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猛暑をやり過ごすためのサウンドトラック

猛暑をやり過ごすためのサウンドトラック

野田努 Jul 15,2025 UP

 マーク・スチュワートの遺作は素晴らしかったが、蝉さえ鳴かない高不快指数の街=東京で暮らしていると、どうしてもゆるくて、暑くない音楽に流れてしまうのが人のサガ。涼しくなる音楽で良いのがあったら教えてください〜。


Various Artists
Edna Martinez Presents Picó: Sound System Culture From The Colombian Caribbean
Strut Records

 ピコ、日本語にしたらこのカワイイ言葉は、コロンビアではサウンドシステム文化を指す。サウンドシステム文化とは、何もジャマイカの専売特許ではない。それは、音楽を聴きたいけれど家に再生装置やラジオなど高価で買えない人たちをターゲットにはじめた音楽がかかる酒場のことで、コロンビアのカリブ海沿い地帯では、それは「ピコ」という呼称で生まれ、栄え、いまも栄えている。ピコは見た目も面白いので、ぜひネットでその画像を探してほしい。二台のターンテーブルに2台のCDJとミキサーが一体となったそれぞれのピコは、それぞれの個性を表すためにカラフルな模様や絵が描かれている。 ピコの歴史は古く、庶民の祝祭の場として発展した。政府から10代の妊娠を促していると弾圧されても祝祭は止まらず、当然そこからは良い感じの音楽がたくさん生まれた。これは、ピコを探求したベルリンのDJ、エドナ・マルティネスがコンパイルしたアルバムで、その魅力を満載した素晴らしい編集盤だ。マルティネスによる詳細なライナーも素晴らしく(フィジカルで買った方がいい。ブックレットがある)、その歴史と展開──どんな音楽で踊り、どんな曲をもってサウンドクラッシュにおけるバトルを繰り広げてきたかを知ることができるし、チャンペータ、ハイライフ、ルンバ、ズークといったカリビアン音楽のパワーをもらって、ラテンを見習おうという気持ちになれる。全16曲、基本的にダンスのための音楽で、これを聴いていると猛暑も悪くないなと思えてくるのだ。大推薦。


KiF Productions - Still Out

 ザ・KLFの『Chill Out』のカヴァー・アルバムといえば、DJヨーグルトのがあった。デボン海岸の孤立した小屋で録音された『Still Out』はミュージシャン兼プロデューサーで幼なじみのウィル・クックソンとトム・ハヴェリーによるオマージュ・アルバム、英国の田園地帯を意識して作られたというだけあって、牧歌的な心地よさと瞑想的な音響が相まっている。聞き流しもできるけれど、『Chill Out』のファンはついつい注意深く聴いてしまうという悪いクセがあっていけない。ますます暑くなるじゃないか。でも、総じて良い感じだ。少なくとも清涼飲料水のChill Out(この言葉の出自/意味を知っているのだろうか)よりは落ち着く。


Pan American & Kramer - Interior of an Edifice Under the Sea
Shimmy-Disc

 シカゴのパン・アメリカ(マーク・K・ネルソン)のギター・サウンドは、基本的にどれを聴いても、少なくとも暑くはならない。元1/2ジャパニーズで〈シミー・ディスク〉のクラマーとの2度目のコラボレーション作品は、絵画的で、まったく素晴らしいアンビエント・ミュージックになっている。秋でも冬でも聴いていられる、至高のミニマル・ミュージック。大推薦。


Madalitso Band - Ma Gitala
Bongo Joe

 アフリカ南東部に位置し、国土の5分の1を湖が占める美しく、細くてもっとも貧しい国、マラウイから素晴らしい音楽が届いた。ギターをもって、ほこりっぽい路上で演奏された音楽は数年かけて磨かれ、いまでは世界中にファンを増やしている。これはスイスのレーベルからの3枚目のアルバムで、まったく飾り気のないシンプルな演奏が聴ける。最高に楽しい演奏が、この猛暑をぶっ飛ばすだろう。


Lophae - Perfect Strangers
Gregory J E Sanders

 ロ・ファイとはUKジャズ・バンドで、グレッグ・サンダース(ギター)、ベン・ブラウン(ドラム:ムラトゥ・アスタテケとの共演でも知られる)、トム・ハーバート(ベース:ポーラー・ベア他)、サム・レイプリー(サックス)から成り、本デビュー・アルバムのエンジニアはベネディクト・ラムディン(ノスタルジア77)。総じてメロディアスで、ゆったりとした演奏が魅力的。UKらしくボサノヴァかラテンなんかも入ってくる。とくに目新しさはないが、しかし確実に役に立ち、何度も聴いていられる。


Biosphere - The Way of Time
AD93

 ノルウェイーはオスロ在住、アンビエントのベテラン、バイオアフィアがロンドンの〈AD93〉からアルバムをリリース。透明感のある心地よい寒さが部屋のなかに広がれば、気分すっかりスカンジナビア半島……というわけではないが、没入観は抜群にある。曲中には1951年のラジオ・ドラマ『The Way of Time』の台詞がカットアップされている。


Jonny Nash - Once Was Ours Forever
Melody As Truth/Plancha

 毎週末、オレンジのシャツを着て、オレンジの自転車に乗って、オレンジのタオルで汗を拭きながらオレンジのチームを応援している世田谷在住のじじいにしたら、数年前に参政党が出てきたとき、まずその政党カラーにむかついた。オレンジとは、清水であり(新潟、大宮、愛媛であり)、バレンシアであり、そして栄えあるオランダ代表チームの色だ。というわけで最後はオランダから、日本で人気のジョニー・ナッシュの新作。池田抄英(マヤ・オンガク)、トモ・カツラダ(ex幾何学模様)、サトミマガエが参加。フォーク、アンビエント・ジャズ、ドリーム・ポップの境界をまたぐアルバムだと解説に書いてある通りで、やたら気持ちいいこのサウンドに包まれながら、オレンジ色の夕陽を見てチルするしかない。

野田努