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発見の会60+1周年公演『復興期の精神ー近代篇』

発見の会60+1周年公演
『復興期の精神ー近代篇』

2025年12月18日〜21日@上野ストアハウス

文:市原健太 Dec 27,2025 UP

作:上杉清文/演出:有馬則純
音楽:杉田一夫・不破大輔/音楽・演奏:グラシャス坂井・関島種彦
出演:あべゆうこ 有馬則純・飯塚勝之 柿澤あゆみ 笠原真志 金子清文 河井克夫 小林麻子ゴーレム佐藤 輿石悦子 後藤恭徳 ししくら暁子 反町鬼郎 秦京極 塚田次実 外波山流太 飯田孝男 堀井政宏 山内一生 山崎春美 吉田佳世 吉成淳一 リアルマッスル泉
日替わりゲスト:伊郷俊行 清水麻八子 末井昭 外波山文明 坂東冨起子 ひろ新子 夢村四郎
美術・宣伝美術:深川信也/美術・衣装協力:上木文代 河内哲二郎 後藤淳一 長谷川愛美 井上のぞみ 南波瑞稀/照明:辻井太郎((有)劇光社)/音響:相川晶((有)サウンドウィーズ)/舞台監督:三津久/舞台監督助手:嶋崎陽/大道具:和田康/写真撮影:朝倉コロ/振付:坂東冨起子

 「気難しい左翼かぶれ」であったとしても、なんとか細々とでも還暦までやって来られたのは、何年かに一度上京して観る発見の会の芝居があったからなんじゃないかと思うのだ。ナニガナンダカワカラナイけれど「すげえ!」という感嘆を抱いたまま新幹線に乗って静岡まで帰ってきてまた次の何年かを過ごしてきた。この12月に4日間「復興期の精神」という公演があったばかりだ。

 『復興期の精神』とは第二次大戦末期、日本の敗色が濃くなるなかで、花田清輝が戦争賛美をすることなくどのように自分の表現を作っていくのか、考え抜かれ書かれた作品群だ。ルネサンス期の芸術家・科学者たちを題材にとり、中世から近代へと変転する時代のなかでどんなふうに彼らが表現したのかがエッセイ風につづられている。「賛美しない」ということがどれほどに困難なことなのか、まったくこれからのこととして身につまされる。近代という時代、また日本人を対象に書けばどうしても国体批判であるとか現状批判につながってしまう。戦争が泥沼に進んでいくなかで、書く場所を一つずつ失い、文字通り焼け野原の一歩手前で「書きたいことを書く」、今・ここのことを書いていないようでいながら「今・ここを書く」という検閲に対する抵抗としてのレトリックが胸に迫る。

 とは言いながら、今まで何度か「読もう」と本書を手に取るのだけれど、そのたびに挫折してきた。だってもうそのレトリックがなかなか厳しいのだ。また昨今の風潮である「短い言葉でよさげなことを言う」というような文章の真逆で、これでもかという博覧強記、さんざんに回り道をして果たして「よさげ」なものとはかけ離れた遠くまでたどり着いてしまうような思考に歯が立たない。読み終わったのはいいけれど、「何が書いてあったんだ?」ということしきり。しかし今回芝居をきっかけに読み始めたら少しだけ読むことができた。

 結成61年最長のアングラ劇団、発見の会の芝居はシリアスなものではない。ダジャレとそれに合わせてズルッとすべる行為の繰り返し、そして下ネタと過剰なバカバカしさが横溢している。そして観客の渇いた笑いがパラパラと劇場の空間のなかに消えていく。今公演では劇中劇としてワイルドの『サロメ』が演じられ若い俳優たちの艶やかで格調高い演技に魅了されたが、戯作者・上杉清文が選んだ『サロメ』の翻訳は官能小説家・宇野鴻一郎訳であり、劇的なサロメの最期の科白の後にはロマンポルノ風の温泉マークがついてしまっていた。

 1970年代から時代は逆にさかのぼり、大正・明治へと芝居の舞台は進んでゆく。天皇制の矛盾とアメリカによる日本統治が明らかにされてゆく。過激派になるか自衛隊に入るのかを逡巡する青年が出てくるが、登場人物も三島由紀夫や北一輝など右翼、難波大介や和田久太郎など極左テロリストが入り乱れどっちつかずのてんやわんやである。まじめな問題系の周りはダジャレと二点の中心を持つ楕円の論理で覆いつくされ、まるで観客をいい気持に得心、着地させることを拒んでいるようにさえ思えてくる。この癖になるつれない感じ、それはやっぱり平岡正明的、そして花田的であるだろう。そのバカバカしさの裏側には、徹底的な書物、歴史へのリスペクトがあり、やはり徹底的に史実を研究した上で荒唐無稽の物語を量産した山田風太郎もそこにいるのかもしれない。

 くどいことも、それこそが気難しいことの所以だが、「気難しい左翼かぶれ」と見えてしまうのは人間の味が足りないからなのだと芝居を見終わったあと鏡を見ながら強く思う。発見の会の役者たちの持つハイセンスでスタイリッシュな人間味が足りない。驚くときには大仰に「ええ!」っと目をむいて驚き、疲れ果てながらも混沌を前にすると躊躇なく突っ込んでゆくようなかっこよさがぜんぜん足りない。絶望を前にして歌い踊ることの彼らのなんと美しさよ。

 新劇から脱出する形でアングラ劇団へと1964年(68年を起点とする転形期)に発足した発見の会は、花田清輝や安部公房といった文学者はもとより、テレビ・映画・政治運動といったハイカルチャーの影響、そしてロック・漫画・エロ本文化などさまざまなサブカルチャーをも包含した稀有な集団である。音楽に限っても、渋さ知らズが発見の会の劇伴をきっかけに出現したということは知られているかもしれないが、田口トモロウさんなどパンクともつながっているし。それ以前のフォーク・ミュージックやブルースなどとも色濃くつながっている。その各々のジャンルのなかに「発見の会」のエッセンスを持つ人たちが必ずいるのだと言ったほうがいいのかもしれない。

 前回の『大正てんやわんや』から今公演にも山崎春美が一役者として出演した。自刃する場面で、ああこれは転げまわりライブのときのような痙攣がはじまるのだろうかと期待もしたが、果たしてゆっくりと斃れ静かに身体を揺らしながらこと絶え、「苦きシリア人」の諦観をたたえた科白まわしも合わせて芝居の空気が一瞬変わったように思えた。

 紙版のエレキングVol.9号(2013年4月号)に音楽誌としては破格の花田清輝特集があり、そのなかで拙い聞き手ではあるものの、上杉清文さんにお話をうかがったことがあるので、ご興味の方は是非読んでみて、機会があれば一度少数精鋭のアングラの芝居を観にいってほしい。

文:市原健太