サンキュー またおれでいられることに──スライ・ストーン自叙伝
スライ・ストーン(著)新井崇嗣(訳)
2025/7/30 本体 3,200円+税 ISBN:978-4-910511-95-5
ストーンはあまりにも高く舞い上がり、あまりにも激しく墜落したため、挫折した希望と閉ざされたユートピアの生きたメタファーとなったのだ。 ――『ガーディアン』書評より
黒人音楽のルールを完全に変え、
サマー・オブ・ラヴの象徴となって
ブラック・ポリティクスをポップスに流し込み、
そして時代の頂点に立った男の、ウィットに富んだ赤裸々な回想録
2025年6月9日、永眠したスライ・ストーン。『サンキュー またおれでいられることに――スライ・ストーン自叙伝』は、スライの波瀾に満ちた人生の “光と影” を、余すところなく綴った回想録だ。
キャリア初期のラジオDJやレコード・プロデューサー時代から、60年代末のサンフランシスコ音楽シーンの頂点、そして70~80年代ロサンゼルスの深く重く、混沌とした日々へと物語は進む。舞台はステージであり、豪邸であり、家族や著名人たちとの交遊のなかでもある。ここに描かれるのは、欠落を抱えた人間の姿と完璧なまでの芸術性とのせめぎ合い。
共著者には、ジョージ・クリントンやブライアン・ウィルソンの回想録にも携わった作家ベン・グリーンマンを迎え、『サンキュー またおれでいられることに――スライ・ストーン自叙伝』は、鮮烈で、ときに恐ろしく、だが最終的には深く肯定的な人生とキャリアの旅路となっている。
[著者]
スライ・ストーン(Sly Stone)
1943年、テキサス州デントンにてシルヴェスター・スチュワートとして生まれ、幼少期にカリフォルニア州ヴァレーホへと移住。ドゥーワップ歌手、ラジオDJ、レコード・プロデューサーとしての短いキャリアを経て、彼は〈スライ&ザ・ファミリー・ストーン〉を結成、その中心人物として活動する。このバンドは、黒人と白人、男性と女性、兄弟姉妹による混成グループであり、ロック、ソウル、ファンクを融合させた革新的なサウンドによって、ポップ・ミュージックの地平を大きく塗り替えた。ウッドストック・フェスティヴァルへの出演で一世を風靡し、「エヴリデイ・ピープル」「サンキュー」「ファミリー・アフェア」といった代表曲は、1960~70年代のアメリカ文化の変遷を映し出すと同時に、その時代を象徴する国民的アンセムとして今なお鳴り響いている。絶頂期から薬物依存に苦しみ、次第に表舞台から姿を消すことになるが、その音楽的影響力はむしろ増すばかりだった。気まぐれで風変わり、唯一無二の閃きを放つスライ・ストーンは、まさにアメリカが生んだ真のオリジナルである。2025年6月9日、ロサンゼルスにて永眠。
ベン・グリーンマン(Ben Greenman)
シカゴ生まれ、マイアミ育ち、その後ブルックリンに移住。『ニューヨーク・タイムズ』紙のベストセラー作家であり、ノンフィクションとフィクションの双方を手がける。これまでにクエストラヴ、ジョージ・クリントン、ブライアン・ウィルソン、スティーヴィー・ヴァン・ザントらとの共著を発表、翻訳されたものとしてはクリントンとの『ファンクはつらいよ』(DU BOOKS)、クエストラヴとの『ミュージック・イズ・ヒストリー』(シンコー・ミュージック)がある。批評やジャーナリズムの分野でも活躍し、長年編集者を務めた『ザ・ニューヨーカー』誌をはじめ、『マイアミ・ニュー・タイムズ』など多くの媒体に寄稿してきた。なお、彼もまた、読者のあなたに感謝を捧げたい。
[本文より]
「連れて行きたい、もっと高くに」。おれが歌うと、観客は最後の言葉を歌い返してくれた、「もっと高くに!」。全員がだ。すげえ。
そのまま続けさせた。おれがそうした。
「そう、『もっと高くに』。で、ピースサインを掲げるんだ。大丈夫、何も損はしないから。ただ、うん、やっぱりまだ躊躇してる人がいるみたいだね。承認が要ると思ってるんだろ、自分にとって得になるかもしれないことをするだけなのに」
「連れて行きたい、もっと高くに」が出て行った。「もっと高くに」が返って来た。言葉の意味するものがぐんと広がった。それはいまや、たんに良い気持ちや良い薬物で自らを上げ続けろ、とは言っていなかった。それはいまや、自分を下げてしまうあらゆるものを打ち負かせ、と言っていた。それは、自らが抱える問題の乗り越え方を教えてくれる一つの指南だった。それは、一つの解決策だった。
目次
前奏(イントロ)
序章 おれがおれにいてほしいなら(イフ・アイ・ウォント・ミー・トゥ・ステイ)
パート1 新しい世界(ア・ホール・ニュー・シング)
1章 家族の話(ファミリー・アフェア)(1943~1955)
2章 青春話は簡潔に(シング・ア・シンプル・ソング)(1955~1963)
3章 やればできるさ(ユー・キャン・メイク・イット・イフ・ユー・トライ)(1946~1966)
4章 社会的弱者(アンダードッグ)(1966~1967)
5章 音楽に合わせて踊れ(ダンス・トゥ・ザ・ミュージック)(1968)
6章 連れて行きたい、もっと高くに(アイ・ウォント・トゥ・テイク・ユー・ハイヤー)(1969)
パート2 リッスン・トゥ・ザ・ヴォイス
7章 夏の日の熱き楽しみ(ホット・ファン・イン・ザ・サマータイム)(1969~1970)
8章 人は皆、誰もがスター(エヴリバディ・イズ・ア・スター)(1970~1971)
9章 おれ、笑顔だったろ(ユー・コート・ミー・スマイリン)(1971~1972)
10章 いずれ(イン・タイム)(1972~1973)
11章 するって言ってくれ(セイ・ユー・ウィル)(1974)
12章 スモール・トーク(1974)
パート3 思い出せ、自分が誰なのか(リメンバー・フー・ユー・アー)
13章 クロスワード・パズル(1975~1979)
14章 ファンクはより強靱に(ゲッツ・ストロンガー)(1980~1983)
15章 クレイジー(1984~1986)
16章 変調の時(タイム・トゥ・モジュレート)(1987~2001)
17章 復活劇(カミング・バック・フォー・モア)(2001~2011)
18章 もしもこの部屋が喋れたなら(イフ・ディス・ルーム・クッド・トーク)(2012~現在)
後奏(アウトロ)
スライの謝辞
ベンの謝辞
Selected Discography
索引
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