![]() Charles Cohen A Retrospective Morphine Records/P*dis |
40年以上のキャリアを誇るチャールズ・コーエンというアーティストだが、決して有名ではない。昨年まで私も存在を知らなかったし、アメリカ東海岸のアヴァンギャルドな音楽シーンにかなり精通していない限り、多くの人がそうであったと思う。その理由は明確だ。彼はほとんど作曲をしないし、レコーディングもしない。即興演奏のパフォーマンスにこだわってきたからだ。
しかもコーエンが演奏し続けてきたのはBuchla Music Easel(ブックラ・ミュージック・イーゼル)という1973年に25台程度しか生産されなかったという、まさに幻のシンセサイザー(*2013年に同メーカーから、40年の時を経てElectric Music Boxという名で復刻された)。
Buchlaは、シンセ・マニア憧れの究極の逸品とされ、日本ではヤン富田や坂本龍一などが所有している200e Seriesという非常に高価なモジュラー・システムを製造している、Moogと並ぶパイオニア的メーカーだ。ミュージック・イーゼルはそのモバイル版とでも呼ぼうか、スーツケースに収まるトラベル・サイズのややかわいらしい楽器だ。一見するとカラフルでおもちゃのようにも見えるが、もともと鍵盤型のシンセとは全く異なるために演奏が難しいと言われている。さらに製造台数が少なかったため、思い通りに操れる者は極めて少ない。コーエンはこの独特な音色を愛し、プレイし続けてきた屈指の演奏家である(こちらの映像→ https://youtu.be/Zra0EOXRe3A で、コーエンの演奏と楽器を見ることが出来る)。
この、孤高のパフォーマンス・アーティストを、まさに「発掘」したのが〈Morphine Records〉を運営し、モーフォシスやRa. H名義でミュージシャンとして活躍するラビ・ビアイニ。つねにエレクトロニック・ミュージックのアヴァンギャルドな側面を追求してきた彼は、コーエンが80年代に録音し、未発表のままだったテープがあることを知り、それを2013年に一挙リリースした。いま聴いても色褪せていないそのサウンドがとくにテクノ・シーン界隈で話題となり、アナログ回帰、モジュラー・シンセ・ブームも手伝って、コーエンに注目が集まったのである。
そして今回、ついに初来日ツアーが実現。モーフォシスと共に三都市を回る。これに先駆け、貴重なインタヴューが実現したので、ぜひこのユニークなアーティストについて知り、そしてこの機会に演奏を体験してもらいたい。
70年代、私はたくさんのエレクトロニック・ミュージックを聴いていました。実際にいくつものシンセサイザーを弾いて試してもみました。その頃にモートン・サボトニックの『Silver Apples of the Moon』という作品を聴いたんです。これを聴いたときに、これこそが自分の求めているサウンドだと思いました。
■まず伺いたいのが、あなたが演奏される稀少な楽器、Buchla Music Easelとあなたの関係についてです。これだけ珍しい楽器を、どういう経緯で「自分の楽器」として演奏し続けることになったのですか?
CC:70年代、私はたくさんのエレクトロニック・ミュージックを聴いていました。実際にいくつものシンセサイザーを弾いて試してもみました。その頃にモートン・サボトニックの『Silver Apples of the Moon』という作品を聴いたんです。これを聴いたときに、これこそが自分の求めているサウンドだと思いました。サボトニックのようになりたいというわけではなくて、音色が自分の好みだったんです。でも、彼が何者で、どんな楽器を使っていて、どうやってそれを入手すればいいのか分かるまでに数年かかりました。何とか突き止めてブックラ氏本人に手紙を書いたんですが、1年待っても返事が来ませんでした(笑)。もう一度手紙を書いて、カタログを送って欲しいと頼んだら、やっと届いたのです。
■当時は、普通に買えるものだったんですか?
CC:ブックラ氏から直接譲ってもらうしか方法はありませんでした。
■でも、注文すれば誰にでも買えたんですか?
CC:いやぁ……(笑)。なぜ欲しいのか、どんな音楽をやっているのか説明して、本人が納得しないと譲ってくれなかったようですね。色々な説があって、私にはよく分かりませんが。
■でも手に入れられて、それからずっと使い続けるほどの魅力は、どんなところにあるんですか?
CC:実は私も、手に入れてからしばらくは使い方がよくわかりませんでした。あまりに他のシンセサイザーとは勝手が違っていたので。ですから、手に入れてからも他の楽器を使いながら、ときどき戻って試行錯誤して……ということを繰り返していました。それなりにお金を投資した楽器でしたからね、そう簡単に諦めるわけにもいかなくて(笑)。でもそうしているうちに、だんだんとどんな楽器なのかがわかってきた。そして、わかればわかるほど、Music Easelは私がやりたいことがすべて出来る楽器だということに気づいたんです。一度理解出来たら、実はとてもシンプルでした。だから、他のどの楽器よりもこれを使い続けているんです。
■ちなみに、他にはどんな楽器を試してみたんですか?
CC:MoogやE-muなど、いろいろ演奏してみましたよ。
■でも、つねにシンセサイザー、電子楽器を演奏してこられたんですね?
CC:そうです。私はもともと、演劇のサウンド・デザイン、サウンド・エフェクトを仕事としてやってきたので、劇場という環境で抽象的な音を鳴らすことが好きなんですよ。演劇プロダクションにおいて、ミュジーク・コンクレート的な音作りを試していました。私がそれらを学んでいた学校で、初期の巨大なMoogのモジュラー・システムを購入しました。誰も使い方が分からなかったのでほとんど使われていなかったんですが(笑)、私はそれまでに自分がやってきたことのお陰で、初めて触れた瞬間からすぐに使い方が分かったんです。シンセサイザーとの付き合いはそこからですね。
■他のインタヴューで、あなたは主にフィラデルフィアのフリージャズのシーンで活動されてきていて、とくにサン・ラーとセシル・テイラーに影響を受けていらっしゃると書かれていたんですが、それがあなたの音楽的なバックグラウンドですか?
CC:はい。間違いなくバックグラウンドのひとつですね。もっと若い頃は、プログレッシヴ・ロックなども好きでしたし、もっと抽象的な音楽も聴いていましたが、ジャズのより冒険的な側面に触れてから、すっかりのめり込んでしまいました。ジョン・コルトレーンのレコードを聴いたときに、「音を演奏している」と思ったんです。単なる音符でなく、音楽表現としてサウンド作り出していると。サン・ラーは、フィラデルフィアを拠点に活動していたので、何度もライヴを見たことがあります。実は、シンセサイザーを生演奏しているのを初めて見たのはサン・ラーのコンサートでした。それまでスタジオ機材としか考えていなかったので、彼が最初のきっかけとも言えますね。セシル・テイラーは、彼のワークショップに参加したこともあり、非常に影響を受けた人です。彼も、ジャズ・ミュージシャンですが、(コルトレーンと同じように)「音を作り出す」演奏家でした。(音を使って音符を弾くのではなく)音符を使って音を作り出す人。
[[SplitPage]]実は、シンセサイザーを生演奏しているのを初めて見たのはサン・ラーのコンサートでした。それまでスタジオ機材としか考えていなかったので、彼が最初のきっかけとも言えますね。セシル・テイラーは、彼のワークショップに参加したこともあり、非常に影響を受けた人です。
■あなたはずっとフィラデルフィアを拠点にされているんですか?
CC:そうです。
■フィラデルフィアにはそのような実験的、あるいは冒険的な音楽のシーンが常にあったのでしょうか?
CC:拡大と収縮を繰り返していますね、一定の周期で。大学院でニューヨークに行っていたこともあったんですが、中退することにして、同じ頃にフィラデルフィアの劇場でサウンド・デザインの仕事を紹介してもらったので、戻って働きはじめました。新しい劇場で、スタジオには4トラック・レコーダーがあったので、それで色々と実験をしはじめたわけです。
■それ以降はフルタイムの音楽家として活動されてきたんですか?それとも「本業」のお仕事は続けていらした?
CC:ええ、サウンド・デザインの仕事はずっとやっています。その後はテンプル大学でずっとやっていました。素晴らしい仕事でしたよ。
■あなたの音楽に対するアプローチで非常に興味深いところは、作曲や録音をほとんどせず、即興パフォーマンスに完全にフォーカスしていらっしゃるところです。録音をされていた時期もあったようですが、どうしてそういう活動方針になったのですか?
CC:実は録音もしてきたんですよ、仕事としては。ダンスや演劇のための音楽は録音していました。でも、自分の作品としてリリースするということに関しては……私にはたくさんのミュージシャン友だちがいますが、その多くがレコードを作っても売れませんでしたし、聴く人がいなかった。「チャールズ、頼むから僕のレコードをもらってくれ」なんて言われたりしてね。それでは何だか悲しいので、出したいと思わなかったんです。
でも、いまは状況が違います。私がかつて録音した音楽も聴いてもらえているようですし、新たに作曲をして作品にしてもいいかなと考えるようになりました。
■それは大変興味深いお答えですね。一般的には、今の時代は録音作品を作っても売れなくなってきたので、音楽ビジネスはよりライヴ・パフォーマンスにシフトしてきていると言われています。
CC:それも事実のようですね。私自身、パフォーマンスを重視してきましたから、それがもっとも満足を得られる音楽活動だと思っています。優れた録音作品を完成させるには、根気を必要とします。楽曲が出来上がってから、それを完成形に仕上げるまでの作業や編集に多くの時間を要するからです。私はとても怠け者で短気なので、それが出来なかったんです。でも、現代のデジタル技術を使えば、プロダクション行程に時間を取られすぎることなく、即興演奏を作品化することが可能になったと思うので、やっとそれをやる気になってきたんですよ。マルチ・トラックのテープに録音していた時代には、ポスト・プロダクションは非常に骨の折れる行程でした。今はそうではなくなったので、だいぶ(録音に対する)態度を改めました。
それに、アーカイヴ音源(〈Morphine Records〉から発売された『The Middle Distance』、『Group Motion』、『Music For Dance and Theater』、『A Retrospective』)の成功のお陰で、作品を出しても無視されることなく、誰かに買ってもらえるんじゃないかと思うようになりました(笑)。ですから、いまは前向きな気持ちです。
■なるほど。それと関連して伺いたいと思っていたのが、音楽とテクノロジーについてのあなたのお考えです。一方であなたはとても古風なシンセサイザーをずっと演奏し続けてきていらっしゃるわけですが、その一方で音楽制作の技術は凄いスピードで進化してきています。新しいシンセサイザーもたくさん作られましたし、いまはソフトウエアでも無限の音が作れるようになった。
CC:そうですね。本当に驚くべきテクノロジーが存在しています。
■録音に際してはそういう技術も使っていらっしゃいますか?
CC:デジタル・エフェクトは使います。私はアナログ信奉者というわけではないので、アナログだけとか、デジタルだけとか、こだわるつもりは全くありません。私は、自分が実践する上で最適だと思う技術を使うようにしています。アナログの楽器を使い続けているのは、私にとって使い心地が良く満足のいく結果が出せるからで、それを変える必要性を感じないからです。これまで培ってきたテクニックとアイディアがあれば、やりたいことは全て出来るのです。もし限界を感じるようなことがあれば、他のものに変えようという日が来るかもしれませんが、今のところは間に合っています。(操作に対する)反応が良く、シンプルなところ、選択肢が限られているところがいいんです。現代の楽器の問題点は、選択肢が多過ぎるところ。何を選べばいいのか分からなくなってしまう。
Music Easelには23個のノブしかありません。4~5つの基本構成要素と、オシレーターもひとつしかありません。そう聞くと、何もできないように感じますが、各パラーメーターでコントロール出来る範囲はとても大きい。私は、その方が自分の表現力が発揮出来ます。
オウテカを例に取ってみましょう。私をよく知る友人などから、「チャールズ、きっと好きだから聴いてみた方がいいよ!」と薦められて、実際に聴いてみました。そして気に入りましたよ、最初の30秒くらいは。でも、ビートが入って来ると興ざめしてしまうんです。
■お話を伺っていると、あなたにとってのMusic Easelはクラシックやジャズのミュージシャンが生楽器をマスターする感覚に近いように感じます。彼らのような演奏家は、例えば一度ベーシストになると決めたら、一生その楽器と付き合っていきますもんね。
CC:練習もしなくてはいけないですしね。練習した人には、楽器が報いてくれるものです。現代の電子楽器は、特定のタイプのミュージシャンが特定のタイプの音楽を作るようにデザインされています。こうした楽器は、私も実際に使ってみましたが1~2年すると限界が見えてしまう、もうそれ以上探求する深みがなくなってしまうんですね。その点でも、Music Easelは知れば知るほど深みが出て来る楽器。それに、私は単純にこの楽器のサウンドが大好きなんです。
■これも別のインタヴューで読んだんですが、あなたは音楽をほとんど音楽を聴かれないとか!?
CC:ははは。そうなんです。それを言うとみなさんショックを受けるようですけどね! 聴かないといっても、絶対聴きたくないと耳を塞ぐわけではないですよ。定期的に新しいものを手に入れて聴くことを楽しみとはしていないということです。そのミュージシャンと個人的なつながりがあるか、友だちに強く薦められない限りは。ただ座って、45分間なりのまとまった時間を人の作った音楽を聴くことに費やすのが、私には長く感じます。そこまで時間を割けない。音楽にどっぷりと浸かりたいとき、没頭したいときは自分で演奏する方が好きです。
■それでも、これまで聴いたり見たりした中であなたが感銘を受けたミュージシャンにはどんな人がいるのか、非常に興味があります。そういう人はいないですか?
CC:ランダムなものしか聴いていないですね。セシルとサン・ラー以外は、私を本当に感動させた人は思い浮かばないです。
例えば、オウテカを例に取ってみましょう。私をよく知る友人などから、「チャールズ、きっと好きだから聴いてみた方がいいよ!」と薦められて、実際に聴いてみました。そして気に入りましたよ、最初の30秒くらいは。でも、ビートが入って来ると興ざめしてしまうんです。一番最近、人に薦められて気に入ったレコードは、デムダイク・ステアというグループのものでした。それほど最近でもないかもしれませんが……彼らのレコードは楽しんで聴きましたよ。
■〈Morphine Records〉のラビ・ビアイニと出会って、アーカイヴ作品がリリースされてからは、世界各地のフェスティヴァルなどに出演されるようになり、だいぶ周囲の環境が変わりましたよね?
CC:自分でも信じられません。ゼロの状態から、いきなりフェスティヴァルなどに呼ばれるようになって。まったくこんなことが起こるとは想像したことすらありませんでしたよ。本当にすべてラビのお陰です。こんなにいろんなところに呼んでもらえたのは。自分でも、これからこんなところやあんなところでプレイするんだ、と口で言っていながら、自分でも信じられないくらいです。日本で演奏する日が来るなんて……いまだに信じていませんよ(笑)。実際に行って、ステージに上がるまでは実感が持てないです。私にとっては、すべてが全く新しい体験です。演奏することが好きですし、新しい人と出会うことも好きです。移動することは少々大変ですけどね。日本なんて遠いところまで、いままで行ったことがありませんから。
■恐らく、あなたを聴きに来るオーディエンスもこれまでとはだいぶ違うのではないかと思います。
CC:まったく違いますね。
■違うというのは、私もそうですが、いわゆるダンス・ミュージック、テクノ系のリスナーが、最近ではよりエクスペリメンタルな電子音楽に興味を持つようになったと思うんです。そういったタイプのフェスティヴァルにも……
CC:私のような実験的なアクトを混ぜるようになった(笑)。それは、とてもいいことだと思いますよ。テクノには、素晴らしいサウンドがたくさん使われてきました。音楽的なスタイルとしては、私がそれほど熱中するものではありませんが、サウンドそのものは素晴らしいものがたくさんあります。とくにテクノは、多くの人の耳をより抽象的な音にも開かせた。テクノは、エレクトロニック・サウンドの美しさを多くの人に気づかせた。その功績はとても大きいと思います。共通の美意識を持つことで、(スタイル的な)境界線が薄れてきましたね。かつては、DJとパフォーマンス・ミュージシャンの間には大きな隔たりがありました。でも、いまはだんだんとなくなってきている。だんだんと統合されてきて、両方をやる人も増えてきています。私は、それはとてもいいことだと思います。私は、それまで隔たれていた音楽が統合されていくこと、混合されていくことは歓迎します。
■今回が、日本を訪れることも初めてなんですね?
CC:初めてです。日本といえば、「禅」についての本は読んだことがあります(笑)。私の親友が数年間日本に住んでいたことがあって、話はたくさん聞きましたが、私にとっては神話のような感じで。日本の文化にはかねてからとても感銘を受けてきたので、本当に訪れるのを楽しみにしています。
■あなたの演奏が完全に即興であることを考えると、その場所であるとか、周囲の環境に少なからず影響を受けるのではないかと思いますが、いかがですか?
CC:まったくその通りです。環境のすべてから影響を受けます。周囲から聞こえるちょっとした雑音、見聞きした情報など、全てが何らかのかたちで音楽表現に表れます。例えば、酔っ払いの、暗くて不機嫌な客ばかりの会場だったら、どうしてもそういう音楽になってしまうでしょうし、ハッピーでクリエイティヴで、冒険心のあるお客さんに囲まれていたら、それに相応しい音楽になります。
■それでは、あなたにとって未知の環境である日本のパフォーマンスがどんなものになるか、益々楽しみですね。ツアーの成功をお祈りします!ありがとうございました。
CC:ありがとう。私もとても楽しみにしています。
※奇跡の来日公演!
9/4 Charles Cohen / Morphosis Japan Tour 2014 @ Conpass
https://www.conpass.jp/5611.html
9/5 Gash feat Morphine Rec @ Mago
https://club-mago.co.jp/pick-up-party
9/6 Future Terror @ Unit
https://www.unit-tokyo.com/schedule/2014/09/06/140906_future_terror.php







