「IO」と一致するもの

Isolde Touch - ele-king

 実験の旗色が悪いのか。前衛は死んだのか。あの死なないはずの、もしくは何度も死んでも蘇生したはずのピエール・ブーレーズも死んでしまった。前衛音楽も、実験音楽も、とうの昔に20世紀のフォルダに入れられてしまってわけで、マニアの蒐集欲を満たすブツ=盤としてフェティッシュな欲望の対象になってしまったのだろうか。むろんこれはこれで悪くない倒錯だ。私も大好きな倒錯である。

 では、実験音楽も前衛音楽も死んだ、というかゾンビ化した21世紀において、音楽における実験的な試みそのものも無効化したというのだろうか? いや、そうではないだろう。そもそも音楽とは終わることなき音の実験ではないか。20世紀が終わっても音楽が音楽である限り実験は終わらない。実験とは生の証である。ならば、もっとカジュアルに、もっとクールに、もっとモダンに、もっとモードに、音の実験をすればいい。モダン・モード・エクスペリメンタル。

 そして昨今の音楽的潮流において、そのようなモダンでモードなエクスペリメンタル・ミュージックは極めて重要な存在になっている。ベルギーの実験音楽/サウンド・アート・レーベル〈アントラクト(Entr’acte)〉はその代表格だろう。〈アントラクト〉はグラフィック・デザイナーでもあるアロン・ケイ(Allon Kaye)が主宰するレーベルで00年代から活動を続けている。もはや中堅といってもいいレーベル・キャリアだが、白地+色の新しいアートワーク・フォーマットやヴォイナル・リリースなどを導入して以降は、ノイジーな実験音楽のクラブ的展開という新しい領域へとその活動を拡張しつつある。じじつ、昨年リリースした、イマジナリー・フォーシズ(Imaginary Forces)、ガイ・バーキン&サン・ハマー(Guy Birkin & Sun Hammer)、カイル・ブラックマン(Kyle Bruckmann)などのアルバムは、エクスペリメンタルとロウなテクノをリンクさせた素晴らしいアルバムであった。

 そんな〈アントラクト〉から、イゾルデ・タッチの新作がリリースされた。彼女は南カルフォルニアを拠点として活動をしているアーティストである。イゾルデ・タッチ名義では〈ファーザー・レコード(Further Records)〉からアルバムを発表しており、本作は2作めに当たる。また本名アーシャ・セシャドリ(Asha Sheshadr)名義では、〈グリッド・コンプレックス(Gryd Complex)〉や〈ジギタリス(Digitalis Limited)〉などから作品をリリースしている。

 この〈アントラクト〉という、いまもっとも重要なエクスペ・レーベルからのリリースは彼女に大きな飛躍をもたらすのではないかと思う。じじつ本作はとてもユニークな作品に仕上がっているのだ。どの楽曲も、霞んだ音ならではの、美しくも儚い美が生成されている。アルバム1曲め“スタンダード・デヴィエーション(Standard Deviation)”から、その美的感覚は十分に表出している。クラシカルなピアノのループに、硬い電子ノイズに、ダブィなベース、キックの音、彼女自身と思われる声が、真っ白な空間に漂流する粒子のように交錯していくのだ。

 個人的には2曲め“パセティック・マシン(Pathetic Machine)”、3曲め“スカルペルス(Scalpels)”、4曲め“PVCバーン(PVC Burn)”などに聴かれるビートの音色=テクスチャーに注目したい。柔らかい声の層に、崩れ落ちていくかのようなインダストリアル・ビートが融合し、崩壊直前の美を聴き手に与えてくれるのだ。この感覚は極めて独特である。
 また、どの楽曲においても(彼女の)「声」と「ノイズ」によって極めて独特なアンビエント/アンビエンスな感覚が生成している点も重要だ。この宗教歌曲的/賛美歌的ともいえるクラシカルなアンビエンスは、2010年代以降のドローン/アンビエントを経由した新世代ならではの響きではないかと思う。私見だが、カラリス・カヴァデール(KARA-LIS COVERDALE)のアンビエント作品との近似性も感じられた。

 それにしても2015年において、〈アントラクト〉はついに頭ひとつ上に突き抜けた。ノイジーなサウンドを伴ったエクスペリメンタル・ミュージックでありながら崩壊したようなテクノ・ビートやループも混入されており、00年代の電子音響や10年代初頭のインダストリアル/テクノ「以降」を感じさせる作品を多数リリースしたのだ。とても新しく、モダンなレーベルへと刷新したように思えてならない。
 新年早々〈アントラクト〉のサイトでは、2016年最初のカタログがアナウンスされていた。主宰アロン・ケイの審美眼(耳)はますます冴え渡っているといっていい。今年も刺激的で、クールで、エクスペリメンタルで、モダン/モードな作品をリリースしてくれることだろう。

 擬装チェンバー・ポップの傑作『Ansiktet』(Inpartmaint)以後、ピアノ・カルテットを結成し、このところ弦楽曲に注力してきた渡邊琢磨(akaコンボピアノ)が、本媒体でも何度かとりあげた気鋭の映像作家、牧野貴とタッグを組み、「Origin Of The Dream(夢の起源)」と題した音と映像によるステージを渋谷WWWで初演する。具体的なイメージを重層化し、縦横無尽に運動させる牧野の映像と、古今東西の弦楽曲の批評的乗り越えを目する渡邊琢磨のスコアにもとづく13台の弦楽器の52本のストリングスが織りなすドラマの交錯は、逃れることのできないほど官能的な、夢の起源(Origin Of The Dreams)を思わせる舞台になることうけあいです!


写真:Yasuhiro Koyama


写真:Ryo MItamura

渡邊琢磨 × 牧野貴 Live Concert
'Origin Of The Dreams'

2016年3月17日(木) 
渋谷WWW
開場20:00/開演20:30
 
映像:牧野貴
音楽:渡邊琢磨

Piano,Conduct : 渡邊琢磨
1st Violin : 梶谷裕子、大嶋世菜、高橋暁
2nd Violin : 須原杏、帆足彩、波多野敦子
Viola : 中島久美、中山綾、河村泉
Cello : 徳澤青弦、橋本歩
Double Bass : 鈴木正人、千葉広樹
 
料金:3,300円(全席自由/ドリンク代別)
会場:渋谷WWW
住所:東京都渋谷区宇田川町13-17 ライズビル地下
アクセス:https://www-shibuya.jp/access/
お問い合わせ:WWW 03-5458-7685
チケット購入ページURL(パソコン/スマートフォン/携帯共通)
https://sort.eplus.jp/sys/T1U14P0010843P006001P002179310P0030001

牧野貴(映画作家)
2001年日大芸術学部映画学科撮影・現像コース卒業後、単独で渡英、ブラザーズ・クエイに師事する。2002年よりテレシネ・カラーリストとして多くの劇映画、ミュージックビデオ、CF、アーカイブの色彩調整を担当する傍ら、2004年より単独上映会を開始する。フィルム、ヴィデオを駆使した、実験的要素の極めて高い、濃密な抽象性を持ちながらも、鑑賞者に物語を感じさせる有機的な映画を制作している。また、ジム・オルーク、ローレンス・イングリッシュ、コリーン、マシネファブリーク、大友良英、山本精一、渡邊琢磨、カール・ストーン、タラ・ジェイン・オニール、イ・オッキョン等の前衛音楽家と共同作業においても、世界的に高い評価を獲得している。2009年には上映組織「+」プラスを立ち上げ、今まで日本に紹介される事の無かった映画作品を多数上映している。2011年よりエクスパンデッドシネマプロジェクトを開始、ヨーロッパ、北米、南米、オーストラリア、アジア等数多くの国際映画祭で受賞、上映多数。作品の発表は主に映画祭、映像芸術祭、音楽祭などの他、映画館、美術館やギャラリー、ライブハウスでも行い、その活躍の場は増幅を続けている。現代日本実験映像界を率先する作家である。https://makinotakashi.net/

渡邊琢磨(作曲、ピアノ)
97年、米バークリー音楽大学で作曲を学ぶ。帰国後、「COMBOPIANO」名義で活動を開始。2000年、NYに渡り鬼才プロデューサー、キップ・ハンラハンとの共同制作でアルバムを次々とリリースし注目を集める(英、音楽専門誌「WIRE」などに取上げられる)以降、国内外のアーティストと多岐に渡り音楽制作活動を行う。2004年、内田也哉子、鈴木正人(little Creatures)と、「sighboat」を結成(サマーソニック'10出演ほか)。2007年、デヴィッド・シルヴィアンのワールドツアー18カ国30公演にピアニストとして参加。2008年、内橋和久(gt)、千住宗臣(ds)とCOMBOPIANOをバンドとして再編(フジロックフェスティバル'09出演ほか)2014年、本人名義としては6年ぶりとなるアルバム『Ansiktet』をリリース。同年、本人主宰による室内楽アンサンブル「Piano Quintet」を結成(アラバキロックフェスティバル'15出演ほか)映画音楽、CM、舞台等、多岐に渡り楽曲制作・提供する。https://www.takumawatanabe.com/


 

Kyle Hall - ele-king

 デトロイト・テクノは、複数の位相において起点となり、価値観を更新したという意味において、ターニング・ポイントであり、ビッグバン(はじまり)だった。都市のレポートとしての音楽、都市という牢獄から脱出する術としてのベッドルーム・テクノ、ヨーロッパとアフリカの衝突、ポスト・ブラック・ナショナリズム……、ある意味ではより民主主義的なインディ・シーン、いち個人いちレーベルの現代の先駆けでもあった。
 クラフトワークは理解できても「エイフェックス・ツインの音楽はどうしてもわからん」という御人はいまも少なくなく、しかし、その“てんで話にならない”音楽は、この30年間で膨張し、がっつりとひとつの価値体系をモノにしている。その契機となったのが、デトロイト・テクノだ(現代ではさらに新たな価値体系が生まれつつあることは、OPNを聴いている人はうすうす感じているだろうけど、しかしそれはダンス・ミュージックではない)。
 とにかく、「これ普通やらないだろ」というときの「普通」に囚われない自由さを、技術よりも先立つものの重要さを「黒い」と表現できるなら、それはエレクトロニック・ミュージックにおけるビバップだったとも言えよう。

 あるいはまた、ホアン・アトキンスがエレクトロ、デリック・メイがハウス、URがファンク……と喩えるなら、カイル・ホールのセカンド・アルバムはジャズだ。ジャズのセンスが色を添えている。デトロイトの音楽一家出身で、叔父が高名なジャズ・ピアニストのローランド・ハナ、叔母もミュージシャン(ヴァイオリン奏者)で、母も歌手。彼が10代でありながら大人びたハウスでデビューしたことは、そうした家庭環境も大きく関係しているのだろう。ホールの初期の作品に、「新しく古い世界」という曲があるように、新しさと古さを持ち合わせながら語りかける。古さを温ねることが前進に繫がるという好例である。

 それで待望の新作だが、1曲目の“Damn! I'm Feeln Real Close”、ぼくはこれを聴いて、3枚組で5千円以上もする高価な3枚組を買うことに決めた。リズムからはダブステップ以降を感じる。が、全体はメロウなムードに包まれている。ピアノはエリック・サティめいた静謐さを思わせ、ときおり美しいフルートの音色、そしてアシッド・サウンドがカットインされる。前作『ザ・ボート・パーティ』が破壊的とも言えるほどリズミックな躍動を前景化している作品だとしたら、『フロム・ジョイ』は夜のムードをキープしつつ、随所に実験を試みながら、しかし滑らかでメロウに展開するアルバムだ。
 “Dervenen”を聴いていると、ステファン・ロバーツの〈Eevo Lute〉レーベルの初期作品を思い出す。エレガントで、ドリーミーで、メロディアスなハウス・ミュージック。曲の後半でシンセサイザーが歌いはじめるような“Wake Up and Dip”、〈Retroactive〉時代のカール・クレイグを思い出さずにはいられない“Strut Garden”、どんなに閉ざされた心でもこじ開けてしまうであろう、ジャズ・ピアノ・ハウスの“Mysterious Lake”。そして、3枚目の裏面つまり最後の曲“Feel Us More”は、本作において3本の指に入る名曲だ。若々しい感性(リズムの組み方、チョップ)、そして古きもの(ハウスにおける美しいメロディ)が絶妙なバランスで展開する。ちなみに今回のアートワーク、どう考えても、初期のデトロイト・テクノの名作を手掛けてきたアブドゥール・ハック直系の感性だよなぁ……。

 ハウス・ミュージックから30年以上の年月が流れて、社会もダンス・ミュージックを受け入れるようにはなった。しかし、デトロイト・テクノを起点とする価値体系が広く認められているわけではない。ヨーロッパがいまだにデトロイト・テクノへの思いを馳せるのは、この音楽が、どん底で生まれていることを忘れたくないからである。

interview with Alixkun - ele-king


Various Artists
ハウスOnce Upon A Time In Japan... by Brawther & Alixkun

Les Disques Mystiques/Jazzy Couscous

House

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 外から日本をどう見るかなんて、人の勝手なんだけど、アイドルと通勤ラッシュの構図こそを日本だとしたがる海外メディアの報道写真には多少腹が立つ。せめてポップ・カルチャーぐらいは……と思っても、『ブレードランナー』イメージを劣化再生産させたヴィジュアルがヴェイパーウェイヴではお約束になっていたり。キッチュな頽廃というのか、とりあえずsamuraiよりはマシか……と思ってみたり。ま、よく言えば、ミステリアスなんだろうな。
 一時期は、加速するグローバリゼーションによって世界は均一化する……などと言われたりもしたが、ダンス・ミュージックを聴いていると、世界はひとが思っている以上にアメリカナイズされていないことがわかる。たとえばUKグライムは、いくら彼らがUSラップに憧れていたとしてもUSラップにはならない。強固なまでの「らしさ」すなわち個性ってものがある。エスニシティも独創性も感じる。北欧でも、東欧でも、南欧でも、どこの土地にも、消せないにおいがあるのだろう。
 おもに80年代末から90年代にかけて、欧米の影響を受けて、日本でもハウス・ミュージックが制作されている。当時のぼくには、その多くは一生懸命にNYを追っているようにしか見えなかった。だったらNYハウスを聴けばいいじゃんと思っていた。
 ところが、である。ブラウザー(昨年、初のアルバム『Endless』をリリースしたパリのディープ・ハウスDJ)とアリックスクン(日本在住のフランス人DJ)の耳には、当時のいくつかからは、NYハウスとは違う、日本らしさとも言える特徴を持つ「ハウス」が聴こえた。つまり、日本人がNYに憧れてやったことが、結局のところ、はからずとも日本らしさを醸し出していたと。
 それは「和」の感覚があるとか、伝統的だとか、そんな嘘くさいことではない。プロダクションの繊細さも日本らしさだろうし、とくにメロディの作りには個性が出るだろう。少し考えてみれば、ジャズでもロックでもそうであるように、当たり前のことなのだけれど……、電子機材のプログラミングで作られるハウス・ミュージックにおいても「日本」が浮き出てしまうことにいちばん驚いているのは、作った日本人かもしれない。
 そしてふたりのフランス人は、数年前から、日本のハウス・ミュージックを──当時は数百円で買えたが、いまではン千円に値上がった──漁り続けている。その研究と長きにわたってのディグの成果が、アナログ盤4枚組のコンピレーション『ハウスOnce Upon A Time In Japan... 』となって、昨年の11月末にリリースされた。国際的なトレンドになりつつある「ハウス」を本格的に紹介するものとして、海外では話題になっている。
 以下は、昨年の12月にアリックスクンと渋谷でランチを取りながら対話した記録である。

根本の部分はアメリカなんですけど、そこに日本的なレイヤーが被さってジャパニーズ・サウンドになるんですね。だから、ハウスやディープ・ハウス、ソウル・ジャズとかヒップホップは、日本人が作ったものではないんですけど、そこに自分のヴァイブを入れて日本の音楽になっている。そこにぼくは魅力を感じますね。

コンピレーションの完成おめでとうございます。

アリックスクン(Alixkun、以下A):ありがとうございます。

何年くらいかかったの? 

A:作ろうと決断してから1年半から2年ぐらいかかったと思います。でもコンピレーションを作ろうというアイディアは前からありました。最初はドキュメンタリー(映画)といっしょにリリースしたかったので、コンピレーションの方はなかなか先に進まなかったんですね。ドキュメンタリーは制作に時間がかかるとわかっていたので、そちらを優先的に進めていたんです。

具体的にはいつから動きはじめたの?

A:ジャザデリック(Jazzadelic)の永山学さんと食事したときに、彼がけっこうプッシュしてくれたからじょじょに動き出しました。それが2014年の春ぐらいだったと思います。でもその段階ではドキュメンタリーの方を進行させたかったんですね。ただ秋ぐらいに〈ラッシュ・アワー〉が寺田創一さんのコンピを企画しているのを知って、ぼくらも動かなきゃマズいなと焦りだしました。ジャパニーズ・ハウスの盛り上がりに乗っかって、ぼくたちがコンピを作ったというイメージがついてしまうのは嫌だった。だから積極的にコンピを進めることにしたんです。それからぼくは「この曲を入れたい」というメールをいろんなひとに送りはじめました。

アリックスクンは、もう前からジャパニーズ・ハウスに興味を持っていたもんね。

A:最初に興味を持ったのは2009年くらいですかね。ブラウザー(Brawther)と繋がったのは2010年。面白いことに、ぼくらはYouTubeで繋がった。彼が自分のYouTubeのチャンネルにジャパニーズ・ハウスのプロデューサーが関わった曲をあげていたんですね。それを見つけてぼくが「いいね」を押したら、彼がぼくのページにきて、そこにあげていたピチカート・ファイヴのテイ・トウワさんのリミックスを見て、彼が「お前、この曲知ってんの?」とコメントをくれました。

こうやってコンピレーションを作ってみて、あらためてジャパニーズ・ハウスの魅力とはなんだと思いますか?

A:音のクオリティが高いことは魅力のひとつですね。

それは音質ということ?

A:そうです。ぼくはジャパニーズ・ハウスだけじゃなくて、70年代の歌謡曲以降の日本のソウル、ジャズ、ポップ、ヒップホップに興味がありました。そこにある大きな共通点は、アメリカやヨーロッパからインスパイアされていることです。でも単にコピーするだけじゃなくて、日本のトラディショナルな楽器を入れたり、日本語で歌っていたりする。あと日本を思い出させるようなメロディがあるんですね。根本の部分はアメリカなんですけど、そこに日本的なレイヤーが被さってジャパニーズ・サウンドになるんですね。だから、ハウスやディープ・ハウス、ソウル・ジャズとかヒップホップは、日本人が作ったものではないんですけど、そこに自分のヴァイブを入れて日本の音楽になっている。そこにぼくは魅力を感じますね。
 ぼくはヨーロッパ出身ですが、ヨーロッパで作られたものにはフランスっぽいとかイギリスっぽいとかって、あんまりない気がするんですね。フレンチタッチとかUKガレージとか、そういう区分はありますよ。ただ、それらがフランスやイギリスを思い出させるかというと、ぼくはそうではないと思います。ジャパニーズ・ハウスのすべてが日本のことを思い出させるわけではないですが、多くの曲にはその要素があります。

たぶん、日本人のプロデューサーはそういうことを意識せずに、ニューヨークのプロデューサーに近づけようと作っていただけだと思うけどね。

A:ぼくもそう思いますよ。ドキュメンタリーを作ったら、アメリカに好きなプロデューサーがいたからハウスを作りはじめたってひとが多かったんですね。日本っぽく作りたかったとか、ジャパニーズ・ハウスとして認められたかったとかっていうのは、全然思っていなかったんですよね。

で、コンピの1曲目は、タイニー・パンクス(T.P.O.)の“Punk Inc. (Hiroshi's Dub)”で、これは日本でも当時から人気の高いなんだけど、この曲の日本っぽさって何よ?

A:正直に言いますと、この曲にはあんまり日本っぽさはないと思います(笑)。このなかでいちばん日本を感じる曲は寺田さんの曲、“Sawauchi Jinku (Terada mix)"ですね。もちろん金沢明子の影響もあります。あとはGWMの“Deep Loop(edit)”、ヴィオレッツ(Violets)の“Sunset”という曲からもかなり感じる。
 このコンピレーションは、ぼくとブラウザーのもっとも好きなジャパニーズ・ハウスを集めたわけではないんです。もしそういう意図で作っていたら、同じアーティストで2、3曲は入れていたと思いますね。でもいろんなアーティストを紹介しなければならなかったので、そこのバランスをとりました。15曲くらいのコンピレーションを作るのに、アーティストが5人しか入っていなかったら、もったいないなと思って。それよりも、いろんなアーティストを紹介して、そこからみんなが自分でディグってほしいんです。

日本で同じようなことを日本人がやろうとすると、交流関係のしがらみとかが入ってきちゃうだろうけど、『ハウス』は、アリックスクンやブラウザーみたいな業界とはいっさい関係のないひとが外から見て選曲している。そこがこのコンピレーションのユニークなところだよね。

A:ぼくらはドキュメンタリーを先に作ろうとしていたので、このコンピレーションに入っているほとんどのアーティストにはインタヴューをしていたんですね。だからもう関係があったんです。例えば、寺田さんとはすごく仲が良くなったんですけど、だから寺田さんの曲をたくさん入れましょうということではなくて、ジャパニーズ・ハウスのシーンを紹介するためにコンピレーションを作りたかった。だから特定のアーティストに寄らずに、できるだけ客観的に選曲しました。

そういう意味ではとても画期的なコンピレーションになったと思います。日本人が選んだら、エクスタシー・ボーイズは入っていなかったんじゃないかな(笑)。

A:そうですか(笑)。それはどうしてですか? 全然知られていないから?

いや、彼らも当時はかなり有名だったよ。ぼくは一度、天宮志狼さんに大阪でインタヴューをしたことがあるんだけど、ぶっ飛んだひとだったなぁ。

A:ぼくとブラウザーもいろいろディグってみましたが、エクスタシー・ボーイズには、ぼくらもついていけない曲がたくさんありました(笑)。でも、この曲は素晴らしかったから入れることにしたんです。

そういうところが良いよね。だって、他にはYPFにもよくたどり着いたなと思ったよ(笑)。これも日本人なら絶対に行かないな。どうやって知ったの? 

A:〈Balance〉からトーキョー・オフショア・プロジェクト(Tokyo Offshore Project)がリリースしたシングルから知りました。それでいろいろ調べたら、このリミックスを見つけたんです。

YPFをやっていた清水さんとは一緒にデトロイトへ行ったことがあるんですよ。

A:そうなんですか! YPFの連絡先を知らなかったので、トーキョー・オフショア・プロジェクトのメンバーに聞いてみたんですが、彼らも連絡先を知らなかった。だから結局連絡が取れなかったんです。

この記事を読んで連絡をくれたら嬉しいね。

A:記事を読んだりして、この企画を知ったら是非連絡してきて欲しいです(笑)。

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ブラウザーはもっとすごいんですよ。彼は日本語を話せないし、日本にいないのに、すごい時間をかけてネットで翻訳ツールを使いながら日本語ページを調べています。インターネットのアーカイヴを調べたり、シャットダウンされたページとかを掘り出したり(笑)。あとヤフー・オークションを使って名前を検索して、いままで見たこともないレコードにたどり着いて、買ってみてたり。

俺も全然知らない曲ばかりで、アリックスクンとブラウザーのオタクっぷりに感服しました(笑)。アリックスクンは、わざわざ立川、埼玉、千葉の中古レコード屋まで探しにいってるもんね。

A:ブラウザーはもっとすごいんですよ。彼は日本語を話せないし、日本にいないのに、すごい時間をかけてネットで翻訳ツールを使いながら日本語ページを調べています。インターネットのアーカイヴを調べたり、シャットダウンされたページとかを掘り出したり(笑)。あとヤフー・オークションを使って名前を検索して、いままで見たこともないレコードにたどり着いて、買ってみてたり。
 (浪曲師の)国本武春の“Home (6 a.m. mix)”が入っていますが、このコンピレーションのレヴューが海外で出たとき、「われわれがまだ知らなかった曲をタケハル・クニモトが提供している」と書かれていたんですが、実はこのミックスをしたのは福富(幸宏)さんなんですね(笑)。国本さんの原曲とは全然違ってて、これは完全に福富さんワークだから面白いと思った(笑)。クレジットにはそうやって書いてあるんですけどね。
 あと、ジャザデリックの “I Got A Rhythm (1991 original mix)”ってパール・ジョーイ(Pal Joey)の曲なんですよね。でも本当はジャザデリックの曲。彼らが作ったプロモ盤をパール・ジョーイが聴いて、ビューティフル・ピープル(Beautiful People)で作ることになった。でもこのミックスはそのプロモ盤にしか入っていないんですね。しかもそのプロモ盤は50枚くらいしかない(笑)。

それはどこで手に入れたの?

A:もともとはそのレコードが存在していることを知らなかったんですが、永山さんをインタヴューしたときにプロモ盤を作ったことを教えてくれたんです。それで探しはじめました。みんなこのレコードをビューティフル・ピープルのプロモ盤だと思っているんですよ。でもそれは違って、本当はジャザデリックのプロモ盤なんですね。このレコードはオークションで買ったんですが、その出品者のひともパール・ジョーイのプロモ盤と書いていて、全然高くなかった。テクストにも書いているんだけど、たまにインディ・ジョーンズみたいな気持ちになりますよね(笑)。忘れられた宝を掘り出すみたいな。

はははは。ジャザデリックはどういうひとたちなの?

A:ジャザデリックは永山さんと森(俊彦)さんのユニットで、ニューヨークのDJスマッシュの〈ニュー・ブリード〉なんかと関わっていました。

このコンピレーションを作っていて、一番大変だったことは? やっぱりライセンスの連絡とか? 日本では著作権が厳しいから、入れたくても入れられなかった曲があったと思うんだよね。

A:ピチカート・ファイヴの曲も検討していたんだけど、著作権のせいで諦めることになりました。

大阪のベテランDJ、紀平くんがプロデュースを手掛けた曲もあるんだよね。

A:そう、そのフェイク(Fake)の曲も、あるいは、カツヤさんの曲もレコードでしかなくて、情報がとても少なかったから、プロデューサーを探すところからはじめました。例えば、カツヤさんについてはレコード屋のテクニークのスタッフに尋ねてみたら知っていて、繋げてくれたんですね。いまカツヤさんはベルリンに住んでいます。YPFの場合はさっきも言ったように、探してみたんですが見つからず……。

ホント、労作ですね。これも時代というか、でも、日本で音楽を作っているひとたちに自信を与えるものにもなっていると思うな。

A:ありがとうございます。意図としては曲のクオリティが大事だったんだけど、それに加えていろんなアーティスト、あまり知られていない曲も紹介したかったというのがあるんですね。たしかにT.P.O.の“Hiroshi's Dub”はすごく有名なんだけど、それとは反対にすごくマイナーな曲も入っているんじゃないかな。あと福富さんも入っているし、マイナーなアーティストも入っているから、幅広い内容になったと思います。

リリース後のリアクションについても教えてください。

A:いまのところ、とくにヨーロッパにおいてはかなり良いリアクションが返ってきています。

どこか特定の国がすごいっていうのはある?

A:全体的にヨーロッパでは良く受け取られていますね。いまディープ・ハウスのリヴァイヴァルがいちばん熱いのはヨーロッパですからね。「知らなかった曲を紹介してくれてありがとう」という気持ちでみんな評価してくれているんです。15曲が全部ヒット曲かというとそうではない。でもそれはぼくらも認めている。

もちろん、ヒットしてないと思うよ(笑)。あのね、本場志向っていうか、当時のハウスのリスナーもNY産しか認めないみたいなところがあったし、デトロイトだってB級扱いだったから、ましてや日本産となると……。柱になったレーベルもなかったしね。

A:寺田さんのレコードも少なかったんですよ。自分のレーベルがあったけれど、当時はあまり知られていなかった。

寺田さんは当時の印象では、ものすごくメディアに露出していたから、有名人って印象だったんだけど、それでも苦戦していたんだね。ところで、アルバムのインナーの日本語はアリックスクンが書いたの?

A:最初はぼくが書いて、友だちの日本語ネイティヴに直してもらいました。

ちょっと日本語が間違っているんだよね。

A:そうなんですよ(笑)。ぼくが書いた日本語を見てくれたひとが原文を生かそうとしたから、場合によっては文章が変かもしれません。

はははは。でも、最後に書いてある「House is the feeling」っていう言葉がすごく良いね。感じることで、国籍がどこであろうと、わかる。

A:そうそう、本当にそういうこと。ハウスって、感じることだから。

コンピレーションを作っていて、当時の日本のハウス・シーンは見えてきたの? 見えてはこないでしょう(笑)?

A:先ほど野田さんが言っていたように、当時このひとたちはヒットしていませんでした。小さいレベルで2、3曲作ってそれっきりというアーティストも多く、けっして大きなシーンではなかったようですね。アメリカの影響がデカすぎて、国内シーンは生き残れなかったというかビッグにはなれなかった。あと、アメリカのカッコよさへの憧れもあったんじゃないかな。

全員がそうじゃなかったけど、概してものすごくあったね。ただ、いまでは信じられない話だけど、当時の日本のミキシングの知識では、メーターがレッドゾーンにいったら音が歪んで悪くなるからっていうことで、EQなんかも適度に調整されてしまって、作った人の意図とは別のとこで、ペラペラの音になっているのが多いんだよ。そこは、今回リマスターをしてある程度音をそろえているよね。

A:難しいですね……。リマスターはしています。でも、半分以上は元のマスターを貰えたんだけど、残りはヴァイナルから音を落としました。でもどんなにきれいに落としても、いろんなノイズが残ってしまうから、あとはブラウザーがきれいに仕上げてくれたんです。


Various Artists
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アルバムのジャケットのデザインがすごく良いと思ったんだけど、これは?

A:もともとはぼくたちが好きな日本のアーティストに声をかけたかったんだけど、3人くらいに依頼したらタイミングが合わなかったり、興味がなかったりで、実現しませんでした。そこでイギリスのアーティストに頼んだんですよ。ヴィクトリア・トッピング(Victoria Topping)というひとです。ぼく、本当はコラージュがあんまり好きじゃないんですよ(笑)。でもこのコンピレーションで一番大事なのは音楽だから、コラージュについてはブラウザーと多少喧嘩しました(笑)。ブラウザーはデザインを気に入っていたし、期限もあったからジャケットはお任せして、ぼくの趣味に合わなくてもしようがないと割り切りました。でもリアクションを見ると、みんなジャケットを評価しているから、自分のテイストを犠牲にしてよかったです(笑)。

浮世絵って、江戸幕府からは監視されていたぐらい、実は、ものすごくエロティシズムを含んだ大衆文化なんだよね。たぶんこの絵は、花魁といって、まあ、当時の人気の娼婦ですね。だからその意味で、まさにハウス・ミュージック的なんだよ。

A:そうなんだ(笑)。それは日本人にしか理解できないことですね(笑)。

 音楽がファッションを発信できずしてどうしよう。ラッパーとして、アート・ディレクターとして、はたヴィジュアル・クリエイターとして、多彩な活躍をみせるこの若きアーティストは、ヒップホップ・クルー、KANDYTOWN(キャンディタウン)の中心人物として注目を浴びる存在だ。MURO、ANARCHY、KOHHらとともに、メンバーYOUNG JUJU、DONY JOINTと揃ってUNITED ARROWS企画のサイファー「NiCE UA 37.5:“Break Beats is Traditional”」に参加したことを筆頭に、ファッション・ストリート誌を賑わせ、クリエイター集団BCDMGへの加入、KID FRESINOの新作『Conq.u.er』収録の“Special Radio”への参加など、世間の彼への熱は高まるばかり。その当人、IO(イオ)の待望のソロ・デビュー・アルバムのリリースが決定したとの報。弊誌でも注目していきたい。


Loe(SPECTRUM) - ele-king

SPECTRUMらしい10曲:2015

RILLA - ele-king

この時期なので2015年を振り返って

Swindle & Flava D来日公演 - ele-king

 2015年にリリースされた『PEACE,LOVE & MUSIC』で、堂々と新たな一歩を踏み出したスウィンドル。同作は自身のルーツのひとつであるグライムを軸に、ジャズ、ファンク、ワールド系の音までも取り込んだ秀逸な1枚だ。あの壮大な音絵巻をDJでどうやって披露するのか、期待して待ちたい。ともに来日するフレイヴァDのストリート感覚が全面に出た、UKの現在を体現するかのようなセットにも要注目。さらに、東京公演にはふたりが所属するレーベル〈Butterz〉の創設者、イライジャ&スキリアムの出演が急遽決定。UKアンダーグラウンド・シーンを先導するクルーを体感できる貴重な一夜となるだろう。
 スウィンドルとフレイヴァDは東京、名古屋、大阪の3都市をツアーする予定。パーツ―・スタイル、沖野修也、クラナカなど、各公演には強力なゲストDJたちが集う。

SWINDLE (Butterz / Deep Medi Musik / Brownswood, UK)
グライム/ダブステップ・シーンの若きマエストロ、スウィンドルは幼少からピアノ等の楽器を習得、レゲエ、ジャズ、ソウルから影響を受ける。16才の頃からスタジオワークに着手し、インストゥルメンタルのMIX CDを制作。07年にグライムMCをフィーチャーした『THE 140 MIXTAPE』はトップ・ラジオDJから支持され、注目を集める。09年には自己のSwindle Productionsからインストアルバム『CURRICULUM VITAE』を発表。その後もPlanet Mu、Rwina、Butterz等からUKG、グライム、ダブステップ、エレクトロニカ等を自在に行き交う個性的なトラックを連発、12年にはMALAのDeep Mediから"Do The Jazz"、"Forest Funk"を発表、ジャジーかつディープ&ファンキーなサウンドで評価を決定づける。そして13年のアルバム『LONG LIVE THE JAZZ』(Deep Medi)は話題を独占し、フュージョン界の巨匠、LONNIE LISTON SMITHとの共演、自身のライヴ・パフォーマンスも大反響を呼ぶ。14年のシングル"Walter's Call"(Deep Medi/Brownswood)ではジャズ/ファンク/ダブ・ベースの真骨頂を発揮。そして15年9月、過去2年間にツアーした世界各地にインスパイアされた最新アルバム『PEACE,LOVE & MUSIC』(Butterz)を発表、新世代のブラック・ミュージックを提示する。

Flava D (Butterz, UK)
名だたるフェス出演や多忙なDJブッキングでUKベースミュージック・シーンの女王とも言える活躍を見せるFlava Dは2016年、最も注目すべきアーティストの一人だ。
幼少からカシオのキーボードに戯れ、14才からレコード店で働き、16才から独学でプロデュースを開始。当時住んでいたボーンマスでは地元の海賊放送Fire FMやUKガラージの大御所、DJ EZの"Pure Garage CD"を愛聴、NasやPete Rockにも傾倒したという。2009年以降、彼女のトラックはWileyを始め、多くのグライムMCに使用され、数々のコンピに名を残す。12年にはグライムDJ、Sir SpyroのPitch Controllerから自身の名義で初の"Strawberry EP"を発表、13年からは自身のBandcampから精力的なリリースを開始する。やがてDJ EZがプレイした彼女の"Hold On"を聴いたElijahからコンタクトを受け、彼が主宰するButterzと契約。"Hold On/Home"のリリースを皮切りにRoyal Tとのコラボ"On My Mind"、またRoyal T、DJ Qとのユニット、tqdによる"Day & Night"等のリリースで評価を高め、UKハウス、ガラージ、グライム、ベースライン等を自在に行き交うプロダクションと独創的なDJプレイで一気にブレイクし、その波は世界各地へ及んでいる。

ELIJAH & SKILLIAM (Butterz, UK)
UK発祥グライムの新時代を牽引するレーベル/アーティスト・コレクティブ、Butterzを主宰するELIJAH & SKILLIAM。イーストロンドン出身のふたりは05年、郊外のハートフォードシャーの大学で出会い、グライム好きから意気投合し、学内でのラジオやブログを始め、08年にGRIMEFORUMを立ち上げる。同年にグライムのDJを探していたRinse FMに認められ、レギュラー番組を始め、知名度を確立。10年に自分達のレーベル、Butterzを設立し、TERROR DANJAHの"Bipolar"でリリースを開始した。11年にはRinse RecordingsからELIJAH & SKILLIAM名義のmix CD『Rinse:17』を発表、グライムの新時代を提示する。その後もButterzはROYAL T、SWINDLE、CHAMPION等の新鋭を手掛け、インストゥルメンタルによるグライムのニューウェイヴを全面に打ち出し、シーンに台頭。その後、ロンドンのトップ・ヴェニュー、Fabricでのレギュラーを務め、同ヴェニューが主宰するCD『FABRICLIVE 75』に初めてのグライム・アクトとしてMIXがリリースされる。今やButterzが提示する新世代のベースミュージックは世界を席巻している!


Various Artists - ele-king

 2015年に日本でもっとも売れた洋楽はビートルズだと誰かから聞かされたとき、反射的に落胆を隠せなかったその一方で、別の機会に誰かからBlackLivesMatterはインターネット時代のブラックパンサー党だと聞かされたときは妙に納得してしまっている。前者は古くノスタルジアで、後者は新しくアクチュアルだと、そう解釈したのだろうけれど、「ブラックパンサー党」という光も影もあるこの比喩をいま使われることとビートルズというロック・バンドがいまでも売れることは、考えようによっては実は矛盾していない。要するに、いまでもともにパワフルなのだ。
 SEALDsを話題にするとき学生運動がピークを迎えた1968年という年号が出てくるように、ゲイの歴史を紐解けばその権利を主張した1966年という年号を知る。フェミニズムもそうだし、リベラルと若者文化、そして消費文化とテクノロジーの進化とともに発展するポップ・ミュージックに関してもそうだ。つまり60年代とは、いまだ“現在”にリンクした過去であり、そして60年代とは、未来にリンクしていた“過去”なのだ。それはポップ黄金時代の10年である。ジョン・サヴァージは、そのディケイドの高みを1966年とする。

 ジョン・サヴァージは、個人的に好きな音楽ライターのひとりである。彼の著書『イングランズ・ドリーミング』は、戦後の旧・自由主義の所産であるポップないしは若者文化の限界を試すかのように、否定の力で時代に風穴を開けたセックス・ピストルズとUKパンクが、新・自由主義(=サッチャー)の出現のなかで敗北していく様を描いている。パンク通史としては、もっとも評価の高い本である。
 その後サヴェージは『ティーンエイジ』なる大作を著しているが、ぼくはちゃんと読んでいるわけではない。が、18世紀文学のゲーテ「若きウォルテの悩み」(作品に共感する若者たちの自殺を促した作品である)にはじまり、ズートスーツ・ライオット(世界で初めてファッション・スタイルの名が冠せられた暴動)までを描いたそれは、言うなれば、ビートルズやセックス・ピストルズが与えた影響についてのものではなく、ビートルズやセックス・ピストルズに与えた影響の源流を探っていくものなのだろう。そして、サヴェージの近著が『1966』であり、本作は著者が監修したCDというわけだ。

 『1966』も本を読んでいるわけではないが、これまた察するところ、サヴェージはその年が西欧社会における戦後の旧・自由主義のひとつのピークと見ているのだろう。ビートルズが『リヴォルヴァー』を出した年であり、ローリング・ストーンズが「19回目の神経衰弱」を発表した年、アメリカではブラック・パワーの爆発すなわち「ロング・ホット・サマー」がはじまった年だ。JBがファンクを磨き、オーティスがシャウトし、モータウンがポップを量産し、NYではウォーホルの「エクスプローディング・プラスティック・イネヴィタブル」でヴェルヴェッツが演奏し、かたやビーチ・ボーイズのドリーミーなポップソングがあり、合法だったLSDは加速的に広まって、政治とドラッグ・カルチャーと若者文化とポップ・カルチャーがリンクした年……である。

 CD版『1966』は、ヒット曲集ではない。その年を象徴する全48曲によって構成されている。収録曲のすべては7インチ・シングルで発表された曲(そのB面の曲もあり)で、バーミンガムのロックンロール・バンド、ジ・アングリーズの“The Quiet Explosion”からはじまる。この手の企画ものは権利の関係で自由に選曲できないものだが、この2枚組には、明確なコンセプトのもと監修者の豊富な知識が注がれ、ポップ革命に関わる1966年のシングル曲が小気味よく続いてく。
 ザ・ストレンジラヴの“Night Time”には週末の夜の熱気が描かれ、ニューヨークの黒人女性シンガーソングライター、ノーマ・タネガの“Walkin' My Cat Named Dog”にはフェミニズムが表現されている。後にセックス・ピストルズがカヴァーしたザ・フーの“Substitute”には10代の混乱と怒りが込められ、後にザ・スペシャルズがカヴァーしたレックス・ガーヴィンの“Sock It To ‘Em J.B.”では当時のDJスタイルのユーモアと活力が記録されている。
 ジョー・ミークのハウス・バンド、ザ・トルネイドースの「Do You Come Here Often?」では同性愛の暗喩が演じられ、ザ・サースティーンス・エレヴェイターズの“You’re Gonna Miss Me”は10代の青春ソングのなかにLDS体験をにおわせる。1966年には、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドが最初のシングル「I’ll Be Your Mirror」をリリースし、デヴィッド・ボウイが最初の名曲“The London Boys”を発表している……。(以下、略。詳しくはブックレットのサヴェージ本人による解説を参照)

 1977年、シカゴにやって来たフランキー・ナックルズは、NYでは流行が終わった曲をかけたところ、ものすごい受け方をして、古い曲にもまだパワーがあることを実感している。これが1980年代におけるハウス・ミュージック誕生の伏線となる。しかし、それは12インチ・シングルの話。『1966』は7インチ・シングルの物語である。恋について歌おうが革命について歌おうが、怒ろうが悲しもうが、すべての曲は2分から3分で完結する。1966年とは、シングルがアルバムよりも売れた最後の年である。その文化はいまは失われてしまった。しかし、それ以上に失われてしまったものがある。もちろんÅ取り戻すことはできるだろう。『1966』には、ポップ・カルチャーにおける型を破ろうとする覇気、媚びることない攻撃的な態度、そして不信の念を一発で解決してしまう行動力と変革の夢……そういったものが収録されている。


※ちょうこの原稿の書いた翌日、リキッドルームでのKOHHのライヴを見た。それは確実に、未来にリンクする現在だった。

正月休みのための4本+1! - ele-king

 スターウォーズはもう観ましたか(僕はまだです)? フォースをすでに覚醒させたひとにも、まだのひとにも、あるいは何それというひとにも、ジェダイと関係ない冬休み映画をいくつかご紹介。映画館へ行きましょう!
 We wish you a merry christmas! よいお年を。

神様なんかくそくらえ

監督 / ジョシュア&ベニー・サフディ
出演 / アリエル・ホームズ、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ 他
配給 / トランスフォーマー
2014年 アメリカ/フランス
12月26日(土)より、新宿シネマカリテ他 にて全国公開。
©2014, Hardstyle, LLC. All Rights Reserved.

 ニューヨークのストリート・キッズの「リアル」を描いていると言っても、ラリー・クラーク監督、ハーモニー・コリン脚本の『KIDS』(95)とは違う。時代がちがえば、痛みもちがう。いきなり凄惨なリストカットを見せられたかと思えば、映画はずっとどうしようもなくズタボロの……ヘロインまみれの愚かな子どもたちの、汚れた日々を映すばかりだ。ここでカメラが映す21世紀の道端に、ストリートの美学なんてない。クズの輝きなんてない。彼女たちがヘロインを打つ場所はスターバックスやマクドナルドのトイレであり、正真正銘の都会のゴミとしてキッズは街をさまよっている。本作に主演しているアリエル・ホームズの自伝的な手記をもとにしていることが話題となっているが、だからといってわたしたちはこの映画を観なくても知っていたではないか……彼女たちがこの世界にたしかにいることを。主演ふたりの生々しい存在感にも胸を掴まれるが、と同時に、どうしても映りこんでしまう本物のストリート・キッズたちとそれを見て見ないフリをして通り過ぎる人びとから目を逸らせない。カメラは残酷にクローズアップを多用して、わたしたちに「ゴミ」と向き合うことを強要する……僕にそのことを下品だと言う勇気はない。冨田勲の音が耳から離れない。
 そうして映画は、アリエル・ピンクのドリーミーな歌をエンド・クレジットに流しつつ終わっていく。ドリーミーな……いったい何が? それは都会の公衆便所で見るひとときの夢なのだろうか。そこに立とうとするアリエル・ピンクというひとの無謀さに僕は、本当に震えるしかなかった。ふたりのアリエルがそこにいた記録を目撃してほしいと思う。

Ariel Pink - "I Need a Minute" (Official Music Video)

予告編



SAINT LAURENT/サンローラン

監督 / ベルトラン・ボネロ
出演 / ギャスパー・ウリエル、ジェレミー・レニエ、ルイ・ガレル 他
配給 / ギャガ
2014年 フランス
TOHOシネマズシャンテ 他にて全国公開中。
© 2014 MANDARIN CINEMA - EUROPACORP – ORANGE STUDIO – ARTE FRANCE CINEMA – SCOPE PICTURES / CAROLE BETHUEL

 これはある天才についての伝記映画ではなく、一種の芸術論である。『メゾン ある娼館の記憶』(11)でもずば抜けたセンスを発揮していたベルトラン・ボネロ監督は、序盤、分割画面で68年と69年の革命とコレクションを並列してみせいきなり観客を圧倒するが、そんなものは大して重要ではないとでも言わんばかりに、どんどん時間を進めていく。やがて時間軸はバラバラになり、時空はねじ曲げられて、すべては彼の76年の最高傑作へと向かっていくだろう。彼の才能も、性愛とドラッグにまみれた退廃の日々も、お決まりの「天才の苦悩」も愛も、さらには晩年の孤独も、ここでは最高の作品に奉仕したに過ぎない……時間は等価ではないのだ。次々に大音量で流される音楽もクールにちがいないが、ひとつひとつが美術作品のように差し出される画面と、それに魔術的な編集にクラクラする。美しい作品について語る映画であればエレガントに振る舞うのが当然、それこそがこの映画の美学であるとボネロは涼しげに言ってのける。ギャスパー・ウリエル、ルイ・ガレルといった美しい男たち(晩年のサンローランを演じるのはヴィスコンティ映画の常連ヘルムート・バーガー!)ばかりが現れるのも当然だし、やや周到に思えるモンドリアンの引用も“アヴェ・マリア”も……1976年の、その瞬間の前にひれ伏すのである……。年間ベスト映画に入れ逃した1本。

予告編


あの頃エッフェル塔の下で

監督 / アルノー・デプレシャン
出演 / カンタン・ドルメール、ルー・ロワ=ルコリネ、マチュー・アマルリック 他
配給 / セテラ・インターナショナル
2015年 フランス
Bunkamuraル・シネマにて 公開中。全国順次公開。
©JEAN-CLAUDE LOTHER - WHY NOT PRODUCTIONS

 いかにもアルノー・デプレシャンの映画である。つまり、ひとつの幼い恋が映画の中心にあったとして、その周りにありとあらゆる小さな事柄が散らばっていて、さらにその周りにはさらなる小さな事柄が控えている。自殺した母との複雑な関係や父との微妙な確執、勉学への若き情熱、パーティで踊ったデ・ラ・ソウル、仲間たちと観たジョン・フォードの映画、読みふけったレヴィ=ストロースやスタンダール……。それらはどこまでも伸びていき、終わりのない広がりを見せていく。日本でもヒットした『そして僕が恋をする』(96)のふたり――ポールとエステルのさらに若き日の痛ましい恋を描いた映画でありつつ、その青春の日々に散らばっていた瑣末なひとつひとつをランダムに思い出していく過程でもある。そしてそれらすべてのことがまた、どうしようもなく「たった一度の恋」に収束していく。ラスト30分頃のひたすら手紙の朗読を重ねるショットの切ない美しさは、間違いなく本作のハイライトである。何がどうなったという話でもないのに、人生の豊穣さを流麗に見せていくデプレシャンには毎度唸らされるばかりだ。94年生まれのカンタン・ドルメールと96年生まれ(!)のルー・ロワ=ルコリネの「一瞬」を収めたフィルムでもある。『そして僕は恋をする』におけるフランスの香り漂う恋愛模様に酔いしれたひとはもちろん、忘れられない恋を胸に抱えるひとは劇場へ。

予告編


消えた声が、その名を呼ぶ

監督 / ファティ・アキン
出演 / タハール・ラヒム、シモン・アブカリアン、モーリッツ・ブライプトロイ 他
配給 / ビターズ・エンド
2014年 ドイツ/フランス/イタリア/ロシア/カナダ/ポーランド/トルコ
12月26日(土)より、角川シネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMA 他にて全国順次公開。
© Gordon Mühle/ bombero international

 トルコ系ドイツ人ファティ・アキンによるもっとも規模を大きくしつつ、トルコで最大のタブーとも言われるオスマン・トルコによる1915年のアルメニア人虐殺をテーマとした一作。喉をかき切られ声を失いながらも娘を探して世界中を旅する父親という難役を、いまもっとも重要な俳優のひとりであるタハール・ラヒム(ジャック・オディアール『預言者』、ロウ・イエ『パリ、ただよう花』など。黒沢清の新作にも出るそうです。)が熱演。熱、といま書いたが、じつにアキン監督らしいエモーショナルな温度を帯びた作品となっている。それは情の篤さだと言い換えてもいい。ここでは史実的なジェノサイドも描かれているのだが、その勇ましい暴力の下で隠された人間の弱さや親切さもまた掬い取られている。男は圧倒的な量の死を前にして絶望し信仰を含めて多くのものを喪っていくが、彼を多くの人びとの素朴な善意が救っていくのもまた事実なのである。そして僕が映画を反芻して思い浮かべるのはどうしても後者のほうなのだ。あるいは、チャップリンの映画を前にして(それは多くの人びとにとって初めて観る「映画」として描かれる)、子どものような目で涙を流すラヒムの姿だ。それはアキン監督映画の一貫した甘さでもあり弱点でもある、が、彼を応援し続けたい理由でもある。1973年生まれ、まだまだ先が楽しみな作家のひとりだ。

予告編


 それでもどうしても映画館に行けないという方に、家族で観るDVD編。

くまのアーネストおじさんとセレスティーヌ

監督 / バンジャマン・レネール、ステファン・オビエ、ヴァンサン・パタール
配給 / ギャガ・プラス
2012年 フランス
DVD発売中。 https://www.amazon.co.jp/dp/B014QI4Z0M 
© 2010 Les Armateurs - Maybe Movies - La Parti - Mélusine Productions - STUDIOCANAL - France 3 Cinéma – RTBF

 くまのアーネストおじさんはおなかをすかせ、ゴミばこをあさっているうちにねずみのセレスティーヌと出あいます。くまとねずみの世界は地上と地下とでわけられていたため、ふたりのであいと友じょうはやがて大きなそうどうとなっていくのですが……。という、ガブリエル・バンサンの原作絵本をベースとした物語は、いまのフランスの精神の善き部分を象徴しているように僕には思える(テロ以前の、とは言いたくない)。別々の世界で生きる孤独なふたりが出会い、やがてソウルメイトとなっていくのだが、それが裁判という公の場へと持ちこまれるのがいまの欧米のリベラルのモードだと言えるだろうか。ああ、いいなと自然に思えるのはふたりともアーティストだということだ(ミュージシャンと絵描き)。異なる世界の融和をここで素朴に体現するのは、心優しき芸術家たちなのだ。
 初期ジブリに影響を受けたと思われる柔らかいタッチの線と色使い、アクション、音楽、警察をはじとする権力や商業主義への風刺、原作への敬意、どれもいちいち効いているし、制作者の真心を感じずにはいられないアニメーション作品だ。アーネストもセレスティーヌもとにかくかわいい……とくにアーネストが……『アナ雪』と同じぐらい観られてもいいと僕は思います。

予告編

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