「UR」と一致するもの

DJ NiSSiE - ele-king

MY CLASSIC

John Grant - ele-king

 「もし結婚できるようになったら……」
 数ヶ月前、僕はあるゲイの友人と飲んでいるときにふと尋ねたことがある。
 「結婚する?」
 友人はうーんと少し考えて、「それは相手によるな」と答えた。「そりゃそうだ、そう簡単にいかんよな」と僕はわははと笑って、そしてジョン・グラントの前作『ペイル・グリーン・ゴースツ』のジャケットでこちらをにらみつける彼の姿を思い出していた。もし結婚できるようになったら……、そんな仮定をするようになるとは、ほんの数年前はこれっぽっちも僕は思っていなかった。時代は前に進んでいる、たしかに。だが、グラントはそのアルバムで別れた恋人への憎しみと孤独、「そう簡単にはいかない」側の中年ゲイの悲哀を赤裸々に歌っていた。だから彼の歌はいまの時代にこそ必要だったのだろうし、彼がこちらをにらんでいた理由もよくわかる。

 ところが、新作のジャケットにおいてジョン・グラントの鋭かった目は……光っている。タイトルがアイスランド語とトルコ語で『中年の危機と悪夢』となっているのはいかにも彼らしいし、オープニングのタイトル・トラックは哀切に満ちた得意のピアノ・バラッドだ。そこで歌われる「自分が70年代のニューヨークを恋しがるようになるとは思っていなかった」とはつまりエイズ禍以前のことで、相変わらずHIVポジティヴである自分の混乱とどのように付き合っていけばよいかの苦悩が綴られる。「俺はよく食料品店で何も見ずに突っ立っているんだ/何を買ったらいいかわからないから」……カラフルであることが称揚されるこの時代においてグラントは、ひとりスーパーでボーっと立っているゲイ中年としての己の姿を自虐的に描写する。

 しかし、アルバムはそこから音において旋回しはじめる。“スナッグ・スラックス”の脱力したシンセ・ポップ、“ゲス・ハウ・アイ・ノウ”と“ユー・アンド・ヒム”のふざけたハード・ロック。前作にもあった80年代ニューウェーヴ色はさらに強くなり、ニュー・オーダーやデペッシュ・モードからの影響がいかに強いか、というか彼がそれらで育った世代であることがよくわかる。またバラッドにおけるストリングスや管楽器のアレンジも含めてアダルトであることが強調されているのだが、ずいぶんユーモラスで軽やかになっている。やや曲数が多く全体のまとまりとしては前作のほうが上だと正直思いはするがしかし、表現のあり方において何か吹っ切れたことがよく伝わってくる。曲自体においてはこだわってきたゲイネスから緩やかに解放されているし、何より彼自身が生き生きしている……目が光るわけである。

 シングルの“ディサポインティング”はトレイシー・ソーンとキャッチーなドゥワップ・コーラスを引き連れたポップ・ナンバーだ。ゲイ・サウナを舞台にして裸のヒゲオヤジが大量に出てくるビデオ(https://youtu.be/U2Ig4sMURdc)はカジュアルなゲイ・カルチャーがオシャレなものとして扱われる現在において、あまりにもホモセクシュアルすぎて意地悪だなーと思わず笑ったが、しかし直球のラヴ・ソングだ……彼にしては。ラフマニノフやドストエフスキー、フランシス・ベーコンを愛するスノッブな中年男が、それでもそれらは「君の笑顔に比べたらがっかりなんだ」と歌いあげる。間違いなく本作におけるハイライトである。

 もちろんジョン・グラントはいまも、オシャレでもなく明るくもなく輝かしい希望に満ちてもいない側のゲイの……いや、ゲイに限らない、中年男のひとりとして相変わらずここにいる。だがユーモアを手放すことはないし、それでも新しい愛に出会ってしまうことを、自らの姿をさらけ出しつつここでドキュメントしているのである。

Miss Red - ele-king

 イスラエルのMC、ミス・レッドのミックス・テープ『マーダー』が先週より公開されている。プロデュースはザ・バグこと、ケヴィン・マーティンが担当。マーティンがイスラエルにツアーで赴いたときから、その交友ははじまった。いま彼女はアンダーグラウンドで注目を集めているMCのひとりだ。昨年リリースされれたザ・バグのアルバム『エンジェルズ&デビルズ』や、日本のビム・ワン・プロダクションのシングル「ナー・ボーイ」にもミス・レッドは参加している。
 今回の『マーダー』には、マーク・プリッチャードやアンディ・ストット、マムダンスといった豪華プロデューサーも参加している。文句なしの強力なトラックのうえで、ミス・レッドの妖艶な声が揺れる様は圧巻。こちらのサイトにてフリーでミックスを聴くことができるので、是非チェックしてほしい。マーク・プリッチャードとの“マーダー”は、後日ミス・レッドの〈レッド・レーベル〉より7インチでリリースされるとのこと。


Murder – Miss Red

Miss Red /Murder / Red Label
01 Mad
02 Murder (Mark Pritchard riddim)
03 No Guns
04 What Would You Like (Andy Stott riddim)
05 Rollercoaster
06 Ganja Man
07 Sugar
08 Lean Back (Stereotyp riddim)
09 Trash It
10 Fever
11 Pull It Up (Mumdance riddim)
12 Leggo (Evian Christ riddim)
13 1 Dog Shot
14 Come Down

Lyrics/Vocals - Miss Red
All riddims built by - The Bug (unless otherwise stated )
Produced The Bug
Mastered by Stefan Betke aka POLE


パーソナルなの? 地球規模なの? - ele-king

 ミステリー・ジェッツ……あのミステリー・ジェッツだ。「テムズ・ビート」なんて呼ばれて親しまれたあの頃から時が止まっているひとは驚いてしまうかもしれない。コンスタントにリリースをつづけてきた彼らだが、1月に発売される新作『カーヴ・オブ・ジ・アース(Curve of the Earth)』ではスケールを増しているどころではない。その一端を先行シングルのヴィデオにて確認することができるだろう。彼らがフォーカスする生命の神秘とは──?

UKロックの異端児ミステリー・ジェッツが先行シングル「Telomere」のビデオを公開!
ミステリー・ジェッツ結成史上、最高傑作『カーヴ・オブ・ジ・アース』は来年1月15日発売!

今作ビデオはUNKLE「Hold My Hand」やフォクシーズ「Youth」を手掛けたジェームズ・コープマンが監督を務めています。今作ビデオでは生物の染色体の末端を保護する役目を担い、細胞老化に影響を与えるTelomere(テロメア)という生命の神秘をテーマを女性ダンサーとボーカル/ギターであるブレイン・ハリソンが泥に塗れながらエモーショナルに歌い上げている。

シングル「Telomere」に関して、作曲を担当したボーカルのブレイン・ハリソンがコメントを寄せている。「昨年の冬にスタジオを離れて、テムズ川に停泊するボートの上で1週間滞在していたんだ。携帯電話も通じない、TVもない場所で幾つかの本を持ち込んでた。そうした中、「全ての苦境や栄光は僕らの血の中に流れ生きている」というミラン・クンデラの祖先に関する本の中の文章に出会ったんだ。Telomere(テロメア)は僕らのDNAの末端にあるキャップ状のもので染色体を保護している。まるで靴ひもの先端の部分の様にね。 そして、それらは染色体の秘密を保持させ、究極の永続性を得る為のものだ。僕はこういった決して理解できない生命と死という共依存関係にあるアイディアが好きなんだ。ヘンリーと僕がこのような表現主義のアプローチで歌詞を書いのは今回初めてになるね。これは僕らのリスナーが点と点を繋ぐ事ができる良い機会になると感じたし、同様に映像作家にこの曲のビデオを依頼する時にこのアイディアを使ってもらう事にしたんだ」。

Mystery Jets - Telomere

ミステリー・ジェッツ史上最もパーソナルで完成された最高傑作と呼び声も高い彼らの最新アルバム『カーヴ・オブ・ジ・アース』。先月に開催されたHostess Club Weekenderにて新作アルバムの楽曲を最初から最後まで演奏するというスペシャルセットを披露、未公開の楽曲をライブで初体験でき日本のファンも大いに盛り上がりました。バンド本人達もライブ後に「日本のオーディエンスは最高だよ。未だ聞いた事の無い音源なのに楽しんで受け入れてくれたようだったね。」と手ごたえを感じていました。

2012年にリリースされた『ラッドランズ』以来3年振りとなる最新作『カーヴ・オブ・ジ・アース』は2013年夏と2015年夏の2回に分け ロンドンにてレコーディングされた。ボーカリストであるブレイン・ハリソンが行ったテムズ川河口に ある隔離された小屋でのセッションに加え、東ロンドンにあるボタン工場跡地に自らのスタジオを建てアルバムを完成させた。プロデュースは共にスタジオを建てた、マシュー・スウェイツの手助けを受け、バンド・メンバーであるブレイン・ハリソン、ヘンリー・ハリソン、ウィリアム・リース、ドラマーであるカピル・トレヴェディ、そして新規加入のベーシスト、ジャック・フラナガンの全員で制作されており、ミステリー・ジェッツ史上最もパーソナルで完成された最高傑作と言えるだろう。

■新作情報

アーティスト名:Mystery Jets(ミステリー・ジェッツ)
タイトル: Curve of the Earth(カーヴ・オブ・ジ・アース)
海外発売日:2016/1/15(金)
レーベル:Caroline / HOSTESS
品番:HSU-10058

【トラックリスト】
1. Telomere
2. Bombay Blue
3. Bubblegum
4. Midnight’s Mirrior
5. 1985
6. Blood Red Balloon
7. Taken by The Tide
8. Saturine
9. The End Up
10. Spiralling (日本盤ボーナストラック)
11. Kickass (日本盤ボーナストラック)
※日本盤はボーナス・トラック2曲、歌詞対訳、ライナーノーツ付
新曲「Telomere」iTunes配信スタート&アルバム予約受付中!

■バイオグラフィ
ブレイン・ハリソン、ウィリアム・リース、カピル・トレヴェディ、ジャック・フラナガン、ヘンリー・ハリソンからなるUK出身ロック・バンド。2006年にはフジロックにて初来日。80's、プログレッシヴ・ロック、サイケデリック・ロックと全ての良いとこ取りをしたようなキャッチーなサウンドでここ日本でも高い人気を誇る。2010年6月には名門レーベル〈ラフ・トレード〉移籍後初となるサード・アルバム『セロトニン』をリリース。そして12年4月、オリジナル・メンバーであるカイが脱退するも通算4作目となるアルバム『ラッドランズ』をリリースしHostess Club Weekenderで来日。15年11月、新メンバー、ジャック・フラナガンを迎え入れ5枚めのニュー・アルバム『カーヴ・オブ・ジ・アース』を2016年1月15日にリリース予定。2015年11月にHostess Club Weekenderにて3年ぶりの来日を果たした。

Elijah & Skilliam - ele-king

 ロンドンを拠点にグライム・シーンを牽引するイライジャ&スキリアム。現在のロンドンは家賃の上昇などの問題で、シーンを支えたクラブやレコード店がどんどん姿を消している。2年前に閉店してしまったクラブ、ケーブルはイライジャとスキリアムが運営するレーベル〈バターズ〉がパーティを開催していた場所だった。そんな状況であってもグライムのパーティは終わることなく、DJやプロデューサーたちはラジオやツアー、リリースをとおして人々に喜びを与え続けている。イライジャとスキリアムがいるのはその最前線だ。先日、イギリスの「ファクト」が制作した〈バターズ〉のドキュメンタリーからは、現在のシーンの空気感がひしひしと伝わってくる。
 今回、イライジャ&スキリアムは去年に続き2度目の来日となり、12月11日に東京、28日に名古屋、大晦日31日に大阪の順での公演を予定している。ハイパージュースやプリティボーイらが東京公演に出演し、名古屋ではダブル・クラッパーズ、大阪ではセスといった気鋭のプロデューサー/DJたちがイライジャ&スキリアムと共演する。明日12月10日にふたりはドミューンにも出演するので、是非チェックしてほしい。ツアーの情報は以下のとおり。

【東京】
DBS presents
Elijah & Skilliam Japan Tour2015

日時:
2015.12.11(Fri)
OPEN/START 23:00

場所:
TOKYO CIRCUS

料金:
ADV:2,500yen/DOOR:3,000yen

出演:
Elijah & Skilliam (Butterz,UK)
with.
HyperJuice
Prettybwoy
Sakana

《1st Floor》
HELKTRAM
DIMNESS
maidable
Chocola B

Ticket outlets:
https://peatix.com/event/127181

info:
TOKYO CIRCUS:TEL/03-6419-7520
https://circus-tokyo.jp/

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【名古屋】
GOODWEATHER #43 ELIJAH & SKILLIAM

日時:
2015.12.28(Mon)
OPEN/START 22:00

会場:
CLUB JB’S

料金:
ADV/ 2,500yen DOOR/ 3,000yen

出演:
GUEST : Elijah & Skilliam
dj noonkoon feat. Loki Normal Person
NOUSLESS feat, AGO
DJ UJI feat. BRAVOO
Double Clapperz
MOMO

Photographer: JUN YOKOYAMA

info:
https://www.facebook.com/events/1634818833446707/

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【大阪】
CIRCUS COUNTDOWN 2015 to 2016
ELIJAH&SKILLIAM

日時:
2015.12.31(Thu)
OPEN 20:00

料金:
DOOR/ 2,015yen

出演:
CE$
SATINKO
TUTTLE
m◎m◎
BIGTED
Keita Kawakami
D.J.Fulltono

Photo Exhibition Jun Yokoyama

info:
https://circus-osaka.com/events/circus-countdown-2015-to-2016/


ELIJAH & SKILLIAM (Butterz, UK)

UK発祥グライムの新時代を牽引するレーベル/アーティスト・コレクティブ、Butterzを主宰するELIJAH & SKILLIAM。
イーストロンドン出身のELIJAHとSKILLIAMは05年、郊外のハートフォードシャーの大学で出会い、グライム好きから意気投合し、学内でのラジオやブログを始め、08年にGRIMEFORUMを立ち上げる。同年にグライムのDJを探していたRinse FMに認められ、レギュラー番組を始め、知名度を確立。10年に自分達のレーベル、Butterzを設立し、TERROR DANJAHの"Bipolar"でリリースを開始した。11年にはRinse RecordingsからELIJAH & SKILLIAM名義のmix CD『Rinse:17』を発表、グライムの新時代を提示する。その後もButterzはROYAL T、SWINDLE、CHAMPION等の新鋭を手掛け、インストゥルメンタルによるグライムのニューウェイヴを全面に打ち出し、シーンに台頭。その後、ロンドンのトップ・ヴェニュー、Fabricでのレギュラーを務め、同ヴェニューが主宰するCD『FABRICLIVE 75』に初めてのグライム・アクトとしてMIXがリリースされる。今やButterzが提示する新世代のベースミュージックは世界を席巻している!
https://elijahandskilliam.com/
https://butterzisthelabel.tumblr.com/


名曲“luck”や“feather”がアナログ盤に - ele-king

 もはや説明不要な存在だろうか。ベッドルーム・エレクトロニカのユニークな才能、サーフ(Serph)の代表曲がアナログ盤になるらしい。「なるらしい」というか、これはクラウドファンディングを利用した企画で、アナログ盤に「する」のはわれわれだ。
 プロジェクトの概要によれば、ファンに人気の高い、かつサーフ本人も代表曲と認める“feather”“luck” “circus” “missing”が収録され、これはサーフ自らがリアレンジ。2曲ずつ2枚の7インチというかたちでの制作となる模様だ。もちろん河野愛によるアートワークは今回も際立った幻想性と抒情性をたたえている。ダウンロードコードも封入。
 なんでもタダな昨今にあってはアナログ盤など贅沢品であることにはまちがいないが、そもそも音楽が贅沢品でなくてどうしよう? おカネの問題ではない、いくらだろうがタダだろうが、音楽が贅沢でわくわくさせるものであることを、こうした心のこもったパッケージは思い出させてくれる。

【Serph代表曲アナログレコード化プロジェクト】
■クラウドファンディング・プラットフォーム:CAMPFIRE
■プロジェクトURL: https://camp-fire.jp/projects/view/3839
■募集期間:2015年11月1日 ~12月15日(45日間)
■目標金額:750,000円

収録曲より

Serph - feather (overdrive version)

Serph - luck (darjeeling version)

■Serph / サーフ
東京在住の男性によるソロ・プロジェクト。
2009年7月にピアノと作曲を始めてわずか3年で完成させたアルバム『accidental tourist』を発表。以降、4枚のフルアルバムといくつかのミニアルバムをリリースしている。最新作は、2015年4月に発表した『Hyperion Suites』。
2014年1月には、自身初となるライブ・パフォーマンスを単独公演にて開催し、満員御礼のリキッドルームで見事に成功させた。
より先鋭的でダンスミュージックに特化した別プロジェクトReliqや、ボーカリストNozomiとのユニットN-qiaのトラックメーカーとしても活動している。
https://soundcloud.com/serph_official


Myths Of The Far Future - ele-king

 12月15日、原宿のVACANTでアシッド・フォークのイヴェントが開催される。出演は、UKからGrimm Grimm(Koichi Yamanohaによる)。今年、〈ATP Recordings〉からデビュー・アルバム『Hazy Eyes Maybe』をリリースしたばかり。
 他に、マヒトゥ・ザ・ピーポー(GEZAN)とKohhei Matsuda(Bo Ningen)と、強力なラインナップ。映像はTakashi Watanabe。



Future Brown - ele-king

 〈ハイパーダブ〉からのリリースでも知られるファティマ・アル・カディリ。LAのビート・ミュージック・デュオであるエングズングズのダニエル・ピニーダ&アスマ・マルーフ。シカゴ・ジュークの天才児Jクッシュ。この4人によるプロデューサー集団、フューチャー・ブラウンが来日する。今年の頭に〈ワープ〉よりリリースされたファースト・アルバムでは、グライム、ジューク、トラップ、ゲットー・ハウスなどが起こす鮮やかな音の化学反応が大きな話題を呼んだ。アルバムには多くのMCが参加していたように、今回の来日講演にはMCのローチ―が4人とともにステージに上がる。ファティマ・アル・カディリは去年も日本へやってきたが、フューチャー・ブラウンの来日は今回が初となる。スーパー・グループのセットを是非体感してほしい。


環太平洋電子音楽見本市 - ele-king

Day 1  語るべき音楽世界がまだある

Phew + Rokapenis
Black Zenith
Amplified Elephants
Philip Brophy
DJ Evil Penguin

文:松村正人 写真:伊藤さとみ / Satomi Ito

 コープス・ペイントの上半身裸の長髪の男が楽屋口からステージへ肉食獣のように歩み寄り壁際のドラムセットに就く。11月13、14日の2日間にわたって開催された「JOLT Touring Festival 2015」の初日はこうして幕を切った。


Philip Brophy

 メンバーはほかにいない、ドラム・ソロのようだ。やおら打ち込みの音が鳴る。ダンスミュージック的……だがどこか古びている。しかしまだはじまったばかり、意想外の展開があるかもしれない……がとくにない。1曲めを叩ききった。オーディエンスからまばらな拍手。説明もなく2曲め。似たような展開だが、ちょっと待て、よく聴くとこれはイエスの“燃える朝焼け”のリフか。ブラックメタルの恰好をした男が自作カラオケに合わせてドラムを叩く。しかもそれがブラックメタルとはそぐわない古典的プログレの、さらにいえば、超訳とでもいうべき、きわめて恣意的なトラック(基本的にメイン・リフをくりかえすだけ)というある種のコンセプチュアル・アートかもしれないが、伝わりづらい。学園祭のにおいがする。Xジャパンの恰好でTスクェアをカヴァーするような、そぐわないものを同居させる思いつきイッパツのパフォーマンス。私は嫌いでないどころか、学生時代はそういうことを喜々としてやった。ところが、そういうことをするとベクトルは内に向かう。楽屋オチというヤツだ。ああ3曲めはAC/DCの“サンダーストラット”か。私はその外しっぷりに色めきたつが、ほかのお客さんは遠くにいったような気がする。AC/DCに乗せ、〈スーパーデラックス〉がスタジアムになった瞬間である。

そのようにして、トップバッターのフィリップ・ブロフィのステージは終わった。つけくわえると、彼はカルト映画『ボディ・メルト(Body Melt)』の監督もつとめた才人で、パフォーマンスは毎回主旨を変えたコンセプチュアルなものになるのだという。そのことばにウソはなかった。

***


Amplified Elements

 微妙に温まった会場に次に登場したのはジ・アンプリファイド・エレンファンツ。今回は障がいをもつ男女、それぞれふたりがサンプラーやカオスパッド、タブレット端末を操作し、それをJOLT Inc.の創設者でもあるジェイムス・ハリックがサポートする、ソニックアート・グループ──と聞くと、日本のギャーテーズあるいは明日14日のフェスに出演する大友良英の音遊びの会などを思い出す。この2組はなりたちも音楽性を異にするが、前者は声ないし生楽器といった、比較的身体にちかい楽器をもちいているのが、エレファンツは電子楽器という、インターフェイスを介在する機材をもちいているのがユニーク。もちろん、上述のように彼らの使用機材は直感的に使用できるものが多いが、彼らはそれらの機材と戯れるように音を空中に放っていく。


 電子音楽のおもしろさは既存の楽器編成では実現できない音楽空間の生成だが、彼らの演奏は、既存のサウンド/アートの構図が、よくも悪くもその意味で先行する音楽的価値観を(意識せずとも)視野に収めがちなのにたいして、そもそもその前提に立っていないうえにメンバーの自由闊達な演奏の交錯は即興の理想のひとつにひらかれている、それはぎゃーテーズや音遊びの会にも通じるものだ。そのベクトルは聴取に向かうだけでなく、作品を作曲/構成するハリックの意図そのものにもむかい、音楽を時々刻々つくりかえる、緊張より融和を思わせるが、だからといってだれていない、非常に興味深いものだった。

***


Black Zenith

 エレファンツにつづくダーレン・ムーア、ブライアン・オライリーからなるシンガポールのデュオ、ブラック・ゼニスはアブストラクトな映像との相乗効果による無情にまでにハードコアな世界。回路がショートする衝撃音を構造化するような音響はノイズないしインダストリアルを想起させるところもあるが、会場全体をあたかもモジュラー・シンセのパッチに接続するかのような錯覚をおぼえさせる、力感あふれるものだった。それはトリをとつめたPhew+ロカペニスとは好対照で、Phewのアナログ・シンセ弾き語りとロカペニスの映像を対置した演奏はやわらかとかかたいとか、あるいは色彩ゆたかだとか逆にモノクロームだとか、印象論で語れるものからどんどん遠ざかっていく。



Phew + Rokapenis

 抽象的なだけではない。ときにメロディ(の断片のようなもの)も見え隠れするが、それらはたやすく像を結ばない。声は音の一部だが、意味もなさないこともなく、たとえば近日リリースの新作にも収録する“また会いましょう”の星雲のような電子音のカーテンがひるがえる向こうに垣間見えるとことばとたんに寓話めく、Phewはおそらく、かつてないほど独自な境地にいたりつつあり、詳しくは新作リリース時に稿をあらためることもあるだろうが、はからずも電子音楽の環太平洋見本市の感もあったこのたびの「JOLT TOURING FESTIVAL 2015」初日はともに語るべき音楽が世界にはまだまだあることを示唆するえがたい機会だった。また会いましょう。

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Day2 即興音楽の構造化をめぐる3つのありよう

灰野敬二 + 大友良英
L?K?O + SIN:NED + 牧野貴
田中悠美子 + Mary Doumany
森重靖宗 + Cal Lyall
)-(U||!C|<
中山晃子 (alive painting)
DJ Evil Penguin

文:細田成嗣

 〈JOLT TOURING FESTIVAL 2015〉は、音響作家のジェイムス・ハリックが主宰するオーストラリアの団体〈JOLT〉が中心となって企画した、香港とマカオを巡るツアー・イヴェントの一環として行われた。ここ日本では、現在は東京在住のカナダ人アーティスト、キャル・ライアルが運営し、都内で継続的な無料イヴェントを手がけてきた〈Test Tone〉との共催というかたちになっている。〈JOLT〉は過去2012年と2014年にも日本でのフェスティヴァルを開催しているが、3年前のそれが日本の各都市を経巡りながら行われ、昨年は日本とイギリスとで開催されたのに対し、今回スポットが当てられたのは、近年そのオルタナティヴな音楽シーンへの注目度が高まりつつあるアジア圏だったと指摘することができるだろう。とはいえ、それはあくまでツアーの全体像から導き出されることであって、〈スーパーデラックス〉で行われたこのフェスティヴァルに、とくにアジア圏に対する目配せがあったとか、ましてやそれを代表するものだったというようなことはみられなかった。

 終始閑散としていた前日とはうってかわって、2日めは開場後も入り口の外まで人が並ぶほどの賑わいをみせていた。これから行われるライヴ演奏が、誰もが未だ体験していないものである以上、観客の人数が演奏の質をそのまま表しているわけではないことは言うまでもないが、そこにかけられた期待の大きさは推して知ることができる。おそらく7年ぶりに共演する灰野敬二と大友良英のデュオにとりわけ注目が集まったものと思われるが、全体が3部構成にプログラムされたこの日のイヴェントでは、まさに期待の中心が熱狂の頂点に達するようにして、圧巻のライヴをみせてくれた。同時にこの3部のプログラムは、即興音楽の構造化をめぐる3つのありようを、それぞれ提示していたようにも思う。まず第1部において、もっとも自発的な形態での構造化、すなわち、演奏家が演奏を始めることによって音楽が始まり、そこから演奏家が終わりを見出すことによって音楽が終わるという、即興演奏におけるスタンダードなありかたが示される。続く第2部では、演奏家の外部に設けられた開始と終了に対して、その中間をいかにして彩るかということに焦点が当てられることになる。そしてこのふたつのプログラムを受けて、第3部では、それらを止揚するような取り組みがなされていった。

***


Yumiko Tanaka + Mary Doumany

 最初に登場したのは義太夫三味線の田中悠美子とハープのメアリー・ダウマニーだった。ダウマニーがハープを打楽器的に扱いながら生み出すリズムにのせて、卓上に寝かせられた三味線を田中はときには叩き、ときには弾きながら応対していく。即興演奏に特徴的ともいえる、相手の出方をうかがいながら有機的に反応していくやりとりは緊張感溢れるものだった。ふと気づくと地響きのような低音が聴こえはじめ、ごく自然な流れで演奏に参加していたジェイムス・ハリックがピアノの内部奏法を行なっている。さらにキャル・ライアルと森重靖宗がそれぞれバンジョーとチェロをもって参加し、クインテットによる集団即興へ。



森重靖宗 + Cal Lyall + )-(U||!C|< + 中山晃子

 ハリックとダウマニーによる唸るようなヴォイスが、田中の義太夫節とあいまって、どこか「日本的」ともいうべきおどろおどろしさを生み出していく。演奏者の背後の壁には、ヴィジュアル・アーティストの中山晃子によるアライヴ・ペインティングが映し出されていて、その都度の演奏にイメージを付与していたのだが、手元に用意した極彩色の液体を、垂らしたり流したりしつつその場で絵画を描き、それを拡大して投射された映像は、演奏の「おどろおどろしさ」と共犯関係を結ぶようにもみえた。その後、田中とダウマニーのふたりが退場し、残されたトリオによる演奏になる。バンジョーによる音楽的な和音を響かせもするライアルの演奏と、舞踏家のような身のこなしでチェロから深い低音を紡ぎ出す森重、それに引きつづき唸り声をあげながら解体されたピアノ演奏を聴かせるハリックの3人が、デュオからはじまった音楽に終着点を見出していった。

***

 転換を挟んで行われた次の演奏は、ターンテーブル奏者のL?K?Oと香港出身の音楽家SIN:NEDによるデュオが、映画作家の牧野貴によって作成された/されつつある映像作品に対峙しながら聴覚的余白を埋めていくというものだった。このまえに行われた演奏を第1部とするなら、この第2部はそれと好対照をなすものだったといえる。演奏家とコミュニケートしながらその場で即興的にイメージを生成していった中山晃子のペインティングと比較するとき、牧野の映像は演奏に触発されて変化していくというよりも、あらかじめ定められた枠組みの中で、不確定的に散りばめられていったノイズが、偶発的なイメージを生成していくといったものだった。


L?K?O + SIN:NED + 牧野貴

 その内容も対照的で、滴り落ちる極彩色の液体がグロテスクかつ官能的に蠢いていた中山の映像に対し、高速度で明滅する宇宙的なイメージから生み出される牧野のそれは、まるで内的世界がテクノロジーの力を借りて視覚化されたもののようだ。演奏のほうも、第1部のそれがアコースティック楽器による丁々発止のやりとりだったのとは異なり、電子的なノイズが、共同して映像作品に対する音楽を生み出していくといったふうであり、サウンドの移り変わりも緩やかに変化していった。とりわけ印象的だったのは、ドローン/アンビエントな響きからはじまった演奏において、中途、ターンテーブルの演奏も行なっていたSIN:NEDが、そのトーンアームの先端を咥えて「吹奏」しはじめたことだ。

 それを契機とするように、演奏は轟音ノイズの海へと突入していった。まるで教会オルガンのような奥行きのある共鳴が聴こえたターンテーブルの「吹奏」は、しかしながら、むしろ呼吸する根源的な身体性が、電子回路によってつねにサウンドと断絶させられてしまうという事態を象徴していたように思う。第1部における演奏者の身体性は、ここでは機械的な操作性へと変わり、ライヴの枠を演者のそれぞれが推し広げていったパフォーマンスは、枠によって切り取られるべき演奏をどのように満たしていくかという問題へと移されていった。

***

 対照的なふたつのライヴを経て、灰野敬二と大友良英によるデュオがはじまった。2日間のフェスの大トリでもあるこの演奏は、まさに大円団というに相応しい圧倒的なもので、予定時間を大幅に超過して行われることとなった。灰野が歌唱する“イエスタディ”から幕を開けた演奏は、当然のことながらメロディがぐにゃりと変形したそれにビートルズの面影はなく、時折聞こえる、それもまた定かではないが、歌詞の部分的なフレーズによってそれがその曲なのだと判別できるもので、それに対して大友のギターは弦と金属の衝突による打楽器的ノイズで応戦していく。


灰野敬二 + 大友良英

 伴奏というよりも歌と拮抗するようにギターが向かい合う演奏だ。歌唱が終わると灰野はギターを手にとり、ギター同士によるノイズのデュオがはじまった。爆音の渦が観衆を包む。第1部でパフォーマンスを行っていた中山晃子が、ここでも演奏にイメージを付与していたのだが、一瞬だけ、灰野の背後に妖気が立ち昇るかのようなモヤモヤとした映像が投射されていた場面があった。だが「おどろおどろしさ」が、オーストラリア勢によるちょっとしたサービス精神のあらわれでもあったと思えば、ここにそれが出る幕はなく、そしてそのことを強調するかのようにして、中山はすぐさま別のイメージへと変化させていった。

 終了予定時刻を大きく過ぎてから、なんども大友が終わりの合図を出していたように思う。即興演奏において、その演奏を終了する場面は明確に定まっているものではないが、演奏しているとたしかにその時が訪れる、ということを、大友をはじめとした多くの即興演奏家はよく口にしている。そういった終了の契機がなんどもみられたように思う。だがそれも、灰野がつねに終わりを逸脱していくようにして拒みつづけ、演奏は継続していく。こうなってしまった以上、果たしてこの演奏は終わりを見出すことができるのかどうか、あるいはこのまま延々と続いていくのではないか……とまで思われた。だがしかし、それから暫く経ったあと、灰野がギターを置いてマイクを手にすると、大友もそれに合わせてギターを持ち直したのである。そして締めの一曲として「奇妙な果実」を歌いはじめたのだった。
 つまり、このデュオによる演奏は、はじめから終わりが定められていたのである。その瞬間、いままで見せていた「終わり」に対する逸脱が、ことごとく演奏の「中間」におけるパフォーマンスであったことに切り替わった。それは次の展開をその場で切り開いていく即興演奏に、あらかじめ「終わり」が設定されていることによって、より大胆に、かつどこまでも遠い地点を見せながら、「終わらない」演奏をなし得るように仕掛けた巧妙なトリックだったのである。

 これを第3部とするならば、すなわちパフォーマンスの枠をその場で構築していった第1部と、あらかじめ規定された枠のなかでパフォーマンスがなされた第2部を受けて、第3部では、始まりと終わりの行為が決められながら、むしろ決められていればこそ、その枠を自在に拡張し変化させることによって、予見不能な構造化をなしていったということができるだろう。個々別々に体験するだけでは捉えきれない原理のようなものが、ひとつの場所に複数並置されることで浮上する――フェス特有の異化作用が一層スリリングな展開をもたらした一夜だった。


Yasuyuki Suda (inception records) - ele-king

2015.11.29

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