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この春、話題沸騰した映画『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ』。おかげさまでエレキング別冊『J-PUNK/NEW WAVE 革命の記憶』も早々にアマゾンで品切れ状態になるなど、70~80年代日本のパンク~ニューウェイヴが今改めて見直されている。そして、映画の原作者である地引雄一(テレグラフ・レコード主宰者)が高木完と共に企画・プロデュースしたライヴ・イヴェント〈DRIVE from 80s〉も予想をはるかに上回る大盛況だった。
東京ロッカーズを旗頭とするJ-パンク・ムーヴメントを盛り上げるために地引が最初に企画したのが、1979年8月28日から9月2日の6日間にわたって新宿ロフトで開催された伝説的ライヴ・イヴェント〈DRIVE to 80s〉だったが、地引はその後も〈DRIVE to 2000〉(1999年)、〈DRIVE to 2010〉(2009年)、〈DRIVE to 2100〉(2016年)などの後続イヴェントをプロデュースしてきた。今回、新宿ロフトで3日間(4月28日、5月6日、5月7日)にわたり開催された〈DRIVE from 80s〉は、映画『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ』の完成を祝した特別企画であり、また79年から続いてきた一連のイヴェントの総決算的意味合いもあり、映画および〈DRIVE to 80s〉まわりのヴェテラン・ミュージシャンたちを中心にプログラムが組み立てられた。イヴェントからだいぶ間が空いてしまったけど、重要な記録としてここに残しておきたい。
3日間を通して私が最も強く感じたのは、意志の継続と夢の継承ということだ。今回の出演者は一部の若手を除き還暦過ぎたヴェテランばかりだが、そのいずれのパフォーマンスにも同窓会的な馴れ合いの姿勢はなく、現役としての闘志かみなぎっていた。そこには、キャリアを重ねて技術を磨くだけでなく、新しい視点も加えながら、今なお前へ進もうという意志の力があった。往年のファンに囲まれて昔を懐かしむといったよう退屈さとは無縁。それは私にとって、うれしい誤算でもあった。1980年前後のあの爆発は一時の夢ではなく、未来へと続く永久革命の始まりであり、日本の多彩な音楽文化の土台をこれからも支え続けていくはずだ。
メインステージとサブステージの二つに分かれた出演者は、以下のとおり。開演前と幕間では、共同プロデューサーの高木完がDJとMCを務めた。
4月30日(木)
・メイン
ヒカシュー / NON BAND / ホンノマジカナハル /戸川純
・サブ
コンクリーツ / N13 / kummy / たぬとわ
5月6日(水)
・メイン
s-ken & BimBamBoom / AUTO-MOD / 突然段ボール /
LIZARD トリビュートバンド / SHE TALKS SILENCE
・サブ
リンゴリラ / JON(犬)/ シルエット近藤
5月7日(木)
・メイン
捏造と贋作 / 立花ハジメ+Hm / Here is Eden / LUV HOTELS
・サブ
AOIZO
以下、メインステージの写真と簡単なコメントを。
■4月30日(木)
オープニング・アクトとしていきなりヒカシューが登場して観客もびっくり。メンバーは、巻上公一(ボーカル/テルミン/コルネット)、海琳正道(ギター)、坂出雅海(ベイス)、佐藤正治(ドラムス)、清水一登(キーボード)、纐纈雅代(サックス)という、近年の正規編成の6人。78年の結成時のメンバーは巻上と海琳(当時のアーティスト名は三田超人)だけではあるが、彼らは半世紀近くも解散することなく、精力的にアルバム制作とライヴ活動を続けてきた。その息の長さ(比べられるのはムーンライダーズ、ジ・アルフィ、サザン・オールスターズぐらいか)もさることながら、表現欲もパワーもまったく衰えることなく、むしろどんどんアグレッシヴになっていることに感嘆させられる。独特のひねりとユーモアを湛えながら、アンサンブルは極めて複雑緻密。巻上特有の演劇的身振りも健在。纐纈雅代のジャズ風味たっぷりのサックスをアクセントにした真正プログレッシヴ・ロックである。


2番手はホンノマジカナハル。結成して10年以上になるというこのバンド、灰野敬二とコラボしたデビュー・アルバム『Honnnomajika~Naharu × Keiji Haino』が去年リリースされており(今年3月には2作目『HONNOMAJIKA~NAHARU×OTOMO YOSHIHIDE』もリリース)、名前だけは知っていたのだが、実際に聴いたのはこれが初めてだった。が、今回の3日間の全ステージで特に驚かされた一つがこれだ。
ミラーズやチャンス・オペレイションのメンバーあるいはゴジラ・レコード創設者として知られるベイスのヒゴヒロシ、フリクションの初代ギタリストだったラピス。この2人にドラマーの藤掛正隆を加えたトリオだが、この日はギターのヤマジカズヒデ(dip)が参加した4人編成。サウンド・スタイルの大枠は1980年前後の骨太のパンク~ニューウェイヴであり、チャンス・オペレーションなど昔のレパートリーも演奏したが、ラピスとヤマジのギターの掛け合いが非常にエロティックかつサイケデリックであり、随所で音響的、空間的な工作が施されている。スペース・パンクとでも呼べばいいだろうか。ヒゴもラピスも90年代以降はクラブ・ミュージック/レイヴ・カルチャーにも積極的に関わってきたが、その実績をいかに東京ロッカーズに接続し、今日的な表現として成立させられるかというのが彼らのテーマなのかもしれない。



3番手はノンバンド。ノンがジュネとのマリア023 を辞めて初リーダー・バンドであるノンバンドを結成したのは79年の秋だが、その直接のきっかけというか踏み台になったのは、同年夏の〈DRIVE to 80s〉にベイス・ソロで飛び入り参加し、絶賛を浴びたことだった。そういう意味でも、ノンバンドは今回のイヴェントには欠かせない。長らくのブランクを経て2000年にバンドを再編した彼女は、画材屋で働きながら子供を育てた故郷・弘前と東京を行き来し、自分のペースで着実に活動を続けてきた。2021年、およそ40年ぶりに発表したスタジオ・アルバム第2弾『Non Band II』にも、そうした生活者としての蓄積と自信、人間としての年輪が深く刻まれている。現編成(ギター/ヴァイオリンの山岸騏之介、アコーディオンの佐々木絵実、ドラムのオータコージ)によるこの日も、童女と老婆の両面を併せ持つイノセントなヴォーカルと縄文パンクとでも言うべき土俗的ビートが一体化した極めてユニークなアート・ロックを展開。キュートだけど実に逞しい。『J-PUNK/NEW WAVE 革命の記憶』でのインタヴューでの「社会にコンタクトしながら、今現在の歌を今現在の自分として表現する。こんなに楽しいことはない」という発言そのままのパフォーマンスだった。


そしてこの日のトリは戸川純。が、このステージだけは事前に「撮影NG」と主催者側から言われていたので、残念ながら写真はない。開始から10分ほど経ったころ、多くの人がスマホで写真や動画をバンバン撮っている客席に向かって戸川が申しわけなさそうに語りかけた。「私、老けたしデブだし、恥ずかしいので…撮影は…あのー…勘弁して。撮られるほどのものじゃないし…」。相変わらず可愛い人だ。この日はコンタクトを無くしたということで珍しい眼鏡姿だった。
プログラムでの名義は「戸川純」だが、実質ヤプーズで、数年前の再結成メンバーからキーボードのライオン・メリィを除く(「在住地から東京までの飛行機代をバンドの出演料ではまかなえない」という理由で不参加)4人(ベイスの中原信雄、シンセの山口慎一、ギターのヤマジカズヒデ、ドラムの矢壁アツノブ)+戸川という陣容。演目も「赤い戦車」をはじめ「ヴィールス」「肉屋のように」といったヤプーズ・ナンバーをはじめ、人気曲「蛹虫の女」なども。終盤にはヤプーズの初代ドラマーだった泉水敏朗もステージに登場してタンパリンを叩きながら「好き好き大好き」で大暴れ。そしてラストはこのイヴェントらしく「パンク蛹化の女」でシメだのだが、これが凄すぎた。現在の戸川のヴォーカルは80年代とは違い、ドスが効いた野太さが特徴的なのだが、この終曲ではそれが特に際立った。メロディからもリズムからも自在に逸脱しながら目の前のものすべてを爆破して突進してゆくような乱調ぶりで、ほとんどハードコア~デスメタル。例によって椅子に座ったままのパフォーマンスだが、だからこそ余計に彼女のモンスター性に圧倒され、泣けてしまった。
■5月6日(水)
高木完の開幕DJによるヴェルヴェット・アンダーグラウンド「Femme Fatale」に導かれる形で最初に登場した SHE TALKS SILENCE は、ヴォーカル/ギターの山口美波を中心とするユニット。東京ロッカーズなどとは無関係の若手バンドだが、J-New Wave の流れを汲む一例として、高木がブッキングしたという。「Mellow Noise Music」とか「Bedroom New Wave」をコンセプトに結成されたそうだが、「Femme Fatale」から地続きのメランコリックなウィスパー・ヴォイスと、モジュラー・シンセなども用いたノイジー&ドリーミーなサウンドは、まさにそのコンセプトどおり。随所にインダストリアル風味もあったりして、コクトー・トゥインズ+キャバレー・ヴォルテールといった趣も。80年代英国ニューウェイヴを追想したようなこのパフォーマンス、会場のオリジナル・パンク世代がどう受け取ったか興味あるところ。

2番手は、来年には結成50周年を迎える突然ダンボール。リーダーの蔦木栄一は2003年に亡くなったけど、弟の蔦木俊二(ギター/ヴォーカル)が現メンバー(ギターのこのみぃる、シンセのユキユキロ、ドラムの新井宗彦)を率いて精力的に活動を続けている。2024年の最新作のタイトル曲「変色するスカーフ」や新曲「底がない」も交えつつ、「今日はみんながわりと知っているような曲を選んできました」というMCどおり、「猫殺しマギー」や「もう学校には行かない」「夢の成る丘」など90年代以降の曲から80年のデビュー・シングル「ホワイト・マン」「変なパーマネント」まで、ファンにはよく知られた曲中心に1時間弱。キャリア全体を俯瞰するような演目だが、微妙にチューニングを狂わせたような脱臼ギターのリフを軸にしたスカスカのアンサンブルもシュール&アナーキーな歌詞もデビュー時のまま。日本のレッド・クレイオラとでも言いたくなる不滅のダダ・ロックである。


3番目のオートモッドのステージは、初日のホンノマジカナハルと並び、今回の全プログラム中で特に驚かされた一つだった。ジュネが率いるオートモッドは、80年代ゴス・ロック・シーンの代表格として知られるが、私は今も昔もこのゴス・ロックってやつが非常に苦手で、正直、このステージにもあまり期待してなかった。しかしこれが、勝手にイメージしていた古臭いゴス・ロックなどではなくてびっくり。
テレグラフ・レコード設立の一つのきっかけにもなったオートモッドは85年にいったん解散したが、97年代には再結成。ジュネが「オートモッドの最終形態」と呼ぶ現在の陣容は、ドラムの PAZZ(元ガスタンク、ドゥーム)以下、ギター(TAK)、ベイス(SHINJILOW)、ヴァイオリン(タロット続木)の3人もヘヴィメタルやプログレ畑でキャリアを積んできた強者ばかりであり、結果そのアンサンブルも極めて重厚複雑にして超ラウド。特にプログレ要素満載なヴァイオリンの効果は絶大だ。ジュネ以外のメンバーも皆「天井桟敷」的な化粧をほどこすなどゴス・ロック的ダークネスと演劇性はキープしつつも、全体の印象はキング・クリムゾン+ホークウィンドをハード・ロック的にブーストした感じ。「Horror」や「時の葬列」といった初期レパートリーのニュー・ヴァージョンからは特に、ジュネの成熟と「最終形態」としての覚悟が明確に伝わってくる。本記事がアップされる頃には発売されているはずのニュー・アルバムのタイトルは『In The Wake Of KING AUTO-MOD』らしいが、そこにもクリムゾンに対するジュネのこだわりが感じられる。新作、聴かねばなるまい。



4番手は東京ロッカーズ・ムーヴメントの牽引車だった大番長 s-ken。久しぶりのライヴのバッキングを務めたのは、s-ken がかつて長らくプロデュースしていた女性バンドの BimBamBoom だ。BimBamBoom はライヴを観たのは初めてだったが、そのファンキー&タイトなプレイにいきなり圧倒された。ドラマー山口美代子をリーダーとするギター、ベイス、キーボード、サックスの5人組(現在はギターとサックスは脱退しており、このライヴのために再結集)のサウンドは、ファンクにソウル、ラテンなどのテイストを混ぜ合わせたファンキーさが身上で、まさに s-ken が追求してきた闇鍋的世界にドンピシャ。演奏の上手さという点では今回のイヴェント中でヒカシューと並んで最強だったかもしれない。79才の s-ken のヴォーカルはさすがに若い頃のようなキレには欠けるものの、弾むビートに溶け込む熟成された自然体の歌声がなんともカッコよく、名人の落語のような痛快さがある。半世紀以上にわたるキャリアが血肉化されたパンク老人の妙味と風格。このイヴェントを意識したのだろうか、初ソロ・アルバム『魔都』(81年)の曲をいくつかやってくれたのもうれしい。
そして、途中からはゲストの町田康も随時参加。自作の詩をしたためた紙束を握りしめ、パンクな言葉をビートに乗せて撃ちまくるインテリヤクザな姿は、まさしく町田町蔵その人なのだった。



そしてこの日ラストの5番目は、リザード・トリビュート・バンド 2026。映画『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ』の主役級のモデル=リザードのモモヨは病気療養中につき、本イヴェントのために編成された一夜限りの特別プロジェクトである。メンバーはアレルギー/極東ファロスキッカーの宙也(ヴォーカル)以下、元オートモッド/現 krishnablue のYukino (ギター)、元ニウバイルにしてゲーム音楽作曲家としても活躍する岡村静良 (キーボード)、元・不正療法/現 the GOD、レモンサワーズのナカムラキヨシ(ドラム)、そして昔から熱烈なリザード・ファンだったという元アンジー/現G.D. Flickers の岡本雅彦(ベイス)の計5人。MCで「本物じゃなくてすいません」と笑いをとる宙也は、モモヨや地引雄一からのリクエストでこのチームを編成したのだという。
トリビュート・バンドらしく、この日の演目はデビュー・アルバム『リザード』(79年)から「ニュー・キッズ・イン・ザ・シティ」「ガイアナ」「TVマジック」「エイシャ~王国」、2作目『Babylon Rocker (邪都戦士)』(80年)から「宣戦布告」、オムニバス盤『東京ROCKERS』(79年)から「ロボットラブ」、そしてジャンク・コネクションからのシングル曲「SA・KA・NA」(79年)や紅蜥蜴時代の「ロック・クリティック」等々、映画『ストリート・キングダム』に寄せて、最も勢いがあった初期の代表曲がずらり。オープニング曲「ニュー・キッズ・イン・ザ・シティ」以下、アレンジは全体にオリジナル・ヴァージョンに忠実なものが多く、ベイスやキーボードなどの演奏スタイルや音色もオリジナルをかなり意識しているが、それでいて微妙にアップデイトされている。「リザードの歌を、そしてロックをこれからも若い人たちに受け継いでいったもらいたい」とMCで呼びかけた宙也の思いは、スシ詰めの会場の全員(この日は3日間で最大の500人弱を動員)にしっかり届いたはずだ。そしてラストでは、映画の主役(地引雄一役)を務めた銀杏BOYZ の峯田和伸、監督の田口トモロヲ、脚本の宮藤官九郎がサプライズでステージに登場し、映画でも最後に流れた「宣戦布告」を全員で爆演。ステージに上がってシャッターを切るのは地引雄一。大団円としても完璧だった。



文・写真=松山晋也