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Cornelius

AmbientElectronic

Cornelius

Ethereal Essence

ワーナーミュージック・ジャパン

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小林拓音 Jul 06,2024 UP

 これを待っていた。コーネリアスによるアンビエントをフィーチャーした作品集である。昨今は日本のロック・ミュージシャンがアンビエントに挑むケースも見受けられるようになったけれど、もともと少なめの音数で特異かつ高度な音響を構築してきたコーネリアスだ。相性が悪かろうはずもなく、凡庸の罠にからめとられることもありえない。

 布石はあった。ひとりの音楽家として大きな曲がり角を迎えたあとの、重要な1枚。影と光、そのいずれをも表現した復帰作『夢中夢 -Dream In Dream-』は、全体としては彼のルーツを再確認させるようなギター・サウンドに彩られていたわけだけれど、終盤には穏やかなインストゥルメンタル曲が配置されていたのだった。アルバム・タイトルと関連深い曲名を授けられ、アルバム中もっとも長い尺を与えられた “霧中夢”。それは、ここ10年くらいの欧米のアンビエント/ニューエイジの動きにたいする、コーネリアスからの応答だった。じっさい、リリース時のインタヴューで彼はジョゼフ・シャバソンや〈Leaving〉、ケイトリン・アウレリア・スミスといったエレクトロニック・ミュージックを聴いていたことを明かしている。近年断片的に発表してきたアンビエント寄りの楽曲のコレクションたる『Ethereal Essence』は、だから、出るべくして出た作品といえよう。
 もちろん、彼がアンビエントへと関心を向けはじめたのは最近のことではない。独自の音響に到達した『Point』の制作時、小山田はよくアンビエントを聴いていたという(当時のお気に入りはザ・KLFやイーノだったそうだ)。たしかに、『Point』や『Sensuous』などに収録された一部のエレクトロニカは、こんにちの多様化したアンビエントの観点から眺めれば、そうタグづけされたとしてもなんら不思議はない。『夢中夢』の軸が原点を振り返ることにあったのだとしたら、今回は長年にわたるそうした関心を集約、一気に解放してみせた作品と位置づけられる。

 アンビエント寄りといってもノンビートの曲ばかりで埋めつくされているわけではない。ザ・ドゥルッティ・コラムを想起させる “Sketch For Spring” はしかしサマーでもウィンターでもなく、過ぎ去った春の陽気をありありと思い出させてくれる。湿気に圧殺されそうないまこそ聴くのにぴったりの曲だけど、波のごとくギターが左右に揺れ動く “Melting Moment” もおなじタイプの心地よさを提供してくれている。
 中盤の “サウナ好きすぎ、より深く” や最後の坂本龍一のカヴァー “Thatness And Thereness” のようなヴォーカル入りの曲はいいアクセントになっていて、本作がたんなる寄せ集めではなく、構成の練られたひとつの作品であることを示している。音響上の冒険としては、リンゴをかじるような音を水中音のように聴かせる “Forbidden Apple” がベストだろうか。
 異色なのは、谷川俊太郎の詩の朗読を電子音でトレースする “ここ” だ。この曲だけはまったり聴き流すことができなくて、どうしてもコーネリアスが「ここ(=アンビエント)こそがいまの自分の居場所だ」と主張しているように思えてしまう。もしかしたらぼくたちはいま、新しい──そして初めから大きな──アンビエント作家の誕生の瞬間を目のあたりにしているのかもしれない。

 コーネリアスのようにすでにみずからの音楽性を確立しているアーティストがアンビエントの世界に参入していくことの意味は小さくない。音楽家のなかには「アンビエントなんてだれでもつくれる」と考えているひともいる。パンデミック以降アンビエントのリリースが増え、玉石混交の念を抱くリスナーがいることはうなずけるけれど、そうした軽視や狂騒めいた状況にコーネリアスは、その質とオリジナリティでもって一石を投じているのではないか。
 だから、いつかコーネリアスによる、すべて新曲の本格的なアンビエント・アルバムが登場する。いろんなアイディアが詰めこまれたこの『Ethereal Essence』を聴いてそう確信した。これはきっとその助走なのだ。

小林拓音