Shop Chart
![]() 1 |
![]() 2 |
||
|---|---|---|---|
![]() 3 |
![]() 4 |
||
![]() 5 |
![]() 6 |
||
![]() 7 |
![]() 8 |
||
![]() 9 |
![]() 10 |
![]() 1 |
![]() 2 |
||
|---|---|---|---|
![]() 3 |
![]() 4 |
||
![]() 5 |
![]() 6 |
||
![]() 7 |
![]() 8 |
||
![]() 9 |
![]() 10 |
ジョーカーの好きな色が紫だそうで、だからブリストルの若き三人衆の〈パープル・トリニティ〉というチームの名前もジョーカーのアイデアだ。実際の話、写真で見るジョーカーは紫を着ているし、〈ハイパーダブ〉のシングルのロゴも紫になっている。まるでプリンス......である。が、彼らは80年代に依拠しているわけではない。ブリストルの若き三人衆が"紫"を強調するのは、ダブステップのダークさに対する若い世代からの批評の表れである。手短に言って、彼らはティンバランドやネプチューンズからの影響をダブステップに注入したのである。この音楽をよりセクシーにするために。彼ら――ジョーカー、ジェミー、そしてグイードは......。
グイード(ガイ・ミドルトン)に関しては、昨年末のピンチの"ゲット・アップ"のリミックスで「おお!」と唸った人は少なくない。21歳のブリストリアンは、ヨランダの甘ったるいR&Bヴォーカルを活かしながら、そこに新しいメロディを加え、斬新なアレンジを与えた。だいいちヨランダは、"ゲット・アップ"のおよそ1年前にグイードがデビュー・シングルのB面の"ウェイ・ユー・メイク・ミー・フィール"で起用したヴォーカリストである。その曲調といい、"ゲット・アップ"は若きグイードのアイデアを先輩のピンチが借用としたとも言える。
さて、本作『アニーディア』は〈パンチ・ドランク〉からの決定的な2枚のシングル(「オーケストラル・ラボ」と「ビューティフル・コンピリケーション」)を経てリリースされるグイードのアルバムだ。ブリストルの"紫"三人衆において最初のアルバムでもある。それは聴き終わったあと、思わず拍手をしたくなるような素晴らしいデビュー・アルバムだ。
ダブステップ......と書いたが、三人衆のルーツは地元ブリストルのグライムのシーンにある。彼らは10代のなかばからフルーティ・ループスをダウンロードして音楽を作りはじめ、互いにテープの交換をしていた仲だったという話だ。そしてグイードに関しては、自分のミックステープを置いてもらうためにルーティッド・レコード店を訪れたことで、店で働くトム・フォード(〈パンチ・ドランク〉の主宰者。ペヴァーリストの名で知られる)と知り合い、そしてリリースへと話が進んだという。
グイードのビートはグライムのシーンで磨かれたものだが、彼の鍵盤によるメロディに関しては彼の別の経歴から来ている。ジャズとクラシックのピアノを学んだ過去を持つ彼は、いまでもジャズを愛するというもうひとつの顔を持っているのだ。グイードはいまだに毎日ピアノの練習を欠かさないというが、『アニーディア』には、そうした彼の音楽的素養の豊かさが出ている。
表題曲の"アニーディア"は"ナンバーズ"時代のクラフトワークがR&Bをやったようなトラックで、この1曲でリスナーはグイードの世界にぐいと連れていかれる。ドリーミーな展開も見事だ。"オーケストラル・ラボ"ではグライミーなトラックをベースにスペイシーなシンセによるメロディが浮遊する。路上で鍛えられた埃っぽい音が遠い宇宙に向かって飛んでいくようだ。"ユー・ドゥ・イット・ライト"はブリアルの名曲"アーチェンジェル"に続くポストR&Bと言えよう。変調された歌と烈しいダブステップが溶けるように展開する。サックスをサンプルした"マッド・サックス"もこの若きトラックメイカーへの期待をさらに膨らませる曲だ。Pファンク風のシンセのコード弾きとメランコリックなサックスの絡みとダビーなビートは、素晴らしい余韻を残す。すでにシーンでは有名なふたつのセクシーなヴォーカル曲、"ビューティフル・コンピリケーション"と"ウェイ・ユー・メイク・ミー・フィール"も収録されている。
「もし自分がブリストルに生まれていなかったら、違う音になっていただろう」、グイードはあるインタヴューでこう話している。地元のグライム・シーンから登場した新世代のダブステップは、そしてマッシヴ・アタックやポーティスヘッドのようなメランコリーも忘れていない。
![]() 1 |
![]() 2 |
DUFF DISCO
SHAKE THAT LEG EP
DUFF DISCO / UK / 2010/5/27
»COMMENT GET MUSIC
|
|||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
![]() 3 |
MOODY a.k.a. MOODYMANN
OL' DIRTY VINYL
KDJ / US / 2010/5/9
»COMMENT GET MUSIC
|
![]() 4 |
BISON
SOUP FICTION
CLAREMONT 56 / UK / 2010/5/27
»COMMENT GET MUSIC
|
||||
![]() 5 |
ERDBEERSCHNITZEL
COTTON
3RD STRIKE / UK / 2010/5/27
»COMMENT GET MUSIC
|
![]() 6 |
|||||
![]() 7 |
DJ NATURE
WIN LOSE AND DANCE / DESTINY REPRISE
GOLF CHANNEL / US / 2010/5/19
»COMMENT GET MUSIC
|
![]() 8 |
|||||
![]() 9 |
MAXXI AND ZEUS
THE STRUGGLE / THE CELLl
INTERNATIONAL FEEL / URY / 2010/5/22
»COMMENT GET MUSIC
|
![]() 10 |
KENNETH BAGER EXPERIENCE
THE KBE DUBS
MUSIC FOR DREAMS AMERICA / US / 2010/5/25
»COMMENT GET MUSIC
|
![]() 1 |
![]() 2 |
||
|---|---|---|---|
![]() 3 |
![]() 4 |
||
![]() 5 |
![]() 6 |
||
![]() 7 |
![]() 8 |
||
![]() 9 |
![]() 10 |
![]() ディスタンスのDJでフロアは大盛り上がり |
今年で13年目を迎えている〈DBS(ドラムンベース・セッション)〉の「Dubstep Warz」にて、ロンドンからディスタンスとローファーが来日した。ディスタンスとローファー......贅沢なメンツである。ふたりのダブステッパーは、早い時期から忘れがたい作品を残している。それぞれタイプは違うが、キーパーソンであることは間違いない。夜の12時、僕は代官山ユニットの楽屋でふたりを待った。
楽屋のドアが開いて、ふたりが入ってきた。まずは最初にディスタンスの話を訊こう。僕の家には彼の2枚のアルバムがある。〈プラネット・ミュー〉から出ている『マイ・デーモンズ』(2007年)と『リパーカッションズ』(2008年)は、ともに深夜の都会の風景写真をアートワークにしている。実際にディスタンスの音楽は深夜の都会の片隅に我々をテレポートする。ブリアルのように......。
ローファーには待機してもらい、僕は神波京平さんとタナカ・テツジ君とグレッグ・サンダース――すなわちディスタンスを名乗る男を囲んだ。
ダブステップが変わってしまったからだよ。やたらノイジーになって、「ウワワワワ!」というサブベースのうるさい音がたくさん出てきてしまった。それで僕は、そう、ダブステップに飽きてしまったんだよ。
■どんな経緯でダブステップのシーンに入ったのか教えてください。あなたはスキューバの〈ホットフラシュ〉から2004年に出したシングルでデビューしていますよね?
ディスタンス:いや、あれは2003年だよ。
■ホント?
ディスタンス:間違いない。〈ホットフラシュ〉の002番だよね。
■で、そもそもはどういうはじまりだったんですか?
ディスタンス:UKのアンダーグラウンドにはドラムンベースとUKガラージとふたつあるんだけど、僕はガラージが大好きだった。ガラージがダークになってダブステップに発展する。〈テンパ〉から出たハッチャの『ダブステップ・オールスターズ・ヴォリューム・ワン』(2003年)、あのあたりからダブステップが広く認知されはじめていったよね。僕はガラージの延長でダブステップを聴きはじめて、そのダークなエレメンツに触発されたんだ。
■スキューバの〈ホットフラシュ〉レーベルから出したのはどんな経緯から?
ディスタンス:〈フォワード〉(注:ダブステップの伝説的なパーティ)で彼と会って、知り合ったんだよね。
■へー。
ディスタンス:ポール・ローズ(スキューバの本名)がまだスペクタという名前でやっていた頃だったね。彼はベルリンに移住したから、もう頻繁には会っていないけどね。いま彼は〈ベルグハイン〉で「サブスタンス」というパーティをやっているよ。
■あー、知ってる。最近、「サブスタンス」のミックスCDを出しましたよね。
ディスタンス:僕も呼ばれてそこでまわしたよ。
■〈フォワード〉はいつから行きはじめたんですか?
ディスタンス:2000年代の最初だね。ガラージをやっている友だちに教えられて〈フォワード〉に行った。衝撃だったさ。それで毎週通うようになった。
■どのくらいの人たちが踊っているの?
ディスタンス:20人ぐらいだったよ。
■20人!
ディスタンス:ハイプじゃないんだ。音楽に共鳴した人たちが集まって、すごい熱気だった。DJブースをみんなが囲んで、かかっているダブプレートをじーっと見るんだ。で、「スクリームって書いてあるけど、誰だよ?」って。そんな感じだった。ピンチはブリストルから車でやって来るんだ。ハッチャ、ヤングスタ、ベンガ......みんなそこにいたんだ。
■では、その場にいた20人がみんなDJやプロデューサーになるんだね。
ディスタンス:そうだね(笑)。僕はいつも、彼らのファンだった。で、いつしか自分でも作ってみようと、はじめるんだ。
■いまでもダブプレートを使っている?
ディスタンス:使っているけど、正直言うと、最近は減っている。技術的な問題なんだ。ダブプレートはハウリやすいし、床が揺れると針飛びしやすい。こればかりは仕方ない。CDRを使う機会が増えている。それから機内への持ち込みも最近ではかなり制限されているんだ。それもCDRが増えている理由のひとつだね。本当はダブプレートを使いたいんだけどね。
■最初のアルバムに『マイ・デーモンズ』というタイトルを付けたのは?
ディスタンス:それは最初に作りはじめたトラックのうちのひとつだったんだけど、僕はもともとメタルを聴いていて。
■メタルからその言葉が来たの?
ディスタンス:ノー、ノー、ノー。うーん、説明がちょっと難しいな。
■『マイ・デーモンズ』と『リパーカッションズ』のアートワークがすごく好きなんですよね。あの都会の夜の淋しい風景が、あなたの音楽にとても合っていると思って。
ディスタンス:そうだね。僕もそう思う。あれは、〈プラネット・ミュー〉のマイケル・パラディナスが探してきてくれたんだ。2000枚の写真のなかからふたりで探したんだよ。ニューヨークの写真家の写真なんだよ。
■えー? あれはサウス・ロンドンじゃないの?
ディスタンス:違う(笑)。たぶん、ニューヨークじゃないかな。
■ずーっと、クロイドンかサウス・ロンドンのどこかだと思っていました!
ディスタンス:ハハハハ。でも、あのヴィジュアルが僕の音楽に完璧に合っているのは間違いないよね。
■マイケル・パラディナスの音楽は昔から知っていたんですか?
ディスタンス:知らなかった。後から知ったよ。僕はガラージを聴くまでずっとロックを聴いていたら。
■どうして彼と知り合ったの?
ディスタンス:ヴェックスドのジェイミー(・ティーズデイル)から紹介されたんだ。曲を作りはじめた頃、完成するといつもジェイミーに送っていたんだ。ジェイミーはそれをそのままマイケルに渡してくれていたんだよ。
■2007年から自分のレーベル〈チェストプレート(Chestplate)〉をやってますよね? あれはどういう理由ではじまったんですか?
ディスタンス:うん、あれは自分の音楽の玄関口みたいなつもりではじめたんだけど、最近は新しいアーティストの紹介もしたいと思っている。
■いま8枚?
ディスタンス:そうだね。
■すべてディスタンスでしょ?
ディスタンス:いやいや、スクリームとベンガのスプリットも出しているよ。
■出したいと思っている新しいアーティストは誰ですか?
ディスタンス:まだ言えないけど、10番目は2枚組で新しいアーティストを収録するつもりなんだ。
■あなたのサード・アルバムは?
ディスタンス:年内に完成させるつもりです。
■〈プラネット・ミュー〉から?
ディスタンス:たぶんね。
ここでローファーと替わってもらった。短髪で長身の彼は、ロンドンのルードボーイなセンスをどこかに感じさせる。
さて、あらためて言おう。ピーター・リヴィグストン――ローファーの名で知られる彼はダブステップにおいて最重要人物のひとり。スクリーム、ベンガ、マーラ、コーキ、それらと並ぶキーパーソンである。
![]() ローファー、ポスト・ダブステップを指標する男だ |
言うまでもないことだが、ローファーがマーラとコーキの3人ではじめた〈DMZ〉は、リリースされているほとんどの音源がいまやクラシックである。彼が2004年にデジタル・ミスティックズ(マーラ+コーキ)&ローファーとして発表したEP「ダブセッション」は初期ダブステップの名盤の1枚で、2005年のローファーのソロ・シングル「ルート/ザ・ゴート・ステアー」はその時代のもっともドープな1枚として記憶されている。
また、ピンチの"パニッシャー"のリミックス、サーチ&デストロイの"キャンディフロッス"のリミックスも評判となった。ちなみにスクリームの「ローファー・リミックス」なる12インチは、レーベル面のアートワークがレジデンツである!(だからデザイン買いした)
もっともローファーの場合、そのキャリアに対して作品数は決して多いとは言えない。が、逆に出しているものはほとんど"間違いない。そういう意味で彼は、玄人好みのひとりと言えるだろう。
■どうしてマーラやコーキと知り合って、〈DMZ〉として活動するようになったんでしょう?
ローファー:ヤツらは僕が10代の頃、ほとんど同じエリアに住んでいたんだ。僕らはノース・クロイドンで育ったんだよ。コーキは隣の街にいた。15歳のときハードコア・ジャングルにハマって、サージェント・ポークスとマーラはMCをやりはじめるんだ。
■高校が同じだったとか?
ローファー:マーラとコーキとポークスは同じ高校だったけど、僕は違った。
■パーティで知り合ったの?
ローファー:いやいやいや、そういうのじゃない。ホント、同じエリアだったから、街をぶらぶらしていたら知り合った感じ。
■いいですねー(笑)。レゲエのサウンドシステムの影響はあるの?
ローファー:ダブに関してはプロダクションのスタイルにおいて影響を受けている。でも、僕が影響を受けたのは、レゲエというよりもジャングルとヒップホップなんだよ。もしくはアシッド・ハウス。
■アシッド・ハウス?
ローファー:ああ、〈トラックス〉や〈DJインターナショナル〉のシカゴ・ハウスとかさ、ミスター・フィンガーズ、マーシャル・ジェファーソン......。1987年とかさ、あの時代の音だよ。1988年のイングランドはすごかったんだぜ。
■ていうか、そのときあなたは何歳だったんですか?
ローファー:9歳かな。
■9歳でアシッド・ハウスかー、それは早熟ですね(笑)。
ローファー:さすがにパーティには行ってないよ。海賊ラジオ放送で聴いていたんだよ。
■だって小3ですよ。
ローファー:はははは。
ここで楽屋に突然、ドン・レッツが乱入する......。ドクター・マーティンの50周年イヴェントで来日していたという。嵐のようにやって来て嵐のように去っていったドン・レッツ......。
ローファー:ルーズ・エンズって知ってる?
■ルーズ・エンズ! えー、知ってるけど、その名前、ものすごく久しぶりに聴きました。(注:80年代にソウル、ジャズ、ファンクを演奏して、レアグルーヴからアシッド・ジャズへと繋げたグループ)
ローファー:だから、サウス・ロンドンって海賊ラジオがすごかったんだよ。ソウル、レアグルーヴ、アシッド・ハウス......、で、その代表格がルーズ・エンズだったんだ。
■へー、ブリストルにおけるワイルド・バンチみたいなものだったんですね。
ローファー:イングランドはやっぱ、海賊ラジオの影響がホントに大きいんだよ。
絶対に忘れたくないことなんだ。1981年にサウス・ロンドンのブリクストンで反政府の暴動が起きた。高い失業、低賃金、貧困、粗末な住宅に対するフラストレーションが爆発したのさ。そのときに警察がとった作戦の名前が「スワンプ81」というんだよ。
■しかし......アシッド・ハウスを聴いていたキッズがどうやってダブステップに入ったんですか?
ローファー:1998~1999年くらいまではジャングルやドラムンベースにハマっていたんだけど、でもちょっと飽きてしまって、ちょうどその頃は自分たちでも何か作ろうって感じで思っていた。マーラはまだガラージのMCで、ハッチャはガラージのDJだった。で、僕はマーラやハッチャといっしょにいつも車でドライヴしながらクラブに出掛けていたんだよね。で、その道中で、僕は自分の曲をかけていたんだ。それから僕たちはハッチャがまわしていた〈フォワード〉に行くようになった。
■ハッチャとはどうして知り合ったの?
ローファー:マーラを通じてだよ。ハッチャはビッグ・アップルという地元のレコ屋で働いていたんだよね。知り合ってから僕もビッグ・アップルに通っていたよ。
■じゃあ、ホントに同じ時期に複数の人間がいっしょになったんですね。
ローファー:そうだね。
■マーラたちと〈DMZ〉をはじめたときは最初からシリアスだった? それとも遊び的なところもあったんですか?
ローファー:最初から、ものすごくシリアスだった。ただしそれがカネになるとはまったく考えていなかったけどね。
■〈DMZ〉はしばらく休止していますよね?
ローファー:〈DMZ〉とは、まさにマーラ、コーキ、そして僕のことなんだ。だから......マーラと他の人との繋がりで〈ディープ・メディ〉(マーラのレーベル)がはじまって、僕と他の人との繋がりで〈スワンプ81〉(ローファーのレーベル)がはじまった。
■ローファーの名前で〈スワンプ81〉から出さないのは何故ですか?
ローファー:ローファーは〈DMZ〉だからさ。
■〈DMZ〉は終わったわけじゃないんですね。
ローファー:決して(笑)。焦ってリリースするようなことはしたくないんだ。僕たちの素晴らしい音が完成したら出す、でも、決して焦らない。
■あなた自身、自分の作品をここ2~3年出してないのは何故ですか?
ローファー:その理由のひとつは、ダブステップが変わってしまったからだ。やたらノイジーになって、「ウワワワワ!」というサブベースのうるさい音がたくさん出てきてしまった。それで僕は、そう、ダブステップに飽きてしまったんだよ。
■それがあなたの言う"ポスト・ダブステップ"なんですね。
ローファー:そうなんだ。〈スワンプ81〉はポスト・ダブステップのレーベルなんだよ。
■他にはどんなレーベルがある?
ローファー:〈Night Slugs〉、〈Hemlock〉、〈Hessle〉なんかがポスト・ダブステップをやっているね。
■あー、〈Hemlock〉はアントールド、〈Hessle〉はラマダンマンのレーベルですよね。ああ、なるほどー。
ローファー:レイヴ・ミュージックではなくクラブ・ミュージックだよね。初期のダブステップがレイヴに変質したものではないんだ。いわば初期の20人の世界だよ。よりグルーヴィーで、ドラムマシンで作られていて、あと128 BPMぐらいのテンポ......よりソウルフルなダンス・ミュージック、それは〈スワンプ81〉のコンセプトでもあるんだよ。
ここで、神波さんが「〈スワンプ81〉という名前にはブルクストンの暴動が関係しているんだよ」と教えてくれる。
■へー、そうなんですか。
ローファー:ああ、絶対に忘れたくないことなんだ。1981年にサウス・ロンドンのブリクストンで反政府の暴動が起きた。高い失業、低賃金、貧困、粗末な住宅に対するフラストレーションが爆発したのさ。そのときに警察がとった作戦の名前が「スワンプ81」というんだよ。
(注:私服警察をブリクストンに送り込み、暴動の関係者などを片っ端から逮捕した)
■まったく現代に通じる話ですね。
ローファー:まあ、そういうことだね(笑)。実際、僕の住んでいるエリアでは、その暴動の話はずうっと、いまでも世代を超えて語り継がれているんだよ。
実はローファーに話を訊いているあいだにディスタンスのプレイ時間がきてしまい、ブリクストンの話を聞いたときにはもうディスタンスのDJがはじまって30分ぐらい経っていた。
すぐにフロアに戻った。ディスタンスは......彼の作品世界のように、都会のダーク・アンビエントを繰り広げていた。良い感じで埋まったフロアからはときおり叫び声が聞こえた。そしてポスト・ダブステップを指標するローファーは......DJの1曲目にダブ・ポエトリーの伝説、LKJの"Di Great Insohreckshan"(『Making History』収録)をかけた。
そしてローファーは、取材で話していたように、アントールド以降のポスト・ダブステップをミックスした。それはアシッド・ハウス、テクノ、ジャングル、ガラージ、ダブステップ、それらUKアンダーグラウンド・ミュージックの絶妙なブレンドで、そしてその新しい音はものの見事にフロアをロックしたのだった。
ちなみに7月の〈DRUM & BASS x DUBSTEP WARZ〉――メアリー・アン・ホブス(17日)、そしてスクリーム&ベンガ(31日)決定!
MGMTは、この国のあるひとつの"ロック・シーン"という幻想がまだぎりぎり成立するのだという、その臨界点を示してくれるバンドだ。それは言い換えるなら、音楽専門誌を読み、大型CDショップで試聴し、月に幾枚かの新譜を求めるという、もしかするともう古くなってしまったかもしれないリスナー像の臨界点でもある。彼らはメジャーとインディ、ウェルメイドな音とクリエイティヴな音を差し貫く、ハイブリッドな存在感を備えている。そしてそのことによって分断(トライブ)化する"ロック・シーン"をかろうじて繋ぎ止めているかに見える。
デビュー作『オラキュラー・スペクタキュラー』の魅力とは、アニマル・コレクティヴをよりポップでよりファッショナブルに変換したという点に尽きる。2007年当時、アニマル・コレクティヴ『フィールズ』に代表される多幸的でトロピカルな極彩サイケデリアには、大きなエネルギーが噴出していた。影響力も新しさも気運もそこにあった。時代を動かすコテとして、それは他の様々なアーティストや表現のなかに潜りこむことになる。
MGMTのデビュー作はアニマル・コレクティヴが掘削したトンネルをより広い聴衆に向けて開通させるものであったとも言える。いや......と言うよりは、ポップ・マーケットの側から掘られた穴が、途中で彼らに当たっただけのことかもしれないのだが。ともあれ『オラキュラー・スペクタキュラー』は大きな支持を得て、彼らはグラミー賞の最優秀新人賞にまでノミネートされる存在となったというわけだ。
しかし、MGMTというのはポップということの両義性に非常に自覚的なバンドである。口を開けば、「人を不快にさせたい」「より劣悪でより非常識な音で人から非難されたい」といった露悪的な態度で自らの音楽性を相対化する。「不快」で「非常識」なはずが、世間的な成功を収めてしまったことに対する照れ。あるいはポップ・ミュージックと正面から向き合えない、幼い自意識......そんなものを抱えたバンドかと思っていたが、ブルックリンのデュオはセカンド・アルバム『コングラチュレーションズ』で、またしても抜け目なく見事なポップ・アルバムを作り上げたのである。
まずはレイドバック志向。ザ・ドラムスにも顕著なこのモードにフォーカスするのはセンスとしてコレクトだ。持ち味のウィアードなエレクトロ・サウンドを用いながら、ふたりはペイズリー模様を煌めかせるように、60'sサイケ~ガレージ的な傾向をずいぶんと深めている。
サイケデリックの伝説的バンドとして知られるラヴを思わせる雅やかな旋律を、シューゲイザーと呼ばれてしまいかねない独特の残響につつんで軽やかに疾駆する"イッツ・ワーキング"。オルガンが露悪的に跳ね回る"ソング・フォー・ダン・トレーシー"(テレヴィジョン・パーソナリティーズのリーダーに捧げられている)も印象的な曲だ。そして"サムワンズ・ミッシング"や"フラッシュ・デリリウム"からはグラム・ロックの肉感的なサウンドが溢れ出る。マーク・ボランもデヴィッド・ボウイも聴き取れてしまうブリティッシュ・マナーの70'sロックだ。
"サイベリアン・ブレイクス"のような曲にもハント・アンド・ターナーなどのUKフォーク・ロックの影響を感じるが、ときおり挿入されるアコースティック・ナンバーは今作の特徴のひとつでもある。アルバムは実にバランスが良く構成され、1曲1曲のアイデアもしっかりしている。そして"MGMT印"の柔らかいファルセット・ヴォイスはデイヴ・フリッドマン(本作ではミックスを手がけているようだ)のスペーシーな音と見事に一体となっている。
それにしてもこのスケールの大きなポップ感は特筆すべきである。プロデューサーがソニック・ブームということはその説明にならないだろう。とにかくこれはひとつのトライブに回収されない音で、いろんなタイプの人間に行き渡ってしまう可能性を持った音だ。そんな作品は今日珍しい。つまり年配のお客さんが店頭で聴いてふとジャケットを手に取り、シングル買い回りのインディっ子からサラリーマン、あるいは音楽雑誌と一緒にレジへ持ってくる高校生......、繰り返すようだが、なんだか久々に昔ながらの音楽の風景というものを目の当たりにしているようなのだ。
波を挑発し、波から逃げる、呑まれる前に全速力で逃げる、そしてそれを楽しんでいるかのようなデザインのジャケットも素晴らしい。それは彼らのあり方を象徴するかのようだ。腹を割らない感じとでも言ったらいいだろうか。そもそも頭の切れるふたりだ。今作ではブライアン・イーノやレディ・ガガ、ダン・トレーシーといったポップの固有名詞を弄びながら、どことなく世界に対してアイロニカルに振る舞っている。
直球勝負はしないのだ。さまざまな音楽的意匠を利用しながらサーフィ
ンしきる......驕慢で不遜にもみえるが、なかなかクールなファイティング・ポーズじゃないかと思う。
「そんな自分たちに」か「そんな世界に」か、それとも何に向けてだ
ろう、"コングラチュレーションズ"。晴れ晴れと美しい、これもデヴィッド・ボウイ風の終曲。四分音符で小粋に下降するベースラインには、終わりとはじまりが、諦念と期待が入り交じっている。彼らは器用だが、確として道が見えているわけではない。波は、不安定なものだ。これからどうしていくのかわからないけれど、とりあえずここまで渡りきって、おめでとう。ここにもアイロニカルなニュアンスがないわけでもないが、そのようなアイロニーの無限連鎖をいったん断ち切る"コングラチュレーションズ"であったらいいなと思う。
![]() 1 |
![]() 2 |
MAXXI AND ZEUS
THE STRUGGLE
INTERNATIONAL FEEL(EU) /
»COMMENT GET MUSIC
|
|||
|---|---|---|---|---|---|
![]() 3 |
![]() 4 |
||||
![]() 5 |
![]() 6 |
||||
![]() 7 |
![]() 8 |
||||
![]() 9 |
![]() 10 |
MAYNARD FERGUSON
PAGULIACCI-JOE CLAUSSELL REMIX
COLUMBIA (US) /
»COMMENT GET MUSIC
|
![]() 1 |
H.FUTAMI PRESENTS『CONSCIOUS BLUES』
»COMMENT
|
![]() 2 |
ECD『TEN YEARS AFTER』»COMMENT
|
||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
![]() 3 |
HIRAGEN from TYRANT『CASTE』
»COMMENT
|
![]() 4 |
RAMB CAMP『Ramb Camp』
»COMMENT
|
||||
![]() 5 |
BING『HOMENAJE A LA MUSICA COLOMBIANA』
»COMMENT
|
![]() 6 |
STARRBURST『INSTRUMENTALS』
»COMMENT
|
||||
![]() 7 |
SEMINISHUKEI PRESENTS『WISDOM OF LIFE』
»COMMENT
|
![]() 8 |
SFP BRAND NEW Tee
»COMMENT
|
||||
![]() 9 |
PAYBACK BOYS BRAND NEW Tee
»COMMENT
|
![]() 10 |
blahmuzik『ABNOIZ』
»COMMENT
|
永らく音信普通だった旧友とばったり再会したような......。面陳されたレコードのなかにこのシングルを発見したときには、そういう少し浮き足立った気分になってしまった。ステーシー・プレンの本作は、前作「ジ・エレクトリック・インスティトゥート・サンプラー(The Electric Institute Sampler)」から数えること5年、そして自身のレーベル〈ブラック・フラッグ〉からの作品としては実に8年ぶりとなるリリースである。その名も「アライヴ」ときたものだ。〈ブラック・フラッグ〉を復活させてのこのタイトル、否が応にも期待が高まる。
ステイシー・プレンはカール・クレイグと並んでデトロイト・テクノの第二世代を代表するアーティストだ。彼のサウンドは、デリックメイ譲りのエモーショナルなコードワークとパーカッシヴなリズム隊が持ち味である。しかし、ロマンティシズムのなかに隠しきれない猛々しさを孕んでいるデリック・メイのサウンドに対し、ステイシーは、そう......、デューク・エリントンのそれにも通じる漆黒の気品のようなものを纏っている。扇情的でありながらも、どこか一歩引いたようなクールさとスマートさが彼にはある。
今作は、そんな彼の一連の作品群の中でももっとも"熱い"部類に入る1作だ。彼の楽曲は浮遊感のあるシンセパッドを中心として構成されることが多い。しかし、今回楽曲の中心に据えられているのはソリッドで骨太なベースラインだ。2拍ループで突き進むベースラインにヒプノティックなシンセサイザーが絡み合うなか、「I'm back...」という彼の変調された声が響く。そこには彼独特のクールさはあまり感じられない。というか、ちょっと驚くほどストレートだ。サイドBに収録されたその名も"ハイテック・ソウル・ミックス"はアフロ・パーカッションがフィーチャーされたラフな作りになっており、さらにオールドスクールなデトロイトサウンドへの先祖がえりが進んでいるようにも思える。
折りしも今年はデトロイト・テクノが誕生して25年目の年だ。3月にはフロリダで行われたWMCに於いて『D25』と題された記念パーティも催された。そんな節目の年にステーシープレンは〈ブラック・フラッグ〉を通して何を見せてくれるのか? これは注目せずにはいられない。

前回紹介したアームやディクソンやヘンリック・シュワルツたち。いわゆる「ニュー・ハウス・ムーヴメントを牽引する〈インナーヴィジョンズ〉一派」の活躍を筆頭に、ゼロ年代から続くジャーマン・テック・ハウスの勢いはいまなおとどまることを知らない。そしてまた今月もドイツから非常にユニークなサウンドのEPが到着した。
アエラは、ゴールドウィル(Goldwill)のメンバーとして〈ワズ・ノット・ワズ〉や〈リーベ・ディティール(Liebe Detail)〉といった人気レーベルから意欲的に作品をリリースしているラルフ・シュミッツ(Ralf Schmidt)のソロ・ユニットである。ゴールドウィルではパーカッシヴなヴォイス・サンプル使いが印象的だったが、今作ではそういったファンキーな持ち味は影を潜め、より内省的な方向性を打ち出している。
サイドAに収録されている"フラワー・オン・ファイアー"は、ゆっくりと寄せては返す波のようなシークエンスと煌びやかなハープの音が織り成す音響世界がこの上なく美しいトラックだ。ヒプノスティックにこだまするシンセと、覚醒を促すかのようにときおり挿入されるノイズの配置も絶妙である。電気的でエッジーなサウンドと、フォーキーなチル感が共存している。そしてなにより、さじ加減ひとつ間違えると途端に土臭くなってしまうダブ処理を、トゥマッチになる一歩手前で優雅な側に留めているそのバランス感覚が素晴らしい。
続くサイドB収録の"エレヴェーター・ピッチ"は、水滴を連想させる電子音のアルペジオが印象的なミニマル・トラックだ。メインで鳴っているアルペジオ・フレーズは3連のリズムを基調としている。そしてそこにときおりピッチを倍速にしたり、反復周期をずらした音をミックスすることで、ポリリズミックなグルーヴが生まれる。そのサウンドがさらにディレイで飛ばされ、音のレイヤーはさらに複雑に重なり合う。そうすることによって、少ないの音色ながらも万華鏡のなかのビーズのように絶えず姿を変えて聴く者を惹きこんでいく。
アエラ、すなわちラテン語で「時代」を意味するそのユニット名に相応しく、今作はジャーマン・テック・ハウスのみならずビートダウンやニュー・ディスコ/コズミックといった、言わばモダンハウスの潮流そのものを飲み込もうかとしているかのようだ。個人的に2010年の上半期ベスト候補です!
梅雨時が近づいてくると暗いレコードを聴きたくなる。落ち着いた音楽、というよりも"暗い"音楽だ。自分の話でなんなのだが、どうも僕は人よりちょっとばかり季節ごとのテンションのアップダウンが激しいようで......。しかも、これまた恥ずかしながら結構ステレオタイプな方向に。大体毎年春先に浮かれていろいろとやらかしてしまい、梅雨が近づいてくる頃にはどっぷりと反省の海に肩まで浸かることになるのだ。そんなときにしっくり来るのは、やっぱり底抜けに明るいラテン・ハウスではないと思う。
そんな前フリで紹介するのは、昨年なんと9年ぶりにオリジナル・フル・アルバム『ザ・バーゲンランド・ダブス』をリリースしたイアン・シモンズの作品だ。彼は90年代にはアシッド・ジャズ・シーンでカルトな支持を集め、トリップホップにも多大な影響を与えたバンド、サンダルズの一員としても知られている。そんな彼がアルバムをリリースするのに選んだのは、ジャズ・ルーツの良質なミニマル/クリックハウスをリリースしているドイツの〈ミュージック・クラウス〉だ。そして本作は、このレーベルの看板アーティストであるクラウス・デュオ(Krause Duo)を筆頭とした気鋭のアーティストたちによるリミックスEPである。
まず1曲目に収録されているのはリミックスではなく、イアン・シモンズ自身の未発表曲"ルーサー・ストリート・ブルース"だ。沈鬱なノイズと深いエコーがかけられたトランペットが印象的なこのジャズ・ナンバーは、さながらコールタールの沼のなかで聴くトリオ・ジャズとでも言ったところだろうか。ひたすらにダウナーである。続いて収録されている"スピーク"のイーブントゥエル(Even Tuell)によるリミックスも、これまた暗い。ショート・ディレイによって金属的な響きに加工された電子音と、ピッチを低く落としたヴォイス・サンプルのリフレインは、シカゴハウスのなかでも突出してバッド・テイストだったバムバムの作品にも通じるバッド・トリップ感を醸し出している。
この時期、こういったダウナーなレコードに手が伸びるっていうのは、たぶん、少数派ではないと思うんだよなぁ。収録されている4曲どれをとっても、浮ついた気分など一瞬でかき消してくれる素晴らしい薬効を持っている。ちょっと浮かれすぎた? と思ったときには、一度お試しあれ。
浮かれすぎたときに聴きたい1枚を紹介したのだから、今度は落ち込みすぎたときに聴きたい1枚を紹介するのが筋と言うもの。そこで紹介するのがバブル・クラブという聴きなれない名前のこのアーティストだ。実はこのバブル・クラブというのは、ロンドン在住のDJ/プロデューサーであるダン・キーリング(Dan Keeling)とエンジニアのロビン・トゥエルブトゥリー(Robin Twelftree)によるバレアリック・プロジェクトだ。ダン・キーリングといえば、カーク・ディジョージオとのユニット、クリティカル・フェーズの片割れと言うとピンと来る人もいるのではないだろうか?
サイドAに収録されたオリジナルミックスは、BPM115くらいのゆったりとしたエレクトリック・ブギーだ。たっぷりと脈打つようなベースとアコースティックギターのアルペジオは、思わず「これがバレアリックだ!」と言いたくなるほどの夢心地。あげくはリバーブとディレイで飛ばされた口笛まで入ってきて、もう言うことなし! である。サイドBに収録されたエリック・ダンカンの変名プロジェクト、ドクター・ダンクスのリミックスは、極力原曲を保ちながらも上物をさらに厚くして、より深めの空間処理を施してあり、こちらも極上のチルアウトチューンに仕上がっている。
実のところ僕は、わけあってこういうバレアリックな音にはちょっとした思い入れがある。それは遡ること10年、まだ僕が10代も半ばで地元に居た頃に端を発している。僕の地元は青森県は八戸市という本州の北端にあるちょっとした港町だ。お察しの通り、バレアリックとは程遠い。基本的に寒い。そこには田舎ながら一軒だけ、ダンス・ミュージックを専門に扱うレコード屋があった。昨年1月に閉店したその店は、名前を「リミックス・レコーズ」という。
その店には「親方」と呼ばれる、サーフィンと夕日を愛する店員が働いていた。当時テクノ小僧だった僕は、必然的に毎日親方の世話になっていた。〈アクシス〉や〈トレゾア〉のバックカタログを血眼になって集めているような当時の僕に、「そんなんばっかじゃ色気が出ねーぞ」と親方が薦めてくるのは大体決まってバレアリック・チューンだった。「スエニョ・ラティーノ」あたりを入り口にして、当時のイビサ系プログレッシブからホセ・パディーヤの一連の仕事まで。「いま全部ピンとこなくても年取ればわかるさ」といつも親方は言っていた。たしかに当時はピンと来たものはそのなかの半分くらいだったかもしれないが、思えばおかげで随分音楽性を広げてもらった。感謝してもしきれない思いだ。
話が大幅に逸れてしまった。要は、こういう黄昏が似合うような曲を聴くと暑い国への憧憬とともに毎日レコード屋の片隅で過ごした、ボンクラながらも楽しかった日々を思い出して少し元気になり、そして少しノスタルジックな気分になるのだ。
ジュラシック5のチャリ・ツナ(Chali 2na)やビタミンD(Vitamin D)とのコラボレートにより、ヒップホップやR&Bリスナーのあいだで話題となったシンガー・ソングライター、チョコレート。シアトルを中心に活動する彼女がウェスト・ロンドンのクラブ・ジャズ・ユニット、リール・ピープルと手を組み、彼らのレーベル〈リール・ピープル・ミュージック〉からシングルをリリースした。表題の"ザ・ティー"は、彼女が昨年発表したアルバム『トゥ・フーム・イット・メイ・コンサーン(To Whom It May Concern)』のなかの1曲だ。このアルバムは前述のビタミンDや、メアリー・J・ブライジも手がけるジェイク・ワン(Jake
One)の手によるR&Bを昇華した生音のダウンビートが中心となっている。そのなかでもひときわディスコ・フィーリングに溢れ異彩を放っていたこの曲を、リール・ピープル人脈のアーティストたちがリプロダクトした本作は、――そう、言うなれば"ニュー・ソウル以降のブラック・ミュージックとしてのハウス"を好む人びとのハートを打ち抜くことうけあいだ。
A1に収録されたリール・ピープルによるエディットは、原曲のサウンドをほぼそのまま用いて4分間の原曲を6分にエクステンドしたものだ。オリジナルを尊重した作りになってはいるが、控えめながらも要所要所にダブやエフェクトを加えてチョコレートのシルキーでありながら力強いヴォーカルと、そしてある意味ヴォーカル以上に歌っているファンキーなベースラインの魅力をより引き立てている。A2に収録のラヤバウツ(Layabouts)によるリミックスはパーカッションとサウダージ感溢れるガット・ギターのカッティングが、この曲のエモーショナルな面をよりいっそう盛り上げている。B1のマヌーによるリミックスは、硬めのアコースティック・ピアノとオルガンのコンビネーションという90'sハウスの記号が随所に散りばめられたオールドスクールな作りになっており、ハウス界の大々ベテラン、トニー・ハンフリーズが絶賛したというのもうなずける出来だ。エレクトリックでトリッピーなサウンドが隆盛な最近のハウス事情だが、ときにはこういうオーガニックなヴォーカル物でホッと一息つきつつ体を揺らすというのもまた、乙なものだ。
映画『ミスター・ロンリー』のサウンドトラック・アルバムを置き土産に解散したらしきサン・シティ・ガールズのアラン・ビショップ(サーじゃない方)が運営するコンピレイション攻めのレーベルから、シリア産の(ほとんどテクノにしか聴こえない)カントリー・フォークの3作目。〈ファット・キャット〉が世に知らしめたコノノNo.1や、昨年は〈クラムド・ディスク〉が発掘してきたコンゴのスタッフ・ベンダ・ビリリもそうだったけど、ソウレイマンもワールド・ミュージックに対して持っているスピード感のイメージではありません。速いです。途中からは本当に速すぎます。イスラエルの戦闘機のように矢継ぎ早にタッチ・ア......いや。ワールド・ミュージックも掘る人が変わるとこうも違うというか......あー、かといってM.I.A.やチリのDJビットマンのように西欧のフォーマットに伝統を溶け込ませていくわけではなく、サンプラーやシンセサイザーを使いまくっているからというわけではなく、どこかで必然的にモダンな要素と絡み合わざるを得なかった結果なんでしょう(別なレーベルからはこんなメンツでもコンピレイションが→)。
ソウレイマンに関していえば本国ではかなりの人気者らしく、前2作とも500本以上のカセット・リリースからセレクトされたコンピレイションなんだとか(あー、やっぱり、このレーベルはコンピレイション......)。ちなみにソウレイマンというのは本名なのかなんなのか、ウィーン包囲で有名なオスマン朝のスレイマン一世にOを足してソウルと掛けたようなスペルになっています(シリア人がそんなことはしないかなー。西欧社会においてスレイマン一世はいまだに脅威として受け止められているらしく、スローン・レンジャー上がりのダイアナ妃がトルコのデザイナーを贔屓にしていたことは、ある意味、あの結末を暗示していたとも)。
オープニングは"いつかお前の墓をこの手で掘り返す"、続いて"ベドウィンの刺青""オレの心臓を打て""すべての女の子は婚約済み"といった曲が並び(英訳詞を見る限りでは女性にふられる歌が多いような)、ディプロが南半球で展開しまくっているような呆けたムードにはいっさいならず、パーカッションの激しさはURさえ思い出させ、ピヨピヨと飛び回る笛のような音はまるでYMO(そういえばハードコア・テクノにバグ・パイプを組み合わせたパープレクサーというユニットがあったなー)。すべてはライヴ音源らしいけど、これを聴いてシリアの人たちは踊り狂ったりしているのだろうか。いちど見てみたいような、そうでもないような。ベースが入っていないのはやはり残念だし......(砂漠にベースは響かないのかなー)。
ここまで読んで、どんな音楽なのか、さっぱりわからないという人は間違っていないです。アチャラすちゃらかガガンガがーん、ですよ。ビシッビシッビシッビシッでピュピューピュピューとか。10分以上に及ぶ"わからない/紅茶のなかの砂糖のように"はけっこうシリアスなんですけどね。