「MAN ON MAN」と一致するもの

Omar Souleyman - ele-king

 映画『ミスター・ロンリー』のサウンドトラック・アルバムを置き土産に解散したらしきサン・シティ・ガールズのアラン・ビショップ(サーじゃない方)が運営するコンピレイション攻めのレーベルから、シリア産の(ほとんどテクノにしか聴こえない)カントリー・フォークの3作目。〈ファット・キャット〉が世に知らしめたコノノNo.1や、昨年は〈クラムド・ディスク〉が発掘してきたコンゴのスタッフ・ベンダ・ビリリもそうだったけど、ソウレイマンもワールド・ミュージックに対して持っているスピード感のイメージではありません。速いです。途中からは本当に速すぎます。イスラエルの戦闘機のように矢継ぎ早にタッチ・ア......いや。ワールド・ミュージックも掘る人が変わるとこうも違うというか......あー、かといってM.I.A.やチリのDJビットマンのように西欧のフォーマットに伝統を溶け込ませていくわけではなく、サンプラーやシンセサイザーを使いまくっているからというわけではなく、どこかで必然的にモダンな要素と絡み合わざるを得なかった結果なんでしょう(別なレーベルからはこんなメンツでもコンピレイションが→)。

 ソウレイマンに関していえば本国ではかなりの人気者らしく、前2作とも500本以上のカセット・リリースからセレクトされたコンピレイションなんだとか(あー、やっぱり、このレーベルはコンピレイション......)。ちなみにソウレイマンというのは本名なのかなんなのか、ウィーン包囲で有名なオスマン朝のスレイマン一世にOを足してソウルと掛けたようなスペルになっています(シリア人がそんなことはしないかなー。西欧社会においてスレイマン一世はいまだに脅威として受け止められているらしく、スローン・レンジャー上がりのダイアナ妃がトルコのデザイナーを贔屓にしていたことは、ある意味、あの結末を暗示していたとも)。

 オープニングは"いつかお前の墓をこの手で掘り返す"、続いて"ベドウィンの刺青""オレの心臓を打て""すべての女の子は婚約済み"といった曲が並び(英訳詞を見る限りでは女性にふられる歌が多いような)、ディプロが南半球で展開しまくっているような呆けたムードにはいっさいならず、パーカッションの激しさはURさえ思い出させ、ピヨピヨと飛び回る笛のような音はまるでYMO(そういえばハードコア・テクノにバグ・パイプを組み合わせたパープレクサーというユニットがあったなー)。すべてはライヴ音源らしいけど、これを聴いてシリアの人たちは踊り狂ったりしているのだろうか。いちど見てみたいような、そうでもないような。ベースが入っていないのはやはり残念だし......(砂漠にベースは響かないのかなー)。

 ここまで読んで、どんな音楽なのか、さっぱりわからないという人は間違っていないです。アチャラすちゃらかガガンガがーん、ですよ。ビシッビシッビシッビシッでピュピューピュピューとか。10分以上に及ぶ"わからない/紅茶のなかの砂糖のように"はけっこうシリアスなんですけどね。

CHART by BEAMS RECORDS 2010.05.25 - ele-king

Shop Chart


1

Waves

Waves Encounter BEAMS BRAIN »COMMENT GET MUSIC
BEAMS RECORDSでもこれまで大プッシュしてきたアーティストKuniyuki Takahashiと、Nobuhiko'Ebizo'Tanumaが新たに始動させたバンド・プロジェクト"waves"のデビュー・アルバム!ダンスミュージックをインプロビゼーションで再構築するというコンセプトの元、ギター/シンセサイザーにイアン・オブライエン、ドラムにみどりん(Soil &"Pimp"Sessions)という豪華ゲストを迎え、それぞれが長いキャリアの中で培ってきたアイデンティティが折り重なった、叙情性豊かなサウンドを披露!透明感溢れる絶品のグルーヴは、多くのリスナーを陶酔へと誘うに違いない!

2

He3 Project

He3 Project Chapter One Family Groove »COMMENT GET MUSIC
ミラクルなラテン・ソウル音源が奇跡的発掘!フリーソウル、レアグルーヴシーンで知られるコーク・エスコヴェード率いるアズテカのメンバーであり、コークの盟友でもあるハーマン・エベリッシュが71~74年にかけて制作していたという未発表音源がこの度リリース!これが、所謂未発テイクを集めた安易なモノではなく、アルバムとして全く遜色ない、いやむしろリリースされていたら確実に名盤として知られていたであろう素晴らしい内容!軽やかなメロウ・ソウル(3)やコークの名盤「coke」収録のMake It Sweet原曲(5)など、全編を通じて西海岸のライトな風が吹きぬける最高のラテン・ソウル!

3

V.A.

V.A. Heavenly Sweetness Label Compilation #1 Heavenly Sweetness »COMMENT GET MUSIC
ダグ・ハモンド、バイアード・ランカスターといったリヴィング・レジェンド達の新録からダグ・カーンの名盤再発まで、新旧の優れたスピリチュアル・ジャズを発信するHeavenly Sweetnessのレーベル・ショウケースが登場!過去にリリースしたレーベルの代表曲~新鋭アーティストの未発表音源までを収めたDisc-1は、言うまでも無く力強いグルーヴが揃ったレーベルベスト的選曲!一方Disc-2 はフォーテット、カルロス・ニーニョ等素晴らしいクリエイター達が、ブラック・ジャズの巨人達の重厚な楽曲を見事にリミックス!これは全ブラック・ジャズファンにとって理想的な2枚組と言えるでしょう!

4

Spinetti - Dadi - Ceccarelli - Petreni

Spinetti - Dadi - Ceccarelli - Petreni InventaRio Rip Curl »COMMENT GET MUSIC
MPB~イタリアン・ジャズを繋ぐ美しすぎる1枚!マリーザ・モンチの兄貴分、ダヂがイタリアの実力派ジャズミュージシャン達と共に制作した新録アルバム。イタリア流のモダンで小粋なジャズと、ダヂの歌声、ボサノヴァ・ギターが見事に溶け合い、エクレクティックで上品なブラジリアン・グルーヴを聴かせてくれます。マリーザ・モンチ、イヴァン・リンスといった豪華客演陣の歌声も絶品!

5

Pal Joey

Pal Joey Somewhere In New York Pal Joey Music »COMMENT GET MUSIC
HOT MUSIC!90年代のNYハウス界にその名を残すパル・ジョーイが、自身の過去の音源をまとめたアルバムをリリース!このパル・ジョーイ、実はNYの伝説的レコードショップ、Vinylmaniaのスタッフであり、かのラリー・レヴァンとも親交のあった、ガラージカルチャーでは熱心なファンの多いクリエイター。ハウスクラシックスとして知られる大名曲①やディスコネタを絶妙にリコンストラクトした③⑥など、ジャジーなネタ使いとブレイクビーツ的グルーヴ感がセンス抜群の好トラックが満載!ミックス&ノンミックスの2枚組!

6

Prince Jammy

Prince Jammy Strictly Dub Pressure Sounds »COMMENT GET MUSIC
高クオリティのレゲエ・リイシューでお馴染み、プレッシャー・サウンズがまたしても素晴らしいダブ・プレートを発掘!ダブの申し子、プリンス・ジャミーが80年代アメリカで極少量でプレスしたという幻のアルバムが素晴らしい音質でここに再発!スライ&ロビー、ボビー・エリスといった名うてのミュージシャン達が60~70年代の名リディムを多数カヴァーし、ジャミーが自由奔放にダブ・ミキシングしたあのフレーズがこんなバージョンに!?という驚きも!

7

Risco Connection

Risco Connection Risco Connection Musica Paradisco »COMMENT GET MUSIC
ガラージ、ロフト・クラシックスとして知られるリスコ・コネクション音源が初のCDアルバム化!ディスコのレゲエカヴァーでカルトな人気を誇るジョー・アイザックスによるこのユニット、本アルバムでは、最も有名なマクファデン&ホワイトヘッドのAin't No Stopping Us NowカヴァーのStopping Ver⑤から、ダイアナロス①、インナーライフ②、CHIC④といったディスコ大名曲のカヴァー、そしてうれしいインスト・トラックまで、レア音源を余すところ無く収録!マニアもビックリの初CD化、お見逃し無く!

8

Mose Allison

Mose Allison The Way Of The World Anti- »COMMENT GET MUSIC
アメリカはミシシッピ州出身の超ベテラン・ブルース・ピアニスト/シンガー、モーズ・アリソンがなんと12年ぶりにニューアルバムをリリース!プロデュースは、こちらもベテラン・シンガー・ソングライターのジョー・ヘンリーということで、ジャズ・ブルース、カントリー色の濃いルーツ音楽好きには堪らない内容!トム・ウェイツやヴァン・モリソンらにも愛される彼の、古きよきアメリカの風合いと哀愁にシビレます!

9

The Last Electro - Acoustic Space Jazz & Percussion Ensemble

The Last Electro - Acoustic Space Jazz & Percussion Ensemble Miles Away Stones Throw »COMMENT GET MUSIC
マッドリブ流フューチャー・スピリチュアル・ジャズの傑作!過去にスティービー・ワンダー、ウェルドン・アーヴァイン等へのオマージュをアルバムにしてきたマッドリブ。今回はジャズの帝王、マイルス・ディヴィスからインスパイアされたという渾身のブラック・ジャズ集!フィル・ラネリン、ハリー・ホワイテイカー、ロイ・エアーズといった御大たちの大名曲を全くの新解釈でカヴァーする様は、やはり圧巻!特にラストを飾るコルトレーン&ファラオへ捧げる大作は、スリリングな展開が問答無用に格好いい!!

10

Erykah Badu

Erykah Badu New Amerykah Part Two : Return of The Ankh Universal »COMMENT GET MUSIC
前作から2年、エリカ・バドゥのNew Amerykahの第2章が遂にリリース!プロデューサー/参加陣には、ソウルクオリアンズのジェイムス・ポイザー、Sa-Raのシャフィーク、Jディラ、カリム・リギンス、マッドリブといったお馴染みかつ間違いの無いメンツ。音の方はアナログな楽器をふんだんに使った柔らかくオーガニックなR&B!ロイエアーズProで知られるシルビア・ストリプリンのダンスクラシックスのカヴァー④も聴きドコロ!コレはハズせませんね。

CHART by JET SET 2010.05.24 - ele-king

Shop Chart


1

MAXXI & ZEUS

MAXXI & ZEUS THE STRUGGLE / THE CELL »COMMENT GET MUSIC
もはやレーベル買いするしかないInternational Feelの第5弾はQuiet Villageの変名リリース!!筋金入りのハードコア・ディガーJoel Martinと、ご存知Radio SlaveことMatt EdwardsによるQuiet Villageタッグ、久々の新作はMaxxi & Zeus名義でのウルトラ・ディープ・チルアウト。

2

GIRL UNIT

GIRL UNIT I.R.L. EP »COMMENT GET MUSIC
■'10年年間ベスト候補■変幻自在の進化形UKG歴史的傑作がこちら。凄過ぎます!!L-Vis 1990とBok Bok率いる当店激推しポスト・UKファンキー/UKGレーベルNight Slugsから、巨大新星Girl Unitの特大傑作1st.12"が登場!!

3

AERA

AERA INFINITE SPACE EP »COMMENT GET MUSIC
☆特大推薦☆Joy Orbison x Pantha Du Princeな美麗スロー音響ハウス大傑作!!ダブステップ/UKGの新潮流として当店も激烈プッシュ中のスロー・アーバン美麗ミニマル/テック・サウンドに呼応した特大傑作が到着しました!!

4

SECONDO

SECONDO I THINK I'M GONNA LIKE »COMMENT GET MUSIC
ニューディスコ・セットにも完璧にフィットするスロー音響ディスコ傑作!!エディットの嵐による脱臼ドファンキー・グルーヴで当店お馴染みのUK天才Secondo。自ら率いるDreckから、メロウで端正な2トラックスをお届けします~!!

5

MOS DEF

MOS DEF MOS DUB »COMMENT GET MUSIC
遂にMos Defの楽曲もレゲエのクラシック音源とマッシュ・アップ!"Ms.Fat Booty"、"Travellin Man"、をはじめとするMos Defの代表曲と、Desmond Dekker、Lee Perry等レジェンド達のオケとを心地良く、そしてドープに溶け合わせた極上の全10曲!

6

V.A.

V.A. SOUNDS SUPERB VOL.7 »COMMENT GET MUSIC
エグみが人気のIn Flagranti監修グレイト・リエディット・シリーズ第7弾!!毎回必ず光るトラックが収録されてる人気シリーズも早くもVol.7。今回は"Finders Keepers"な辺境深掘り最新事情にリンクした感がナイス!!

7

JUAN MACLEAN

JUAN MACLEAN SCION A/V REMIX »COMMENT GET MUSIC
House of House, Shit Robotを筆頭にDFA馴染みのヒット・メイカーが集合!!先日リリースされたばかりの『DJ Kicks』も大好評のThe Juan Macleanによる、データ配信が先行していたアルバム収録曲リミクシーズが待望のアナログ化。お見逃し無く!!

8

REBOOT

REBOOT RAMBON EP (LUCIANO REMIX) »COMMENT GET MUSIC
Lucianoによるリミックスをフィーチャー!!間もなくリリースが予定されているRebootのアルバム『Shunyata』から先行シングル・カット作品!!Luciano率いるCadenzaの記念すべき50作品目がこちらです。

9

JAMAICA

JAMAICA I THINK I LIKE U 2 »COMMENT GET MUSIC
遂にPhoenixを超えるか!!グラマラス&スウィートなフレンチ・ディスコ・ロック爆裂キラー!!JusticeのXavierの後輩バンド、Poney Poneyが、名前をJamaicaに改めUKメジャー・デビュー!!Breakbot Remixもメチャクチャ最高です★

10

TANLINES

TANLINES SETTINGS »COMMENT GET MUSIC
トロピカルでドリーミーなインディ・シンセ・ポップ超最高峰★2010年スーパー・マスト盤です!!ブルックリン・シンセ・インディ新世代No.1、Tanlines。US/True Pantherからのリリースとなった2nd.シングル!!2010年の夏に聴きたい全ての音がここに詰まってます。

Laurie Anderson Only An Expert - ele-king

 ワルシャワが渋谷から下北沢に移転して、新譜をチェックする店がまたひとつ近場になくなってしまったので、ディスク・ユニオンの4階にいったら、ローリー・アンダーソンの12インチ・シングルがあった。

 ローリー・アンダーソンは随分久しぶりに聞く名前である。しらべると、2001年の『ライフ・オン・ア・ストリング』以来の『ホームランド』なるアルバムが来月に出るらしく、このシングルはアルバムからの先行カットらしい。ビル・フリゼールやヴァン・ダイク・パークスやドクター・ジョンが参加しハル・ウィルナーがプロデュースした『ライフ・オン~』は、タイトルの通り、ヴァイオリンを弾くパフォーマンス・アーティストである彼女の個人史を、それと密接に関わるアメリカとの関係で読み解いた、静謐であると同時に重く、生や死や救済といったものを感じさせる、全体的には"O Superman"と似ていないクラシカルなアルバムだった。私は『ホームランド』は当然まだ聴いてないが、シングルの2曲、たとえばA面の"Only An Expert"はゼロ年代に流行ったパンキッシュなディスコを彷彿させる楽曲で、ピーター・シェラーやエイヴィン・カンといったロフト・ジャズ系の参加(シングルにははいってないがアルバムのクレジットにはジョン・ゾーンも名前もある)は想定内だが、急逝したスティーヴ・リードとの双頭作が印象的だったフォー・テットことキエラン・ヘブデンや、オマー・ハキムの存在がこの曲を〈DFA〉といかないまでも80Sマナーのダンス・トラックにするのに貢献しており、音の間から彼女の(内縁の?)夫であり、『ホームランド』を共同プロデュースしたというルー・リードのフリップ&イーノを思わせるギターが顔をのぞかせるのは、攻撃とはいわないまでも前作と好対照である。

 夫唱婦随と書くと反感をかいそうだが、ルーとの関係がローリーに『ホームランド』を作らせたのではないと断言できない。もっとも私はローリーがルーに唯々諾々と従ったわけではなく、彼らの住居の居間での音楽やアートや政治についての対話が心にのこり、彼女に10年ぶりの新作を作らせた可能性は否定できないといいたいのであり、それをいえば、エドガー・アラン・ポーのきわめて象徴的な長編詩「The Raven(大鴉)」のタイトルを借りた、ルーの最新作にあたる03年の『ザ・レイヴン』も舞台劇として考案されており、パフォーマティヴな方法論ということでいえば、ローリーの影響が先であった。

 別に私は「どっちがどっち色に染まった」というゴシップを話したいのではなく、男女がたがいに影響を交わし、作品が本人たちも気づきがたい符牒を投げかけることにおもしろさを感じるし、史実や確定した評言を精査しつつも固執せず、仮定の連鎖で思考を拡散させるのが批評でなくて、なにが批評なの?と思います。

 話がそれてしまった。私はローリー・アンダーソンのシングルを聴いて、なにを思い出したかといえば、先月出たデイヴィッド・バーンとファット・ボーイ・スリムの『ヒア・ライズ・ラヴ』である。このアルバムはフェルディナンド・マルコス比国大統領の夫人であるイメルダを描いたもので、バーンのライナーノーツによれば彼のアイデアの元はリシャルト・カプシチンスキーがエチオピアの独裁者でありマーカス・ガーヴェイの汎アフリカ主義によりジャーと名指されたラス・タファリ・マッコウネンことハイレ・セラシエ一世を描いた『皇帝ハイレ・セラシエ――エチオピア帝国最後の日々』(筑摩書房、のちに筑摩文庫)にあり、彼は宮廷内のシュールでシアトリカルな世界を、3千足のクツを亡命後の宮廷にのこしたイメルダに重ね、彼女と彼女の乳母にあたるエストレーリャを並行して描くことで、甘さと切なさが同居するミュージカルに仕立てた。と書いて思ったのだが、「甘さ」と「切なさ」は古典的な物語では対立項ではない。というかそれがワンセットになったのが悲劇や喜劇や歌劇であり、演劇の革新運動はそれらに対するアンチテーゼであり、かつゼロ年代の演劇(のことはよく知らないが)をとりまく磁場であったのだったら、バーンがいかにライナーノーツで「私が興味を持っている物語は、影響力のある人物の原動力――何が彼等を動かすのか、どのようにして先へ先へと駆り立てるのか、そういった疑問に対する答えにあります」と誠実に狙いを説明しても、というか、誠実になればなるほど、パンクでもワールドミュージックでもオルタナティヴであったバーンによって、『ヒア・ライズ・ラヴ』は最後まで周到に甘いミュージカル仕立てなのにミュージカルから確実に踏み外しているのには驚くべきことだ。イーノとの『ブッシュ・オブ・ゴースツ』以来の共作である前作『エヴリシング・ザット・ハプンズ・ウィル・ハプン・トゥデイ』のポップさとこの甘さはまるでちがう。イーノとの作品はあえてポップなのにノーマン・クックとの1枚はなぜかミュージカルにならない

[[SplitPage]]

 私はこの2枚組を通して聴いて、実験的な曲があったほうがよかったのではないかと最初思ったのだけど、バーンはイメルダが70年後半から80年代前半、ディスコ(スタジオ54とかレジーンズとか)通いしたことに着想を得て、当時のディスコの再現をノーマン・クックに依頼しており、音楽性の振れ幅はかえって全体の調和を乱すと思った。で、音楽はといえば、あの時代のディスコ――EW&Fとかコモドアーズとか、ニューウェイヴ~ニューロマでもマイケル=クインシー――ではなく、それらを忖度したオリジナル・スコアで、つまり、まっとうなミュージカルの方法論で、私などマブタのウラにありし日の鈴木英人の表紙の『FMステーション』が浮かぶほどの清涼感あふれるポップスなのである。やや低音が強すぎる気がするが、ディスコとエキゾチシズムの匙加減は絶妙であり、"Every Drop Of Rain"の打ち込みベースの下世話なグリッサンドなど笑えるポイントもある。バーンの相手が、たとえばアトム・ハートだともっと上手に当時のムードを再現しただろうけど、それだときっと芸が細かすぎる。ようは似すぎないのが肝要なのだろう。
数年前まで、映画ではドキュメンタリーが流行り、あまつさえ音楽映画にもそういうものが多かったが、本作は『キャデラック・レコード』よりも『ドリーム・ガールズ』で、モデルをひとつの似像ではなく多義的なイメージの集積ととらえている。ここでのイメルダは、フローレンス・ウェルチであり、ルーファス・ウェインライトの妹のマーサであり、シンディ・ローパーであり、カミーユであり、B-52'sのケイト・ピアソンであり、10,000マニアックスのナタリー・マーチャントであり、もちろんエストレーリャ役のトーリ・エイモス、マルコス元大統領役のスティーヴ・アールの独唱もある。イメルダのイメージは上記のようにまことに多彩だが、ダブル・キャストというのはあるにしても、主役が分裂するのがミュージカルかといえば否で、舞台に何人もアニーがいれば混乱の元だろう(ちかごろの学芸会では配役が自己申告制になっていて、同じ役の子が何人もいるがあれはかえってブキミだ)。本作はその意味で――ネコもシャクシも使うので使いたくないが――メタ・ミュージカルであり、それが実際わかるのは、終始登場人物の対話劇/モノローグで進んできたこのアルバムの終盤でバーン本人が歌う "アメリカン・トゥログロダイト"である。この曲だけは歌い手(配役)が「アンサンブル」となっていて、これが演奏者を指すなら、オペラでオーケストラ・ピットの楽団員が突然歌い出すようなものだ。ここでは以下のように歌っている。

 アメリカ人は例のセクシーなジーンズを穿いている
 アメリカ人はテクノロジーを駆使している
 アメリカ人は例のインターネットをサーフィンしている
 アメリカ人は例の50セントを聴いている
"American Troglodyte"(永田由美子訳)

 この曲が転換点であり、このあと物語は佳境をむかえるのだが、バーンが仕組んだ虚構の裂け目は、(メロ)ドラマをカタストロフに収斂させない後ろ髪を引くような感じをあたえる。それは本作をイメルダにまつわるミュージカルとして聴こうとする私たちの能動性を反転させ、その形式のシュミラークルを作るだけでなく、彼の地でいまだ血気さかんなイメルダのあり得たかもしれない似像を作りさえするという意味で、バーンの(内縁?)の妻であるシンディ・シャーマンがマリリン・モンローやソフィア・ローレンに扮装し架空の映画スチールを撮影したシリーズを思わせる。彼女はのちに対象を、女性の卑近な記号であるセレブリティや先人(リキテンシュタインとか)のパロディから人形や死体まで拡張したが、あれはエルロイの『ブラック・ダリア』のように即物的でグロテスクだった。『ヒア・ライズ・ラヴ』に描かれたイメルダはシンディ・シャーマンの写真のなかの女ようにグロテスクではなく、むしろ表面的には真逆だがしかし、バーンがイメルダに惹かれたのは権力者の内面のわからなさであり、彼がそれをグロテスクと感じなかったとは思えない。

 婦唱夫随と書くとマッチョな方に怒られそうだが、バーンの女性観にはシンディの影がつきまとう。彼は多数のシンガーを証言者に見立て、イメルダのドキュメンタリーをエディットしたともいえなくはなく、私はもしこれをミュージカル映画にするならリンチかトリアーに撮ってもらいたい。バーンは『ヒア・ライズ・ラヴ』で政治にもっともちかい場所にいた人物をとりあげながら政治をひとつ道具立てとしか考えていないが、もし仮にこれが映画になるなら〈帝国〉の独裁が横行したゼロ年代のパロディにはなるかもしれない。


 私は書き忘れたが、政治に言及するのはローリーのほうである。〈NONESUCH〉ホームページによれば、ローリー・アンダーソンは『ホームランド』で「アメリカの外交政策、拷問、経済の崩壊、個人的自由、医療過誤、宗教~」が作品の主要なテーマになり、それをほのめかすように彼女のシングルのB面にはゲイであるアントニーをフィーチャーしたアルバム未収録曲"Pictures And Things"が入っている。男声でも女声でもないアントニーの「中声」は"Pictures And Things"のなかでローリーのヴォイス・エフェクトによりさらに変態(メタモルフォーゼ)したグロテスクな言葉の連なりとして夢のように現実に響くのだった。

 私はそれにもうひとつ書き忘れたが、ふたりはレーベル・メイトだった。

Shop Chart


1

MOODY

MOODY All Over M.P.T. / FRA »COMMENT GET MUSIC
MOODYMANNネタ使いでおなじみの「MOODY」!今回は3 CHAIRSの"ALL OVER"使い!元曲のエロいシンセのフレーズはそのままに、低音++、今風のパーカッションを加えたクラブ仕様のA面。よりパーカッションを押し出し、違った味付けにしたB面。これは今すぐに使えるブツ!(I)

2

DVS1

DVS1 Love Under Pressure EP TRANSMAT / US »COMMENT GET MUSIC
DERRICK MAY主宰「TRANSMAT」復活第二弾!BEN KLOCKの「KLOCKWORKS」レーベルからデビューしたDVS1による作品。先日のDERRICKのMIX CDにも収録された、アンニュイなシンセが印象的な"PRESSURE"。KLOCKWORKS系の、DEEPでDARKな"POLYPHONIC LOVE"を収録!(I)

3

MORPHOSIS

MORPHOSIS Running Out/Musafir MOS / NED »COMMENT GET MUSIC
Rushhour傘下の「MORPHINE」レーベルから初期THEO PARRISHのようなDOPEなHOUSEをリリースしてきたMORPHOSISによる新作12"!コレ、かなりヤバいす!ACIDすぎるベースラインと、初期CHICAGOの荒くれトラックがMIXされたA面。キツめのハイハット+フリーキーなSAX絡みのB面。激PUSH!(I)

4

BASIC SOUL UNIT

BASIC SOUL UNIT Tuff Luv EP CREME ORGANIZATION / NED »COMMENT GET MUSIC
オールドスクール・ライクなACID HOUSE!PHILPOT、MATHEMATICS、MULEなどの個性派HOUSEレーベルから数々の作品を発表してきたBASIC SOUL UNITによる新作!これまた、オランダのCREME ORG.からで、外さないお人です。音使いのLOW-FIなリズムとシンプルなベースライン、303。マニアの鳴らす、マニアの為の音。カッコいいです!(I)

5

GB

GB Xpander EP DIMENSION X / US »COMMENT GET MUSIC
BUILD AN ARKの作品に参加したり、FLYING LOTUS、LITTLE DRAGON、BEECH BOYZの音源をリワークしたりと、何かと面白いGBによる新作!B面!浮遊感のあるキーボード、ストリングス。二拍四拍のクラップと相まって、いーい感じのアフターアワーズ・ハウスになっています。A面のCYBTRON直系のELECTRO BEATに美しいシンセワークをプラスしたトラックもGOOD!過去音源もチェック!(I)

6

IAN SIMMONDS

IAN SIMMONDS Burgenland Reworked EP MUSIK KRAUSE / GER »COMMENT GET MUSIC
昨年リリースされたアルバムからのREMIX 12"。「WORKSHOP」レーベルからリリースもするEVEN TUELLによる高品質なアングラハウスを、CIRCUS COMPANYからアルバムをリリースしたDAVE AJUによる、変態男性VOCAL HOUSEを、KRAUSE DUOによるダビーなREMIXを収録。自身の未発表音源も収録し、質の高い12"になっています。(I)

7

SCHERMATE

SCHERMATE Schermate 005 SCHERMATE / ITA »COMMENT GET MUSIC
イタリア発、アンダーグラウンド・ミニマル・シリーズ「SCHERMATE」5番!RICHIE HAWTIN、MODERN HEADSがサポート!これまでのリリースで最もDOPEな音を鳴らしてます。湿ったビートに渋いサンプリングがこっそり乗るA面と、DEEPなキックとイキそでイカないSEを散りばめたB面。ストロボが瞬く「あの時間帯」にぴったりなDEEP MINIMAL!(I)

8

NICK CURLY & MARKUS FIX

NICK CURLY & MARKUS FIX / 2 Years Cecille Records 2 Years Cecille Records CECILLE / JPN »COMMENT GET MUSIC
SIS、ANDOMAT 3000、ILARIO ALICANTEなどを擁し、モダン・ミニマルハウス・ムーブメントを牽引するマンハイムのCECILLEから、NICK CURLYとMURKUS FIXによるMIX CDが登場! レーベル設立2周年(まだそれぐらいなんですね!)を記念したリリースで、現在のフロアを彩るパーカッシブでディープ、そして弾けるようにグルーヴィーなミニマルハウスが凝縮!(S)

9

FRANK BRETSCHNEIDER

FRANK BRETSCHNEIDER Exp RASTER-NOTON / GER »COMMENT GET MUSIC
哲人・FRANK BRETSCHNEIDER、3年ぶりのNEWアルバムがRASTER-NOTONから! 全体が30秒~3分以内のショート・トラックの連続でシームレスに構成され、聴覚を刺激するパルス音、サインウェーブの波状攻撃に意識が覚醒させられる一大傑作! AUDIO CDとQUICK TIME MOVIE収録DATA CDの2枚組仕様!(S)

10

KABUTO & RYOSUKE

KABUTO & RYOSUKE Paste Of Time JPN / PASTEOFTIME »COMMENT GET MUSIC
自身のパーティ[LAIR]を中心に活動中のKABUTOと、[SO GUT!]で活動中のRYOSUKEによる2イン1のスプリット。パーティの臨場感とその時間帯にしかない空気感を詰込むべく、「午前2時」という最もハマる時間帯をテーマにしたKABUTO、そして「午前7時」のタフな時間帯の断片を切り取ったRYOSUKEのミックス!(Y)

CHART by DISC SHOP ZERO 2010.05.19 - ele-king

Shop Chart


1

DUBKASM

DUBKASM TRANSFORM I REMIXED SUFFERAH'S CHOICE / UK / 2010.4.27 »COMMENT GET MUSIC
ブリストル~ブラジルの混血ルーツ・レゲエ・チームが昨年発表した傑作アルバムのダブステップ・リミックス集、しかも全員ブリストル勢という見事な企画! 何も言うことはない素晴らしい内容!

2

POIRIER

POIRIER RUNNING HIGH NINJA TUNE / UK / 2010.4.9 »COMMENT GET MUSIC
話題のアルバム12曲入に15曲のリミックス+αを追加した2枚組が登場! ハイパー・ソカに、クンビアやレゲエ、ファンキーも混入。

3

MOUNT KIMBIE

MOUNT KIMBIE REMIXES PT.1 HOTFLUSH / UK / 2010.4.25 »COMMENT GET MUSIC
徐々に人気を集めている2人組の楽曲を、これまた人気のJAMES BLAKE、FALTY DL、INSTRA:MENTALが素晴らしく個性的なリミックスをした素晴らしい1枚。

4

MJ COLE

MJ COLE THE RIDDIM EP PROLIFIC / UK / 2010.4.27 »COMMENT GET MUSIC
締まりのいいファンキー・ビートの1。飛び交うヒプノな音と音圧のあるベースのバランスがイイ2など、ファンキーだけでなくヒプノ系ダブステップやクリック・ハウスが好きな方にもオススメの強力作!

5

LIMONIOUS

LIMONIOUS HOUSE OF USHER FLOGSTA DANSHALL / SWE / 2010.4.28 »COMMENT GET MUSIC
ヒップホップそしてレゲエのバックビートなノリを感じさせつつも徹底的に漂白された、スロウでシンプルなエレクトロ・ビートの上で、まさにスクウィー(シンセの擬音)な音色が飛び交う全8曲。

6

WEDGE & AESOTERIC

WEDGE & AESOTERIC DETACHED REALITY / A NIGHT ON THE WONK IF SYMPTOMS PERSIST / UK / 2010.4.25 »COMMENT GET MUSIC
初期PORTISHEAD的なギターとアンビエント的な空間の下で速めの4/4ビートが打つトラックに、時折入る女性ヴォイスが映像的。独特のシンセ・ワークを発揮したGEMMYによるリミックスも素晴らしい!

7

LAGARTIJEANDIO

LAGARTIJEANDIO NEO BAILONGO ZZK RECORDS / ARG / 2010.4.17 »COMMENT GET MUSIC
クンビアを飛び越え、トライバルさとエレクトロ、そしてベース!が全く新しいセンスで結び付けられた、レーベルの新機軸/気合いも感じる大注目EP!

8

Shhhhh

Shhhhh STRICTLY ROCKERS Re: #32 - RITMO DEL BAILE FUTUROS - EL QUANGO / JP / 2010.4.17 »COMMENT GET MUSIC
未来のリズム」という副題の通り、いわゆるオヤジなワールド・ミュージックの退屈さとは真逆の刺激的なサウンドが満載のDJ MIX。

9

PURSUIT GROOVES

PURSUIT GROOVES FOX TROT MANNERISMS TECTONIC / UK / 2010.4.27 »COMMENT GET MUSIC
ブルックリンの女性プロデューサー/シンガー。ヒップホップとハウス、そしてテクノな感触も混ざり合った、ザラザラとセクシーなビートに、ソウルを感じるヴォーカルがまた素晴らしいグルーヴを生んでいる。

10

OVERPROOF SOUNDSYSTEM

OVERPROOF SOUNDSYSTEM JUMP UP E.P. ELEPHANT HOUSE / UK / 2010.4.27 »COMMENT GET MUSIC
ステッパーが変形してアフロなノリ(UKファンキーにも通じる?!)にも聴かせる跳ねたグルーヴに、盛り上げ必至なかけ声とディージェイの1。より4/4感を増したヘヴィなビートの2も◎。

1. Moody aka Moodymann / Ol' Dirty Vinyl | KDJ

E王 1990年代後半にムーディーマンやセオ・パリッシュらによって押し広げられたテンポ・ダウンされたハウス・ビート。そのキックとキックの「間」には漆黒のサイケデリックが埋め込まれているかのようで、我々を排水溝に吸い込まれていく水のようにゆっくりと別の場所へと連れて行く。ザラついたサンプル同士が交錯し、幻聴のような効果を生む彼らのトラックは実験的でもあるのだけど、それ以上に官能的で、セオの霞がかかったような半覚醒状態のトロけ具合は本当に素晴らしいと思うし、ムーディーマンに至ってはエロとサイケは同義語みたいなものだろう。

 そういえば今年の3月にロンドンでおこなわれた〈Red Bull Music Academy〉のトークショーに登場したムーディーマンことケニー・ディクソン・ジュニアは、まわりにはべらせたセクシーな黒人女性たちにヘアー・セットをさせたり、酒を作らせつつ「マザ・ファッキン!」を連発しながら喋りまくり、勝新的俺流な時空のネジれを発生させていた。しかし、何だったのだろうアレは......。

 そしてムーディーマン(Moody名義)の新作「Ol'dirty Vinyl」は、その濃度にむせるようなジャケット・ワークに包まれて届けられた。内容はいつも以上にヴァラエティに富んでいて、タイトル曲の"Ol'dirty Vinyl"などは珍しく爽やかな雰囲気もありつつ「気分がいいと思ったらいつの間にかあの世だった」というような感じだし、"We Don't Care"はKDJ自身のVoがのるジャズ・ナンバーで、"No Feed Back"は歪みまくったギターがのたうつKDJ流ブラック・ロック。そして、彼らしいセクシーなハウス"It's 2 Late 4 U And Me"の後には、混沌とした電子音楽" Hacker"が待っているという具合だ。

 ある意味、寄せ集め的な作品集なのだけど、最近それなりに洗練されていく傾向をみせていたことに若干不満を感じていた僕のような人間からしたら、この自由度の高い錯綜ぶりは大歓迎だ。さぁ我々をエロとサイケの奈落の一番深いところまで連れて行ってくれよ、KDJ。

2. Missing Linkx / Got A Minute | Philpot

 オールドスクールなシカゴのエッセンスやアレやらコレやらをデトロイトのフィルターを通して再定義した俗に言うビートダウンの種子は様々な場所へと伝搬し、そのBPMと同様にゆっくりと、しかし確実にそれぞれの場所で独自の発展を遂げている。ドイツのソウルフィクション(Soulphiction)、モーター・シティ・ドラム・アンサンブル(Motor City Drum Ensemble)、ニューワールドアクアリウム(newworldaquarium)、イギリスのトラスミー(Trus'me)やロシアのヴァクラ(Vakula)(UKの〈Firecracker〉からリリースされるシングルが素晴らしい)などなど、エトセトラエトセトラ。ようするに国境を越え、それぞれがあちらこちらの地下で重心低めのディープなリズムを響かせているというわけだ。

 そしてその影響力は巡り巡って、昨年ひっそりとリリースされた日本のモンゴイカ a.k.a. T.Contsuの12インチにまで及んでいたりもする。モンゴイカ(戸田真樹)とは、ヒップホップ・ユニットの降神をはじめとした〈Temple ATS〉のアートワークを手掛ける画家でありトラックメーカー。その彼が、自身の〈Close Eye Recordings〉から出した「KIMI EP」のローファイでスモーキーな4つ打ちには、やはり何処か日本的な叙情と孤独が忍び込んでいて、その事実がとても面白く思う。

 このようにデトロイト・ビートダウンが拡散し、かつ各エリアで様々なヴァリエーションを見せるなかで、ドイツのSoulphiction及び彼の主宰するレーベル〈フィルポット〉は、もはやフォロワーという域を越えた存在になりつつある。ソウルフィクション(Michel Baumann)のアナザー・プロジェクトであるというミッシング・リンクスの前作「Who to Call」に収録さていれた"a Short History of..."は、強烈なバネをもった美しい野獣のようなファンクだったし、この新作の「Got A Minute」も削ぎ落とされた筋肉のようなビートが脈打っている。

 ドイツから放たれたこれらの音は、本家とはまた異なる種類の緊張感を漂わせ、非常にシンプルでタイトだ。黒人音楽をサンプリングしてそれっぽく仕上げただけのフォロワーも多いけれど、リスペクトとコピーは別ものだし、ときにはリスペクトなんて言葉は忘れるべき。

3. G.I.O.N. / Echoes of Our Minds Pt.1 | Human Race Nation

 ちょっと手前味噌なのだけど、僕がリミキサーとして参加した作品を紹介させていただきたい。HUMAN RACE NATION(以下HRN)から出たG.I.O.N.の「Echoes of Our Minds Pt.1」がそれだ。言うまでもなく、デトロイトから影響を受けつつ、そこから受け取ったものを独自に展開し活動している者は日本にも存在する。音楽ユニットG.I.O.N.として硬派なミニマリズムを追求するフジサワ・アツシとコシ・シュウヘイによるHRNもそのひとつ。

 HRNは長野で活動しながらもドイツ経由でワールドワイドにヴァイナルをリリースするという、ローカリズムとグローバリズムを兼ね備えた日本では非常に希有なレーベルである。 今まで彼らは地元長野でデトロイトやドイツを中心としたアーティストを迎えたパーティーを行い、地道にコネクションを築いてきた。それは2007年のシングルでのフランク・ムラー、本作における元UR、ロス・ヘルマノスのメンバーのDJ S2ことサンティアゴ・サラザール、そして次のリリースでのDJ3000とレニー・フォスターのリミキサー起用にも繋がっている。一方そこにトラックス・ボーイズや岩城健太郎、d.v.dとしても活動するJimanicaや僕などの国内リミキサーも混ぜることにより、既出の4枚のヴァイナルはちょっとした異文化交流の機能も果たしてもいる。

 「Echoes of Our Minds Pt.1」は昨年末にヨーロッパでリリースされ、G.I.O.N.のオリジナル、DJ S2 REMIX、僕の手掛けたREMIXそれぞれが、ベルリンのBerghainのレジデントDJであるMarcel Dettmannや、フランスの Syncrophone(Theo ParrishとかAnthony Shakirのリミックス盤を出している)のオーナーDidier Allyneらのチャートに入るなど高い評価をもらった。しかし、ヨーロッパで品薄となり、日本には極少数しか入荷されない状態で残念だったのだが、近々ディストリビューターを変えて再リリースされるとのこと(そんな理由もあり、出てから少し時間が経っている本作を敢えて紹介させてもらった)。そして間もなく「Echoes of Our Minds Pt.2」の方も出るようだ。

 彼らとは今後も諸々関わっていく予定で、実際に現在進行中のプロジェクトもある。そういえば僕と彼らの最初の接点はというと、確かmixiのデリック・メイのコミュに僕がパーティの告知を書き込んだのを、HRNのフジサワくんが見てコンタクトをとって来たのがそもそもの始まりであった。ここはmixiとデリックに感謝するべきなのだろう。

4. Don Williams / Detroit Blue Ep | A.R.T.Less

 〈A.R.T.〉〈B12〉に〈ラッシュ・アワー〉、〈プラネットE〉と、このところAS ONEことカーク・ディジョージオがリリース・ラッシュである。同じく90年初頭のデトロイト・リヴァイバル~インテリジェント・テクノを代表するアーティスト、B12が同名のレーベルを一足先にリスタートさせたのに続き、カークもかつて自身が運営していたA.R.T.を復活させたりと、何だかこの辺り盛り上がっている模様。一時期〈モワックス〉などでリリースしていた生ドラム再構築モノは封印し、完全にテクノ/ハウスへ舵を切っているものの、音自体は〈A.R.T.〉の頃の音というよりも、疾走するリズム+エレガントな上モノのコンビネーションの、昨今割りとよくあるデトロイト・フレイヴァーのテック・ハウスという感じのものが主だったりする。

 そんななか、ドイツの良質なディープ・ハウスレーベル〈Mojuba〉のサブ・レーベルである〈a.r.t.less〉は、その〈A.R.T.〉とカール・クレイグの名曲"At Les"を掛け合わせたような名前からもわるように、恥ずかしいほどの初期デトロイトへの愛が丸出し状態だ。更にオーナーであるドン・ウィリアムス自身の「Detroit Black EP」からはじまる黒、赤、青のデトロイト三部作は、モロに初期〈トランスマット〉。とくに青盤は初期のカール・クレイグ、ひいてはインテリジェント・テクノであり、もうところ構わず「好きだ~!」と叫んでいるような1枚。

 思えば当時のデトロイト・リヴァイバル~インテリジェント・テクノというのは、結局のところ初期のカール・クレイグのサウンドのコピーだった。例えばデリック・メイのラテンにも通じるようなバウンドするリズム感ではなく、それは 69名義で豪快な実験を繰り広げる以前のカール・クレイグ、ようするにPsyche名義での"Elements"や""Neurotic Behavior"などの音を指す。孤独で繊細で壊れやすく、思わず「詩的」なんていう恥ずかしい言葉がまるで恥ずかしいと思わなくなる程に、それは魅惑的な青白い輝きを放っていた。そう、色で言うとデリック・メイは赤で、カール・クレイグは青だ。

 それにしても、このドン・ウィリアムスの「Detroit Blue Ep」は、何だかこちらが赤面するくらいの青臭さに満ちていて、これをどう評価するべきなのか正直僕にはわらない。しかし、カール・クレイグがPsycheで描いた音世界は、当の本人でさえもう作れない類いのものだと思うし、結局その後放置されたままになっているのもたしか。その先の音が知りたい。

5. DJ Nature / Necessary Ruffness EP | Jazzy Sport

  DJ ネイチャーことマイルス・ジョンソン。またの名をDJ MILO。ネリー・フーパー、ダディー・G、3D、マッシュルームが在籍していたブリストルのDJチーム、ワイルド・バンチの中心人物である。82年から86年まで活動したこの伝説的DJチームは、その後のUKサウンドの核、つまりパンク~ニューウェヴの残響とレゲエのサウンドシステムとヒップホップの接点を体現した存在であり、解散後、ネリー・フーパーはSOUL II SOULを、そしてダディー・G、3D、マッシュルームはマッシヴ・アタックとして活動することとなる。一方のMILOはUKの喧噪と離れ、ニューヨークのハーレムで黙々と音を紡ぐこととなるのだが、それはなかなか世に出ることはなかった。しかし、元ワイルド・バンチという伝説に彼を閉じ込めるべきではないし、実際に彼の音楽はブリストルで得たものを更なる深みに向けて解き放ったものである。

 そして今年、彼の12インチが日本の〈ジャジースポート〉から届けられた。この「Necessary Ruffness」と題されたヴァイナルに収録されたトラックは、いずれもディープ・ハウスよりもさらにディープでロウなハウスであり、そのくぐもった音質が独特の空間を生み出していて、それは意識しているのか無意識なのか、デトロイトのビートダウンやベルリンのシーンなどとも共振する類いのものになっている。そして、その音楽性は日本の〈DIMID〉から2003年にリリースされたMILOの初のアルバム『Suntoucher』(表記はDJ MIL'O)ですでに示されていた。

 ここで個人的な話しを少々。2004年に出た僕のS as in Soul.名義のアルバムは、元々は〈DIMID〉から2003年に出る予定だったのだが、途中でA&Rが独立することとなり、それに伴い1年後に〈Libyus Music〉の第一弾としてリリースされた。当時の〈DIMID〉~現〈Libyus Music〉の竹内君とS as in Soul.のリリースの打ち合わせしている時、このMILOのアルバムを出すべきかどうかを相談されて、僕は絶対出すべきだと答えたのを憶えている。そのことがどれだけの影響したのか知らないが、あのアルバムが世に出るキッカケを僅かでも与えることが出来たのならば、それは非常に光栄なことだ。

 僕としては、現在のマッシヴ・アタックよりもMILOの音のほうが遥かに魅力を感じるのだけれど、そんな比較など本人からしたら迷惑な話しでしかないだろう。この12インチの後に控えているというニュー・アルバムを楽しみに待つのみだ。

CHART by JET SET 2010.05.17 - ele-king

Shop Chart


1

MOODY

MOODY OL' DIRTY VINYL »COMMENT GET MUSIC
Moody a.k.a. Moodymann緊急リリースの話題作が到着です!!90年後期~'09年にかけてレコーディングされストックされていたと思われる漆黒の5トラックスをコンパイル。例によって限定プレスですので、マスト・チェックでお願い致します!!

2

ONRA

ONRA LONG DISTANCE »COMMENT GET MUSIC
大好評の12"の勢いそのままにAll Cityよりフルアルバムをリリース!同タイトルの好評12"の楽曲の他にも、2008年リリースの7"から"My Coment"、そしてSlum VillageのT3を迎えた"The One"をはじめ、粒揃いな楽曲を21曲収録した極上の一枚となっています!

3

JAMIE LIDELL

JAMIE LIDELL COMPASS »COMMENT GET MUSIC
BeckやFeistも参加。もちろんグラミー狙います!!Warp最強の鬼才Jamie Lidellが自らのソウルを進化させカムバック・リリース。崩壊寸前のビートと美し過ぎるメロディ、そしてコーラス、完璧です!!■MP3 DLコード付■

4

FUTURE ISLANDS

FUTURE ISLANDS IN THE FALL »COMMENT GET MUSIC
Dan Deaconと並ぶボルチモアの逸材。なんとThrill Jockeyからのファースト・マキシEP!!Upset! The Rhythmからのリリースが当店好評だった、ボルチモアの3人組Future Islandsが、まさかのThrill Jockeyから登場!!限定カラー・ヴァイナルの4曲入り12インチ。

5

BUTCH

BUTCH NO WORRIES / TEASE ME »COMMENT GET MUSIC
Ceccile新作はButchが登場!!まさかの大ネタ使いRoy Ayersの"Running Away"を使用し話題騒然だった"Super Fluff Disco Stuff Vol.2"をリリースしたばかりのButchが今度は新作をCeccileからドロップと絶好調!!

6

FOAMO

FOAMO JOOKIE / CENTAVO »COMMENT GET MUSIC
Rusko永遠のアンセム直系のブラス炸裂ボムが誕生っ!!'09年、Skintから電撃デビューを飾った新星ベース・マスターFoamo。ブレイクス名門Fat!からの今作はまさかの"Cockney Thug"アンサー・トラック!?

7

GLITTERBUG

GLITTERBUG PRIVILEGE »COMMENT GET MUSIC
Pantha Du Princeのアレに匹敵するアンビエント美麗音響ミニマル特大傑作!!ドイツはケルンの音響ハウス/テクノ・サウンドを担う超新星Glitterbugが、レフトフィールド・ミニマル史を塗り替える歴史的傑作アルバムを完成!!■限定500枚プレス/DLコード付■

8

BING JI LING

BING JI LING SUNSHINE LOVE »COMMENT GET MUSIC
Mayer Hawthorne好きも死にます。ブリージン・チルアウトなブルー・アイド・ソウル超絶品!!この季節にピッタリの爽やか込み上げブリーズが帰って来ました!!前作"Home"が当店超ロング・ヒットとなった才人、Bing Ji Ling。超待望の新曲は期待以上の気持ち良さ!!

9

JUNK CULTURE

JUNK CULTURE WEST COAST »COMMENT GET MUSIC
激オススメです。UKインディ・エレクトロニカに通じる注目のUS新世代トラック・メイカー!!オックスフォードのDeepak Mantenaによるソロ・ユニット、Junk Culture。Illegal Artから2009年にリリースされた大傑作1st.アルバムを、今改めてご紹介します!!

10

MAAYAN NIDAM

MAAYAN NIDAM GREATEST TITS EP »COMMENT GET MUSIC
当店ハウス・コーナー的に全く外さない女子、Maayan Nidamの新作がまたしても最高です!!最近はリエディット専門オフシュートW + L Blackの方が人気が出ている気がしなくもないブルックリンWolf + Lambの本家からベルリンの才女による意欲作!!

Chart by Lighthouse Records 2010.05.17 - ele-king

Shop Chart


1

Moody

Moody Ol' Dirty Vinyl KDJ / US / 2010.05.11 / »COMMENT GET MUSIC

2

Mim Suleiman

Mim Suleiman Nyuli Running Back / GER / 2010.04.27 / »COMMENT GET MUSIC

3

V.A.

V.A. Afro Balearic EP Sol Selectas / US / 2010.05.04 / »COMMENT GET MUSIC

4

Adam Port & Sante

Adam Port & Sante Own EP Rockets & Ponies / BEL / 2010.05.04 / »COMMENT GET MUSIC

5

LCD Soundsystem

LCD Soundsystem Pow Pow DFA / UK / 2010.05.04 / »COMMENT GET MUSIC

6

James Chance And The Contortions

James Chance And The Contortions Incourrigible Rong Music / US / 2010.05.11 / »COMMENT GET MUSIC

7

Thodoris Triantafillou

Thodoris Triantafillou Flying Rubber Duck Orpheas / GREECE / 2010.04.13 / »COMMENT GET MUSIC

8

Lemos

Lemos Ypomoni Orpheas / GREECE / 2010.05.11 / »COMMENT GET MUSIC

9

Douglas Greed

Douglas Greed St. Eisbein EP Freude Am Tanzen / GER / 2010.03.16 / »COMMENT GET MUSIC

10

Mauser

Mauser The Vault EP Synapsis Records / US / 2010.05.04 / »COMMENT GET MUSIC

CHART by TRASMUNDO 2010.05 - ele-king

Shop Chart


1

HIRAGEN from TYRANT『CASTE』 »COMMENT

2

SEMINISHUKEI PRESENTS『WISDOM OF LIFE』»COMMENT

3

STARRBURST『INSTRUMENTALS』 »COMMENT

4

ROCKASEN『WELCOME HOME』 »COMMENT

5

HIKARU『Sunset Milestone』 »COMMENT

6

KIRIMANJARO »COMMENT

7

DJ Holiday『The music from my girlfriend's cnsole stereo』 »COMMENT

8

Shhhhh『Ritmo del baile futuros』 »COMMENT

9

DJ ASAMA『Spread Pure Darkness』 »COMMENT

10

VIKN『the 6 MILLIONDOLLAR MAN』 »COMMENT
  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184