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Home >  Columns > 環太平洋電子音楽見本市- JOLT TOURING FESTIVAL 2015 レポート

Columns

環太平洋電子音楽見本市

環太平洋電子音楽見本市

JOLT TOURING FESTIVAL 2015 レポート

@SuperDeluxe Nov 13-14, 2015

松村正人× 細田成嗣  写真:伊藤 さとみ / Satomi Ito Dec 02,2015 UP

Day 1  語るべき音楽世界がまだある

Phew + Rokapenis
Black Zenith
Amplified Elephants
Philip Brophy
DJ Evil Penguin

文:松村正人 写真:伊藤さとみ / Satomi Ito

 コープス・ペイントの上半身裸の長髪の男が楽屋口からステージへ肉食獣のように歩み寄り壁際のドラムセットに就く。11月13、14日の2日間にわたって開催された「JOLT Touring Festival 2015」の初日はこうして幕を切った。


Philip Brophy

 メンバーはほかにいない、ドラム・ソロのようだ。やおら打ち込みの音が鳴る。ダンスミュージック的……だがどこか古びている。しかしまだはじまったばかり、意想外の展開があるかもしれない……がとくにない。1曲めを叩ききった。オーディエンスからまばらな拍手。説明もなく2曲め。似たような展開だが、ちょっと待て、よく聴くとこれはイエスの“燃える朝焼け”のリフか。ブラックメタルの恰好をした男が自作カラオケに合わせてドラムを叩く。しかもそれがブラックメタルとはそぐわない古典的プログレの、さらにいえば、超訳とでもいうべき、きわめて恣意的なトラック(基本的にメイン・リフをくりかえすだけ)というある種のコンセプチュアル・アートかもしれないが、伝わりづらい。学園祭のにおいがする。Xジャパンの恰好でTスクェアをカヴァーするような、そぐわないものを同居させる思いつきイッパツのパフォーマンス。私は嫌いでないどころか、学生時代はそういうことを喜々としてやった。ところが、そういうことをするとベクトルは内に向かう。楽屋オチというヤツだ。ああ3曲めはAC/DCの“サンダーストラット”か。私はその外しっぷりに色めきたつが、ほかのお客さんは遠くにいったような気がする。AC/DCに乗せ、〈スーパーデラックス〉がスタジアムになった瞬間である。

そのようにして、トップバッターのフィリップ・ブロフィのステージは終わった。つけくわえると、彼はカルト映画『ボディ・メルト(Body Melt)』の監督もつとめた才人で、パフォーマンスは毎回主旨を変えたコンセプチュアルなものになるのだという。そのことばにウソはなかった。

***


Amplified Elements

 微妙に温まった会場に次に登場したのはジ・アンプリファイド・エレンファンツ。今回は障がいをもつ男女、それぞれふたりがサンプラーやカオスパッド、タブレット端末を操作し、それをJOLT Inc.の創設者でもあるジェイムス・ハリックがサポートする、ソニックアート・グループ──と聞くと、日本のギャーテーズあるいは明日14日のフェスに出演する大友良英の音遊びの会などを思い出す。この2組はなりたちも音楽性を異にするが、前者は声ないし生楽器といった、比較的身体にちかい楽器をもちいているのが、エレファンツは電子楽器という、インターフェイスを介在する機材をもちいているのがユニーク。もちろん、上述のように彼らの使用機材は直感的に使用できるものが多いが、彼らはそれらの機材と戯れるように音を空中に放っていく。


 電子音楽のおもしろさは既存の楽器編成では実現できない音楽空間の生成だが、彼らの演奏は、既存のサウンド/アートの構図が、よくも悪くもその意味で先行する音楽的価値観を(意識せずとも)視野に収めがちなのにたいして、そもそもその前提に立っていないうえにメンバーの自由闊達な演奏の交錯は即興の理想のひとつにひらかれている、それはぎゃーテーズや音遊びの会にも通じるものだ。そのベクトルは聴取に向かうだけでなく、作品を作曲/構成するハリックの意図そのものにもむかい、音楽を時々刻々つくりかえる、緊張より融和を思わせるが、だからといってだれていない、非常に興味深いものだった。

***


Black Zenith

 エレファンツにつづくダーレン・ムーア、ブライアン・オライリーからなるシンガポールのデュオ、ブラック・ゼニスはアブストラクトな映像との相乗効果による無情にまでにハードコアな世界。回路がショートする衝撃音を構造化するような音響はノイズないしインダストリアルを想起させるところもあるが、会場全体をあたかもモジュラー・シンセのパッチに接続するかのような錯覚をおぼえさせる、力感あふれるものだった。それはトリをとつめたPhew+ロカペニスとは好対照で、Phewのアナログ・シンセ弾き語りとロカペニスの映像を対置した演奏はやわらかとかかたいとか、あるいは色彩ゆたかだとか逆にモノクロームだとか、印象論で語れるものからどんどん遠ざかっていく。



Phew + Rokapenis

 抽象的なだけではない。ときにメロディ(の断片のようなもの)も見え隠れするが、それらはたやすく像を結ばない。声は音の一部だが、意味もなさないこともなく、たとえば近日リリースの新作にも収録する“また会いましょう”の星雲のような電子音のカーテンがひるがえる向こうに垣間見えるとことばとたんに寓話めく、Phewはおそらく、かつてないほど独自な境地にいたりつつあり、詳しくは新作リリース時に稿をあらためることもあるだろうが、はからずも電子音楽の環太平洋見本市の感もあったこのたびの「JOLT TOURING FESTIVAL 2015」初日はともに語るべき音楽が世界にはまだまだあることを示唆するえがたい機会だった。また会いましょう。

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