『Mellow Waves』についてはもちろんのこと、コーネリアスほぼ全作品のクロスレヴュー、小山田圭吾の半生を語る超ロング・インタヴュー、貴重なたくさんの写真……、また、坂本慎太郎、高橋幸宏、SK8THING、本田ゆか、宇川直宏ら、親しいアーティストたちの証言インタヴューなど、かなり盛りだくさんの内容になりました。
 コーネリアスが日本の音楽の水準を上げたことは間違いないのですが、『JAPAN TIMES』の音楽欄に寄稿するイギリス人ジャーナリストのイアン・F・マーティンによるコーネリアス分析、来年コーネリスの本を海外で出版するアメリカのアカデミシャン、マーティン・ロバーツによる論説も、グローバルな視点でみたときの日本の音楽を知る上でも手がかりになるであろう、読み応えのある内容となっています。
 『Mellow Waves』は、コーネリアスにしか作れない音響による、美しくメロウな作品ですが、(日本の)音楽にさらなるエネルギーを呼び込みうる起爆剤でもあります。音に耳を澄ませて下さい。そして願わくば、『コーネリアスのすべて』を手にとって下さい。
 

■特集:コーネリアスのすべて
 その生い立ちから初めてザ・スミスを聴いた夜、小沢健二との出会い、フリッパース・ギター解散からコーネリスへ、そして『ファンタズマ』から新作『Mellow Waves』へ、その半生を語る超ロング・インタヴュー。初めて公開する幼少期の家族写真、中高時代など、貴重な写真も多数掲載な……、
 11年ぶりの新作『Mellow Waves』をリリースするコーネリアスを大特集!

■contents
小山田圭吾ロング・インタヴュー 北沢夏音/野田努/松村正人
『Mellow Waves』クロスレヴュー 松村正人、野田努、宇野維正
対談:小山田圭吾×坂本慎太郎「求め合う音と言葉」

INTERVIEWS
瀧見憲司「狂えるスタイルとコーネリアスの関係」
辻川幸一郎「音楽に感応する映像」
中村勇吾「ロジックを絵筆にカタチをつくる」
宇川直宏「ハイテクノロジー・ブルース~90年代以降の映像と音楽の実験史」
イアン・F・マーティン「クール・ジャパンとウィアード・ジャパン」
本田ゆか「コーネリアスのユニバーサルランゲージ」
SK8THING「併走する感覚」
高橋幸宏「もしかしたら売れるかもしれない」

コラム
三田格「乾いた孤独 The90’s and Cornelius」
松村正人「キュレート・オア・エディット」
畠中実「音響作家小山田圭吾」
マーティン・ロバーツ「メロウどころじゃない 『ファンタズマ』以降のコーネリアス」
ジョシュ・マデル「コーネリアスのアザー・ミュージック」

コーネリアス ディスク・ガイド
天井潤之介/磯部涼/宇野維正/小川充/小野島大/河村祐介/杉原環樹/デンシノオト/野田努/松原裕海/松村正人/村尾泰郎/矢野利裕/吉田雅史/与田太郎/吉本秀純

BIOGRAPHY
小山田圭吾略年譜

別冊ele-king コーネリアスのすべて - ele-king

特集:コーネリアスのすべて

著者:天井潤之介、磯部涼、宇野維正、小川充、小野島大、河村祐介、北沢夏音、デンシノオト、野田努、畠中実、マーティン・ロバーツ、松村正人、三田格、矢野利裕、ほか

その生い立ちから初めてザ・スミスを聴いた夜、小沢健二との出会い、フリッパーズ・ギター解散からコーネリアスへ、そして『ファンタズマ』から新作『Mellow Waves』へ、その半生を語る超ロング・インタヴュー。初めて公開する幼少期の家族写真、中高時代など、貴重な写真も多数掲載な……、11年ぶりの新作『Mellow Waves』をリリースするコーネリアスを大特集!

■contents
小山田圭吾ロング・インタヴュー(北沢夏音/野田努/松村正人)
『Mellow Waves』クロス・レヴュー(松村正人、野田努、宇野維正)
対談:小山田圭吾×坂本慎太郎「求め合う音と言葉」

INTERVIEWS
瀧見憲司「狂えるスタイルとコーネリアスの関係」
辻川幸一郎「音楽に感応する映像」
中村勇吾「ロジックを絵筆にカタチをつくる」
宇川直宏「ハイテクノロジー・ブルース~90年代以降の映像と音楽の実験史」
イアン・F・マーティン「クール・ジャパンとウィアード・ジャパン」
本田ゆか「コーネリアスのユニバーサルランゲージ」
SK8THING「併走する感覚」
高橋幸宏「もしかしたら売れるかもしれない」

コラム
三田格「乾いた孤独 The90's and Cornelius」
松村正人「キュレート・オア・エディット」
畠中実「音響作家小山田圭吾」
マーティン・ロバーツ「メロウどころじゃない 『ファンタズマ』以降のコーネリアス」
ジョシュ・マデル「コーネリアスのアザー・ミュージック」

コーネリアス ディスク・ガイド
天井潤之介/磯部涼/宇野維正/小川充/小野島大/河村祐介/杉原環樹/デンシノオト/野田努/松原裕海/松村正人/村尾泰郎/矢野利裕/吉田雅史/与田太郎/吉本秀純

BIOGRAPHY
小山田圭吾略年譜

「いややこややEP」リリース記念 - ele-king

 DJヨーグルト&Mojaが踊ってばかりの国の「いややこやや」のダブ・ミックスを12インチで発表する。トラックは再構築され、下津の歌は録り直され、新しい曲に生まれ変わったと言っていい。以下、ことの成り行きについてDJヨーグルトと下津が対談してくれた。

text : DJ Yogurt(Upset Recordings)

「踊ってばかりの国との出会いは2012年の夏に"!!!"のPVをたまたまYouTubeで見て、最初イイ曲と思ったのでもう一度聴いて、それでもまだ聴きたかったので珍しく3回連続聴いて、今度は歌詞の内容も気になってきたので歌詞を聴きとりながら聴いたところ、輪廻転生をこれだけポップに表現した日本語の歌は初めて聴いた気がして4回目にして深く感動。歌声とメロディーと歌詞の鮮やかな組み合わせにハマってその日は結局"!!!"を5回聴いた。
 翌日にDisc Unionで"!!!"収録の2011年11月リリースのセカンド・アルバム『世界が見たい』を買って聴いてみたら、タイトル曲の"世界が見たい"等名曲揃いだったのであらためてこのバンドの凄さを実感して、ボーカルとギター、作詞作曲を担当している下津光史の名前を脳に刻んだ。
 2012年10月に尚美学園大の学祭で初めて踊ってばかりの国のliveを見た時は出演時間が短かったこともあってなかなか良いバンドと思った程度だったけど、12月に前任のベースのラストliveだった新代田feverで披露したスローハードコア・サイケデリックな"何処にいるの?"のライヴ・アレンジに激しい衝撃を受けて、2013年以後は踊ってばかりの国のライヴに年に数回以上通うようになり、通っている間にliveヴァージョンの"いややこやや"がとんでもない浮遊感を醸し出していることに気が付いて、下津に"いややこやや"を再録してみない? と踊ってばかりの国の楽屋で提案したところ、下津も快諾してくれたので、2015年から自分と共同で音楽を制作していて、踊ってばかりの国が現在使用している練習スタジオから徒歩3分の場所に住んでいるMojaの自宅兼スタジオで下津のギターと歌を録音。

 それらをYogurt and Mojaの制作したトラックに載せて、Lorde"Royals"やASAP Rocky"LSD"、Massive Attack Meets Mad Professor等の感覚から影響を受けつつ、Mojaと2人でいろいろとアレンジしていって、2017年1月にキムケンスタジオでキムケンさんにマスタリングしてもらって完成。
 マスタリングの終わった"いややこややDub"をEle-King野田編集長に送ったところ、「いいじゃんこれ。マッシヴ・アタック直系ダブだね。このリリースに合わせてヨーグルトと下津が対談したらEle-King Webに掲載してあげるよ」と応援のメッセージをもらったので、今回DJ Yogurtと下津光史の初対談企画が実現!

 野田さんの著作『ジャンク・ファンク・パンク』持参で現れた下津。8時からの踊ってばかりの国のスタジオリハ前に、下北沢のカフェで対談。昨夜から下津と一緒にいるという踊ってばかりの国と同じレーベルに所属のバンドGateballers/GodのKayaくんも同席。

Yog「これまでも下津が対談しているのをネットで読んだことがあって、おとぎ話の有馬くんとか」

下津「Novembersの小林裕介とか……年に一回くらいのペースでやってる感じで、ちょいちょい。みんなバンドマンばかりで、DJと対談するのは初めてです」

Yog「本日はよろしくです! 今回リリースするいややこややは元々はいつ頃出来た曲なの?」

下津「踊ってばかりの国がいつも練習に使っていた代々木Step Wayで作り上げた曲ですね。3年くらい前でまだStep Wayがあった頃で、谷山が当時受付をしていて……。最初はボサノヴァっぽいデモを自分が弾き語りで作って、Step Wayで当時のギターの林くんとアレンジを打ち合わせしたら、Dubというか浮遊感のあるリズムにしようということになって、ドラムはブラシでやろうと最初のうちはJazzっぽいアレンジも試したりしたけど、結局アルバム収録の感じに仕上がりました」

Yog「自分は"いややこやや"はliveで聴いてこの曲の魅力に目覚めた感じで、スタジオ録音の感じとも違うし、liveでめっちゃ映える曲というか……liveのアレンジはこれまで変わってきてる?」

下津「曲が自然に一人歩きしていくのにまかせてます、最近踊ってばかりの国のギターが1人増えてそのことでまた変わっていったり……」

Yog「なるほど……この曲が生まれて以後、ずっとliveでやってるの?」

下津「そうですね。liveで楽しい曲。現実逃避の側面もある曲でもあったり、ドラッギーな雰囲気を漂わせたり」

Yog「最近聴いたんだけど坂本慎太郎さんが歌詞を書いたCorneliusの新曲のBPMが遅くて、たまたまだけどリリースのタイミングが近い今回のいややこややDubのテンポ感と似ていることが面白いと思ったりしてね~」

下津「自分は今回のいややこややDubにはFlying Lotusを感じましたよ。
ひずみを使わないでDopeな感覚を追及しているところに、アンビエントに通じているDJの感覚を感じることもありました。Remixの進行中にまだ完成していないVersionを色々と送ってくれて、できていく過程を聴くことができたのも面白かったです」

Yog「"いややこやや"のRemixは1年以上かけて制作したから、初期からは結構変わっていって、3~4つくらい違うVersionを下津に送ったかも? 遅い曲で盛り上げたり、ハマる雰囲気を作るのは、早い曲で盛り上げるよりも難しいと思っているからこそ、"いややこやや"みたいな曲がこの世に増えたら嬉しいな。今回は"いややこやや"をDub Mixするのがとても楽しかったのでまた何かやれたら」

下津「またやりましよう!」

Yog「踊ってばかりの国の曲じゃないけど、下津がはじめた新しいバンドのGodが去年録音して、下津に頼まれて今年1月にDJ Yogurt and mojaが制作した"De Javu"のRemixはいつ出る予定なの?」

下津「未定ですけどそのうち必ずリリースする予定で、現在はGodや踊ってばかりの国のニューアルバムに向けていろいろ準備中です。まだ詳細は発表できないんですけど」

Yog「"De Javu"は本当にイイ曲だと思っていて、新たに生まれた下津クラシックというか。ジャーマン・ロック的なサイケデリックなアレンジと感じるところもあって、Neu!とかCanとか。下津がソロliveでアコギで披露しているバンドとは違うアレンジも凄く良いし」

下津「ソロの時はデヴェンドラ・バンハートみたいなアレンジでやったりしてますね」

Yog「ソロ・ライヴのヴァージョンも好き。Godで録音したKayaくんのトリップ感溢れるギター、Janくんのうなるベース、光星のタイトなドラム、Rikiの感性が爆発している自由奔放な40分の完全Versionも勿論出してほしいし、自分とMojaで再構築して濃縮した17分Versionも気に入っているのでぜひ」

下津「Godの2ndアルバムのBonusとか配信限定として出すか……どんな形になるかわからないけどリリースするつもりなので!」

Yog「諸々準備中という踊ってばかりの国の新作のマスタリングは中村宗一郎さんにお願いするのも面白いんじゃないかと思ってるんだけど……」

Kaya「ジャッパーズの新作を中村さんがマスタリングしている凄く音が良かった。今年出たアルバムで一番びっくりした」

Yog「いいね~、聴いてみるわ」

下津「ジャッパーズはYogee New Wavesのベースの人がいるバンドで、今度5月30日のHappyと踊ってばかりの国と渋谷でliveしますよ」

Yog「行こうかな……、クアトロで見て以来、踊ってのliveに行ってないわ」

下津「まじで? 乾いてんじゃん?」

Yog「そろそろ行かないと……3月の踊ってのクアトロでは、90年代~00年代にPartyで見かけていた自分の古い知り合いが子供を連れて来ていてびっくりしたよ。その5歳の男の子がめちゃ踊ってばかりの国のファンで楽屋に来て下津に握手を求めにくる姿に感動したわ。小さい子供だけじゃなくて60歳前後の感じの人達も来ている感じもあって、もちろん若い世代もいて、
自分が行くliveやPartyの中で特に色々な世代が来ていた印象を受けたよ」

下津「そういう風になれと思ってるんで……がんばります」

Yog「前からあんなに幅広い世代が踊ってばかりの国のliveに来てたの?」

下津「踊っての音楽性には時代性とは関係無いところもあるから、世代や時代の差を越えて幅広い世代に届くようなところがあるのかもしれないですね。自分がニュージーランドに滞在していた頃に広場におばあさんたちが数人集まっているのを偶然見かけた時に、その中心に置いているラジカセからレッチリの曲が流れていて、車いすのおばあさんとかも普通に聴いててそういうのっていいなって思って」


Cornelius - ele-king

 振り返ってみよう。あまりにも「ローディッド」ゆえに(再発不可能なほどサンプルデリックな)フリッパーズでの『ヘッド博士の世界塔』を経て、片足をアシッド・ジャズに突っ込んでいたコーネリアスとしてのデビュー・アルバム『The First Question Award』(1994)、ヒップホップからの影響とメタル趣味の悪ふざけの(再発不可能なほどサンプルデリックな)『69/96』(1996)、過去(サンプリング)を再構築することで明日に響く『Fantasma』(1997)、クラフトワークのアコースティック・ギター・ヴァージョンとも呼べそうなミニマルの美学『Point』(2001)、その延長線上で展開されるエクスペリメンタル・ポップ集『Sensuous』(2006)──そして2017年6月28日、通算6枚目のオリジナル・アルバム『Mellow Waves』がリリースされる。『Fantasma』でも『Point』でもない、コーネリアスの新境地が待っている。タイトルは『Mellow Waves』。ファーストEPにしてアルバム1曲目の“あなたがいるなら”(作詞:坂本慎太郎)は、PV公開(監督:辻川幸一郎)。配信も開始。

 セカンドEP「いつか / どこか」(いまのうちに断言しておこう。これは“Star Fruit~”に匹敵する名曲!)は5月24日発売。2017年前半のクライマックスは6月28日に聴ける。


『Mellow Waves』
発売日:2017年06月28日
価格:¥2,800(本体)+税
規格番号:WPCL-12660
1. あなたがいるなら
2. いつか / どこか
3. 未来の人へ
4. Surfing on Mind Wave pt 2
5. 夢の中で 
6. Helix/Spiral  
7. Mellow Yellow Feel  
8. The Spell of a Vanishing Loveliness
9. The Rain Song  
10. Crépuscule


コーネリアス特設サイト
https://sp.wmg.jp/cornelius/

Cornelius - ele-king

 小山田圭吾=コーネリアスが動いた。2006年の傑作(いま聴くとさらにその凄さわかる)『センシュアス』から11年、コーネリアスがニュー・シングル「あなたがいるなら」をリリースする。タイトル曲は坂本慎太郎が作詞を担当、つまり歌モノ。
 昨年はMETAFIVEメンバーとしての活動もあり(また、その作品とライヴは大いに反響を呼んだこともあり)、コーネリアスってまたしばらく動かないんじゃないかと決めつけていたあなた、どうぞご安心を。
 詳細がわかり次第にまた報告しますが、これは注目です。『ポイント』~『センシュアス』でひとつに頂点に達したと言えるコーネリアスだけに、次に何をやるのか? というのはひじょうに気になるところですが、まずはオヤマっちゃんの復帰、良かった良かった。


SINGLE「あなたがいるなら」
A1 .あなたがいるなら (作詞: 坂本慎太郎 / 作曲: 小山田圭吾)
B1 .Helix / Spiral (作詞作曲: 小山田圭吾)

発売日:2017年04月26日
価格:\1,400(本体)+税
規格番号:WPJL-10041

AHAU - ele-king

作業中に聴いている音楽の中から

皆様こんにちは
1976年、神奈川生まれ東京在住。アーティスト活動をさせて頂いているAHAU(アハウ)といいます。
1996年から都内を始め関東周辺、最近では神戸や京都などで行われている音楽のチラシやフライヤー、グッズなどで関わらさせて頂いています。

現在、2月10日(金)から19日(日)まで神奈川県二宮町で行われている「第一回 湘南二宮 菜の花アートフェスティバル」に参加しています。
二宮駅北口徒歩1分にあるVRGI CAFEというカフェと保育室が一つになった素晴らしいお店でAHAU EXHIBITION「AHAU’S HEART」と題し作品展示を行っています。
額装作品、作品集、Tシャツ、マグカップ、ポストカードの販売も行っています。
お食事やコーヒー、お酒もありますので、ご休憩などに利用して頂けたら幸いです。
土日は11:00から17:00まで、平日は11:00からランチ終了まで営業しています。
最終日は1日在廊しています。参加を記念してイベントも用意させて頂きました。

入店された方全員もれなくオリジナルポストカードプレゼントいたします。
オーダー先着5名様に、オリジナルTシャツ、オリジナルマグカップ、作品集のどれでも一つプレゼントいたします。
オーダー100人目の方に、店内にある額装作品どれでも一つプレゼントいたします。
そのほか駅周辺の17カ所の会場では36組のアーティストの方々も趣向を凝らした様々な催し物を行っています。

ご来場の皆様に楽しんで頂けるようアーティストと地元商店街が一つになって盛り上げていきます。
二宮の美しい自然や風土、産物や歴史ある建造物も大変素晴らしいので、
東京駅から電車でも車でも1時間10分ほどなので、ぜひぜひ散歩やドライブに遊びに来てください。
よろしくお願いいたします。

AHAU

作品紹介:
https://www.instagram.com/explore/tags/ahaudesign/

展示:
2016.11「The Flyer 巡回展」BnA HOTEL Koenji(東京/高円寺)
2016.5「The Flyer」udo(東京/渋谷)
2015.9「ADVENTURE OF UNI」LIBRARY RECORDS(東京/東高円寺)
2015.3「ROOM」TERRAPIN STATION(東京/高円寺)
2012.11「ASSERTONESELF」THERME GALLERY(東京/都立大学)
2009.11「STROKE BOOK2」BE-WAVE(東京/新宿)
2008.2「STROKE BOOK」bonobo(東京/千駄ヶ谷)
2007.4「MUSIC VIEW」Cafe KING(現在Cafe FACTORY)(神奈川/鎌倉)

作品集:
2012.11「ASSERTONESELF」

湘南二宮町:
https://www.town.ninomiya.kanagawa.jp

場所:
VEGI CAFE & てんとう虫保育室
〒259-0123 神奈川県中郡二宮879-19
0463-68-0006

ele-king vol.19 - ele-king

特集:2016ベスト・アルバム30枚
音楽は時代の占い棒である!
さて、2016年のベスト・アルバムは何でしょう?

このクレイジーな時代=2016年には、
じつに称賛されたアルバム=『レモネード』や『untitled unmastered.』があり、
若々しくそしてエネルギッシュなテクノ作品『スポート』があり、
ハイブリッドを開拓する『ミラーズ』があり、
そのコンセプトにおいて話題となった作品=『ホープレスネス』があり、
素晴らしい悪意=『ベイビーファーザー』があり、
野心的なコンセプト作品=『ザ・シップ』があり、
ゲットーとオタクを往復するダンス=『オープン・ユア・アイズ』があり、
ヴェーパーウェイヴの政治的発展型=『Disruptive Muzak』があり、
そして思いがけないビッグ・アルバム=『ブラックスター』がありました。

2016年は、混迷する世界に抗うように音楽が輝いた年でもあります。
情況が悪くなればなるほど音楽は輝くというのは本当だったようで……
2016年ベスト・アルバム特集号です。

目次

【巻頭】
●ブライアン・イーノ(Brian Eno)、2万5千字インタヴュー(三田格+坂本麻里子)

【特集1】2016年ベスト・アルバム30
●2016年間ベスト・アルバム30枚(木津毅、小林拓音、高橋勇人、野田努、三田格、米澤慎太朗)
●コラム:US Hip Hop(吉田雅史)/Club Music(高橋勇人)/Experimental(細田成嗣)/Electronic(デンシノオト)
●座談会:2016年をめぐる冒険(木津毅、小林拓音、野田努、三田格、米澤慎太朗)
●ラフトレードNYの2016年(沢井陽子+George Flanagan)
●ロンドンの名物レコード店が選ぶ2016年のベスト(高橋勇人)
●日本語ラップ・ブームとは何だったのか?(磯部涼、泉智、二木信、山田文大)
●映画ベスト10(木津毅、水越真紀、三田格)

【特集2】What’s Going On――いま何が起きているのか/私たちにできること
●対談:栗原康×白石嘉治「通販に政治を持ち込むな!」
●緊急アンケート(雨宮処凛、陣野俊史、山本太郎、ほか)
●コラム:水越真紀「たくさんの『正しさ』たち」
●インタヴュー:五野井郁夫「ボブ・ディランの『時代は変わる』のように」

【インタヴュー】
●七尾旅人「時代を撃ち抜く」
●坂本慎太郎「今年は世界的にもいいことがなんもなかったですね」
●ヤイエル(yahyel)「宇宙人の野望」
●デトロイト新世代対談:カイル・ホール(Kyle Hall)×ジェイ・ダニエル(Jay Daniel)

【連載】
●アナキズム・イン・ザ・UK 外伝 第10回「ポリコレ棒とモリッシー」ブレイディみかこ
●ハテナ・フランセ 第6回「クリスマスの殺気」山田蓉子
●乱暴詩集 第4回「ママの暴力が社会を変えるとき──映画『未来を花束にして』」水越真紀
●音楽と政治 第8回「ヒップホップの非政治性」磯部涼

【Special】
●パンク40周年と英国ロック・ジャーナリズム(坂本麻里子)
●2016年の女性漫画の性との向き合い方──鳥飼茜を題材に(木津毅×三田格)

ele-king vol.19 - ele-king

 気づかされた、とイーノは言っている。いかに自分が「バブル」のなかを生きていたのかを、と。私は「かれら」のことをまったくわかっていなかった、と。詳しくは本誌をお読みいただきたいが、彼にとってブレグジットとはそれほど驚くべき結果だったのである。他方、大西洋の反対側では大統領選挙でドナルド・トランプが歴史的な勝利をおさめた。「善意」あるミュージシャンたちが声を上げれば上げるほど、「かれら」は反感を増幅させていったという。そして相変わらず黒人は殺され続け、相変わらずテロは起こり続けた。
 2016年はあまりにも激動の1年だった。これはもう世界史的な画期と言っていいだろう。ではそのなかで、音楽はどうだったのか? ボウイの死にはじまった2016年のポップ・ミュージックは世界の何を映し出し、そして何を映し出さなかったのか。今年はメジャーでもアンダーグラウンドでも、音楽がかつてない輝きを放った年だった。そして僕たちは知りもした。その輝きが、政治的にはどこまでも無力だということを。でもそれでいいんだと思う。音楽は政治の道具じゃない。ただ世界の傍らで鳴り続けるものだ。だからこそきっと、情況が悪ければ悪いほど優れた音楽が生まれてくるのだろう。
 紙版『ele-king』の年末号が12月27日に発売される。特集は「2016年ベスト・アルバム30」と「What’s Going On――いま何が起きているのか/私たちにできること」。混迷を極めるこの世界の傍らで、音楽は一体どんな輝きを放っていたのか? そしてそんな世界の片隅で、僕たちに何ができるのか? ぜひ手にとってご覧ください。

ele-king vol.19 contents

【巻頭】
●ブライアン・イーノ(Brian Eno)、2万5千字インタヴュー(三田格+坂本麻里子)

【特集1】2016年ベスト・アルバム30
●2016年間ベスト・アルバム30枚(木津毅、小林拓音、高橋勇人、野田努、三田格、米澤慎太朗)
●コラム:US Hip Hop(吉田雅史)/Club Music(高橋勇人)/Experimental(細田成嗣)/Electronic(デンシノオト)
●座談会:2016年をめぐる冒険(木津毅、小林拓音、野田努、三田格、米澤慎太朗)
●ラフトレードNYの2016年(沢井陽子+George Flanagan)
●ロンドンの名物レコード店が選ぶ2016年のベスト(高橋勇人)
●日本語ラップ・ブームとは何だったのか?(磯部涼、泉智、二木信、山田文大)
●映画ベスト10(木津毅、水越真紀、三田格)

【特集2】What’s Going On――いま何が起きているのか/私たちにできること
●対談:栗原康×白石嘉治「通販に政治を持ち込むな!」
●緊急アンケート(雨宮処凛、陣野俊史、山本太郎、ほか)
●コラム:水越真紀「たくさんの『正しさ』たち」
●インタヴュー:五野井郁夫「ボブ・ディランの『時代は変わる』のように」

【インタヴュー】
●七尾旅人「時代を撃ち抜く」
●坂本慎太郎「今年は世界的にもいいことがなんもなかったですね」
●ヤイエル(yahyel)「宇宙人の野望」
●デトロイト新世代対談:カイル・ホール(Kyle Hall)×ジェイ・ダニエル(Jay Daniel)

【連載】
●アナキズム・イン・ザ・UK 外伝 第10回「ポリコレ棒とモリッシー」ブレイディみかこ
●ハテナ・フランセ 第6回「クリスマスの殺気」山田蓉子
●乱暴詩集 第4回「ママの暴力が社会を変えるとき──映画『未来を花束にして』」水越真紀
●音楽と政治 第8回「ヒップホップの非政治性」磯部涼

【Special】
●パンク40周年と英国ロック・ジャーナリズム(坂本麻里子)
●2016年の女性漫画の性との向き合い方──鳥飼茜を題材に(木津毅×三田格)

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ele-king vol.19
野田努+三田格(編)
2016/12/27 Release
本体 1,500円+税
ISBN:978-4-907276-72-0

https://www.amazon.co.jp/dp/4907276729

それはアメリカの曲がり角だった - ele-king

 紙エレキングの年間ベスト号で、坂本慎太郎に取材したんですけど、そのときの彼いわく「本当は、夏休みの初日のようなアルバムを作りたかった」と、「60年代のアメリカン・ポップスや初期のロックンロールとかにあるキラキラして甘酸っぱい感じを自分でもやりたい」と思っていたと。しかしそれでもまあ、作ってみたら『できれば愛を』だったという話なんですけど、その「キラキラして甘酸っぱい感じ」が映画『アメリカン・グラフィティ』には凝縮されている。
 『アメリカン・グラフィティ』は、ジョージ・ルーカス監督が『スター・ウォーズ』という大ヒット作を世に出す前の、最初の商業映画で、本国アメリカでは1973年に公開されている。この映画は、高校を卒業したばかりの4人の若者が揃って過ごせる夏の最後の一夜を描いたもので、時代は1962年、つまりアメリカがベトナム戦争に向かうその直前の(きわめて象徴的な)最後の夏の一夜のできごとである。そして、映画では、ひっきりなしに「キラキラして甘酸っぱい」オールディーズがかかる。
 ぼく(=野田)がこの映画を観たのは高校時代で、『スターウォーズ』の監督の前作として、地元の映画館でリヴァイヴァル上映したときだった。もちろんLP2枚組のサウンドトラックも購入した。レコードはいまでも家にあるが、そこに収められているロッンロール、ドゥーワップ、ポップスは、なにをどういう風に聴覚と精神をねじ曲げたら嫌いになれるのかわからないというくらいに、素晴らしい。だいたい、ぼくと健太さんと坂本慎太郎が共通して好きという点においても、『アメリカン・グラフィティ』にどれだけ普遍性があるかという話だ。評論家のジョン・サヴェージが描いたパンク評伝の傑作『イングランズ・ドリーミング』のなかで、サヴェージはこのサントラを取りあげ、すべてはここからはじまったみたいなことを書いているが、それは、「俺たちは大人とは違ったやり方でできるんだ」という、ユース・カルチャーなるものの黄金時代の幕開けだったからでもある。
 
 萩原健太の新刊『アメリカン・グラフィティから始まった』は、映画のストーリーを追いながら、1曲1曲を丁寧に紹介しつつ、その映画の切なさを読み解いていく。夏の一夜に集約された少年から大人になる、大人にならざるえない、その覚悟を決める瞬間の物語としての『アメリカン・グラフィティ』。また、アメリカンに最初の陰りが見えてくるその直前のアメリカの物語。そして何よりもその時代のポップスのあまりにも胸きゅんな感覚。
 こんなかったるい時代だからこそ、ぜひいまいちど、再訪して欲しい。



萩原健太
アメリカン・グラフィティから始まった
P-VINE/ele-king books
Amazon

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