Home > Reviews > Album Reviews > Matchess- Seraphastra LP
五雲、というのは仙人や天女が遊ぶところにかかるという五色の雲のこと。なぜ雲に五色を感じたのかはわからないけれども、昔の人なりにネオンというか、常世の艶やかで華やかでありえないありがたさを表現するための舞台装置だったのかなと想像する。さて筆者は最近この雲を見た。展望のある台地に鈍い光がまじりあって分離して5つほどの色のかたまりになって、それを割ってその光たちの親であるもっともまばゆい光線が差し込んできたのを見た──。
というのは夏休みに読みかじったエドモンド・ハミルトンの影響とかではなくて、マッチェスことホイットニー・ジョンソンの『セラファストラLP』を聴いて自動筆記的に描出されたイメージ。これはもともとは〈デジタリス〉からリリースされていた作品で、同レーベルの女流シンセジスの正しき血統を感じさせる。冒頭の“ザ・ニード・オブ・ザ・グレイテスト・ウェルス”にもあきらかな、クラスターやクラウス・シュルツェ、あるいはローリー・シュピーゲルなどを彷彿させるミニマルなシンセ/アンビエント・トラック。反復ビートも心地よい。いずれもエメラルズ以降を生きる耳には馴染み深いものだが、中盤からその鈍色の音のカーテンをやぶって入ってくるギター・ノイズがなんとも美しい暴力性を発揮していてすばらしい。ノイズも一様ではなく、スロッビング・グリッスルをなぞるような展開もあり、インダストリアルとコズミックと、サイケデリックとパンクとが放射状に一斉射撃される様は圧巻。現在形の女流(宅録女子と呼んでいたころもありました)との同機ということでいえば、メデリン・マーキーからエラ・オーリンズ、さらにゾラ・ジーザスまでの振れ幅を持つ怪作だ。ローレル・ヘイローやあるいはピート・スワンソンなど、テクノ的要素だけが見当たらないだろうか。ジョンソンはヴァーマ(Verma)というバンドのキーボードとしても活躍しており、スペーシーなインプロと女性ヴォーカルが特徴的なそのサイケ・バンドでも重要な役割を果たしている。
このヴァーマをリリースしているシカゴの〈トラブル・イン・マインド〉が、ジャケットの装いもあらたにヴァイナルとして出し直したのが本作。〈デジタリス〉版のカセットのジャケット・デザインの、あの時代を忘れて漂流するがごときSFチックも非常によくこの作品の性格をあらわしていると思うけれど、こちらの〈モダン・ラヴ〉的なインダストリアル感、モノクロームなウィッチ感もいい。エキセントリックさが抑えられて、よりいまらしさが捉えられている。『ele-king vol.6』の女流宅録電子音楽特集からずいぶん時間が経ったけれども、プロデューサー気質の個性的な女流は涸れることなくどんどんと後続を生みつづけていて、「男勝り」ではなく個としてつよく勝ったその姿に毎度惚れている。
橋元優歩