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Cornelius

Cosmic Disco FunkRock

Cornelius

Refractions

ワーナー

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野田努 Aug 28,2026 UP
E王

 『Refractions』は、ある意味、通常営業のコーネリアスだ。小山田圭吾の卓抜したソングライティングを軸とした、遊び心あるサウンド工作と捻りのあるエレクトロニック。『Refractions』は通常営業だが、前2作品よりはじけているし、ひねくれてもいる。笑いだってある。冒頭の、“まざらない”から “You Make me Cyborg”(モノクローム・セットのビドがヴォーカル)を聴いてそう思った。生殺しのディスコ・ファンク、軽妙かつ歪んだユーモアのギター・ポップ。ここ2作、わりと内省的な作品が続いていたので、微妙なトゲを見せているというか、尖ったぶん『Fantasma』以前に若返ったような気がするが、気のせいだろう。いや、でも、今回もアートワークは、過去のポップの記号を弄んでいるという点において、90年代なかばぐらいのコーネリアスを思い出させるのだ。

 「ファンク」はひとつのキーワードだ。“まざらない”もそう、作中とりわけ魅力的な2曲、“Aeons”(ショーン・レノン参加)と“Bad Advice”(アート・リンゼイ参加)にもファンクのリズムがうねっている。『Sensuous』よりも直球で、『Point』的なミニマリズムがファンク化したような、おお、これこそ完全なるコーネリアス・サウンド。そもそも、ここまでゲスト・ヴォーカリストを招いたアルバムは過去にはなかったわけで、彼のショーマンシップをもとに発展した娯楽性が楽しめるアルバムになっていると思う。
 とはいえ、ぼくは最初、この男はやっぱりただもんじゃないぞと、ものすごく驚いたのだ。井上陽水のカヴァー曲“夢寝見”。ギターストローク全体が異次元に曲がるようなこの曲は、言うなればOPNがフォーク・ロックをやったらこうなるかもみたいな、つまり、まだ誰もやっていないことを小山田圭吾はやろうとしている。この男の創造行為における野心はいまも健在なのだ。
 “Aeons”にも舌を巻いた。ミニマル・ミュージックにディスコ・ソウルをかぶせたようなこの編集能力、コーネリアス的ウィット。“Bad Advice”の抜け感もまた面白い。リスナーはいつの間にか宇宙船のディスコで踊ることになるが、しかしいったいいま何年だろう。コズミックなシンセ・ポップ曲“Twisting & Glistening”も好きだな。人工的で、ソウルがあって、そんな80年代の場末のディスコが突然、新宿のど真ん中に蘇っている。そんな幻覚を見た。
 “Mirrors”や“Mind Train”みたい曲も悪くはないが、うえに挙げた数曲がぼくの推し曲である。最後は“溶解線”のキラキラした地平線のずっと彼方から、メロディックな歌がかすかに聞こえる。歌詞は見ないでおこう。どうせ良いことを歌ってそうだ。

 AIに自我はない(いまのところ人間の神聖さを脅かすことはない)。AIは統計的パターン再現機だから。情報を整理・要約する能力には長けているが、いかなる意味でも「思考」や「論理的推論」をおこなっているわけではない。人間レベルの知能に向かって直線的に進歩しているわけでもない——これが専門家のひとつの意見だ。英国の音楽サイト「Quietus」によれば、ネットの記事の半分以上がこのAI=統計的パターン再現機によって書かれた合成コンテンツなのだそうだ。音楽に関しては、Spotifyなどのストリーミング・プラットフォームには膨大なAI楽曲が流入していることは周知の通り。AIによって、知識がなくても大量の楽曲を即座に作成できるそうで、それを人が楽しむならそれでいいじゃないかという声もあるが、音楽を作る側のエコシステムは崩壊する。そこには、作家の人生経験が音楽作品を左右するようなこともない。統計的パターン再現機なのだから、これまで人間が作ってきた作品を情報的に編集し、場合によっては換金する。だから問題点を整理すると、ゴミコンテンツの増殖、それから雇用の不安定化、電力消費による環境破壊、テック企業の独占、まだ未熟な技術を自治体などの公的機関が使用する際の責任(個人情報漏洩とか)、学術に教育、文学界、はたまたAIとの結婚の是非……けっこうありますな。こうなると、人のラッダイト心も黙っちゃいない。
 今回のアルバムでコーネリアスはAIを部分的に使っている。小山田圭吾のように、まだ人がやっていないことをやってみたいと思うミュージシャンにとって、新しいテクノロジーはつねに関心事で、試さない手はないと、そういうことだったのかもしれない。だからといって、コーネリアスの場合は、それこそドリルンベースを採り入れた“Star Fruits Surf Rider”にしても、その曲の基軸にあるのは彼の誠実なソングライティングである。どうか安心して『Refractions』を楽しんで欲しい。
 

野田努