Home > Reviews > Album Reviews > Oyubi- White birch burns
ようやく紙エレ夏号が校了したので、先週末は7月10日のDJスティングレイ313以来、3週ぶりにパーティに行ってきた。やっぱりダンス・ミュージックはいい。スピーカーがとどろかせる低音、反復するシンセ・サウンドを浴びながらビール片手に踊っていれば、日々のあれやこれやを遠い彼岸の、さらにはるか先まで送り返すことができる。
7月31日にCIRCUS Tokyoで開催された、東京の若手DJクルー〈Universal Music Box〉による3周年記念パーティには20代前半とおぼしきオーディエンスがたくさん集まっていて、クラブ・ミュージックがしっかり次世代へと受けつがれている印象を受けた。フロア中央に設けられた透ける「箱」のなかにDJブースを配置するというアイディアもおもしろかったし、ゲストのニッキー・ネアは前回2024年の初来日時よりいい感じに洗練されたセットだったんじゃないかと思う。クラブの魅力はなんといっても、日常の労働の大変さのみならず、それ以上にいち生活者に疲労を与えてくるSNSのしんどさ、醜さまでもを忘れさせてくれるところだ。
この日は〈TREKKIE TRAX〉のSeimeiも、同レーベルから多く作品を発表しているGuchonとともにナイスなヴァイブスのB2Bを披露してくれたのだけど、その〈TREKKIE TRAX〉から最近リリースされたOyubi(オユビ)のアルバムが出色だったので、ぜひとも紹介しておきたい。
Oyubiは東京を拠点に活動するDJ/プロデューサーだ。核にあるのはフットワークだが、その音楽にはダブステップやジャングル、テクノといったほかのダンス・ミュージックからの影響も濃く染みこんでいる。2017年のデビュー以降、京都の〈85acid〉や〈TREKKIE TRAX〉などから勢力的にシングルを発表、昨年はクッシュ・ジョーンズとの共作を送りだしたりヨーロッパ・ツアーを実現したりする一方、中国、韓国、台湾、香港、ヴェトナムなどにも招かれ、まさにいま大いに活躍の場を広げている(ちなみに2021年の “140yaku” はジェシー・ランザが自身のミックスでピックアップ)。
そんな絶好のタイミングでリリースされたのが、デビュー10年目にして初のフルレングス『White birch burns』だ。2曲目 “Eye shaker” が体現しているように、ゲットー・ハウス以降のダーティなリズムと、90年代エレクトロニカが発展させてきた音響性との対比、ないし融合が全体的な特徴といえそうで、疾走するビートのうえでもこもことシンセがたゆたう “Just arrive at Twiske” にも、それはよくあらわれている。
金属的な音が乱れ舞うフットワーク・エレクトロ “Kernelpanik!”、妖しげな旋律の反復がクセになる “Twisted funk”、ダブステップとベッドルームを接続する “Mood organ”、うにょうにょうなる音声が楽しい “Komade-ike”、ラストにふさわしい昂揚をもたらすジャングル・チューン “Lovin u” など、アルバムには魅力的な曲が多く詰め込まれているが、もっとも輝いているのは “Since I” か、もしくは “Gon be rich oneday” だろう。巧みにフットワークとジャングルを融合させる前者も、ジャジーなコードのなかきらきらした残響と切り刻まれた音声がうまい具合に緩急をもたらす後者も、シカゴから世界各地に伝播していったフットワークが東京で独自の進化を遂げていることの好例となっている。
本作では、Oyubiが幼いころに亡くなった父親の記憶、幼少期の風景が表現されているという。といっても内省的な作品にありがちなしめったムードはいっさい搭載しておらず、手のこんだリズムや音と音のスペースがむしろ聴き手に開放感を与えてくれる。──ああ、労働もSNSも、この世からなくなってしまえばいいのに……
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追記:この数日間、頭のなかを占領していたのは──おそらくみなさんとおなじく──マヒトゥ・ザ・ピーポーのことだった。彼を表紙にフィーチャーした『別冊ele-king 音楽は世界を変える』では、昨秋の出来事を受けた「俺はすごく面白いですね、この流れはすべて、試されてるなと思う」という発言を見出しに採用したのだけれど、いやはや、とんでもないことをしでかしてくれたものだ。言語道断、開いた口がふさがらないとはこのことで、『I KNOW HOW NOW』のレヴューも気合いを入れて書いたから、ただただ悲しく、悔しく、残念でならない。
小林拓音