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Columns

Jeff Parker

Jeff Parker

ジェフ・パーカー・ETAカルテットの挑戦

──原雅明と蓮沼執太による対話

談:原雅明、蓮沼執太 [5/8(水)トークショー@Park In Park]
lead photo by Sam Lee
Jun 05,2026 UP

 ポスト・ロックのヴェテラン・バンド、トータスの一員として知られるギタリストのジェフ・パーカーは、他方でジャズ・ミュージシャンとしての顔ももっている。そちらの側面に大きくスポットライトが当たるようになったのが2010年代の半ば、とりわけシカゴのレーベル〈International Anthem〉から作品を出すようになってからだ。『The New Breed』(2016)、『Suite for Max Brown』(2020)、『Forfolks』(2021)とソロ名義で順調にリリースを重ねてきた彼は、近年「ETAカルテット」を掲げ『The Way Out of Easy』(2024)を発表、この5月には最新作『Happy Today』がリリースされている。こうした〈International Anthem〉と組んで以降のジェフ・パーカーの活躍、そしてその音楽の肝はどこにあるのか?
 以下は、去る5月8日に渋谷Park In Parkにておこなわれたトーク・ショウのダイジェストである。音楽評論家・原雅明と、パーカーと共作経験のある音楽家・蓮沼執太がジェフ・パーカーについて語りあう。(聞き手:小林拓音)

ジェフ・パーカー・ETAカルテットの新作『Happy Today』がリリースされます。まずはリリース元の〈International Anthem〉がどういうレーベルかということを、原さんにお伺いしたく思います。

原:〈International Anthem〉は、2012年にシカゴで誕生したレーベルです。最初のリリースは、シカゴ・アンダーグラウンド・デュオ(~トリオ/カルテット/オーケストラ)のコルネット奏者、ロブ・マズレクのソロ作『Alternate Moon Cycles』(2014)でした。ロブのコルネットと、オルガンとベースだけのトリオによる演奏で、いまでいうとそれこそ「アンビエント・ジャズ」のような演奏です。バーで録音されていて、お客さんの声や食器の音も入っているんですけど、その演奏がすごくいい。
 このリリースからはじまったのは象徴的だなと思っているんですが、そこからどんどん広がっていって、マカヤ・マクレイヴンやジェフ・パーカー、亡くなってしまいましたが、ジェイミー・ブランチという天才トランペット奏者など、シカゴの新世代のミュージシャンもリリースしていきました。
 レーベルにとっておそらくジェフの『The New Breed』(2016)がひとつの転機だったのではないかと思います。すごく売れて話題にもなりました。その頃もうジェフはLAに移っていたはずで、そちらのシーンと結びついて、カルロス・ニーニョ周辺の人たちの作品も〈International Anthem〉が紹介するようになっていく。その後ロンドンのジャズ・シーンとも繋がって、トム・スキナーアラバスター・デプルームといったUKの人たちの作品もリリースしていきます。ジャズだけではなく、その周辺の音楽も押さえて、世代も超えていろんなコミュニティを紹介するような側面が彼らにはあって、たんなるレーベルというよりも、音楽をベースにしたコミュニティの紹介に努めてきた集合体のようなイメージがありますね。

コミュニティといえば、ブラックの歴史に意識的なデイモン・ロックスなども出していますよね。

原:そうですね。エンジェル・バット・デイヴィッドとか、シカゴのブラック・ジャズのシーンとも関わりがあります。シカゴのレーベルというと、〈Thrill Jockey〉や〈Drag City〉、あるいは(90年代までの)ジム・オルークとか、インディ・ロックの流れが有名だったと思うんですけど、〈International Anthem〉はAACMや黒人のジャズの流れもくんでいますね。あと、アース・ウィンド・アンド・ファイアのプロデューサーだったチャールズ・ステップニーも出しています。

蓮沼さんは〈International Anthem〉にどんなイメージをおもちでしたか?

蓮沼:原さんがおっしゃったように、コミュニティというか、インターネットが当たり前になっていって、自分たちの場所をつくりづらくなっている時代に、そうした場所、人とのつながりを音楽をとおしてつくっていっていますよね。とくにジャズは、いろんなところで演奏して、いろんなミュージシャンと共演して繋がっていくところがあると思うんですけど、そうした面を再認識します。毎回新鮮な、かっこいい音楽を出してくる。
 自分はリスナーとしてはジャズ好きとはいえないですが、そういうそれほどジャズを通っていない人間にも、〈International Anthem〉からは歴史を大切にしつつ新しいことをする姿勢が感じられます。名前が出た〈Thrill Jockey〉とか〈Drag City〉のような、世界各地でかっこいいレーベルが出てきた時代の、2020年代版のような雰囲気も感じますね。

シカゴのジャズや〈International Anthem〉には、なんとなくNYともLAとも異なる空気を感じます。

原:ニューヨークのジャズは最先端で緊張感があって、巧いひとたちが集まっている印象です。対してLAは、気候も温暖で、わりとみんなレイドバックした感じで、でもどちらも個人主義がベースにあるように思います。シカゴは、ぼくはトータスの取材で一度行ったきりなので、現在の状況はわからないんですが、当時感じたのは、個人とコミュニティが交わっているような感覚です。そのときはジェフ・パーカーが橋渡しのような存在になっていて、トータスの活動をやりつつAACMにも関わっていて、子どもに音楽を教えた話や一緒に雪かきをした話をしていて、自分の音楽もそうしたコミュニティに根づいた音楽から影響を受けてきたことを話していました。
 そのときのインタヴューで印象的だったのは、ジェフが、いわゆるモダン・ジャズ、チャーリー・パーカー以降のジャズのなにが問題かというと、ひとりのプレイヤーの才能、いかにソロが巧いかというところにばかり焦点があたるところだ、と言っていたことです。ジャズは「あのソロがすごい」というふうにランク付けされている世界で、ある意味ではヒエラルキーがはっきりしている世界です。それが面白い部分もあるけど、音楽はヒエラルキーだけで聴かれるわけじゃなく、もっといろんな感情があるし、もっといろんな評価軸があっていい。だから、人が集まって一緒にやるアンサンブルの大切さとか、そういうことを語っていたのが印象的でした。
 ジェフはバークリー出身で、カート・ローゼンウィンケルと同級で、そのままNYに行ってジャズ・プレイヤーになれたはずなのに、なぜかトータスのメンバーになりました。その彼が言うことだからこそ印象的で。彼が話していたことは、〈International Anthem〉が紹介する音楽にもあてはまります。そこがいわゆるジャズ・レーベルが紹介するジャズと、〈International Anthem〉の大きな違いかなと思います。

蓮沼:ジェフ・パーカーの思慮深さは本当にそう思います。真面目で、いまのことをしっかり考えて、自分を裏切らず活動をしている。ときには失敗もあるだろうし、もちろん成功もあると思うんですけど、そういう都度都度考えて動いているという彼のミュージシャン像と〈International Anthem〉は、カタログを聴くかぎりは同じスタンスのような気もしますね。

ジェフ・パーカーのいるトータスはポスト・ロックの代名詞的な存在で、ポスト・プロダクションに力を入れるわけですが、それはジャズの即興と対極ですよね。先ほど、個人の才能じゃなくコミュニティというお話が出ましたけれど、その点についておふたりはどう思われますか。

原:蓮沼さんはジェフ・パーカーと対談されていましたよね(https://ave-cornerprinting.com/jeff-parker-shuta-hasunuma-01162026/)。そこでジェフは(ETAは)「作曲的な頭を使いながら演奏していくことを意図的にやっているので、感情の赴くままに即興演奏するというのとはまた違う」と話されていました。〈International Anthem〉の前に出していたジェフのソロ作『Mondays at the Enfield Tennis Academy』(2022)があって、そのインフォにも「この音楽はフリー・インプロヴィゼーションではなくフリー・コンポジションだ」と書いてありました。だから、即興演奏はしているんですけど、頭のなかではその都度、作曲的なことを浮かべながら演奏に向かっているんだと思うんですよね。彼は昔、ソロを弾きたくないとまで言っていたので、そこからもうちょっと前向きになって、作曲と結びついた即興演奏のスタイルに行き着いたんだろうなと思います。それを体現しているいちばん最新の形が、今回の新作だと思うんです。

蓮沼:原さんのご著書『アンビエント/ジャズ』でも、レコーディングがあるからライヴも生きてくるという考え方がありましたけど、ぼくは部屋でレコーディングするとき、その都度五線譜を書いたりしているわけじゃなくて、粘土のようにその都度形を変えながらやっていくんです。つまり即興的に作曲をしていくことが多いです。あるルールに従って、即興的にどんどん音を出していったり引いたりするつくり方。それをライヴでやるのがジェフなのかなと。ヘッド・アレンジのように、ある程度のルールだけ設けて「あとはもう任せた」みたいな、そうした器のつくり方がとても上手で、そこで出てくるのが人間同士のコミュニケーションです。そこに重きを置いているから、コンポジションとインプロヴィゼーションの間をうまく行ったり来たり、泳ぐようにできてるんじゃないかなと思います。

蓮沼さんは『unpeople』(2023)でジェフ・パーカーとコラボレイトされています。そのときもそのような感じだったのでしょうか?

蓮沼:厳密に、こういうことを弾いてくださいみたいなことはまったく伝えず、自由にやってくださいとお願いしました。それは信頼しているからで、だからなにしても大丈夫ですっていうものだったんですね。一音目からジェフのギターがはじまるんですけど、もう完全にジェフの音なんですよ。逆にぼくは、ジェフに送った自分の音をどんどん削っていって。ジェフは2トラック送ってくれたんですが、メイン・ギターのトラックと、もうひとつが「アンビエント・トラック」でした。どちらも使わせていただきましたが、そういうふうにぼくも録音の過程で、即興とコンポジションの間を楽しむようにつくっていった感じでしたね。

原:ジェフ・パーカーはDJもやりますよね。『The New Breed』では自分でビートもつくっています。そのころインタヴューで話していたのが、あるときDJをしていて、片方はジョン・コルトレーンのソロが鳴っているレコードを、もう片方では竹村延和のビートがあるレコードをかけていたそうです。それらがきれいにシンクロする瞬間があって、「これだ!」と思ったんだそうです。そういうところがジェフ・パーカーのユニークなところですよね。自分の演奏から一度離れて、俯瞰しているというか。

蓮沼:先日ジェフが日本に来ていたとき、一緒に食事をしました。ジェフはそのときEPMDのTシャツを着ていて。彼はザ・ビートナッツとかマッドリブも好きなんです。今回の新作はまたちょっと違う趣ですけど、『The New Breed』のジェフのビート感もなかなか面白くて好きですね。いろいろ話したんですが、「竹村延和は元気か?」と気にしていました。「去年新作出しましたよ」って伝えたんですけど、そういうふうに自分の好きなものを俯瞰したり、繋がりを大切にしているんだなというのは感じましたね。

今回の新作はETAカルテット名義ですが、この名義を使いはじめたのが原さんの〈rings〉から出ていた前作『The Way Out of Easy』(2024)からですよね。

原:名義はそうなんですが、ただ、先ほど話した『Mondays at the Enfield Tennis Academy』も同じメンバーでした。

なるほど。今回の『Happy Today』は、トータスなども含めたジェフ・パーカーのキャリアのなかで、どういうふうに位置づけられますか?

原:このカルテットの肝は、ぼくはドラマーのジェイ・ベルローズだと思っています。ライナーノーツにも書いたんですが、彼はシンガー・ソングライターのジョー・ヘンリーのバンド・メンバーで、レコーディングにも参加して、ずっと一緒にやってきた人なんですね。ほかにも、ロバート・プラントがブルーグラスの歌手アリソン・クラウスと組んだ作品でも叩いています。だから、そういうアメリカーナ系のプレイヤーだと思っていたんです。ジャズには行かなかった人だから、ジェフのカルテットに参加しているのに最初はすごく驚いたんですが、ジェフと繋がりがあったみたいで。
 そのジェイ・ベルローズは、スリンガーランドというヴィンテージのドラムを使っています。ハイハットを使わずに、代わりに足首にシェイカーを巻き付けてリズムをとったり、スティックを使わずに手で叩いたりする。それで他の演奏者のためにスペースをつくるのがうまいドラマーだと思います。『Happy Today』は片面1曲で、曲が長いですが、ぜんぜん飽きさせない。それはもちろん4人の絶妙な関係性があるからだと思うんですけど、やっぱりドラムがうまくコントロールしてるなっていうのがわかる。そういうドラマーを選んできたジェフ・パーカーもすごいなと。

蓮沼:無駄がないですよね。

蓮沼さんは、ジェフ・パーカーが関わってきた作品でとくに好きものはありますか?

蓮沼:いやもうぜんぶ好きですね。ETAカルテットのライヴ・レコーディングを聴いても無駄がないし、モダンな感じもしつつどこか懐かしい。懐かしいのはたぶん、ポスト・ロックを聴いていたからかもしれないですね。彼はトータスと同時にアイソトープ217もやっていて、大学生の頃たくさん聴いていました。アイソトープでのビート感とか電子音の入れ方、エレクトロニカとヒップホップというか……その後プレフューズ73そしてフライング・ロータスが出てきますけど、ジェフはそういうふうにそもそものレンジが広いんですよね。ETAカルテットは逆に絞ってきていますが、自由に絞ってる感じがあります。

原:アイソトープはいま聴くといいですよ。当時もいいなと思ったけど、いま聴くとすごくいい。

蓮沼:J・ディラみたいな、スネアが少し遅れるグルーヴをクリシェではなくふつうに電子音でやってるんですよ。

原:最初の頃はふつうにジャズっぽかったんですよ。だんだん電子音が入ってきて、それが面白くて。

蓮沼:ジョン・マッケンタイアの影響とか、それこそ竹村さんとかのエレクトロニカからの影響が入りこんでミックスされている。そういうところが好きです。

『Happy Today』の聴きどころについて伺っていきたく思います。

原:前作『The Way Out of Easy』のジャケットでは壁際に4人が並んでいますが、あれは本当に狭いバーで、あそこしかステージになる場所がないから壁に並んでいて、お客さんの目の前で演奏するスタイルだったんです。そのときと今回もエンジニアが同じブライス・ゴンザレスなんですが、ハンドメイドのミキサーとNAGRAという有名なテープ・レコーダー、それだけで録っています。マイクも、『The Way Out of Easy』では各メンバーのところに1本ずつしか置いていないんですよ。今回はそれより大きな会場だからもう少しマイクは立てたと思うんですが、そういうスタイルで録っているからこそ音がすごく生々しくて、場の空気感も含めて録られている。たとえば『Happy Today』は、いきなりはじまりますよね。最初はテープが切れてるのかなとも思いましたけど、そういう生々しさも含めて楽しいんじゃないかなと思います。

蓮沼:まさにライヴ・レコーディングという感じですよね。モダンな演奏をしているなと思います。音響としても独特の落としどころです。そこはおそらくジェフもそうとう気を遣ってると思うので、そうした一発録りのライヴとレコーディングの間の、モダンなことをやろうとしていると思います。

ジェフ・パーカーは2010年代によく名前を見るようになって、復活したような印象があるんですが、そういう認識で合っていますでしょうか?

原:ずっとやってきてはいたけど、目立つようになったのは〈International Anthem〉から出して以降、『The New Breed』からではないですかね。どんどん若返っているような感じです。トータスのメンバーのなかで彼がこれほど目立つことになるとは思いませんでした。いちばん地味な感じでもあったので。

なるほど。ジェフ・パーカーが2010年代以降のジャズに与えた影響はあるのでしょうか?

原:ジェフだけによる影響ではないですが、先ほど話したようなソロではなくアンサンブルを重視したり、サウンド全体に配慮したりというところは、いまようやくコンテンポラリーのジャズ・ミュージシャンが気にするようになったところです。だから、ジェフ的なとらえ方にようやくジャズ・ミュージシャンたちが追いついてきたのではないでしょうか。ジャズ・ミュージシャンはとりあえず自分の演奏がうまくできればOK、という感じが2000年代でも続いていましたので。プロダクションに気を遣いはじめたのは、ロバート・グラスパーとかが出てきてから。だからジェフひとりの影響とは言わないですが、そういうとらえ方が若い世代に浸透してきたのは感じますね。

蓮沼:ジェフと話していて思うのは、やはりシカゴを離れてLAに行ったことが大きな転機だったのではないかということです。彼はコミュニティであったり、ふだん一緒にやっている演奏家たちを気にしているはずですが、そこを離れて新しい土地でやっていくというのは、おそらく気持ちの切り替えやなにか踏ん切りのようなものがあったんだと思います。それがみごとに『The New Breed』あたりから反映されてきているように感じました。
 ぼくは2020年にトータスの『TNT』の全曲再現ライヴをブルックリンで見たことがあるんですが、そのときジェイミー・ブランチがトランペットで参加していたんですね。そういうのを見てると、やっぱりコミュニティの感じが、あたたかいなって思ったんです。そういう人間として当たり前のこと、いつの時代もあるべきもの、人同士の繋がりをきちんと音楽として、作品として昇華して、見える/聞こえる形にしてくれてるっていうのは、ジャズだからこそできることなのかもしれない。いまは音楽でも人間性や関係性みたいなものが排除されがちなので、ジェフはその現在進行形をやっているんだと思っています。