リッチー・アフメドのミックスCDやオーディオ・アトラスのデビュー作を聴いていると、なるほど三度めのアシッド・ハウス・リヴァイヴァル(ティン・マンいわく、ネオ・ネオ・アシッド)が本格的になってきたようである(一度めのリヴァイヴァルは93年から96年まで。二度めは04年から05年にかけて)。ハイエログリフィック・ビーイングのレーベルからリリースされたギリシアのオーディオ・アトラス『ウインドウ・2・ザ・ワールド』(あえて橋元優歩の議論には乗りません)は「よくできている」。文句はない。完成度も非常に高い。イギリスではチャンピオン・オブ・グライムと言われたリンスがついにハウスのDJとして起用したリッチー・アフメドも前半のホット・ネイチャードからダニー・テナグリアにかけての展開はフラッシュ・バックを起こしそうなほど強酸性で、現在のLAに負けないドラッグ・カルチャーが音楽の背後に蠢いていることを感じさせてくれる。それに続けて収録されているアフメド自身のトラックは「♪エル・オー・ヴイ・イー、ラ~ヴ~」と単刀直入なコーラスを聴かせてしまうほどである。ほとんどサマー・オブ・ラヴである。迷いがない。
とはいえ......なんとなく新鮮味がない。ジミ・ヘンドリクスそっくりのレコードやジョイ・ディヴィジョンもどきが現れても「世界が変わる」などとは感じないように、言ってみればアシッド・ハウスという音楽的なジャンルの底力に驚くだけである。ソウル・ジャズ、ポーカー・フラット、ボーイズノイズを追って、いまさらながらにテリー・ファーリーが5枚組みのCDボックスをコンパイルし、DJピエール&グリーン・ヴェルヴェットVsフューチャー名義で"アシッド・トラックス2012"がリリ-スされ、ヴァキュラ"ピクチャー・オブ・ユー"が高値を呼び、ミスター・フィンガーズが再発され(それは野田努か)、ムーヴ・Dがマジック・マウンテン・ハイでいまさらながらに絶頂を極め、リフレックスがここぞとばかりにデイヴ・モノリスやシーファックス・アシッド・クルーを送り出してくるなど「ネオ・ネオ・アシッド」を待ち焦がれていた人は思ったより少なくなかったのだろう。そういえば電気グルーヴも20周年でやりまくっていましたよね。
ドゥロ・ケアリーの名義で"ジャンプ・ウイズ・ザ・ヘヴィ"(2011)や"リーリー・ブリップス"(2012)といった話題のEPを連発してきたユージン・ヘクターはなぜかファースト・アルバムをタフ・シャームの名義でリリース。シャームというのはどうやらエンジェル・ダストのことで(よい子の皆さんはググらないように)、これまでガラージ・ハウスを妙な角度からいじくりまわしてきたサウンドが多かっただけに、この気運に乗じて聴いたこともないような幻覚サウンドが期待できるのかと思ったら、そういうわけでもなく、むしろ作風は地味に。トーン・ホークやナッティマリ(=カート・クラックラッチ)の別名義であるロン・ハードリーとともにクラン・ダスティンの"ダーク・アシッド"にもフィーチャーされるほどアンダーグラウンドからは多大な期待を集めているだろうに、最初はなんで......と思っていたところ、後景の音に意識が集中しはじめると、ああ、やっぱり、これはアシッド・ハウスを洗練させたものであり、独自の文法を作り上げたものだということがわかってくる。アシッドというのは、後景に退かせたサウンドが肝だったりして、曲のなかでヘンな風に動いている音を発見してからが楽しいわけで。あるいは前景に押し出されているリズムにもユニークなものが多いし、19歳で脚光を浴びたヘクターが21歳でここまで歩を進めたことに早くも感動が......。
それにしても微細なところに神経を使ったアルバムである。どの音に集中するかでぜんぜん曲の特徴も変わってしまうし、ある種のスタイリッシュな印象だけで終わってしまう人も少なからずではないだろうか(それはそれで恰好いいし)。そうかと思うと"ボイルド"のイントロダクションのようにいきなり泥沼に引きずり込むようなトリップ・サウンドを仕掛けてきたりもする(この曲はアシッド・ハウスのノイ!かと思うほど、一曲のなかでスピード感に翻弄される)。あるいは、アシッド・サウンドに特有のズレも随所に盛り込まれていて、予想もしないところで急に快楽への穴が空いたりもする。ヤバい。楽しい。初めてアシッド・ハウスというタームを知ったときの驚きがここでは何度も蘇ってくる。繰り返すけれど、完成度ということではオーディオ・アトラスのそれもミスター・フィンガーズやカール・クレイグに匹敵するものはあるのである(『ウインドウ・2・ザ・ワールド』からはUR"ファイナル・フロンティア"のような曲が次から次へと出てくる)。しかし、トリップ・サウンドにはやはり定型ではなく意外性が求められるのではないだろうか。それを満たしてくれたのはタフ・シャームであって、オーディオ・アトラスではないのである。
ウイ・コール・イット・アシ~~~~~ッド!!??








"KING OF DRUM & BASS"、ゴールディー。80年代にUK屈指のグラフィティ・アーティストとして名を馳せ、92年に4ヒーローのReinforcedからRUFIGE KRU名義でリリースを開始、ダークコアと呼ばれたハードコア・ブレイクビーツの新潮流を築く。94年にはレーベル、Metalheadzを始動。自身は95年にFFRRから1st.アルバム『TIMELESS』を発表、ドラム&ベースの金字塔となる。98年の『SATURNZ RETURN』はKRSワン、ノエル・ギャラガーらをゲストに迎え、ヒップホップ、ロックとのクロスオーヴァーを示す。その後はレーベル運営、DJ活動、俳優業に多忙を極めるが07年、RUFIGE KRU名義で『MALICE IN WONDERLAND』をMetalheadzから発表、08年に自伝的映画のサウンドトラックとなるアルバム『SINE TEMPUS』を配信で発表。09年にはRUFIGE KRU名義の『MEMOIRS OF AN AFTERLIFE』をリリース、またアートの分野でも個展を開催する等、英国が生んだ現代希有のアーティストとして精力的な活動を続けている。12年、Metalheadzの通算100リリースに渾身のシングル"Freedom"を発表。13年3月には新曲"Single Petal Of A Rose"を含む初のコンピレーション『THE ALCHEMIST: THE BEST OF 1992-2012』がCD3枚組でリリースされ、まさにアルケミストなゴールディーの不朽の音楽性を再認識させる。
ロンドンに生まれたDEGOはサウンドシステムや海賊放送でのDJ活動を経て90年にReinforced Recordsの設立に参加、4HEROの一員として実験的なハードコア/ブレイクビーツ・トラックのリリースを開始。やがて4HEROはDEGOとMARC MACの双頭ユニットとなり、タイムストレッチング等、画期的な手法を編み出し、ドラム&ベースのパイオニアとなる。傑作『PARALLEL UNIVERSE』(94年)、『TWO PAGES』(98年)以降、4HEROはD&Bのフォーマットを捨て、『CREATING PATTERNS』(01年)、『PLAY WITH THE CHANGES』(07年)で豊潤なクロスオーヴァーサウンドを打ち出す。DEGOはTEK9名義でダウンテンポを追求する等、オープンマインドかつ実験的な制作活動は多岐に及び、98年に自己のレーベル、2000Blackを始動し、革新的な音楽共同体としてのネットワークを拡張、ブロークンビーツ/ニュージャズの潮流を生む。KAIDI TATHAMらBUGZ IN THE ATTIC周辺と密に交流し、dkd、SILHOUETTE BROWN、2000BLACK名義のアルバムを制作。11年には満を持してDEGO名義の初アルバム『A WHA' HIM DEH PON?』を発表、ジャズ、ファンク、ソウルetcへの深い愛情を反映した傑作となる。その後も精力的な活動を続け、12年に『TATHAM,MENSAH,LORD & RANKS』を発表している。
