ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. AMBIENT KYOTO ──2027年春、レイ・ハラカミの展示が決定
  2. ジャパニーズ・ヒップホップ第二世代──あるDJの証言
  3. Moodymann ──ムーディーマンの来日公演が決定、今年は東京と京都をツアー
  4. Arab Strap - Half-Told Tales | アラブ・ストラップ
  5. Eden Aurelius - Entre Nous / emer ft. Ugnė Uma - You and Me | エデン・オーレリウス、エメル、ウグネ・ウマ
  6. Protomartyr - Hotel Usona | プロトマーター
  7. interview with Adrian Sherwood and Nightmares On Wax UKダブ・“トーク”・セッション | ――エイドリアン・シャーウッド×ナイトメアズ・オン・ワックス特別対談
  8. ゲーセン波乱万丈の100年史
  9. Helen - Linda's Head | ヘレン
  10. 別冊ele-king パンク50周年記念号──それは何だったのか、何でありえるのか
  11. 異次元の常識──パンク/ハードコアの思想とメッセージ
  12. Marcellus Pittman ──デトロイト・ハウス珠玉の逸材、マーセラス・ピットマンの来日ツアーが開催
  13. The Alchemist ──現代USヒップホップのキーパースン、ジ・アルケミストが来日
  14. ポピュラー文化がラディカルな思想と出会うとき──マーク・フィッシャーとイギリス現代思想入門
  15. METHOD MOTEL - @名古屋・栄CENTRAL
  16. Black Marble - Life in Small Spaces | ブラック・マーブル
  17. Boy Harsher - GET MEAN | ボーイ・ハーシャー
  18. Columns ♯17:もしもパンクがなかったら ——その基礎知識と『パンク50周年記念号』刊行のお知らせ
  19. interview with Actress UKテクノ界の奇才が語るみずからの哲学 | ──アクトレス、インタヴュー
  20. ele-king vol.37 ボーズ・オブ・カナダ大研究/サイケ&ドリーミー特集

Home >  Reviews >  Album Reviews > High Llamas- Hey Panda

High Llamas

Art RockPop

High Llamas

Hey Panda

Drag City/Pヴァイン

Amazon

増村和彦 Jul 10,2024 UP

 相変らずショーン・オヘイガンが作る音楽は、誰にも似ていない。
 2003年の『Beat,Maize & Corn』においてショーン本人の言葉で、「じゃがいもの袋は変わったけれど、それでも中に入っているのはじゃがいもだ」とあったが、この変化に対しての冗談めいた意志表明(タイトルを訳すと『甜菜、とうもろこし、そして穀物』となる)は、『Hey Panda』を聴くと予言として機能していたのではないかとさえ思えてくる。いや、もちろん変わり続けてきたのがハイラマズで、90年代の初期ハイラマズから、98年『Cold and Bouncy』、99年『Snowbug』、2000年『Buzzle Bee』あたりのエレクトロニックに影響を受けたサウンドはわかりやすく変化として捉えることができたし、雰囲気はどこか初期に戻りつつも明らかにポップスとしての画角を押し広げた『Beat, Maize & Corn』、2006年『Can Cladders』、2011年『Talahomi Way』は、変化を感じさせる間もなく、驚くほど自然な形でリスナーをラマズの世界に引き込んだ。レコード屋のソフト・ロックのコーナーで偶然発見した『Hawaii』に衝撃を受け、初めてのリアルタイム・ラマズは『Talahomi Way』だった自分も、遡るにあたってエレクトロニックに影響を受けたアルバムに多少のハードルを感じた薄い記憶ならある。でも「これほどまでにハイ・ラマズの音楽に焦点を当て直したものはない」というのは事実だろう。問題作というインフォメーションにも頷ける。

 散々語られている通り、現行 R&B やヒップホップからインスピレーションを得たということも、仮にハイラマズの作品だと知らずに聴いたとして、これはハイラマズだろうということも、一聴してわかる。今作にも参加しているフライヤーズ、レイ・モリス、ボニー“プリンス”ビリーとの仕事や、ロックダウン中に家の中で子供たちが聴いていたというSZAやソランジュ、ノーネーム、スティーヴ・レイシー、エズラ・コレクティヴ等々から影響を受けたそうだ。2000年代に感銘を受けたというJ Dillaへの思いが時を経て伏流水のように湧き上がったロマンもある。
 第一印象は、サブベースやトラップぽいビート、オートチューンに多少の驚きを感じつつも、ラマズらしいストリングスやピアノ、シンセの響きに耳を傾けると鳴らしっぱなしにされているというよりは細かい単位で配置されながら曲が展開されていくことに気付いてくる。たしかに新しい魅力だと感じた。それでいて、全然煽られる瞬間がなくて、むしろ展開に対してとても豊かな時間の流れがアルバム全体に通底している印象を受けた。BPMがゆったりなこともあるが、現行のプロダクションを抑制をよく効かせながら深く取り込みつつ、やはりハイラマズのポップスとして聴かせるショーンの手腕は流石であるということまではわかった。「僕は、毎日巨大なニンジンを食べるパンダのTikTokファンとして、ロックダウンと回復を過ごした。とても幸せだった。」となんとも言えない安堵感を誘うコメントから察するに、ロックダウンの束の間の豊かな時間も反映されていそうと思ってしまうが、深読みだろうか。

 ところで、この機会でハイラマズを久しぶりに聴きなおしてみると、よく覚えていることに自分自身驚いた。アウトロで次の曲のイントロが脳裏に浮かぶあれだ。思っていたよりもよく聴いたのだろう。いまよりも時間の流れがゆっくりだったのかもしれない。ハイラマズ以降そういうアルバムが何枚あるだろうか。わざわざレコードで買った新譜の何枚を2回以上聴いただろうか。問題作は自分自身だった。
 レーベル〈Drag City〉のインスタグラムには、「現代のポップ・ミュージックの魅惑的な錬金術で幕を開けた『Hey Panda』は、定義が時間とともにどのように変化するかを多角的なレベルで反映した素晴らしい曲集です。喜びを広げ、自信をかき立てることを目的としたアルバムで、若くて勇敢な世界へのラヴレターです」とあった。リスナーもまた時間と共に、楽しみながらラマズの変化を感じていけばよいというか、そうするしかないというか、なんとも楽観的で核を突くメッセージを受け取りました。
 いや、アルバムは相変わらずのポップ・センスを充分に湛えていて、これからの季節にぴったりだと思うし、素直に飛び込んでくる作品だとも思います。ただ、偏屈な僕にはありがたい棘が少し残りました。ラスト・トラック“La Masse”は南米の香りが感じられる(個人的にはエドワルド・マテオを想起した)必ず救われるキラーチューンだし、アウトロのらしいコーラスワークからのフェイドアウトは、まだまだハイラマズは続くという暗示を感じます。レコードは買う。

増村和彦