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Home >  Columns > 5月のジャズ- Jazz in May 2026

Columns

5月のジャズ

Jazz in May 2026

小川充 May 27,2026 UP

Wendell Harrison with the Tribe Jazz Ensemble
Love Is Everywhere~Pharoah Sanders Tribute Live

Pヴァイン

 今月はトリビュート・アルバムやカヴァー作品に良いものが多かった。1970年代にデトロイトの幻のレーベルである〈トライブ〉をフィル・ラネリンと共同で設立し、その後1980年代も〈リバース.〉や〈ウェンハ.〉という自主レーベルを立ち上げ、デトロイト・シーンを牽引してきたマルチ・リード奏者のウェンデル・ハリソン。スピリチュアル・ジャズにおけるレジェンド的な存在の彼は、2009年にはフィル・ラネリン、マーカス・ベルグレイヴ、ダグ・ハモンドといった〈トライブ〉の同志と、カール・クレイグ、アンプ・フィドラー、ジョン・アーノルド、カリーム・リギンズといった下の世代のアーティスト、異種のジャンルのミュージシャンとコラボし、『Rebirth』というアルバムをリリースした。近年もフィル・ラネリンと共にエイドリアン・ヤング、アリ・シャヒード・ムハマッドのプロジェクト『Jazz Is Dead』に参加するなど、老いを感じさせない活躍を見せている。そして、2025年7月20日のデトロイト芸術大で開催されたコンサート・オブ・カラーズ・フェスティヴァルで、2022年に他界したファラオ・サンダースのトリビュート・ライヴをおこない、その模様を収めたものが本作となる。ウェンデル・ハリソンにとってファラオ・サンダースはほぼ同時代を生きたアーティストで、お互いに共鳴したり影響を与えたところもあったと想像されるが、生涯を通して共演することはなかった。ファラオの死から3年ほど経過し、改めて彼の功績をたたえると共に、世界中で紛争が拡大する現在、ファラオが音楽を通じて放った愛と平和のメッセージを世に問うコンサートだったと言える。

 演奏メンバーはハリソン夫人でもあるピアニスト/シンガーのパメラ・ワイズ、マーカス・ベルグレイヴの息子であるサックス/フルート奏者のカサン・ベルグレイヴ、ブラック・ライト・コレクティヴというデトロイトのジャズ/ファンク/ヒップホップ集団に参加する新進トランペット奏者のアレン・デナード、ニッキー・オー名義でハウス方面でも活動するシンガーのスカイ・コヴィントンなどが参加。ウェンデル・ハリソンとパメラ・ワイズを除き、比較的若いメンバーによる演奏となる。演奏曲目は “Love Is Everywhere”、“The Creator Has A Master Plan”、“Thembi”、“Sun Song” などファラオ・サンダース及びその盟友のレオン・トーマスの楽曲ほか、〈トライブ〉時代にフィル・ラネリンが録音した “He The One We All Knew” や、ソニー・クラークの “Softly As The Morning Sunrise”、ホレス・シルヴァーの “Song For My Father” といったスタンダード曲もやっている。そうしたなか、やはりハイライトは “Love Is Everywhere” だろう。スカイ・コヴィントンが歌う女性ヴォーカル・ヴァージョンとなっているが、オリジナルのピースフルで愛に満ちた雰囲気を引き継いだ演奏だ。

ウェンデル・ハリソン:Love is Everywhere (Live)

ファラオ・サンダース:Love Is Everywhere - YouTube


Heliocentrics, Marshall Allen, Knoel Scott, Bilal
Nuclear War

Strut

 サン・ラーの『Nuclear War』が発表されたのは1982年。1979年に起きたスリーマイル島原発事故を受けて作られた楽曲だが、これをリリースしたのがポップ・グループなどで知られるポスト・パンク/ニュー・ウェイヴの〈Yレコーズ〉というのも面白い。それから33年を経た2015年、サン・ラー・アーケストラのメンバーであるマーシャル・アレンとノエル・スコットに、マルコム・キャトー、ジェイク・ファーガソンらによるジャズ・ファンク・バンドのヒーリオセントリックスがジョイントし、“Nuclear War” が再録された。録音されたまま日の目を見ることなく未発表状態が続いていたのだが、今年になってようやく発表された。2015年当時を振り返ると、ヒーリオセントリックスはムラトゥ・アスタトゥケ、ロイド・ミラー、メルヴィン・ヴァン・ピープルズ、オーランド・ジュリアスといったカルトなアーティストたちとのコラボを続けてきた途上にあり、マーシャル・アレンはノエル・スコットらサン・ラー・アーケストラのメンバーを率い、サン・ラーの遺志を引き継ぐようなライヴ活動をおこなっていた。2015年は『Live At Babylon』というライヴ・アルバムを発表していて、ちょうどその頃に近い録音だ。サン・ラー・アーケストラは新録としては1999年に『A Song Of The Sun』を発表してから、2020年の『Swirling』まで期間が空いており、その空白を埋めるようなレコーディングだったと言える。

 “Nuclear War” 以外では サン・ラー・アーケストラの代表曲のひとつである “Angels And Demons At Play” や、レア・グルーヴ方面でも人気の高い『Lanquidity』(1978年)収録の “Where Pathways Meet” もやっている。原曲はサン・ラーのなかでも極めてファンキーな1曲として知られるが、今回はそのレア・グルーヴ感を増幅させたジャズ・ファンクで、いかにもヒーリオセントリックスらしい演奏と言える。また、“Astro Black” にはビラルがヴォーカルで参加。意外な組み合わせのように見えるが、そもそも彼はロバート・グラスパーなどとの関りからジャズの造詣も深く、この当時はエイドリアン・ヤングやケンドリック・ラマーたちと仕事をしていた時期に当たる。サン・ラーが拠点としていたフィラデルフィアの出身でもあり、彼なりに意味のあるレコーディングだったようだ。

ヒーリオセントリックス、M・アレン、N・スコット:Where Pathways Meet

サン・ラー:Where Pathways Meet (Remastered)


Warren Wolf
Smoove Vibes

Outside In Music

 ウォーレン・ウルフはボルティモア出身のヴィブラフォン奏者で、クリスチャン・マクブライドのグループや、SFジャズ・コレクティヴなどの参加で名を上げた。ソロ・アルバムは2005年の『Incredible Jazz Vibes』以来、数々リリースしてきており、2024年には彼が影響を受けたヴィブラフォン奏者のテリー・ギブス、ライオネル・ハンプトン、ミルト・ジャクソン、ボビー・ハッチャーソン、カル・ジェイダー、ゲイリー・バートン、ロイ・エアーズ、デイヴ・サミュエルズ、ジョー・ロックの楽曲を演奏した『History Of The Vibraphone』をリリースしている。テリー・ギブス、カル・ジェイダー、デイヴ・サミュエルズなどのようにヴィブラフォンとパーカッションやドラムを兼ねる演奏家でもあり、ときにピアノ演奏やヴォーカルを見せることもある。ラテン系の楽曲も得意で、キューバ出身でディジー・ガレスピーの楽団でも演奏したアフロ・キューバン・ジャズの始祖であるチャノ・ポゾのトリビュート作品集をリリースしたこともある。

 最新作の『Smoove Vibes』はオリジナル曲もあるが、様々な作品のカヴァーで多く構成されていて、デイヴ・ブルーベックのジャズ古典の “Take Five” から、ラムゼイ・ルイスがモーリス・ホワイトのプロデュースでアース・ウィンド&ファイアをバックに吹き込んだ “Sun Goddess”、ブレッカー・ブラザーズのジャズ・ファンク “Some Skunk Funk” など、多彩なスタイルの楽曲をやっている。なかでも目を引くのは “Fábrica” だろう。オリジナルはブラジルのピアニストのセザール・マリアーノがCIAというバンドを率いた『São Paulo • Brasil』(1977年)に収録されており、アジムスのファースト・アルバムと並ぶブラジリアン・フュージョンの傑作アルバムである。“Fábrica” は1980年にハリス・サイモン・グループによって “Factory” の英題でも演奏されていて、こちらも昔からジャズDJの間では知られるところだ。ウォーレン・ウルフのカヴァーは比較的原曲のセザール・マリアーノのヴァージョンに近いもので、エレピのメロウな響きにヴィブラフォンを重ねている。中間のヴィヴラフォン・ソロは彼独自のもので、カル・ジェイダーの演奏を彷彿とさせるものだ。

ウォーレン・ウルフ:Fábrica

セザール・マリアーノ&CIA:Cesar Mariano & CIA - Fabrica - YouTube

ハリス・サイモン・グループ:Harris Simon Group ‎– Factory


Seu Jorge
The Other Side

Amor In Sound

 2000年代以降のブラジル音楽界を代表するシンガー・ソングライターのセウ・ジョルジ。ジョルジ・ベンジョールに影響を受け、サンバ・ファンクやサンバ・ロックのサウンドに乗せて、ギル・スコット・ヘロンに似た低音ヴォイスでメッセージ性に溢れる歌を歌う。また、『City Of God』(2002年)をはじめ映画出演も多く、俳優としての顔も持つ。ブラジル音楽にとどまらずいろいろな音楽を吸収していて、2005年にはデイヴィッド・ボウイのカヴァー集である『The Life Studio Sessions』というアルバムをリリースし、ボウイ自身が絶賛した。2010年の『Seu Jorge And Almaz』ではマイケル・ジャクソンの “Rock With You”、ロイ・エアーズの “Everybody Loves The Sunshine”、ケイン&アベルの “Girl You Move Me” などをカヴァーし、これまたセンス溢れる選曲となっていた。ブラジル国内にとどまらない国際的な人気を有するアーティストで、2012年のロンドン・オリンピックの閉会式、2016年のリオデジャネイロ・パラリンピックの開会式でのパフォーマンスも知られるところだ。  彼の最新作『The Other Side』はブラジル内外の様々な楽曲をカヴァーしている。ミルトン・ナシメントの1969年のデビュー・アルバムに収録された “Crença”、エリス・レジーナ、ナラ・レオ、ロー・ボルジェスなどで知られる “Vento de Maio” (テオとマリシオのボルジェス兄弟の作詞作曲)などブラジルの作品から、前述のケイン&アベルの “Girl You Move Me” の再演、アメリカのベックも交えてのニック・ドレイクのカヴァー “River Man” など。なかでも素晴らしいのはアルトゥール・ヴェロカイの “Caboclo” のカヴァーだろう。ヴェロカイの1972年のデビュー・アルバムの冒頭を飾るナンバーだが、ここではミゲル・アットウッド・ファーガソンによるストリングスの助けを受け、原曲のコズミックでサイケデリックな雰囲気をうまく再現している。

セウ・ジョルジ:Caboclo

アルトゥール・ヴェロカイ:Arthur Verocai – Caboclo

Profile

小川充 小川充/Mitsuru Ogawa
輸入レコード・ショップのバイヤーを経た後、ジャズとクラブ・ミュージックを中心とした音楽ライターとして雑誌のコラムやインタヴュー記事、CDのライナーノート などを執筆。著書に『JAZZ NEXT STANDARD』、同シリーズの『スピリチュアル・ジャズ』『ハード・バップ&モード』『フュージョン/クロスオーヴァー』、『クラブ・ミュージック名盤400』(以上、リットー・ミュージック社刊)がある。『ESSENTIAL BLUE – Modern Luxury』(Blue Note)、『Shapes Japan: Sun』(Tru Thoughts / Beat)、『King of JP Jazz』(Wax Poetics / King)、『Jazz Next Beat / Transition』(Ultra Vybe)などコンピの監修、USENの『I-35 CLUB JAZZ』チャンネルの選曲も手掛ける。2015年5月には1980年代から現代にいたるまでのクラブ・ジャズの軌跡を追った総カタログ、『CLUB JAZZ definitive 1984 - 2015』をele-king booksから刊行。

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