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Madlib

Hip Hop

Madlib

Sound Ancestors

Madlib Invazion

小川充   Mar 25,2021 UP
E王

 さまざまな名義でソロ活動からコラボレーションなど精力的に活動するマッドリブだが、昨年から今年にかけても実に多忙である。昨年はここ数年のパートナー的なフレディ・ギブズとの共作があり、カリーム・リギンズと組んだジャハリ・マッサンバ・ユニットも先日紹介したばかりだが、早くも次の新作が届けられた。今回はソロ名義ではあるが、実質的にはフォー・テットことキーラン・ヘブデンとのコラボである。片やUSのアンダーグラウンド・ヒップホップ界のカリスマ、片やUKのエレクトロニック・ミュージック界の鬼才と、一見するとあまり繋がりが見えないふたりであるが、そもそもふたりはそうしたジャンルにとらわれないアーティストであり、これまでもボーダーレスな活動をしてきたので、こうしてコラボをおこなうことは自然なこと、いや、むしろ遅かったくらいかもしれない。

 彼らがキャリアにおいて頭角を表わしてきた時期はほぼ同じで、同世代のアーティストと言える。ふたりの直接的な関係がはじまったのは、マッドリブがMFドゥームと組んだマッドヴィランのリミックスをフォー・テットが手掛けたことによる。このリミックス集は2005年にリリースされたのだが、フォー・テットにとってはテクノやダブステップなどにいく前のエレクトロニカ~フォークトロニカ期にあたるもので、一方マッドリブは前年にブロークンビーツのDJレルズをやるなど脱ヒップホップ化が進んでいた。ライフワークのビート・コンダクターをはじめて、より広範囲な音楽を素材としたビート・サイエンティストぶりに拍車が掛かっていた時期でもある。またフォー・テットはこの年にジャズ・ドラマーのスティーヴ・リードのアルバムにエレクトロニクスで参加し、その後両者のコラボによってジャズとエレクトロニクスの融合の新たな1ページを刻むことになる。そうした意味でマッドリブとフォー・テットにとって、この2005年は転機の年だったのである。
 ちなみに、フォー・テットが2003年に〈ドミノ〉からリリースしたミックスCDではマッドヴィランをかけているのだが、同じくJ・ディラプレフューズ73などヒップホップやIDM系の音も結構入れていた。ほかの収録作品はジム・オルークからドン・チェリーにミルフォード・グレイヴズスティーヴ・ライヒにモートン・サボトニック、ジミ・ヘンやフリートウッド・マックにアフロディテス・チャイルドと、まさにボーダーレスなフォー・テットの面目躍如たるものだ。

 今回のコラボはマッドリブが主宰する〈マッドリブ・インヴェイジョン〉からのリリースで、マッドリブが作曲をおこない、フォー・テットがエディットおよびアレンジを担当している。また〈ナウ・アゲイン〉のイーゴンも全面的に協力しているとのこと(彼は〈マッドリブ・インヴェイジョン〉の運営もヘルプしている)。数年来に渡って秘密裏に制作されたとのことだが、『サウンド・アンセスターズ』というタイトルは彼らの音楽の祖先、すなわち影響を受けたルーツ的な音楽を示していると考えられる。ということで、両者の共通項からするとジャズがテーマになっているのかなと思ったのだが、ジャズはもちろんソウルやファンクなどさまざまな音楽を参照したものとなっている。
 たとえば “ロード・オブ・ザ・ロンリー・ワンズ” は1960年代のフィラデルフィアのソウル・コーラス・グループのジ・エシックス(後のラヴ・コミッティー)の “ロスト・イン・ア・ロンリー・ワールド” を元にしている。ネタの掘り起こしはマッドリブらしいのだが、スウィート・ソウルの原曲がソフト・ロックというかサイケデリック・ソウル調のナンバーへと変貌しているのは、フォー・テットのミキシングによるところも大きいだろう。タイ・ファンクに通じるソフト・サイケな雰囲気は、イーゴンが関わる諸作と同じテイストだ。

 ネタ選びやサンプリング・センス的な部分では、マッドヴィランのアルバム『マッドヴィレイニー』(2004年)に通じる作品と言えるだろう。『マッドヴィレイニー』はビル・エヴァンスからマザーズ、ジョージ・クリントン、スティーヴ・ライヒと、実にさまざまなジャンルの音楽をサンプリングしていたのだが、その中でもブラジルのオスマール・ミリト&カルテット・フォルマをサンプリングした “レイド” が実に秀逸だった。“ロード・オブ・ザ・ロンリー・ワンズ”はそれに近いサンプリング・センスを感じさる。
 ほかのサンプリング例では “ダートノック” はヤング・マーブル・ジャイアンツの “サーチング・フォー・ミスター・ライト” を使っていて、やはりマッドリブはほかのアーティストとはセンスが違うというところを見せつける。元ネタは不明だが、“ラティーノ・ネグロ” はスパニッシュかフラメンコが原曲のようである。また古い音源ばかりではなく、“ワン・フォー・クアルタベー” では現在のブラジルのアヴァン・ポップ・バンドのクアルタベーを参照するなど、古今東西のあらゆる音がマッドリブとフォー・テットによって加工されている。

 そして、故J・ディラに捧げられた “トゥー・フォー・2 - フォー・ディラ”。ふたりと交流のあったJ・ディラへのオマージュが綴られると共に、アルバム全体としてはリリースの直前に急逝してしまったMFドゥームへの追悼の念を感じずにはいられない。